幕間:人民連邦
一年ぶりに一日四桁PVが付きそうです。やったぜ
ではどーぞ、今回はお茶濁し回です
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人は導かれる事を望んだ。
しかし生れ落ちてより高貴を貫ける程、人は清廉ではなかった。人は人を導ける程高潔では在れなかった。
―――――絶対王政。
人は自らの行く末を委ねる事にした。
しかし人は委ねられた物を正しく使える程正しくは在れなかった。集中した権力は不可避的に腐敗を生み、その圧制は個の自由を奪い、社会全体を恐怖の沼地に沈めた。
―――――独裁主義。
人は自分の手によって決断を下すことを選んだ。
しかし人は自由に与えられた選択を賢明に行える程、賢明ではなかった。
利己的な欲望に駆られたそれは、不均等な富と力の集積を生み出し、広がる格差は深い断絶となった。
―――――資本主義。
フルビアードの彼はそれらを否定した。
果てなき階級闘争に終止符を打つべきだと、救われない人が居てはならないと、人は皆平等であるべきだと訴えた。
ゴーティの彼はそれを成し遂げた。
人々を...いや、人民を、労働者を抑圧から解放した。
搾取とブルジョワジー蔓延る社会を否定し、この星に第二世界を創造した。
全ては、共に手を取り合う社会を実現するために。
それが社会主義であり、
――――――共産主義である。
〇
男の名はアレクセイ・グレゴリエヴィチ・コヴァレンコ。しかし、彼をその名で呼ぶものは一人も居ない。
――――書記長、と。彼はそう呼ばれていた。
そしてその書記長は執務室にてペンを振るっている最中であった。時刻は早朝、王国の貴族、或いはブルジョワジー共ならばまだ呑気に寝ている時間であろう。その間にもメイドは働いているのにも関わらず。
彼はそう言った連中を毛嫌いしていた。そしてそれは個人の感情によるものではなく、書記長という職業故である。
人と人の間に越えられぬ格差を設け、それを以て贅沢を尽くす豚共。国は労働者によって成り立っている事すら理解出来ぬ能無し。
それが彼の貴族に対する感想であった。
その思想はこの時代に於いては異端も異端。東は幕藩体制、西は帝政、その西は王政、まぁ海を越えて更に西へ行けばそれらよりは先進的な連邦議会制王国があるが、にしたって人民連邦は異端なのだ。
しかし、何故?
雪と山脈に閉ざされたこの地で、何故その様な先進的な思想が誕生した?
答えは単純。元からあったからである。
人民連邦は、どの国よりも古代文明の恩恵を授かっているのだ。
遺物のような理外の存在はないが、思想や知識などは伝えられている。人民連邦はそれを以てここまで成り上がったのである。
また、過酷な環境で生きるために戦争どころではなかったので兵器関連の技術はあまり進んでいないが、それ以外の技術に関しては抜きんでている。
肥沃とは言い難い地でも食っていくための農業技術、そして加工技術。そして造酒。
それらにより、人民連邦の人口はなんと二千万を超えていた。
ちなみに王国の人口は六百万、帝国は八百万である。
国力と言う一点に於いてはこの世界の全ての国を凌駕する巨大国家。本来ライバルである筈の
よって、この時代における最強の国家は間違いなく人民連邦である。
そのトップという事は、或いは世界で最も権力を持つという事を意味するのかもしれない。
そして、その男が纏う雰囲気は間違いなく指導者のそれであった。
「おはようございます、
彼は目を上げる事もなく、その目は書類に釘付けにしたまま口を開いた。
「忌々しい帝国主義者共のせいでな」
唾を吐き捨てんばかりの勢いでそう毒づく。
無理もない。やっとの思いで繋がった西側とのルートが、よりにもよって西側が引き起こした
「竜、ですか...面倒なのはやはり地形でありますな」
「全くその通り。我が大地に踏み入れば一網打尽にしてくれる物を!」
この国は幾度となく冬将軍に守られてきた。しかし、それは時として敵に利する事もあるのだ。今回はその顕著な例である。
よりにもよって山脈の頂上に住み着いた竜を討伐するには、猛吹雪と立ちはだかる山々を越えなければならないのだから。
「魔物に関しては...まぁ現状は大した事はない。ただああいった手合いは指数関数的に増えていく物だろう。早急に対策を練らねば」
帝国――いや、新聖帝国の使者が言うには、その発生源にはダンジョンという物があると言っていた。そしてそこには魔石という未知のエネルギー源があるとも。
魔石とは、生まれ持った資質に関わらず魔術が使える貴族社会を崩壊させかねない驚異的かつ脅威的な鉱石である。
そして彼ら人民連邦の目に何よりも魅力的に見えたのは、それが『どんな人間も平等に扱える』という点である。
労働者と人民の平等を謳っている彼らからすれば、少数の人間しか魔術が扱えないと言うのはイデオロギー上厄介な問題であった。それが解決出来るとなれば、目の色を変えて飛びつくのも仕方のない事であろう。
よってそのための技術も知識もない人民連邦は、帝国との技術交流を切に望んでいるのだ。そしてそれに立ちはだかるのが例の竜なのだ。
「彼の国の使者が言うには、冒険者ギルドとやらを設立するらしいですよ。その件についても先方と取引したかったのですが...やはり竜が問題ですな。奴があそこに居る以上二国間のルートは途絶えたままであります」
「...仕方あるまい。しかし賽は投げられたのだ。あとは『赤い翼作戦』の成功を祈るのみだろうよ」
――赤い翼作戦。それは、ウラリスキエ軍管区より選抜された旅団規模の部隊による竜討伐作戦の名称である。
これ以上の人員では山を越える事は出来ず、かと言って少なければ竜を討伐できるか不明。その旅団は、ならば可能な限り最大の人員を以て竜を押し潰さんと、或いは失敗しても何人かは戻って来れるだろうし、それを次に活かせばいいという思いの元結成された部隊だ。
この国では兵士は畑から採れるのである。
まぁともかく、そんなこんなで開始された赤い翼作戦であったが、その開始はおよそ2カ月前なのである。作戦計画と準備、移動と偵察。そして今日は、これらの手順が順当にいけば丁度竜との交戦が開始する日であった。
さて、どうなるか。結果が何にしろ、それが届き次第忙しくなるだろう。
書記長は溜息を付きながらそう心の中で呟いた。
――コンコン、と。丁度その時、執務室の重厚な木製の扉が乾いた音を奏でる。
「入れ」
「軍部情報局次長、中佐のヴァシリー・ニコラエヴィチです。ウラリスキエ山脈における赤い翼作戦中の特殊事案について報告に参りました」
――特殊事案?これはまた、思っていたよりも厄介そうだ。
そう眉を顰めながらも、書記長は頷いて続きを促した。
「作戦中、当該地域にて偵察部隊がダンジョンと思われる洞窟型の構造を発見。これに対し天華殿麾下の部隊が探査を開始しました」
「あの皇子がか?」
書記長は感心するようにそう言った。
彼にとって天華は好きな種類の人間だ。生まれながらにして血に、立場に恵まれた自信に満ちた若者。そういうのは嫌いだが、その権力を振りかざすような事はしないし、どちらかというと謙虚で優しさに満ちている。
彼の様な人間が権力者の殆どならば、共産主義などそのアイデンティティを失うと思えてしまう程に、彼は天華の事を気に入っているのである。
だからこそ、今回の赤い翼作戦の指揮官に命じたのだが。
「...あぁ、続けろ」
「は。探査は順調であり、魔石や魔物なども見つかったのですが...上層にて、不明武装集団と遭遇。これを保護しました」
「ふむ、我々より先にダンジョンに入っていた人間が居るという事か...で?」
話の続きを促すように、書記長はそう言った。だがそれに対するニコラエヴィチの反応は芳しくない。理解しがたい現実を目の当たりにし、それをどう説明すれば良いのか分からないような表情だ。
「なんだ、問題でも起きたのか」
「いえ...それが、本作戦の目標である竜なのですが、この不明武装集団によって討伐されたというのです」
「...は?」
「この兵士集団は激戦の痕跡と疲労の色濃い様子でありましたが、彼らが竜を撃破した事を鑑み一時的に保護を行いました」
書記長は目頭を押さえながら天井を仰いだ。
不明武装集団。他国の人間か、或いは国とは無関係の存在か。それすらも分からぬから不明なのだろう。厄介どころではない。
「不明武装集団の規模は」
「小隊規模とのことです」
打てば響くような返答。それ故に書記長の頭痛はより酷くなった。
「小隊規模だと...?馬鹿な、計画前に連隊が喰われたのではなかったのか」
「は。当該部隊には遺物持ちが居るとのことです」
遂に絶句する書記長。
山の向こう側の国には、東方勢と同じように遺物という古代文明の武器があると聞いた事がある。そしてその保持者は師団を超える戦力を持つとも。
そんな遺物持ちが?もしやこの国への侵略行為?
考えても答えが出る訳がなかった。
「...監視の目を緩めるな。そしてその部隊がこちらへ来た理由を必ず聞き出すんだ。あぁ、だが手荒な真似はするなよ」
「了解しました」
これから到来するであろう荒波を想像し、書記長はかつてない程深いため息を吐くのだった。
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またしばらく投稿出来ないかもしれないです。ごめんなさい
隊員紹介 Part7
マイルズ
能力:批判的な思考で物事の欠点を見抜くのに長けている。
投獄の理由:口が悪すぎたせい。ガラの悪さから分かる通り貴族の出ではないのに、貴族に対して通常運転な悪口を吐いてしまった。
外見的特徴:黒髪、茶色い目、十代後半。
他の特徴:口が悪さについて、実は本人もそれを改善すべき点と認識している。
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