第156話

ストックとかじゃなくてマジでぶっ通しの3話目。

これがレッドブル1.5Lのパワー。

まぁこんだけ飲まないとゴミみたいな量しか書けないのが問題なんですがね。


ではどーぞ。

―――――――――――――――



 双子の奮闘によって、俺はすっかり回復する事が出来た。


 剣を杖代わりにして立ち上がり、危なげなど感じさせない足取りで二人の元へ歩き出す。ミノタウロスなど今にも飛び出して来そうだったが、回復した俺を見て警戒したように戦斧を持ち直した。


「ありがとう、おかげで回復出来た」

「おう!俺達は隊員だからな!」

「気にするな」


 相も変わらず正反対な二人。だが、その姿はいつもより頼もしい物だった。


「弱点は分かった。あとはそこを突くだけだ」


 今の戦いを見て分かった事が幾つかある。


 まず知性の低さ。

 圧倒的に気が短く、頭が悪い。アホと揶揄われがちなフランクを優に超える程頭が弱いのだ。作戦には全部引っ掛かるし、ちょっとしたトリックも見破れない。

 野生動物すら疑い慎重になる場面でも、ヤツは我武者羅に突っ込んでくるのだ。


 元から頭が悪いという事もあるだろう。だがそれ以上に、経験が浅いというのもありそうだ。自然界で生きてきた経験が、何かと戦った経験が浅いのだ。


 それだけではない。


 奴は、孤独なのだ。

 ずっと一人で過ごして来たからだろう。連携という物を知らないようなのだ。俺とあの二人には大きな戦力差はない。にも拘らず、奴があの二人には手も足も出ない事がそれを証明していた。


「包囲だ。決して1対1の状況を作らずに戦うぞ」



 勝てる。大した敵ではない。

 あの竜に比べれば、ただ力を持っただけの子供だ。


「総員、掛かれ!」



 そう言うや否や、視界を遮らないよう放たれた、氷や岩系統の魔術が俺達の頭上を通り過ぎる。

 鬱陶しそうに戦斧を振り回すミノタウロス。幾つかの魔術はそれで防がれたが、大多数はヤツの元へ辿り着いた。


 弾かれる。砕かれる。その強固な皮膚を前にすれば、鋭く速い魔術であれど全く意味を成さなかった。


 だが、それでいい。



「草食動物の癖に視野が狭いじゃねぇか!」



 背後。その首元目掛けて、俺はアスカロンを叩きつける。

 そして間を置かずして振り向きざまに放たれる、力任せの戦斧の一撃。


 ―――直撃した。

 腹部を、背骨を、血管を、内臓を、何もかもが引き千切られる様に断裂される。


 普通ならば即死。

 しかし、俺は普通ではない。


 だからこその、この位置。


「隊長の仇!!死ねえぇえ!」


 奴から見て、右側面。

 奴は、半分しかなかないその視界で、その現状を引き起こした犯人を見つけた。


 だが、剣を振りかざして突貫してくるフランクを相手にするにはヤツの姿勢は崩れ過ぎていた。他でもない、この俺の体を切断したが為に。


 迫りくる窮地に、奴は今までよりは理性を感じる選択を取った。

 重く、しかしそのせいで重心が引っ張られる戦斧。それを、手放したのだ。


 そうして自由を取り戻した手で、奴はクロスするように構えてフランクを迎え撃った。


「げっ、学習してるぞコイツ!」


 そこへ叩き込まれたフランクの一撃は、呆気なく、ダメージどころか衝撃すら与えられずに弾かれた。

 ニヤリ、と言う擬音がぴったりだった。今のヤツを表すには。表情筋などある筈がないのだが、今ヤツが笑っているのは間違いない。


 だが、それは単なる油断。


「確かに、お前よりはな」


 冷めた声が響き渡る。

 今まで一度も機能していない以上存在に疑問があるが、ヤツは野生の勘か何かで大きく仰け反った。


 そして、刹那の前までヤツの右目があった場所に剣閃が通り過ぎた。


「チッ、確かに勘が良い」


 舌打ちと共に吐き捨てるクルト。

 仰け反った勢いで、数歩後退したミノタウロス。


 今、あの二人の連携を凌いだ。確信したらしい。

 今からお前らをブチ殺してやるとばかりに、威勢の良い咆哮を上げる。



 だがしかし、ヤツは勘違いしている。


 たった数秒。

 交わされた剣戟は三合ばかり。


 最初のそれで、その体を真っ二つにされた俺。

 フランクへと引きつられ、視界外からのクルトの一撃で後退。

 つまりは、俺達の位置関係は最初と同じ。



 本来ならば引き裂かれた死体がある筈のそこには、アスカロンを――何をも切り裂く聖剣を構えた俺が居る。



「終わりだ」



 ―――また、剣が訴えかけていた。

 そうじゃない、それは正解じゃないと。


 だが、今は敢えてそれを無視する。

 は、今唱えるべき詠唱ではない。


 コイツは、剣ではなく、積み上げた剣技を以て殺す。



「ウ゛グア゛アァァ―――」



 振り向きざまの、腕での振り払い。


 躱す。狙いすらつけられていないそれを、身をよじるだけで。

 再び崩れたミノタウロスの姿勢。


 焦りを滲ませた赤い目が、俺を見た。




 その赤に、一直線。

 光を宿し聖剣が、突きこまれる。



 感触は一瞬。


 目、眼球を突き破る。

 切っ先から感じる抵抗、最後の防衛線である眼窩。


 それすらも貫通、脳に到達。


 一瞬、ビクンと大きく震えるミノタウロスの体。



 命を奪った証拠だ。

 今この瞬間、ヤツは絶命したのだ。



 剣を抜く。血に塗れ、今命を絶ったばかりの聖剣を骸から引き抜く。

 倒れ始める体。それが地面に伏す瞬間を見守る事なく、俺はその場を離れた。



 手強かった。明確な弱点があったからこうして倒す事が出来たが、それでも苦戦した事に変わりはない。

 分かっていた事だが、やはり一筋縄ではいかないようだ。ダンジョンというのは。




 〇




 俺達は、この巨大な空間で一度睡眠を取る事にした。

 半人半牛の化け物の死体があるのがネックだったが、不思議な事にヤツの死体は塵の如く消え去ったのである。


 最早気にしない事にした。

 ここは不思議が溢れるダンジョンだ。


 ...とまぁ、想定外の出来事はあったが、ここは広く安全な場所なのだ。

 空気が澱む可能性もないし、魔物が侵入してきそうな感じもしない。ならば、今の内に休息を取ろうという事である。



「...よし、そろそろ出発すんぞ」


 どれくらいの時間が経過しただろうか。

 こんな疑問を抱く事すらも、もう数え切れぬほどした気がする。


 各々好きな体勢で体を休めていた隊員達に、そう声を掛けた。


「休憩短けぇよ...」

「文句言ってねぇで起きろー。結構寝てたじゃねぇかお前」


 目を擦りながら言うディランの方を蹴りながら、マイルズがそう言った。

 ディランは相変わらず朝は弱い様だ。


 他に体調の悪そうな隊員が居ないか、周囲へ目を向ける。

 騒がしくしながらクルトを起こすフランク。火を眺めていたゲイジ、出発の準備を進めているリアム。

 そして、大きく伸びをしているサラ。


 特に問題はなさそうだ。


「勘だが」


 なので、話を切り出す。


「おそらく、この階層には魔物がいる筈だ」


 昨日の、宝物の間があったあの階層。

 あそこでは結局、一匹の魔物も見当たらなかった。


 そして階層を降りた先に居たのがあのミノタウロスだ。何となく、ダンジョンという物の仕組みが理解できた気がする。

 最上階には宝物の間とそれを守るドラゴン。その階層には敵は居ないが、一つ下に行けば強力なミノタウロスが待ち構えていたのだ。


 もしや、下から上へ上るタイプのダンジョンなのでは?


 そうであれば説明できるのだ。今言った仕組みが。

 そして、それが正しいなら。


 このミノタウロスが居たこの巨大な空間を抜けた先には、魔物共が待ち構えているという事になるのだ。


 とは言え、それはあくまでも憶測である。

 行けば分かる事だろう。


 隊員の顔には恐れはない。

 不安は、焦りはない。


 ならば大丈夫だ。


 少しの緊張と共に、俺達は出発した。




 〇





 予想通りというべきか、この階層には魔物がひしめいていた。

 無論ミノタウロスよりも弱いとは言え、何処から出て来るか分からないと言うのが非常に厄介だった。


 後ろから出て来るかもしれないし、直ぐそこの岩陰から飛び出て来るかもしれない。或いは、上から降って来るなんてことも考えられる。


 少しも気を抜けなかった。


「後ろから狼型二匹!早いぞ!」

「チッ、同じのが前から三匹だ!コイツら連携してんぞ!」


 何より、懲罰部隊との相性が悪すぎた。

 得意とするのは開けた場所での殲滅戦だが、今このシュチュエーションは真逆である。限られた空間では大魔術を連発する事が出来ず、詠唱に時間が掛かる以上奇襲にも弱い。


 それをカバーするのが俺の仕事なのだが、俺が一人しかいない以上多方向からの攻撃には弱い。


「前三匹は任せろ」


 ここは、隊員を信頼する時だろう。

 敢えて意識を前方の三匹だけに向ける。


 毛並みの美しい、銀色の狼。かなりの大きさがある。


 奴らもまたターゲットを絞ったらしい。吠える事すらせず、一斉に俺へと飛び掛かった。三対の鋭い牙が、魔石より出でし光を反射した。


 抜剣、刺突。

 迷いなく繰り出されたその一撃は、狙い違わず正面の狼の喉元を貫通。


 直後、首筋と脇腹に走る衝撃。噛みつかれた。

 既に命絶えた狼から剣を引き抜き、そのまま逆手に持ち替え脇腹の狼を処理。

 俺が怯みもしない事に今更のように気付き、俺から離れようとした首元の狼を左手で捕まえ、地面に叩きつけてから剣で縫い付ける様に体を突き刺す。


 命乞いの様に甲高い鳴き声――或いは断末魔を出す狼。狙いが荒かったらしい。

 すぐさま剣を引き抜き、血濡れたそれで狼の首を刎ねた。


 この間およそ五秒。一見ただの雑魚だが、俺にしか出来ないこの戦い方のおかげだろう。実際、飛び掛かりのタイミングも完璧だったし力も非常に強かった。

 俺でなければやられていただろう。


 意識を後方へ移す。

 あちらも、丁度今終わったようだ。


 フランクとクルトが、それぞれ一匹ずつ狼にとどめを刺しているところだった。


 他にうち漏らしは居ないか、辺りを警戒する様に見渡す。


 ...よし、大丈夫だろう。

 特に殺気も感じない。それを隠せるほどの魔物も今の所居ないとなると、この戦闘は終わったという事である。


「行くぞ。気を緩めずにな」



 魔物との戦いも随分と慣れた物だ。

 さっきの狼だって、三日前だったらもっと苦戦していただろう。なんとなくだが、奴らの行動パターンが分かってきた気がする。



 この後も何度か魔物と遭遇したが、問題なく処理して進み続けた。


 そうして数時間後、俺達は再び階段の前に来ていた。

 この階層の終わりだ。


 さっさと降りるぞ、と声を掛けようとしたその時。


 人の声が、聞こえた。



 階段の先で、戦闘音と共に。











―――――――――――――――

コメント下さい(乞食)

もう一カ月も何も貰ってないんです...


隊員紹介 Part4

ディラン

能力:一歩引いた視点での冷静な思考

投獄の理由:よくある冤罪(考えるのが面倒くさかった訳ではない)

外見的特徴:灰色の髪、二十代後半。いつも隈がある。

他の特徴:不眠症。自己肯定感は低め

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