予想の五倍仕上がってる

「最小値3の時……」


「k=(√3+1)/16」


 と、七海さんに答え、


「仕上がってんな、高梨」


「やっぱりぃ? まぁ伊達に? 三徹? してない? みたいな?」


 と、池に答え、


「仕上がってるね、高梨くん」


「仕上がってるって誰が? って俺かぁ!!」


 と、海原に答え、


「仕上がってるな、高梨」


 と、川合には答えてあげないんだからね!


 お昼休み。三徹は初めてだからか、テンションが高い。根拠不明の無敵感。ふわふわになって、余計な思考ができなくなる感じ。いつもより、世界が白く見える気もする。


「下北さん、こいつ大丈夫なのか?」


「う、うん、多分。昔、遠足前に眠れなかった高良が、こんな感じになったのを覚えてる」


「おいおい。俺は過去を捨てた男だ。過去を掘り返すのは野暮って話よ」


「中二病のボケ、わかりづれえし、きちぃ。こいつどうすんよ、七海?」


「過去を捨てた男……かっこいい」


「「「「え?」」」」



 ***


 私は教室の扉をそっと閉めて、足早に立ち去る。


 落ち着け、葵美鶴。まずは、深呼吸だ。


 ……ひっひっ、ふー。


 では、改めまして。


 ど、どどど、どうしよう!? 高良が予想の5倍仕上がってる!?


 何、あのテンション!? やばいキノコでも食べたの!? いや、キノコじゃなくて星か! 


 で、でも、ああいう高良もいいかも……って馬鹿! 放課後にはあのテンションに素面で立ち向かわないといけないんだよ!!


 やばい、やばばばば。衆人の前で、あの高良に合わせたイチャイチャ、考えるだけで、恥か死しそう。


 結局、三徹のテンションにする方法を見つけられなくて、一縷の望みを持って高良を見にきたわけだけど……う、うう。敵情視察に来なきゃよかった。いや、別に高良は敵じゃないんだけどさ!


 落ち着け、葵美鶴。深呼吸がラマーズ法になったのは、きっとここの空気が薄いせいだ。屋上の、高度で言えば薄いけど、きっと新鮮で濃い空気を吸いにいこう。


 階段を上って、屋上に出ようとした。しかし、声が聞こえて、扉にかけた手が止まる。


「や〜ん、まーくんったら」


「え〜、みーちゃんこそ〜」


 聞こえるのは、イチャイチャカップルの声。


 二言で脳味噌がとろけてると分かるバカップルですら、人目を避けてるというのに…………あーもう、飛んでけ理性☆ マジカルフラッシュ☆彡


 私は心の中でそう唱えて、何も考えないことにした。

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