第147話
文字数より投稿頻度を優先しようかなと思ったので。
ではどーぞ、今回も短いです...
―――――――――――――――――――――
「―――おーい隊長!惚けてないでこっちこいよ!なんかあんぞ!」
「惚け...ッ!?クソ、なんだよ!」
永遠にも感じた一瞬を邪魔されたような気がした。だがそう思うのすら気恥ずかしいやら情けないやらで、半ばヤケになりながら俺を呼んだ隊員の所へ向かう。
火山だったのか何だったのかは知らないが、山頂は大きな椀の様な形をしていた。そして俺を呼んだ隊員はその底部、ちょうど影になって見えないそこに、隊員が言った“何か”があるらしかった。
「なんだか物語染みてるよな、この展開」
その隊員――昨日しつこく揶揄ってきたマイルズ――は、笑みを浮かべながらそう言った。その言葉の真意を知るべく、俺は彼の視線の先を辿る。
「...宝?」
「そうそう。苦難を乗り越えた先に待ってるのが金銀財宝ってのが物語らしくてな」
そこには、今まさにマインズが言ったように、金銀財宝の山があった。
無造作に放り込まれたように置かれているそれらは、一つ一つが目玉が飛び出るような価値を持っていそうな宝ばかり。
特に宝の山の頂上に突き刺さっている剣は、どうも目が引かれてやまなかった。
無骨で飾り気のないそれは、一見すればその場には相応しくないと思うかもしれないだろう。しかしその刃からは魔力を感じるし、何せ纏う雰囲気が量産品のそれではなかった。
(――いや、それ以上に...見覚えがある?)
霞がかかったように思い出せなかったが、俺はあの剣を何処かで見た事がある様な気がした。今すぐ手に取って確認したかったが、いかんせん胡散臭過ぎる。
どうすべきかと頭を悩ませていると、そんな俺達が気になったらしい他の隊員達も続々と集まって来た。
「...何あれ」
「うお、すっげ!」
口々に感嘆の声を漏らす隊員達。どうやらコイツらとっては、到底価値などつけられぬ絶景よりも金銀財宝の方が感嘆に値するらしい。
その事に少し呆れながらも、俺は思案を巡らせる。
いつ、誰が、何故、どうやって。何もかもが分からないというのがあまりにも怪しすぎる。その輝き具合からしてあれらがここに運ばれたのは最近だろう。だがあの量の金属類を山の頂上に運ぶなど、意図も方法も思いつかなかった。
(いや、今はそれは良い...問題はあれをどうするかだ)
貰う、というのは現実的じゃない。荷物が増えるし、そうなると移動距離やらなにやらに悪影響が出て来る。だが少しくらいならばいざという時の為に持っておくのも良いかもしれない。この山の向こうにどんな国があるのか分からないのだ、普遍的な価値を持つ金を持っておいて損はないだろう。
「お前ら!嵩張らず荷物が重くならない範囲なら――」
――――嫌な予感がした。
さっき、マインズは何と言った?
『苦難を乗り越えた先に待ってるのが金銀財宝ってのが物語らしくてな――』
そうだ、いかにも物語らしい展開である。そしてそいう類の物語では、そのまま上手く財宝を持って帰るなんて展開はなかった。
「...なぁマインズ。物語ならこの後どうなると思う?」
「は?...まぁありきたりなのは、宝を守る化け物が出て来るとかだな」
額に一筋、冷や汗が流れ落ちた。
空気が突然重みを持ったかのように体が張り詰める。
しかし辺りに目をやれど、その嫌な予感の正体は分からない。
警戒心が跳ね上がる。俺はこの感覚を知っている気がした。
「警戒態勢を取れ。なんかヤバいぞ、これ」
隊員達とてそれに気づかぬ筈がないだろう。言わずとも分かっているだろうが、しかし言わずにはいられなかった。
「【聖剣よ】」
剣に呼ばれている気がした。
俺を使え、俺を振るえとばかりに。
「【我が手に来りて敵を打ち払わん】」
詠唱と共に顕現した
かつてのアスカロンの主には伝承がある。
曰く、どんな困難にも屈しなかった守護聖人である。
曰く、人々の為にその剣を振るった。
―――そして、彼の最も有名な伝承は何だったか。
その答えは、形を伴って襲い掛かって来た。
「ッ、上だ!」
隊員の一人が声を張り上げた。
何かを考える前に、懲罰部隊はそれぞれの持つ最大火力を上空へ叩きつける。
そして響き渡る重低音。しかしそこに破砕音は含まれていなかった。巨大な岩石に魔術をぶつけた様な、一種の無力感を伴う重低音だった。
―――効いてない。
「散開!!」
蜘蛛の子を散らすようにその場から飛び退ける。他の隊員達の事を確認する余裕はなかった。
そして瞬き程の後に全身を震わせるような衝撃が走る。地面ごと揺らすような、というか実際に地面を揺らしたのだろう、先程とは種類の違う爆音が響き渡った。
そして立ち込める土煙。視界を覆いつくす程の量であったが、これならば敵が此方を認識する事は出来ないであろう。
「二時方向、集合!」
今の内に散開した隊員達を集合させる。敵の正体が分からない以上、各個撃破されるリスクは避けたかった。
―――――カ゛ア゛ア゛アアアァア゛ッッッ!!!!
「ッ、うっせぇなオイ!」
煙で良く見えなかったが、今のは声からしてガルだろう。
そちらへ目をやると土煙の中のシルエットが耳を手で塞いでいるのが分かった。
全く同意だ、とんでもない声量である。
鼓膜が破れるのではと思わせる程の咆哮、そして先程の巨大な着地音。敵の正体は、間違いなく巨大なナニカだ。
山頂ゆえの強風のおかげだろう、やがて土煙が晴れる。
そして露わになる敵の正体。それを目にしながら、苦々しい感情と共に口を開いた。
「...魔物じゃなさそうだな、クソ」
翼、鋭い爪と口から覗く凶悪な牙。その巨体は鱗で覆われている。こちらを睨みつける目は赤く、敵意に満ち満ちていた。
竜。それが敵の正体だった。
そして、魔物という物が自然界に住む生物から変化したものである以上、奴が魔物ではないのは確定である。少なくとも、ライトの世界では翼の生えた巨大な化け物が徘徊する事はないのだから。
つまり何が言いたいのかというと、その竜は魔獣という事になるのだ。
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