キャラクターソングで、好き、とかそういう歌詞の部分をセリフで喋るのは、くっそ寒い


「ロデオで腰を痛めた……」


「仕方ないですね、先生。おんぶしますよ」


「おんぶ!?」


 ***


「ふふっ、私は青春を棒にふって、こういったシューティングゲームばかり……」


「あ、いただき」


「こら! 私のマシンガンを取るな!」


 ***


「なぜ、こんな近距離で入らないのだ」


「パターはこうやって持って、安定させて」


「か、からだ、からだ、からだ!」


「年下の男に触られたぐらいで取り乱さないでください。情けないなぁ」



 ***


「だから私は思うんだよ。キャラクターソングで、好き、とかそういう歌詞の部分をセリフで喋るのは、くっそ寒いと」


「好き、こんな感じのやつですか?」


「ひゃう」


「喜んでますやん」


 私は二人の後ろを歩きながら思う。


 主旨が変わって来ている。


 ローラースケートの後、ロデオ、ゲーム、パターゴルフ、いくつかアミューズメントをまわったが、その間、ずっとこの調子だ。


 私と高良のイチャイチャではなく、夏乃さんと高良のイチャイチャ。私にイチャイチャしろ、と言ってこないとこをみるに、小説のネタにはなってるんだろうけど、なんだろう。すっごくモヤモヤする。


 私のドキドキは何だったんだ? 今まで長々と悩んでいたのは何だったんだ? 


 イチャイチャしなくてもいいのは、望むところではあったはず。だけど、こうなってくると、普通にイチャイチャはしたい。


「美鶴は、キャラクターソングで、好き、とかそういう歌詞の部分をセリフで喋るのをどう思う?」


 高良が振り向いて、にこっと笑顔をみせた。それに、手も差し出してくれてる。


 一緒に喋ろう、と、話をふってくれたのだろう。後ろを歩く私が疎外感を感じないように、気遣ってくれたんだろう。


 ああ、好き。イチャイチャしたい。


 手を繋いで、横に並ぶ。質問には適当に答え、高良の顔を見上げる。


「ねえ、高良」


「ん? 何、美鶴?」


「次はどこにいく?」


 いちゃつき方を考えたくて、そう尋ねた。


 ———ぴぴぴぴぴぴ。


「ああ、もうこんな時間か」


 突然アラーム音が響くと、夏乃さんが足を止めた。


「どうしたんですか?」


「今日はもう解散だ」


 は? 何言ってるんだ? この人は?


「時刻は19時半。君たち子供は、帰宅しないといけない時間だ」


「ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってください! まだ、イチャイチャしてませんよ!」


「いや、書く内容は決まった。ま、まぁ、美鶴たちを見て、というよりは……って、そんなことはどうでもいい! よし、それじゃあ帰るぞ!」


 歩き出す夏乃さんに、慌てて声をかける。


「ま、待ってください!」


「待たん。保護者として君たちを家に無事帰す義務があるからな」


「21のくせに大人ぶらないでください」


「21は大人だ。今からここを出れば、9時までには余裕を持って君たちを家に帰せる。それより遅くなるならば、最低でも美鶴たちのご両親に連絡しないといけない」


 くっ、常識ないくせして、しっかりしてる人だ。


 でもどうする? 三徹の高良じゃないとイチャイチャできないから、この機会を逃すわけにはいかない。


 いや、考え直せ、みつるん。邪魔者が消え、二人っきりになれるチャンスではないか。たしかに、夏乃さんの前でバカップルの振りをしなければならないという、大義名分は消える。だが、今の高良なら、『バカップルの振り楽しかったね、もうちょっとだけ続けよう』とでも言えば、わんちゃん、乗っかってくれるかもしれない。


 そしてそのままいい時間になり、『あ、お城だぁ。私お姫様になりたかったの』という展開になりグッバイヴァージンまで……。


「わかりましたぁ! 子供なので、帰ります! ま、明日には夏乃さんよりは大人になってるかもしれませんけど!」


 変な気分になって、体が火照って来た。羞恥心も凄いが、嬉しいが勝つ。


「美鶴、メス顔晒しているところ悪いが、私はお前らを送り届けるぞ?」


「何でですか!?」


「何でじゃないだろ! お前らの安全のために早く切り上げるのに、夜の街に繰り出したら意味がないだろ!」


 夏乃さんと、ぱちぱちしていると、高良が「まぁまぁ」と言った。


「言ってることはよくわかんないですけど、二人の間をとって、夕飯にいく、くらいにしません? それくらいなら、時間もかかんないですし、連絡だけいれときゃ、親御さんも心配しないと思いますよ」


 高良の提案に夏乃さんは渋々といった様子で頷いた。


「君が言うなら仕方ない。それで手を打ってあげよう」


 そんな態度をとった夏乃さんに驚く。


 夏乃さんが折れているところ、初めて見た。

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