ろぉらぁすけゑと
ガラガラとタイヤが転がる音が鳴り響いているフロア。小さなトラックみたいになっているリンクに立つ。
卓球の次に向かったのは、ローラースケート。これまた理由が単純で、混んでいても出来る場所だったからだ。
でも今回、卓球とは明確に違う点がある。イチャイチャのパターンが分かりやすいところである。
上手く滑れない私の手を引いて、高良が『もう、美鶴わぁ。こうやって滑るんだよ』っていうパターン。そして私がこけそうになって抱きついて『離さないで高良、こけちゃうから!』ってなって『やれやれ、離してくれないのはどっちだい? マイベイビー』ってなるやつだ。
ただこのイチャイチャ、大きな問題がある。それは私が普通に滑れてしまうことだ。いや、なに、滑れないフリをすればいいだけの話。問題は高良が滑れるかどうか。
「高良、ローラースケート得意?」
リンクに入って来たばかりの高良に尋ねた。
「まあ得意ってほどではないけど、年一でアイススケートに行ってたから、滑れなくはないと思うよ」
はいきた! 完璧! これから、軽くこけて、高良すべれないよぉ、って手を伸ばせばいいだけだ! んでそっから……えへへっ。
堪えきれず、早速こけようとすると、私より先にこけそうになってる人を見つけて、慌てて滑った。
「大丈夫ですか!? 夏乃さん!?」
前のめりにこけかける子ペンギン状態だった夏乃さんを受け止める。
「うっ、うう、危ない。何故、陽キャ共は、こんな不安定なものを好むんだよぉ」
泣き言を口にする夏乃さんにためいきをつく。
「滑れないなら、リンクの外で待っとけばいいのに」
「馬鹿! 外にいれば、お前たちの会話が聞けないじゃないか!」
う〜ん、どうしよう、この人。目を離したら危なそうだし、気になってイチャイチャどころじゃない。
夏乃さんの扱いに悩んでいると、高良は口を開いた。
「じゃあ美鶴、最低限、ゆっくり滑ればついてこられるくらいになるまで、夏乃先生に滑り方を教えてあげる?」
「そうだね。夏乃さん、折れるということを知らない人だし。それがいいかも」
「どうする? 美鶴が教える?」
「え? 私? 何で?」
「ほら、夏乃さんを抱きとめにいけるくらい上手じゃん」
「あ」
プランが一気に崩壊する音がした。そしてイチャイチャの未来がなくなったことに、視界がぼやける。ぐす。
「ごめん、高良。悲しさを吹き飛ばすために、4、5周して戻ってくるから、その間だけ、夏乃さんをお願い」
高良の「わかった」という声を聞くと、私は滑り出す。
こん、こん、す〜、こん、こん、す〜、わ〜たのし〜。
そう思っていたのは1周目までだった。
高良と夏乃さんが目に入る。前に伸ばした両手で高良の手を支えにする夏乃さん、そして手を繋いで後ろ向きに歩く高良の姿が。
それ! 私がやりたかったやつ!!
後ろにつけて、恨みがましく二人を見る。
「ほら、ちゃんと掴んでください」
「ま、まて、君。わ、わたしは、男の人の手なんか、ふ、触れたことすらないんだぞ」
「何言ってんですか。ほら、ちゃんと掴んで歩きますよ」
「ま、まて、ひゃあ」
夏乃さんはこけかけて高良に抱きつく。
「もう、そんなぎゅっとハグしないでください」
「は、恥ずかしいことを言うな!」
「じゃあ離れます?」
「や、やだ。放したら、絶対こけちゃう」
顔を真っ赤にして抱きつく夏乃さん。そしてそれを笑う高良。
……この二人、私を置いてイチャイチャしてません?
何だかむかっときて、高良に声をかける。
「ねえ、ピーターカラン。その人置いて、一緒にネバーランドごっこしようよ」
「みつるん、イメージはわかるけど、それをする技量がないよ。あとこの人がみじめ過ぎて置いておけないよ」
「だよね〜」
私は一人でもう一回滑りにいく。
片足だけで滑ったり、後ろ向きで滑ったり、くるくる回ったり。
「あのおねえちゃん、すぽっちゃのろーらーすけーとでがちですべってる! ここはそういうとこじゃないから、ほんとうにすべってるね! それかあいすすけーととかんちがいしてるくらいばかなのかなぁ!」
「こら、見ちゃいけません!」
そんな親子の声を無視して滑り続ける。わ〜、たのし〜……ぐす。
いやいい。前向きに考えろ。今の私は時間がある。ローラースケートというシチュエーションで、どういうイチャイチャが可能か、を考える時間がある。
———10周後。
「あっ、美鶴。ようやく夏乃先生が滑れるようになったよ」
「そう、良かった! 108式ほどパターンを考えて来たから、早速イチャイチャしよう!」
「待て、美鶴。ローラースケートはもういい。次のアミューズメントに行こう」
「へ? どうして夏乃さん?」
「そ、その、なんだ。イチャイチャを書く内容は決まったから」
夏乃さんは顔を真っ赤にしてそう言った。
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