第157話 連戦
毎日投稿やってる連中の異常さを理解した。
―――――――――――――
「...どうする」
「あー...そうだな、一回話し合おう」
階段の下から聞こえる激しい戦闘音。
まず間違いなく、あれは人間があそこに居る証拠だ。
対応がパッと思いつかない。
「そもそもだが、どの陣営の人間だ?」
「考えられるのは二つだけだな。帝国か、山脈の先にあるという異文明か」
だがそれだけだ。
どちらの方が可能性が高いかすら分からない。
「無視...は無理だな。他の道はなさそうだし」
「となるとどう対応するかが問題か。帝国の連中だったらどうする?」
「突破しかないだろう。何せ俺達は指名手配されてるからな」
まぁ、そうなるか。
しょうがない。そもそも俺達がこんな所に居るのだってそれが原因だし。
「じゃあ異文明だったら?」
「友好関係を築くしかないだろ。異文明に拒否されたら一生追われる身になるって事だからな」
苦々しい表情をしながら、ディランがそう言った。
あいつの言う通りだ。何せ他に行く所はないのだから。
「じゃあ全員友好的な態度を忘れるなよ。マイルズ、お前は口を閉じておけ」
「は?」
話は終わった。
後ろから聞こえて来る文句に耳を貸さずに出発する。
そして、俺達はこの階層を背にしながら階段を下り始めた。
なんだか、やけに階段が長く感じる。
柄にもなく緊張しているのかもしれない。異文明との遭遇に。
仕方のない事だろう、とは思う。
話をする事は出来るのか、そもそも言語が通じるのか。俺達は異文明について何も知らないのだ。
そんな状態で友好関係を築かなければならないというのは、中々に難題である。
そして、音からするに彼らは戦闘中だ。
あらぬ勘違いをされたら―――
「待てよ」
違和感、次いで嫌な予感。
つい先ほどまで届いていた戦闘音が、随分と小さくなっている気がした。
(クソ、タイミングが悪い...!)
心の中で悪態をつきながら耳を澄ませる。
残念な事に、嫌な予感は的中した。またしても。
「全員急げ!追い詰められてるかもしれない!」
そう言うと同時に、俺は走り出した。
勘違いなら良い。
音の発生源が帝国の連中だった場合。或いはただ単に、敵を倒したから戦闘音が無くなっているだけであれば、何も問題はない。
だがそうでない場合――つまり、異文明がやられている場合。そうれあれば、かなり面倒な事になるだろう。
まず、脱出への経路が分からなくなる。
あの宝物の間からの出口を塞いだのが俺である以上、下に居るであろう人間は別の洞窟からこのダンジョンに入ったはずだ。という事は、彼らは出口を知っているという事である。
その彼らが倒されるという事は、つまりそう言う事だ。
それ以上に厄介なのが―――
「出口だ!」
後ろから聞こえた声に、思考を中断する。
考えている時間はなさそうだ。
前を見れば、そこには確かに光が。
ミノタウロスが居たあの空間に出た時と同じ。
それが意味する事は、この先に強力な魔物が居るという事だ。
最大限の警戒をしながら、剣の柄を握り階段から飛び出す。
――最初にその光景が目に入った時点で、もう手遅れだった。
余りのタイミングの悪さを呪いながら、しかし一縷の望みを掛けて駆け出す。
「...彼らさえ...いれば――――」
だが、やはり遅すぎた。
グシャッ。
そんな音が、響き渡った。
骨も、肉も、内臓も、全部まとめて叩き潰された音だった。
そして、今のが最後の一人だった。
直ぐ後ろで、サラの息を呑む声が聞こえた。
あぁ、クソ。彼女に、こんな光景を見せたくはなかったな。
目の前に広がるのは、蹂躙の後だった。
無惨に、無慈悲に、ただ殺され尽くした後だった。
圧倒的な暴力に晒され、成すすべなく潰された。そう、簡単に想像出来てしまうような光景だった。
肉片、内臓、眼球。人体を構築するはずの、決してそれだけで転がっていてはいけない筈のパーツが、そこら中に散乱していた。
地面も、壁も、赤一面に染めつくされていた。
「...総員警戒。昨日のより強いぞ、あの化け物」
獅子の顔、山羊の胴、蛇の尻尾。さらに翼まで生えている。
一目でわかった。惨劇の犯人は、キメラだ。
剣を抜き放ちながら思案する。
あのキメラがミノタウロスより強力だと考えたのには、勿論理由がある。
まず第一に、俺達の姿を認識していながらも無暗に突っ込んでこない事。それは、あのミノタウロスにはなかった理性を持っている証だ。
その残虐性も、十分警戒に値するだろう。あれだけ惨たらしく殺すのは、明らかに尋常ではない。
つまりは、あのキメラは理性と残虐性を持ち合わせているという事になる。
「視界を遮らない範囲で良い、魔術を叩き込め!」
ミノタウロスの時と同じように放たれる、加害範囲が狭い魔術群。
さぁ、どう動く。
構えと視線を動かさず、俺は攻撃の結果を待つ。
「クソ、やっぱ飛ぶか!」
その翼をはためかせると同時に、大きく跳躍するキメラ。
竜より小型、だが、故にこそその俊敏さは厄介。
四足歩行というのもそれを助長させている。ダンジョンの壁や天井を縦横無尽に懸けるあの動きは、ただ翼があるだけでは到底真似できない事だろう。
そして、今ので確信した。
「クソッ、性格悪ィなアイツ!俺達が外したらヤベェの知っててあれやってんぞ!」
キメラが飛び回っているのは、シャンデリアのように突き出た巨大な魔石の近くだ。魔石は壁とは違い自己修復機能がない――という事は、魔術が当たってしまえば落ちて来るという事だ。
あのキメラは、そうと分かっていてあの動きをしている。
時折こちらに突っ込んできそうな動きも交えながら、しかしずっと一定の距離を保ちながら飛び回るキメラ。その動きに段々と苛立ちを募らせながらも、俺達はヤツが攻撃を仕掛けて来るその瞬間を待っていた。
そして、その時はやってきた。
それまでのフェイントとは違い、壁を蹴る足に力が入っている事に気付いたのだ。
「来るぞ!!」
警告するとほぼ同じタイミングで、キメラは俺達目掛け飛び掛かって来た。
翼を折り曲げ突っ込んでくるその様は、正に猛禽類。
―――思っていたより速い。これまでの動きすらもブラフだったという訳か。
「カバーは任せた!」
キメラを迎撃するために、風魔術で空中に飛び上がる。
剣は、襲い掛かる飛行生物相手ではリーチが無さ過ぎる。竜との戦いで学んだことだ。ならば、俺が飛び上がって迎え撃つしかないだろう。
無論リスクはある。タイミングを間違えれば間抜けを晒すだけになるし、そもそも空中は相手の土俵だ。そう簡単には剣を当てられないだろう。
だがそれでも、後ろに目を向ける事はない。そこには、信頼できる隊員が居るから。
敵もここまでは予測出来なかったらしい。意表を突かれたように、一瞬たじろいだのが目に入った。
頭の上に構えた聖剣を、全力で振り下ろす。
剣に最も力とスピードが乗る、丁度その瞬間。俺とキメラは空中で衝突した。
こんな状態では攻撃する場所も選べない。
だから、この攻撃はそのが殆ど運任せ。
結果を見届けることなく、俺は地面に叩きつけられる。
上から迫りくる巨体の化け物、下から迎え撃つ人間。最初から分かっていた事だが、俺は勢いで負けたのだ。
全身の骨が粉々になったのが分かった。折れた肋骨が肺に突き刺さり、口から大量の血が吐き出される。
だが寝ている時間はない。
そこには、胴体から血を流しながらも隊員に襲い掛かるキメラが居た。
「ッ...クソが、失敗したか!」
吐き捨てた言葉を置き去りにするように、全力で駆け出した。
当たり所が悪かった。羽か頭に当たればダメージを与えられただろうが、よりにもよって胴体。
敵の運が良さを、俺の腕が悪さを呪いなら、今度こそはとヤツの後ろから飛び掛かる。
頭が良くとも、やはり想定外には弱いらしい。
俺はもうやったと思っているのだろう。でなければ、俺に背中を見せるなどあり得ないのだから。
狙うは羽の付け根。何よりも、敵の機動力を奪う事が優先だ。
薄暗く血生臭い空間を切り裂く聖剣は、狙い違わずヤツの羽の付け根へ突き進む。
―――いける。キメラの意識は、目下の隊員達に向けられている。
意識外からの一撃、絶対に決まった。
「...っ、!?」
言葉にならない声が、意図せず喉から吐き出された。
油断していた。
キメラ。頭は獅子、胴は山羊、翼は鷲。
そして、尻尾の蛇によって構成されている生物。
尻尾を司る蛇が、俺の方へ音もなく伸びて来る。
全力で身を捩り、剣の向きを、目標を変え蛇に向け振り下ろす。
だがそれは難なく躱され、鋭い牙が俺の首に突き刺さった。
「くッ...!」
再び背筋を撫でる、嫌な予感。
蛇を手で掴んで、全力で首元から引き離す。
その牙からは、得体の知れない液体が垂れていた。
...嫌な予感、またも的中。
コイツ毒蛇だ。
―――――――――――――
結構疲れた。寝ます。
隊員紹介 Part5
リアム
能力:金属を浮かせられる
投獄の理由:存在があまりにも異質過ぎるから。
外見的特徴:赤眼、白髪。ライトと同年代だが身長は低め。
他の特徴:魔海を越えた先から来たらしい。
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