第148話
投稿遅れました定期
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竜、或いはドラゴン。
それは空想上にしか存在しない筈の生き物であったが、そう形容する他ない程、あれは本の中から飛び出てきた様な見た目をしていた。
全く持って訳が分からなかったが、しかしそれは隙を晒していい理由にはなり得ない。それに、俺以外の懲罰部隊は化け物との交戦経験があるのだ。アテになるかどうかはさておき。
「俺、フランクとクルト、アッシャー、ゲイジで前衛を張る。残りは後衛を頼んだ」
隊員14人に対して前衛5人。一見バランスが悪いように思えるが、そこには勿論理由がある。
まずシンプルに、近接戦闘を出来る隊員が少ない。王国への上陸作戦前はそうでもなかったのだが、あの戦いと人魔大戦によって前衛人員がごっそり減ってしまったのだ。俺がこの手で殺してしまった元騎士のレオや、隊を抜け幼馴染と結ばれた元暗殺者のテオがその最たる例であろう。
「死んでも攻撃は後衛に通すな!死んだら治してやるからよ!」
だがそれ以上に、俺の持つ
頭が消し飛んでも、全身が原型を留めない程破壊されようとも、それが数時間以内に行われた物であれば俺は元通りにする事が出来る。
だが問題はその数だ。聖女の聖魔術ならば広範囲にその効果を及ばせる事が可能らしいが、俺の証で同じ事をしようとすれば一瞬で魔力が空になりかねない。
故に前衛この前衛はこれだけなのだ。
だが問題はない。俺とこの聖剣があれば、どんな障壁も打ち破れるのだから。
聖剣を上段に構える。
この剣の、というより遺物というのはその破壊力こそが真髄である。切れ味や耐久性とて他の武器の追随を許さぬ物であるが、やはり一軍をも壊滅させられるのはその真髄故であろう。
だが、弱点として切り札の発動には時間が掛かる事が挙げられる。無詠唱で出来ればその弱点すらもなくなるのだが、残念な事に俺はこの剣を手にしてから長いとは言えないのだ。であるからして、やはり俺は詠唱をせざるを得ない。
「カバーは頼んだぞ!」
そしてその隙を埋める為の前衛である。分かりやすく言うのならば、俺がアタッカー兼ヒーラーで他の前衛はタンクと言ったところか。
「【彼の者の名はゲオルギウス】」
目を瞑り詠唱を口にする。
正に絶大な隙だが、やはり信頼出来る仲間というのは素晴らしい。何も見えずとも、激しい戦闘音が自分が守られている事を証明していた。
ならば、俺はそれに報いるだけである。
「【黄金伝説の殉教者】」
口にするのは第二節の詠唱。
これは一種のバフの様な物。竜であるという事以外判明していない敵にならば、これこそが適任であるように思ったのだ。
「【聖大致命者にして救難聖人】」
どんな困難をも打ち砕く最強の技。敵が何であろうとも、持ち主に信念がある限り決して敗北する事無き無敵の刃。
それが第二節。ならばやはり、これ以上の手はない筈だ。
「【彼の者の剣の名はアスカロン】」
だが何故だろうか。理由の分からない違和感が俺に付き纏ってやまなかった。
「【それは抵抗の象徴にして無敵の剣】」
違う、違うんだと、剣が語り掛けてきているようで。
しかし、だからと言ってどうすれば良いのかと思う他なかった。
「【唱え。思い邪なる者に災いあれ】」
詠唱は終わる。それと同時に、あの竜の命もまた終わりを迎えるだろう。
そう言い聞かせるように心の中で呟けども、確信が胸を突く事はなかった。
「【第一節・守護聖剣!!】」
闇は終わりを迎え、世界は再び色づく。
そして色づいた世界に一閃、無比なる刃が通り過ぎた。
銘を
それが生み出す、不可視にして不可避の斬撃。世界をも断つ一閃である。
「...ハァ!?」
しかし、切り裂かれた空間が形を取り戻した時、そこに居たのは無傷の竜であった。
「んだよ効いてねぇじゃん!仕事しろよ隊長!」
「黙れ!テメェこそ文句しか垂れねぇその口で詠唱でもしてろ!!」
ヤケクソ染みた悪口を吐いても、心の中にある焦りは消えなかった。
あれはエルすらも一瞬で打倒せしめた技だ。それを、たかが化け物如きに無効化された?あり得ない。そんな事はあり得てはならない。
隊員から聞いた、八本首の魔獣。ソイツは聖魔術を用いて自身を回復したらしい。ではあの竜も同じように?いいや、それもない。
ならば、今のはあの化け物のせいではあるまい。
「クソが!使用条件あんのかよこの技!!」
...いや、立ちはだかる敵を必ず倒せる技が無条件で使えると考える方が悪いか?
にしてもタイミングが終わってやがる。よりにもよってこんな時に!
「っ、ブレス来るぞ!」
隊員の一人が発した警告。
竜を見やると、ヤツはその首を擡げていた。それはまるで、人で言う息を吸い込むような動作である。
ブレス。直訳すれば呼吸であるが、あれが攻撃の予備動作である事は明白だった。
剣を構え、一歩先の土を踏みしめる。竜のブレス攻撃の速度など知った物ではない以上、賭けの要素が多すぎるような気はしないでもない。
「もう一度言う、何があっても攻撃は通すなよ!」
だからこその、今の言葉である。
失敗するつもりは毛頭ない。しかし万が一、聖剣を以てしても敵の攻撃を防げなかった時、最後に頼りになるのは懲罰部隊なのだから。
「【思い邪なる者に災いあれ】」
この世界で起こる摩訶不思議は、その殆どが魔力によるものである。
ならばこそ、この刃は最強の防御手段に成り得るのだ。
「【如何なる魔術も我を脅かす事はない】」
――偶然か、将又必然か。
奇跡を手繰り寄せ、必ず敵を打倒するのが聖守護剣の効果ならば、これは運命なのかもしれない。
その時、山に咆哮が響いた。
そして刹那の間もなく飛来せしめるは赫赫とした灼熱の光線。
「【第二節・
一筋の光の刃が、その光線に向かって空を駆ける。
衝突は一瞬。そして決着もまた、一瞬であった。
魔が、反魔に勝てる道理などないのだから。
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また短くて申し訳ない。5000文字あったから分割しました。なので次話のストックはあります。
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