第152話 ダンジョン

投稿遅れま(ry

一週間合宿があるのでまた投稿出来ないかもです

ではどーぞ

――――――――――――――



「どうすんだよマジで...」

「少しは自分で考えてくれ」


しみったれている、という表現がぴったりだった。今の雰囲気を表すには。

場所が場所だからというのもあるだろう。暗く、ジメジメとしたこの洞窟が隊員達の心情に影響しているのかもしれない。


だが、やはりそれ以上に。


「...魔術が効かない土ってなんだよ」



状況が状況であった。


つい先程始めたばかりの掘削作業は、始まる事なく終わったのである。なんと、壁が魔術を受け付けなかったのである。

本来なら地面を変形させる事が出来る土系統魔術、それが全く効かなかったのだ。


意味が分からん。

最初は見間違いかと思った。その次に頭の異常を疑い、最後にやっとそれが事実だと気付いた。

それほどまでに信じがたい。ただの洞窟が魔術を拒否するという事が。いや、魔術が通じない以上ここはただの洞窟ではないのだろうが。


「...なぁリアム、そう言えばさっき―――」

「あぁ、魔力が鉄槍に届かなかった。関係はあるだろうな」


意味不明な現象が発覚する前に、リアムと交わした会話。そこでは確かに、リアムの鉄槍がコントロールを受け付けないという内容もあった。


「...魔力を拒絶する、って事か?」


憶測の域を出ない物だったが、試してみる価値はあるだろう。

何にせよ、行動を起こさなければ状況は打開出来ないのだから。


善は急げ。立ち上がって剣を抜き、壁に斬りかかる。

無類の切れ味を誇るアスカロン、この世に切れぬ物はないと評される程の刃。

それをもってすれば、そこらの土壁など真っ二つになるだろう。


「...なんだこれ」


しかし、先程も言った通りそれはそこらの土壁ではなかった。

確かに、アスカロンは洞窟の壁を傷付けた。一直線の、綺麗な切れ口を。


だからこそ、一層理解出来ない。

今、目の前で起こっている現象が。


「土の壁が勝手に直るってどういう事だよ...」


俺のスキルで人を治療する時のような光景だった。

時間が巻き戻るかのように、アスカロンによって出来た傷が修復されたのだ。


となると、俺達を閉じ込めているのは、魔術が効かないのみならず、自己修復までする壁という事になる。


片方だけでも理解が出来ないのに、こう2つもあれば頭を抱えたい気分だ。なにせ、それ以上に不可解な現象がある可能性も考慮しなければいけないのだから。


「この際原理はどうでも良い。どうやって脱出するか考えないとな」


ディランが口を開いた。

確かに一理ある。だが、俺には見当もつかなかった。

魔術で地上まで穴をあけるのも無理。吹き飛ばすのはリスクが高すぎる。剣で少しずつ削る事も出来ない。

となれば、果たして俺に出来る事はあるのだろうか。


再び、場を沈黙が支配する。

頭を回しても捻っても浮かんでこないアイディア。たまに隊員が現実味に欠ける案を出しては、マイルズに馬鹿にされるという流れを繰り返すだけ。


そうこうしている内に数時間が経った。洞窟に閉じ込められている以上あくまでも推測だが。半日経っているかも知れないし、数十分かもしれない。


「...あれ、もしかして」


サラが何かに気付いたような声を発した。

そちらへ目をやると、何やら難しい表情をしながら光源である火を見つめている。

どうかしたのか、という問いが喉元に差し掛かったその時、俺もに気付いた。


「動いている...風があるのか?」


ゆらゆらと揺らめく火。しかし、それは方々へと身を揺らすのではなく、ただ一方向を向きながら揺らいでいた。


それは間違いなく、風がある故の現象だ。

洞窟という密閉空間で、一方向から吹き付けられる風。

それが示す事は、唯一つだった。



「出入口があるのか、ここ以外に」



気付くのが遅かったかもしれない。13...いや、12人もの人間が絶えず呼吸をしているのだ。その上光源用に火も灯している。密閉空間ならば、もう空気が澱んでいる頃だろう。

そうなっていないというのは、ここが密閉空間ではないという事の証拠に他ならない。


「決まりだ。この洞窟を探索する」


こうして、懲罰部隊の方針は決定した。






まず知るべきは、この洞窟がどれほど大きいのかという事だった。

それで出口が発見できればよし、そうでなくともある程度のこの洞窟を把握する事が出来る。

より深部への探索をするためには計画的に行動する必要があるが、一端も知れぬ闇を進むのに計画もクソもないのだから。


半数を最初の空間――呼びにくいので宝物間と呼ぶ事にした――で待たせ、残りの半数で浅い層の探索を開始した。


全員揃っていく必要はないし、かと言って少数過ぎるとそれはそれでリスクがあるからだ。

勿論サラは待機だった。少し不満げであったが、まぁそこは許して欲しい。

ともかく、そうして6人組で開始した付近の探索。そこに待っていたのは、想定をはるかに超える不思議と不可解だった。


「...おい隊長。やけに明るくないか、この洞窟」


光源である火は宝物間に置いて来た。なので俺達は明かりを持っていない状態である。無論そんな状態で探索が出来る訳がないので、宝物間を抜け次第魔術で明かりを灯そうと思っていたのだが――


「なんだ...いや、本当になんだこれ?」


光っていた。洞窟が。

正確に言えば、側面から突き出ている石が淡い光を発していた。


ダイヤモンド、ラピスラズリ、アクアマリン。色んな宝石を目にしたことがあるし、それらには『光を発しているかのような』という賛辞が付き物であった。

だが、それらは単なる光の反射である。実際に光を発している鉱物を見るのは、これが初めてだった。


「おいマイルズ、ちょっと削ってみろ」

「俺!?」


大丈夫だろう、とは思った。禍々しさは感じないし、ただただ不思議な美しさがあるだけの石である。突然爆発したり壁が崩れたりはしないだろう。


だがなんとなくマイルズに任せてみた。

この前の恨みではない。多分。


「何で俺が...」


ぶつくさと文句を言いながらも、恐る恐るその鉱石に近付くマイルズ。短剣を取り出すと、生き物でも触るかのように突っついた。

フランクならば手でもぎ取りそうな物だが、随分と慎重である。


しかし埒が明かない事に気付いたのだろう。マイルズは意を決したように、短剣でその鉱物の周りを掘り始めた。丸ごと取り出すつもりらしい。


そうして、やがて削り出された光を放つ鉱物。

俺含めた6人は、それを取り囲むようにして覗き込んだ。


「...分からん。これが何なのかも、どんな原理で光っているのかも」


ディランがそう溢した。

同意の言葉を呟こうとしたその時、ちょっとした違和感を感じた。


こんな風に光る、宝石のような何かを。

俺は、どこかで見た事があるような気がしたのだ。


「――まさか」


嫌な予感がする。

厄介な事に、殆ど外れた事のない予感が、俺の背筋を撫でる。


「【ファイア】」


魔術で小さな火を灯す。

視界が確保されているこの空間では、全く使い物にならないであろう小さな火。

隊員達が眉を顰めるのが分かった。


だが、そんな事に構ってられる暇はなかった。


「頼むぞ、マジで...!」


その鉱石に向け、鞘から抜いた剣を振り下ろす。

一縷の望みを掛けて、そうはなってくれるなと思いながら。



―――パリンッ...


ガラスが割れる様な、結晶が砕ける様な、そんな音が響いた。

それだけならば、どれだけ良かっただろうか。



―――ボウッ...!


今しがた灯したばかりの魔術の火が。

激しく、燃え上がった。


文字通り、火に油を注いだかの如く。




『まぁ魔術用の炭か油みたいなもんですよ』




かつての会話がフラッシュバックする。

かつての...魔物の体内にあった、あれを取り出した時の会話が。



『魔力の結晶体ですよ。先天後天に関わらず魔物は皆これを体内に持ってます』


あの時、血に塗れていてよく分からなかったが。

確か、あれも淡い光を発していた気がする。


「...魔石だ」


魔力の結晶体。魔術に用いる、油や石炭の様な物。


どんどんと脳裏を過る、最悪の想像。

それを裏付ける様に、急浮上してくる記憶。


『場所によっては鉄みたいに採掘できますよ』


あぁ、最悪だ。

どうやら、その想像は現実となりそうだった。



『そしてその魔石が採掘出来る場所こそが魔力が豊富にある場所であり――』


最早決定的となったその現実を、さらに押し付けて来るかのように思い出される会話の内容。そして、その最後の決定打が。






魔力を通さず、自己修復をする壁。そんな理解不能な事象さえも、この洞窟にとっては末端に過ぎなかった。


ここは、この洞窟は、普通ではない。間違いなく。

出る事を拒絶された時点でそう頭では分かっていたが、今ここ至ってやっと理解した。普通ではないという事が、尋常ではないという事が。


もはや、余裕を持っていられる段階ではない。


急がなければならない。

焦ってはいけない。

怠ってはいけない。

だが、早急に解決しなければならない。

全員が全力を出さなければならない。



受け入れ難くとも、認めなければならない。



『―――魔物共の根城となる場所なんです』



それ程までに、俺達は危機に陥っていた。



『その魔力が豊富にある場所...ダンジョンと言うのですが―――』




ここは、この洞窟は。


ダンジョン、だった。













「...耳が痛い。急に攻撃仕掛けて来るとか舐めやがって」



またか、と青年は呆れた。

これでもう5回目である。文句を言ってきたのは。


「攻撃かどうかは分からないでしょう。狙いも適当でしたし、奇襲にしては粗末が過ぎますよ」


どうせ聞き入れないだろうな、という諦めを抱えながらも、一応そう訂正しておく。こういう勘違いが後々厄介になり得るのだから。


「じゃあ何、あの殺傷能力。お前がいなけりゃ数百人は吹き飛んでたぞ」

「分からないからこそ、断定してはいけないのですよ」



彼ら赤い翼作戦実行部隊を襲った、正体不明の超高速物体。鉄の槍のようなそれは、直撃すればどんな生物も粉微塵と化してしまうような破壊力があった。



だが、それが彼らを傷付ける事はなかった。

麗しい、その青年が振るった一対の双剣によって。



彼らの直ぐ後ろを歩いていた人民連邦兵士は思い出す。

あの、神秘的にして荘厳な光景を。

生涯忘れる事がないであろう、美しくも畏怖を抱かずにはいられない光景を。



その時。

脳裏で再生され続けるその光景に惚れ惚れとしているその兵士の耳に、思わず聞き返したくなるような言葉が突き刺さった。


「先行していた第151偵察歩兵小隊より報告!発光する鉱石がある巨大洞窟発見、内部に魔物の痕跡ありとのことです!」


一瞬、その流麗な眉を顰めた青年。

だがその顔に不敵な笑みを浮かべると、何か確信を得た様な表情で口を開いた。



「ふむ...文字通り魔窟という事ですか。良いでしょう、我々東方勢が探索します」





――――――――――――――

隊員紹介 Part 2


ガル(戦死)

能力:比較的マシな指揮能力と人望

投獄の理由:彼の妻は美人だった。貴族に見初められてしまう程に。その貴族にとって邪魔者でしかなかったガルはでっち上げられた罪で投獄される。

外見的特徴:無精髭。馬鹿にしたような、或いは皮肉気な薄笑い。

その他特徴:30代半ば。たまに的を射ている発言をする。

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