第162話
どうでも良いですが、今はカナダに居ます。
あといつも見てくれる人本当にありがとうございます
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「どうも、本師団の指揮官を務めている天華と申します」
夜、休息の為に展開した仮設陣地の一角にて。
見たこともない華やかな装飾が施された天幕の中で、俺は一人の青年と相対していた。
俺が目覚めた時、既に予定していた休憩地に近かったらしい。
行軍はすぐ止まり、そのまま野営の準備を始めたのだ。その後隊員達と顔合わせをしてから呼び出された、というのがここにいる経緯である。
「隊長のライトだ。この度は救援感謝する」
頭を下げながら相手を観察する。
天幕と共通するデザインを持った、金と白で織りなされた服。豪華なそれを着こなす、天華と名乗った青年もまた美麗で華やかな雰囲気を纏っていた。
しかし、それでも尚隠せぬ武人の気配。
交わした手から伝わる鍛錬の証、その目線と姿勢。
彼はまるで、金と宝石を纏いながらも、本質はその鋭さにある宝剣の様だ。
「茶などはありませんが、どうぞ寛いでください。長旅だったでしょう」
「あぁ、はい」
寛いでください、か。社交辞令やもしれないが、そう言われても尚緊張を解かないのは失礼に当たるかもしれない。無論油断するつもりはないが、ある程度は気を緩めても良いだろう。
アスカロン、フラガラッハ、懲罰部隊の短剣。計三振り。それらの剣を腰から外して椅子に立てかける。丸椅子ならばともかく、背もたれがある椅子では腰に刺したまま座る事が出来ないのだ。
それが終わってからやっと座りながら、俺は口を開いた。
「...事情があって手放せないもので。すまない」
「いえいえ、気にしないで下さい。私も似た様な物ですよ」
目をやると、天華もまた自分の双剣を椅子に立てかけていた。
改めてよく見てみる。荘厳にして流麗、そして何よりも神秘的な力を秘めていそうな剣である。遺物であるフラガラッハに劣らないだろう、そう思わせる程の何かを持っているのだ。
まず間違いなく、あれも遺物だろう。それも、かなり格が高い。
「あぁ、これですか」
視線に気付いたのか、天華はそう言いながら剣を撫でる様に触った。
その手には、只の道具には決して注がぬ筈の親愛が込められている様に見えた。
「遺物ですよ。流石に名前は出せませんが」
納得しながらも、名前を出されても分からないだろうなとは思った。遺物というのは、伝説や伝承に登場する武具の事だ。国の名前すら分からない異文明のそれなど、果たしてどう知りようがあるだろうか。
しかし、この世界には一体どれ程の遺物があるのだろうか。気になりはしたが、今考える事ではない。
「本題に移ろう。俺は何の理由で呼び出されたんですか」
「そうですね、有り体に言えば、貴方達の事が知りたい」
あまりにも抽象的な返答に首を傾げると、天華は柔らかい笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「貴方達が何者で、どこから来て、何故あそこにいたのか。何せ、我々は貴方達の事を何も知らないのです」
「成る程。しかし、他の隊員やサラスティアからの説明は無かったんです?」
「ハハ...どうやら、貴方は貴方が思っているより信頼されているようですね。我々に伝えるべきか否か、その判断は全て貴方に委ねられていますよ」
つまり、隊員達は俺達が不利になる可能性を考えて何も言わなかったという事か?方針も含め、全ての判断を俺に任せたと。
普段の言動からは考えられない程理性的だ。
まぁ、信頼してくれるのは素直に嬉しいが。
「掻い摘んで話すと...そうだな」
...とは言え。一体、何を伝えるべきで何を伝えないべきなのだろうか。
まずもって、全ての経緯を話す事はあり得ない。俺は数万人を殺した大量殺人者にして人魔大戦を引き起こした張本人で、今後この国を苦しめるだろう魔物やダンジョンも俺のせいだ。それを伝えて尚、「歓迎しましょう」なんて言われよう物ならば、罠を疑わなければならない程にありえない。
だが、俺の事ではなく懲罰部隊の事を話すにしても、結局罪人である事を言わずして事の経緯を伝える事は出来ないのもまた事実。そもそも「懲罰部隊」ってついてる時点でいろいろとアウトだ。
そう悩む俺の頭に、ふと名案が降って来た。
いや、これで現状が打破出来る訳ではないのだが、少なくとも情報共有の範囲は決められる。
「その前に一つ聞かせてください。この国の帝国との関係は?」
深いようであれば諦めて洗いざらい話すしかない。どの道伝わるだろうし、そうなれば情報を隠していた俺は信用されないだろう。だが、そうでないのならばやりようはある。
「つい最近まで竜のせいで国交が断絶されていた所です。しかし障害は取り除かれましたので、数年もすれば以前より強固なパイプが出来ると思います」
「そうですか...では人魔大戦の事は?」
「そちらも帝国経由ですので、詳しく知れるのは同様に後々になるでしょうね」
「――分かりました、では伝えましょう。我々懲罰部隊がここに来た経緯を」
存在すら知られていない未知の文明、国であれば、或いは嘘の情報を言う事が出来たかもしれない。しかし、少なくとも帝国はこの国の事を知っているのだ。ならば、俺達の事を隠し通す事は出来ないだろう。
そして全てを洗いざらい伝える事も出来ないとなれば、俺の取れる方針など一つしかあるまい。
「懲罰部隊、ですか」
「はい。我々は帝国のさらに西側、王国が編成した罪人による部隊です」
天華の目が見開かれた。遺物持ちである俺が、まさか罪人だとは思いもしなかったのだろう。その心中が手に取る様に分かった。
「なんと...ですが、そんな部隊が何故?」
「逃げて来たんですよ。信じて貰えるとは思ってないが、我々は冤罪や貴族の気分で罪人に仕立て上げられた。それでも尚国に尽くそうと思える程の忠義なんて持ってない」
嘘ではない。今は間違いなく大罪人だが、少なくとも監獄島にブチ込まれた時は冤罪だったのだから。
「なるほど。しかし、ならば何故こちらまで?」
良く頭の回るヤツだ。少ない時間と情報だけで、力があるならば帝国に受け入れてもらう事だって出来たのではないかと推測したのだろう。つまり、王国から逃げて来たという事だけではここに居る理由にならないと指摘してきたのだ。
「人魔大戦ですよ。両国とも甚大な被害を被りましたが、帝国のそれは尋常ではなかった。首都は灰燼と化し、皇族は一人残らず殺された」
「...よもや、人魔大戦がそこまでの物だったとは」
「えぇ。そんな帝国が生き残るには、王国と手を結ぶしかなかった」
あとは、言わなくとも勝手に推測してくれるだろう。
手を結んだとは言え、不利なのは圧倒的に帝国。となれば、王国の命令下になったという事。そうなれば、王国に追われている俺達は帝国からも追われる事となったのだろう、いう推測を。
嘘は言っていない。これは相手を信用させるためだけでなく、後々の事を考えてのものだ。仮に帝国から真相を伝えられても、この時の会話を引っ張り出して批判する事は出来なくなるだろう。果たして、それに意味があるのかは分からないが。
「なるほど、把握しました。今回は取り合えずここまでとしましょうか。処遇ですが、後日首都にて伝えられると思います。保障は出来ませんが、悪いようにはならないと言っておきましょう」
「では...改めて、感謝する。貴方達がいなければ、魔物の餌になるところだった」
「こちらこそ、あの厄介な竜を倒してくれた事に感謝してますよ」
立ち上がって握手する。どうやら、今回の話し合いは穏便に終わらせることが出来たようだ。
と、そう安堵している俺に、天華がふと何かを思い出したように口を開いた。
「言い忘れていましたが、何か欲しい物があれば言って下さい。貴方達は恩人でもありますのでね」
恩人。死ぬ気で生きようと戦っていただけだが、随分と買ってくれる物だ。とは言え、暖かい食べ物と寝床さえあればそれで充分だ。
...そう断ろうと思ったが。
ほぼ唯一と言える欲が、俺の中で鎌首をもたげた。
「そうですね。なら酒を貰えますか?とびっきり強いヤツ」
隊員達にも息抜きが必要だし。これは隊長としての判断である。
そう言い訳がましい言葉を並べ立ててみる。
天華は苦笑しながら頷いていた。
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隊員紹介 Part8
ゲイジ
能力:優れた土系統魔術と剛力
投獄の理由:非常に優秀な職人だったが、その作品を台無しにした貴族をブン殴ったので投獄された。
外見的特徴:まんまドワーフ
その他の特徴:無口。
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