たなごころ

文重

たなごころ

 さっきから上の空で師匠の話を聞いている。深夜までテレビ局関係者と飲んでいたせいで眠くて仕方がない。料理に関する蘊蓄を一席ぶっているようだが、何度も聞いた話にさらに眠気を誘われる。師匠の娘でもある妻共々、高級料亭での昼食に誘われたのはいいが、できれば夜にしてほしかった――。


「私が家元にですか?」

 ひそかに狙っていたとはいえ、娘婿の私に家元の座が巡ってこようとは。広報役としての活動は私の裁量に全て任されていたから、SNSやマスコミへの露出を多くしたのが奏功したのかもしれない。


「……というわけで松平不昧公好みの料理として考案されたのが、この鯛めしというわけだ」

 気づけば師匠の長い話が終わるところだった。

「次期家元に指名していただき、ありがとうございます!」

 前のめりでお礼を言うと、

「おかしな人ね、自分の事でもないのに」

 傍らに座る妻の家元然とした佇まいに私は悟った。自分がお釈迦様の掌の上の孫悟空だったことを。

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たなごころ 文重 @fumie0107

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