第163話

投稿遅れました。

長くなったので話を二回分に分けけました。

つまり短いです。申し訳ない


 ―――――――――――




「ウ゛ェ゛ッ...ぐっ、カハッ!」


 喉が焼ける感覚。今自分の呑み込んだのが液体とは信じられなかった。火をそのまま呑み込んだような痛みと熱さ。一体これはなんなんだという叫びも、咽た喉では言葉にする事が出来なかった。


「大丈夫...?」

「だ、だい...ンク゛ッ、エホっ」


 心配そうにこちらを覗き込むサラ。大丈夫と言おうとした口は、咳と熱い息を吐き出す事しか出来なかった。


「もー、一気に飲むから...はいこれ、水」


 頬を膨らませながら差し出された水を、火を消化する様に大量に流し込む。飲み口から口を話、深呼吸する事数秒。それでやっと、俺の喉を焼く火は下火になった。


「ありがとう、サラ...ん゛ん!あークソ、なんなんだこれ」

「初めて酒飲んだ時みたいなリアクションしやがって、馬鹿?」


 マイルズが呆れるようにそう言った。

 ブチ殺すぞ。お前の方が酒弱いくせに。


「じゃあ飲んでみろよ、これ。火を呑んだみたいだった」

「蒸留酒というヤツか。俺は好きだがな」

「お前...」


 横に目をやると、そこには上機嫌に酒瓶を傾けるゲイジが居た。熊のような体形のゲイジは、その巨体に見合う酒豪でもある。誰よりも飲めるし、多分誰よりも酒が好きだ。普段はまともに使われない舌も、酒を飲むときはよく回る。


「...まぁ良い。各員、飲み過ぎには気を付けろよ」


 呆れるようにそう言ってから、俺は再び酒瓶に口を付けた。「とびっきり強いヤツ」なんて言ってしまった俺が悪いのだ。頼んでおいて残すのは余りにも非常識。なれば、せめてこの一瓶は飲み切らねば。


「んくっ...」


 少し咽そうになったが、まぁ戻すような真似はするまい。

 それに、これはこれで味がある。気がする。まぁどちらにせよ、味覚も痛覚もないこの身には、この酒は刺激的なのだ。


「む。そういうライトこそ飲み過ぎに気を付けてよね」

「おう」


 しかし、本当に度数の高い酒だ。

 喉元を焼いていた熱さは、もうすでに全身に回っていた。

 ここは天幕の外、コートを着ても尚肌寒さを感じていた程の気温だ。だが、この酒を飲んでからという物の、寒さなどまるで感じない。もしかしたら、この酒は北国故に度数が高いのかもしれない。


「で、隊長さんよ。話し合って得られたのはその酒だけかい?」

「あぁ、悪いな。さっきの事だな」


 この酔いの回り様からして、あまりのんびりはしていられないかもしれない。酔い潰れてしまう前に、天華との会話の内容を伝えなければ。


 そう開きかけた口を一度閉じ、当たりを見渡した。

 ここは野営陣地から少し離れた場所だ。開けているから、物陰に誰かが隠れている可能性は低いだろう。盗聴の心配はなさそうだ。


「俺が伝えたのは懲罰部隊についてだけだ。俺については言及してない」

「追及されなかったのか」

「そうだな。何か隠しているとは思われているだろうが、その方が都合が良いと判断した。ある種の脅しにはなる」


 どれだけの力を、脅威を持っているか分からない。そういう相手には、慎重にならざるを得ないのだ。俺は意図してその状況を作った。


「それで受け入れてくれるか?犯罪者の言う事など、と思われる気がするんだが」

「そこはまぁ、存在意義を示すしかないだろう。俺達には力と、当事者としての人魔大戦の全容を知っているという強みがある」


 結局、これも賭けなのだ。この国が俺達を受け入れてくれるか否かという。

 分が悪いかどうかも分からない、真の意味での賭けだ。政治体制や国力、イデオロギーや国民気質。この賭けの勝敗には色んな要素が絡んでくるだろうが、俺達はそれを一切知らないのだから。

 知らないなりに精一杯やるしかあるまい。


「どうなるんだろうな、これから」


 ポツリと零れたディランの言葉は、全隊員の心中を表していた。

 流される様に、しかし流れに逆らう様に戦っていたら、気付いたらこんな所に居た。かつての自分達に今の状況など想定できなかった様に、今の俺達もまた、未来の事など想像すらできない。


「なぁ。もし、この国からも追い出されたら」

「南か東だな。王国も帝国も知らない、未知の場所へ行けば大丈夫な筈さ」



 その一言に反応したのか、幾人かの隊員の顔が暗くなった。彼らが一体どんな事を考えているのか。それは火を見るよりも明らかだ。


 ここからも追い出されて、逃げて、逃げて、逃げ続けて。その逃避行の先には、何が待っているのか。そして、そこに辿り着いたころには。一体、何人の隊員が生き残っているのだろうか。


 隊の中心人物であるガル。彼の死が、隊員達の心に影を落としたのだろうか。いいや、違う。この逃避行は、端から危険と苦難に満ちている。それを認識しただけの事だろう。


「考えても仕方あるまい。折角良い酒を貰ったんだ、楽しむのが礼儀だろう」


 黙々と酒を飲んでいたゲイジが、吐き捨てる様に言った。

 真理だろう。考えても意味のない事は考えない。俺にとってそれは、誓いの実行手段でもあるのだから。


「...そうだな」


 再び、酒瓶に口を付ける。

 俺の喉仏が三度動いた頃には、もう暗い感情は何処かへ行っていた。


「――欠けた隊員も居る、未来は決して明るくはない。だが、俺達はこうして火を囲んでいる。良いじゃないか、それで。今日は飲もう」


 明けぬ夜はない。先の見通せぬ闇も、いずれ太陽が照らしてくれる。いや、そうでなくとも。俺達は、暗闇の中でも、手探りで進み続けよう。


 これは、そういう戦いだから。

 追放された罪人が、居場所を求めて旅する逃避行だから。


「そうだな、それに久しぶりの酒だ」

「最後に飲んだのが王国で再会した時だから...二カ月ぶりくらいか?」

「そんな最近なのか。もっと前だと思ってた」

「あっという間だよなーマジで」


 意味がある様な、ないような。酒を飲みながら、そんな会話をする。それだけで、今は十分じゃないか。

 雑談をBGMに、ぱちぱちと音を立てる火を見つめる。


「ねぇ、ライト」

「うん?」

「星、綺麗だね」


 言われるがままに、視線を上に向けた。

 ここは平原、邪魔する物は何もない。冷たくも澄んだ空気が成す夜空は、磨き上げた芸術作品の様だった。

 こうしてサラと空を見上げるの二度目だ。


「あのね、ライト」


 益体のない事を考えている俺に、サラが溢すようにそう言った。

 その顔には、先程までの明るさはない。


「キメラとの戦いのとき。私、余計な事をした」

「余計だなんて――」

「ううん。私はあの時、間違いなく迷惑を掛けた」


 そう言う彼女の目は、明るくなくとも決意に満ちていた。気遣いは不要。そう言外に伝えて来るような。


「前に言ったと思うけど...私ね、守られるだけでは居たくない」





――――――――――――――

まだ全員登場させてないから隊員紹介が出来ない...

次は直ぐ投稿します

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