第151話
投稿遅れました。
過去の自分への殺意と共に、どーぞ
―――――――――――
「【ファイア】」
溌剌とした声と共に、暗闇に一縷の火が灯った。
それはこの洞窟の全貌を照らすには不十分な様に思えたが、至る所から乱反射してくる明かりを考えれば十分な物だった。
というか、目がチカチカするレベルだ。撒き散らされた金銀財宝が、その無造作故にバラバラに反射してきているせいだろうか。
「...さて、じゃあこれからどうするか考えよう」
文字通り影を顔に揺らめかせている隊員達を見渡す。
どいつもこいつも渋い表情をしていた。
俺も同じような顔をしているのだろう。
「まず前提として、魔術で土砂を吹き飛ばすのは最終手段だ。不安定過ぎるし、この人数だと誰かしら生き埋めになる」
妖しく光る赤眼をこちらに合わせる事なく、リアムがぶっきらぼうに言った。
こうして見ると、リアムの目の色は魔物のそれとそっくりだ。今更だが。
「それもそうだな...あぁ、そう言えばお前の鉄槍は?」
「まだ上にある。けど魔力切れたら降って来んぞ」
少しの間思案する。リアムの鉄槍は非常に強力だ。瞬間火力が欠けがちな懲罰部隊にとっては切り札に近いし、魔術とは違いあれは唯の金属の槍である。魔術障壁を簡単に破る事が出来るのは大きな強みだろう。
だが、それは今となってはそれを保持し続けるのは危険な様に思えた。
「別の場所に落とす事は出来るか?」
「多少のコントロールは効く」
「じゃあ遠くに落としてくれ。いざって時に俺達の所に落ちてきたら洒落にならないからな」
いざって時。考えたくはなかったが、ガルの死で考えざるを得なくなったのだ。つまり、リアムが死亡した時の事を。
それ以外の何らかの原因でコントロール不能になった場合にしても、あの超スピードの槍が俺達の頭上から降ってくる可能性があるのだ。ならば、いっその事捨てておいた方が安全だろう。
「俺は構わないけど...良いのか?槍でなくとも、金属だけで出来た重量物なんてそう簡単に手に入らないぞ」
「あぁ、頼む」
「一応出来るだけ遠くに落とす。先に進めててくれ」
そう言うとリアムは目を瞑った。今言った通り、鉄槍が落下しきるまでコントロールを続けるつもりなのだろう。
その間に、俺達は言われた通りに残りの食料の確認をした。
「六日...いや、一週間は持つか?」
「まぁ、どちらにしろ打開策は考えないとだよなぁ」
干し肉、チーズ、乾パン、乾燥魚、豆類に酒。
それなりにありはしたが、決して安心できる量ではなかった。
「待て、水はどうすんだ?」
「氷柱溶かせばいいだろ」
真面目な顔で尋ねたフランクに、マイルズが呆れたように答えた。
確かに、辺りを見渡せばそこらに氷柱が生えている。
「不純物とかあるだろ。煮沸は忘れるなよ」
微生物やら鉱物やらが含まれている可能性も考えられるのだ。
その辺に生えている氷柱をペロペロ舐めだすような馬鹿ではないとは思うが、一応警告はしておく。
「聞いたかフランク」
己が双子に呆れた様な言葉を発するクルト。
その発言の意図が分からずに彼の視線を辿ると。
「...ほらさ、山頂で休憩出来なかったじゃん?だから喉乾いてて」
気まずげに目を逸らしたフランクの手には、少し溶けている氷柱があった。
少しくらい人の話聞けよ。
「腹下しても治さないからな」
「...おう」
気のない返事である。まぁどうでも良いが。
「ともかく、水については何とかなるだろう。この洞窟の大きさ次第では普通に水源もあるかもしれないからな」
先程はチラリと覗いただけだったので分からなかったが、こうして辺りを見渡すとその大きさに驚く。
偶々死角になっていたらしく、この洞窟は奥まで続いているようだった。
「んで、結局どうすんの?」
「そうだな、穴を掘りつつ脇を補強してくやり方なら脱出できると思う。これなら、完全にとはいかなくとも崩落のリスクは下げられる」
鉱脈を掘り進める時と同じやり方である。掘る場所によっては下が抜けるといデメリットはあるのだが、今回は山崩に閉じ込められているだけだ。それも考えなくて大丈夫だろう。
「じゃあ進めっか。そうだな、二人一組だから...四時間交代だな」
「いやいや、ちょっとキツくないかそれ」
ディランが眉を顰めながらそう言った。
「仕方ないだろ。食料も心配だし」
一々掘った所の周りを補強しなければならないとはいえ、魔術を使えば長時間閉じ込められるという事はないだろう。
だが、ここを出たところで食料不足が解消される訳では無いのだ。なるべく早く脱出するのが吉なのだ。
そう、話し合いに結論がつきかけたその時。
「...すまん隊長、鉄槍が操作を受け付けないんだが」
深刻そうな表情で、リアムがそう呟いた。
「は?どういう事だ、それ」
「言った通りだ。そもそも魔力が遮断されてる気がする」
意味が分からなかった。魔力が遮断されている?魔術障壁じゃあるまいし、そんな事があり得る訳がない。
「いや、それよりも落下地点は?」
疑問符を振り払い、最悪のケースを想定する。俺達の頭上へ降り注ぐというケースを。
この洞窟は奥まで続いている様だが、俺達が今いる地点は出入口付近である。つまり、ここは安全ではないのだ。
となれば、リスクを承知で魔術で洞口を塞ぐ土砂を吹き飛ばすしかない。
「あんな標高だ。風の影響は必ず受けるだろうし、近くに落下するってことはないと思うぞ」
どうやら、その想定は無駄だったようである。有難い事に。
安堵感を覚えながらも、俺は気持ちを切り替える様に手を叩いた。
「よし、取り合えず作業に取り掛かるか!」
気合いを入れる。
ここは言い出しっぺの俺が始めるべきだろう。まだ万全には程遠いが、大魔術を行使しないなら消費より回復の方が早い筈だ。
「あ、私がライトのペアになるよ」
延々と壁を掘削するという厄介極まりない作業の第一走者に立候補するとは思えないほど、サラの声には一切の負の感情が含まれていなかった。
俺はそうでもなかったが。
いや、無論彼女と作業するのが嫌と言う訳では無い。ただ単に、そんな重労働を彼女にして欲しくなかったのだ。
だがそう言ってはいられないだろう。
ガルが死んだ今、隊員の数は12人となったのだ。つまりは偶数名、ペアを作っても誰も余らないという事だ。
俺が二人分やるという手も考えたが、それに甘んじるような彼女ではないだろう。
「...分かった、やろう。俺が掘削するから、サラは周りを固めてくれ」
渋々了承したような言い方になってしまった。
そんな事を気にするような彼女ではないと知っていても、小さな不安が胸を突っついてきてしまう。
「うん、分かった!」
そう言った彼女は、花が咲いたようた様な嬉々とした表情をしていた。なんだかこっちまで恥ずかしくなってしまう程である。
返事を聞くや否や、俺は土魔術によって塞がれた洞窟の出入り口へと歩き出した。なんだか顔を合わせられなかったのだ。
「お、初めての共同作業ってや――」
「黙れ」
マイルズがこんな時にも余計な茶々を入れて来た。
気まずくなるだけだから本当に止めてくれ。
「あはは...」
ちなみに、彼女は困ったような笑みを浮かべていた。
気まずい。
――――――――――――――
これからは後書きに隊員の紹介を書きます。
今日は例としてライト君にします
ライト・スペンサー
証:限定的な時間遡行、それによる治癒能力
投獄の理由:聖女を穢したという冤罪
外見的特徴:くすんだ金髪、隻眼、左腕の魔術陣
他の特徴 :聖剣アスカロンの主。魔術王に刻まれた魔術陣により一時的な時間停止が可能。弱体化により魔力が本来の10分の1以下になっている。隊長。
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