132話 再会と交差
もうほんと言い訳出来ねぇ...この投稿頻度は作者の甘えなので許さないで下さい
重ね重ね本当にすみません。あと今回の時系列は王国がヤバめになる少し前になります。ではどうぞ
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「うーん、その内治るだろうし別に良いと思うんだけどなぁ」
「ダメ!何があるか分からないんだから、ちゃんと治さないと。それにそう言ってもう半年経ってるのよ!」
ベッドの上に座りながら若干不満そうな表情を浮かべるテオに、アイラは断固とした口調でそう言った。
そんな彼らの目線はテオの腹に巻かれた包帯に集中していた。つまるところ、テオが負っている怪我――正確にはその後遺症――について話しているのだ。
「でも教会で治すとお金かかりそうだし」
「私も一応シスターなんだし少しは安くしてくれるよ!」
「でもなぁ...」
テオがここまで渋るのには勿論理由があった。
彼は一応王国の要人を殺しまくった犯罪者なのだし、王国と強い繋がりのある教会の世話になるのは避けたかったのだ。
しかし、犯罪者とは言えどその顔が大きく広まっている訳では無いのもまた事実。テオは別に教会に治療を施してもらうくらいなら良いだろうと判断した。
「...分かった、行くよ」
「良かった、分かってくれて。じゃあもう行こ!特に予定もないし」
二人はこうして出かけて行った。それが運命の分岐点になるとは露知らず。
〇
王都のとある場所に、二人の少年少女が居た。
片や聖職者の衣服を纏う、柔和な雰囲気を発している少女。
片や顔に大きな傷を負った、鋭い雰囲気を持つ少年である。
「で、どうすりゃいいんだよ」
「私に聞かれても...」
そう、聖女とライトだ。
取り合えず帝都から王都へ戻って来たはものの、これから何をすべきかが分からないのである。
ライトに具体的な方針はこれっぽっちもなく、そもそも八方塞がりなこの現状で何をどうすれば良いのかなど決まっていないのだ。
「えっと、私の方は職務があるので戻らせて貰いますね」
だがそんな事は聖女にとって知ったことではない。ライトに対する罪があれで償えたとは思っていないが、とは言えこれ以上彼と共に居たところで何か出来る訳では無さそうだ。あと聖女という肩書もあるのであまり教会から長い間離れる訳にはいかないというのもある。
「...お前を頼るのは癪だが、まあ仕方ない。教会の方で何か動きや情報がないか、あと今はとにもかくにも人手が必要なんだ。誰か使えそうな奴が居たらそれも俺に知らせてくれた助かる」
「構わないですが...知らせると言ってもどうすれば?」
「日が沈む頃ここに来てくれ。情報がなかった日は来なくていい。期限は俺の公開処刑日の前日までだ」
聖女は分りました、と頷くとそのまま踵を返して歩いて行った。
だがここは王都外周。聖女が居た場所にして教会の本拠地である大聖堂までは少々距離があった。今はそこまで直接行くより、何処か近くの教会に行って無事を伝えた方が良いだろう。
そんな判断の元、聖女は近くにあるこじんまりとした教会へ足を向けるのだった。
そして、そこは奇しくもアイラが勤めている教会であった。
「今日の晩御飯何だと思う?」
「どうだろう、まぁ今日も僕の好物なんだろうけど...」
教会を目前にした所で、聖女の耳にそんな会話が入って来た。
聖女はなんだか微笑ましいな、とそちらに目を向ける。
「あ...」
「でももうレパートリーが――どうしたの?」
目が合う。
聖女はテオのその目にどこか既視感を覚えた。
「...いや、何でもない。ちょっと戻ろ――」
「あっ、あの人多分私より偉い人だよ!こんにちは!この教会の見習いシスターです!何か御用ですか?」
聖女が手に持っていた聖杖と身に纏う衣服から、そこにいる少女が自分より高位の聖職者であると気付いたのだろう。何か言い掛けていたテオの言葉を遮り、元気よくそう声を掛けた。
「...」
「...」
「...あの?」
しかし彼女は気付かない。テオが滝の様な冷や汗を流し続けている事を、聖女の目には訝しむような色が浮かんでいる事を。
「あ、思い出しました。貴方隊員の一人ですね?」
それは聖女がライトの腕を治療した時の事だ。ライト含む懲罰部隊は魔術王のの元におり、そこに聖女が訪れて彼を治療したというのが経緯だったのだが、その時に見たテオの事を聖女はまだ覚えていたのである。
「...くっ」
テオは険しい目で聖女を睨むと手を後ろに回す。そこには肌身離さず持ち歩いている短剣――懲罰部隊隊員なら皆持っている――があった。
(どうする...!)
聖女が何故こんな所にいるのか、そんな事はどうでも良い。今最も重要なのは、聖女に自分の生存を確認されたという事である。
自分一人ならば黙って捕縛されるなりなんなりで良い。しかし今はアイラが居るのだ。よって選択肢は二つ。
この短剣で聖女を刺し殺すか、アイラの事を口外させない事を条件に自分が諦めるか。だが、前者はリスクが高すぎる。もし教会の象徴である聖女が死ねば国は死に物狂いで犯人を捜すであろう。そうなればアイラや家族に捜査の手が及ぶのは簡単に想像がついた。
ならば、もう後者しかない。
「自分は良い。だから彼女に手は出さないでくれ」
「...テオ?ちょっと待って、どういう事?」
一度だけ。僕が聖女を見たのはライトが腕を取り戻したあの時だけだ。だけど、それだけでも彼女が悪い人間ではないのは分かった。
そんな聖女なら或いは、アイラを見逃してくれるのではないか。そんな期待を込めて手を挙げてそう言ったが、聖女の表情は何処かのほほんとしていた。
「あの、仰ってる意味が分からないんですが...」
聖女はどうやら現状を理解していないようだった。
「何故自分がそんな事を言われているのか分からない」と、そんな顔をしていた。
「いや、懲罰部隊...というか僕は特に王国から恨みを買ってる筈なんだけど」
「そうなんですか?私は別に恨んでなんかないんですけど...」
おかしいな。何やら盛大な勘違いをしている気がして来た。
あと聖女ってこんなキャラだったっけ。
「あ、そういえばライトさん人手が欲しいって言ってましたよ」
「は?」
唐突に放たれたその言葉に思わず目を白黒させる。
一体どういうことだ。何故聖女の口から――しかも割と親しそうな口調で――隊長の名前が出て来るというのだ。
テオがそう目を白黒させるが、しかしアイラそれ以上に理解が及ばないようでずっとポカーンとした表情をしていた。
それも無理はないだろう。何せ自分より高位の聖職者が出て来たと思って挨拶したら急にテオが両手を挙げ降参して、挙句の果てには公開処刑を間近に控えた大罪人の名前が出て来たのだから。その上、
「ねぇテオ。少し説明が欲しいかな...」
なんて、何処か遠い目をしながらそう言ったアイラに、テオは困ったような表情を浮かべた。
「...前に言ったと思うんだけど、僕は帝国で暗殺者をやってたんだ」
自分を救ってくれた彼女に、今まで何をして来たのかや何故あんなことになっていたのかを説明しないのは筋が通っていないだろう。そんな思いの元、テオは自身がどんな事をしていたのかは話したのだ。
だが、それはあくまでも帝国の暗殺者として色々やってた時の話だけである。王国民からかなり恨みを買ってる懲罰部隊に属していた、というのをテオは伝えていなかったのだ。
そして、それを話す時が来たというだけである。
「だけどまだ話していない事がある。帝国から逃げた後、僕は懲罰部隊の隊員として王国と戦っていた」
「懲罰部隊...?」
アイラはその言葉を聞くと顔を顰めた。懲罰部隊の悪名はそれほど高いのだ。
「そう。それでそこに居るのが聖女で、彼女が隊長の治療するときに見られたらしいんだ。それで、その聖女が言うには隊長は今助けが欲しいらしい」
「...え、えぇ!?その人聖女なの!?すすすすすいませんうちのテオがご無礼を!」
うちのってなんだよ...いやまぁ僕は殆ど彼女のヒモなのだからあながち間違いではないけれど。あとそろそろ働き口探さないとなぁ。なんて呑気に考えるテオとは違い、アイラはこれまでにない程の焦りを見せていた。
「ああ!でも聖女様ってことは偉い人なんですよね!?じゃあやっぱり帝国に居たテオの事見逃せないとか...!?」
「あはは、別に大丈夫ですよ。もう今更ですしね」
しかしそうあわあわとしているアイラに、聖女は微笑みながらそう返した。
テオはなんだか気が抜けそうであったが、しかし聞き逃してはいけない事があった。
「隊長が人手が欲しいって言ってたってどういう事?だって隊長は...」
「その事なんですが、彼は人質となっているサラスティア王女の救出を目的としているようなんです」
「...サラ嬢が?」
「はい。しかしその事を説明する前に貴方が何時隊から離れたかを教えてくれませんか?ライトさんの境遇はかなり複雑な物となっているので...」
そう言われテオは考える。もう半年ばかり経ったとは言え、あの時の事は色褪せる事なくしっかりと覚えていた。
「王立騎士団と戦ってた時だよ」
「っ...では、彼があの後どんな事になっていたのかは知らないのですね」
聖女はそう言って目を伏せた。それを見たテオは、そんなに酷い事があったのかと身構える。彼からすれば一般的に広まっている情報である、停戦を破って町の住民を虐殺したり魔王化したりと言ったものは、彼が知る隊長の人となりと合致し無さ過ぎて信頼出来なかったのだ。
よって、テオはライトが隊を抜けた後の情報は殆ど何も知らないのである。
「...いえ、私から言うのは筋違いですね。日が沈む頃に南門の近くへ行って下さい。そこでライトさんが待っている筈です」
「...分かった。ありがとう、色々と教えてくれて」
そう言ってからテオは逡巡する。それは、今は一緒に居るアイラをどうするか、についてである。
見上げれば空はまだやや橙色がかっている程度だ。自分達が住んでいるあの地域は決して治安が悪い所ではないし、それにライトとアイラを合わせたところで何の意味もないであろう。
そう判断し、テオはアイラの手を取ると口を開いた。
「一度アイラを家に送ってから向かうよ」
「分かりました。では私の方は教会に戻りますね」
「うー...私なんか蚊帳の外にされてる気がする...」
それぞれが言葉をその場に残しながら、両者は別の方向へと歩き出したのであった。
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前話で言った通り新作と並行してやってはいますが、そっちの方に本格的にシフトしていくのは一章が終わってからです。
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