第165話 新たな決意と、隠せぬ動揺

投稿遅れました、ごめんなさい。

理由は後書きで書きます。本当に申し訳ないです。

あと短いです


――――――――――――







 沈黙が場を支配する。気まずいというよりも、もはや痛ましいとまでも言えるであろう。俯いているライトに彼らの表情は見えないし、見たくもないが、どうも責められている様な気がした。罪悪感が生み出す勘違いかもしれないが。


 俺はどうすれば良かったのだろうか。いずれ言わねばならない、その気持ちに変わりはないが、だがもっとタイミングという物があったかもしれない。少なくとも、過酷な山越えが終わったばかりの、それも楽しい酒の場では言うべきではなかったのかもしれない。


 しかし、後伸ばしできるとも思えなかった。サラの真摯で真っすぐな目を、適当な言葉で誤魔化せるとは思えなかった。


「...チッ、うぜぇな」


 乾いた舌打ちと共に吐き出された苛立ち。間髪置かず、マイルズは立ち上がって、やってられないとばかりに何処かへ歩き出してしまった。


「吞みなおす。お前らも来いよ」

「...悪いな、雰囲気ぶち壊して」


 申し訳ない。こうして腰を落ち着かせて酒を飲むなんて、もう随分と久しぶりなのに。


「はぁ...やってられっか。このバカが」


 そう思っての謝罪は、しかし一瞬で拒絶された。

 意味が分からん。俺は何故罵倒された?


「...なんで。って顔してるな、隊長」


 呆れが多分に含まれた言葉、しかし鋭い口調で、ディランが言った。

 彼の方を見れば、そこには冷たい目線があった。


「謝罪する相手、間違ってるって言ってんだよ」


 思わず、言葉に詰まった。

 言いたい事は分かる。彼らじゃなくて、まずはサラに謝罪しろという事だろう。分かってるさ。俺だって、彼女を傷付けるのは本望ではない。


 だが、謝れない理由があるのだ。それは今言ったじゃないか。


「俺が言うのは違うかもしれないけど、さっきのは間違いなく理由になってない」


 今度はリアムか。なんなんだ、皆して俺をそんな目で見て。

 一体全体、俺の言った事の何が間違っているというんだ。


 だが、それを問える相手はもう居なかった。溜息を付きながら、何人もの隊員が立ち上がり始める。さっきまで黙々と酒を飲んでいたゲイジも、いつもは能天気な顔で話を聞いているフランクも。

 俺に止める権利はなかった。


 やがて、火の回りには俺とサラしかいなくなった。


「私、勘違いしてた」


 先程とは違う口調。そこに何の意図があるのか分からなくて、俺は彼女の顔を見た。悲痛...いや、違うな。何処か見覚えのあるサラの表情だったが、そこにどんな思いが隠されているのかは思い出せなかった。


「ライトは罪と決別出来たって、そう思ってた」


 ぽつぽつと語る彼女に、俺は何も言う事が出来なかった。なんと返したらいいのか、全く見当がつかなかった。

 無言を貫く俺に、尚も彼女は口を開く。


「でも、そうじゃなかった。心を擦り減らしながら、罪から目を逸らしているだけだった。ねぇ、ライト。それってさ、私の為なんだよね」

「...あぁ、さっき言った事が全てさ」


 有無を言わせぬサラ。なんとなく、今日の彼女には迫力があった。


「傷つく君を見たくない。でも、今の私に...守られているだけの私に、自分を大切にしてなんて言う権利はない」


 ――あぁ、思い出した。

 何故俺は忘れていたんだろうか、あんなに鮮明で、色褪せる事のないあの光景を。

 今の君は、あの時とそっくりなんだ。


「私が間違ってた。ライトに変わって欲しいって、我儘を言っちゃった」


 そんな事は、と否定する事は出来なかった。

 いや、別に俺は彼女が間違っていたとは思ってはいない。ただ、彼女の決意に口を出すのが憚られた。


「周りを変えたいなら自分から。だから、私がこの関係を変えてみせる」


 君を助ける。君を守る。君を救ってみせる。そう言った彼女の決意に満ちた顔と、今彼女が浮かべている顔は、そっくりだった。




 〇




「分かってるよな。俺達が今何を話すべきなのか」


 サラが己の決意をライトに伝えている時。彼らもまた、新たな決意をしようとしていた。

 マイルズの険しい表情に当てられた訳では無いだろう。だが、彼らが纏う雰囲気は真剣な物になった。

 深呼吸をしたディランが、その目に決意の色を浮かべながら口を開いた。


「端的に言おう。ゲイジと双子、リアムを除いた俺達は、足手纏いだ」


 ゲイジには、職人時代に培った強力な土魔術がある。双子には、ライトをカバーできる連携力が、リアムには切り札がある。

 だが、それだけなのだ。特筆すべき能力を、戦闘力を持っている隊員は。


「彼女は言っていたな。ライトに守られるだけの存在で居たくない、と」


 悲痛なその声に心を揺さぶられたのは、何もライトだけではなかったのだ。あの一言は、隊員達にも、決して小さくない衝撃を与えた。


「俺達も謝られたよな、キメラとの戦いの時。迷惑を掛けてごめんと、そう言われたよな」

「...あぁ、だけどあの後」


 リアムが悔しそうに口を開いた。吐き出された言葉の先は、言わずとも皆理解できた。

 倒したと油断し、気を抜いたあの瞬間。疲労で横たわる自分達の元へ、一つの魔術が飛来した。


 人民連邦の彼らが居なければ、きっと全員死んでいた。そうなれば、魔力が回復し、意識が戻った隊長が目にするのは、何よりも深い絶望だ。

 敵の息の根を止めなかった自分達のせいで、そうなるところだったんだ。


 認めざるを得ない。俺達は弱い。足手纏いにしかならないと。


「テオ、クラウ、レオはもう居ない。ガルも死んだ。そろそろ変わらないとな」


 何を、どう変えるのか。そんな事は分からない。

 けれど、認識しなければ何も始まらないのだ。己らの非力さを認められなければ、強くはなれないのだ。


「各員、自分がどうすべきか考えてくれ」


 そう言うディランの脳裏には、竜との戦いで戦死したガルが居た。気怠げで、面倒くさがりで、なのにいつも隊の中心に居た。隊長が居なかった間は、彼が懲罰部隊を取り仕切っていたくらいに、彼は信用されていた。

 年長者としての責任感、かつて不信感を抱いた隊長への申し訳なさ。そして、レオの代わりに隊を安定させようとした彼なりの努力。その成果だったのだ、皆の彼への信頼は。


 俺には教養はない。魔術もたいして使えないし、剣なんてまともに使った事もない。でも、ガルだってそうだったじゃないか。だから、彼の後は俺が継ごう。どうにも不安定な隊長の代わりに、隊員達に目を配ろう。


 きっと、それが今の俺に出来る事だ。






――――――――――――


頑張って軽く説明しようとしたけど、内容が重すぎなのでもう全部説明します。

いろいろあって悩んだ、どうでもよくなった、失敗した。それだけです。

肝臓がぶっ壊れましたが俺は元気です。


とはいえ何も解決してないので、告知なく二カ月以上投稿されなかったら死んだと思って下さい。本作は処女作にして遺書になります

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