第153話 急展開
合宿の最中ですが、どうも宰原アレフです。
なんなんだこの投稿頻度
死んだ方がマシ定期
修正も全然だし...
ではどーぞ...もうやべぇよマジ
―――――――――
「...と、言う事で。どうやらここはダンジョンだったようだ」
皆、呆然としていた。
無理もないだろう。魔石、魔物、ダンジョン。それらはつい最近発生した概念であり、俺以外は知りようもない物なのだから。
正直な話、俺だって呆けていたかった。
どういう事だ、意味が分からん、どうすればいいんだ。
そうやって、思考停止したかった。
だがそれは許されない。懲罰部隊を、サラ含めた12人の命を預かっている身として、常に打開策を模索しなければならない。
だから、俺には呆然としている事は許されないのだ。
「今言ったように、俺達が居るのはダンジョンだ。魔物もわんさか居るだろうし、閉所である以上奇襲を受ける可能性もある。出口までの道は、間違いなく険しい」
隊員達は聞き入っていた。
珍しく、真剣な表情で。
「だが、俺達にはこのダンジョンを攻略するしかない。殆ど何も情報がないながらも、暗闇を手探りで進む様に歩くしかない。
そして、食料に限りがある以上、もう余裕を持って行動する事は出来ない」
それがネックだった。
魔物を食えばもう少し持つだろうが、それは最終手段にするべきだろう。
ヒロが言うには、魔物化とはそう直ぐに症状が現れる物ではないらしい。魔石さえ取り除けば何とかなるとも言っていた。
だが、俺達に魔石を取り除く様な技術はないのだ。故に、あのゲテモノを食うのは最終手段である。
シンプルにあんなの食いたくないってのもあるけど。
「だから、これからは全員で一緒になって探索を進める」
時間がなかった。
言うなり、俺は立ち上がって膝についている土を払い落とす。
出発するぞ、と言外に伝える。
「...よし、行きますか」
「あー、かったりぃ」
「よく分からんが、つまり急いで行くぞってことだよな?」
「お前は落ち着きを覚えた方が良いぞ、フランク」
少し安心した。そのいつも通りな姿に。
「先頭は俺が行く。普段通りなのは良いが、決して警戒は怠るなよ」
そう言うと、俺は足を踏み出した。
前人未到の、魔窟へと――――
「あ、そう言えば」
何かを思い出したような間の抜けた声色が、今まさに出て行こうとした宝物の間に響いた。
絶対碌な事じゃないだろ、と分かりながらも、声を発した人物であるフランクへと口を開いた。
「なんだ」
「ここの宝どうすんの?もう戻んないなら持ってく方が良いんじゃね?」
どうして、コイツはこうも能天気なんだ。
頭に感じない筈の痛みを自覚しながら、溜息と共に言葉を吐く。
「...まぁ、片手で持てる範囲ならな」
そう言えば、竜に襲われる直前も同じような事を考えていた気がする。
無一文は不味いから少しだけ貰っていこう、みたいな。
宝石類とかは良いかもしれない。嵩張らないわりに高値で取引出来るだろう。
一応、自分も何かしら貰う事にした。
「それ俺が取ろうとしてたやつじゃん!」
「知らねぇよ...」
「両手いっぱい分も取るな。隊長の話聞いてたのかお前」
「えーいいじゃんかよ」
やいのやいのと騒ぎながら宝の山を登る隊員達。
彼らを横目に、俺も良さげな宝石を探そうと辺りを見渡す。
そして、俺は吸い込まれるように再びそれと目が合った。
「...なんなんだろうな、あの剣」
独り言のように呟く。
目が離せなかった。その不思議な魔力に。
美しい訳では無い。刀身を見た訳では無いから、鋭いかどうかも分からない。
だが、そこには謎の魅力があった。
あまり悠長にはしていられないが、少しくらいならば良いだろう。
俺は文字通りの宝の山を登り、山頂に突き刺さっていたその剣を手に取った。
「...なんだ、どういう事だ」
手にした瞬間、理解した。
この剣は、この刀身は。
強烈な弱体化効果を持つ剣。その威力は、この身を以て知っていた。
俺の手は、無意識に右目を触っていた。
この傷は、その剣がつけた物だった。
「...クソが、本当に何なんだよ」
―――フラガラッハ。奴が、そう呼んでいた剣だった。
これは遺物だ。間違いなく。
俺はいま、その刀身を目に収め、柄を手にしている。
だからこそ、確信してしまった。この剣が持つ神秘と、重みに。
分からない事だらけだ。なぜ遺物がこんな所にあるのか、エルはどうしてこれと同じ物を持っていたのか。
そして、それはどれだけ考えても結論は出ない事であろう。
考えても仕方のない事、考える事で解決出来ない事。どれだけ考えようとも、サラと、仲間の為にならないこと。
そんな事にはもう、頭を悩ませないと決めたのだ。
静かに息を吐く。溜息の様に、或いは無用な疑念を頭から追い出すように。
「...よし、行くぞ!」
剣を鞘に納め、それを腰に差す。
激動の予感がした。武器は、あればある程良いだろう。
そうでなくとも、俺達が行く道先は険しい物である。
それらを打倒するために、何をも利用しなければ。
そんな決意を元に、今度こそ俺は歩き出した。
〇
俺達は今、魅惑的な、或いは幻想的な道を歩いていた。
時折聞こえる物音に警戒したり、行き止まりにぶつかったりしながらも、俺達は今の所順調に進んでいる。
とは言え、歩き始めてからどれくらいの時間が経過したのだろうか。昔ならば腹時計という手段があったが、今はそれもなくなってしまった。
隊員達の感覚も信用出来ない。フランクに聞けば1日と返ってきそうだし、マイルズに聞けば自分で考えろと返って来るだろう。
だが、時としてこの感覚のギャップが問題になる事もある。
隊員達に無理強いしてしまう可能性があるのだ。普段なら文句を言ってくるだろうし、俺はそれを以て休憩の判断をすればいい。
だが、こうして余裕がない状態では隊員達も文句を言い辛いだろう。それで誰かが倒れてしまったら大問題だ。
無論ある程度無理をしなければならない程追い詰められているのも事実だが、別に皆を追い込みたい訳では無いのだから。
「各員、限界が来たら言えよ。安全な所があったら随時休息を取る」
「了解」
「おう」
「うっす」
相も変わらず統一感のない返事だったが、そこに緊張が含まれているのは明確だった。良い事だ。余裕をぶっこいているヤツは居ないという事だろうから。
そうして、後ろを歩く隊員達へ向けていた目で再び前を見据え、俺は歩き続けた。
最初の階層は特に何もなかった。
不気味な静けさが支配するだけの、廃墟となった建物の廊下の様な空間が広がるだけのものだった。
「...嵐の前の何とやら、って感じだな」
直ぐ後ろを歩くディランが、そう独り言ちた。
正にその通りだろう。他のダンジョンなど知る由もない以上比較は出来ないが、ここまで大量の魔石があるダンジョンだ。きっと大量の魔物が居る事だろう。
今の今まで、一度もそれらしき影を見ないという事が、ディランの言っている事が正しいと証明しているようだった。
そんな静かなダンジョン内を、俺達も静かに歩き続ける。
やがて、その階層は形を以て終わりを告げて来た。
「...本当に理解出来んな。そういう物と考えるしかないのか」
ディランが呆然としながらそう言った。
そこには、階段があった。
ダンジョンに、人の手など入るはずのないこの空間に。
いや、あんな所に宝がある以上人の手が入っている可能性はあるのかもしれないが。にしても、理解出来ない事の連続である。
その階段は『下に続いてますよ!』と堂々と主張している。
俺達は思考停止してその階段を下りた。無論警戒はしたが。
その階段の終わりと共に、雰囲気が一変したのが分かった。
殺伐としているというか、物騒な感じだ。
辺りを見渡す。階段を下り始める前と、随分様相が違っていた。
身廊の様に上が広くなっており、その天辺からシャンデリアの如く巨大な魔石が突き出ているのだ。
これが全て自然に出来た物だというのなら、俺は自然に対する認識を180度変えなければならないだろう。それほどまでに、荘厳な空間だった。
「...あれ、なに?」
上へと目を取られている俺に、サラがそう言った。
彼女の視線を辿ると、そこにはナニカが佇んでいた。
首を傾げ、眉を顰める。確かに、あれは一体なんなのだろうか。
シャンデリアの様な巨大な魔石だが、天井まで高さがある分、その明るさはここまで届いていなかった。つまり、辺りは比較的薄暗かった。
「うおっ、すっげ!なんだここ!」
後ろから付いて来ていたフランク。彼は俺達と同じ光景をその目にした瞬間、感嘆したように声を上げた。
その声は、広いこの空間に響き渡った。
「...総員警戒」
のそり。
声が響くと共に、そのナニカが動いた。
「【聖剣よ】」
そのナニカを見据えながらアスカロンの柄に手を掛ける。
そして、口にする二節だけの詠唱。
「【我が手に来りて敵を打ち払わん】」
鞘より解き放たれた剣に、神聖な光が宿る。
俺以外の隊員も皆戦闘準備が出来たらしい。
後ろで、カチャリと金属が鳴った。
張り詰めた空気の中、それはこちらに振り向いた。
赤い目が、俺達を見た。
全容が明らかになる。
それは、半牛半人の、歪にして禍々しい姿をしていた。
ミノタウロス。神話の怪物だ。
――――――――――
隊員紹介 Part3
フランク
能力:剣を扱える。双子の兄であるクルトとの高度な連携。
投獄の理由:双子は不吉の象徴だったので実家から疎まれていた。15歳の頃に継承権争いに巻き込まれ、冤罪にて投獄された。
外見的特徴:明るい茶髪、鍛えられてはいるが一般的な体形、17歳前後。
他の特徴:悪意に晒されても変わる事のない明るさを持っている。アホ。
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