幕間 幸せを手に

幕間と言う名のお茶濁し回!まぁネタがない訳では無いんだけど展開的に今やらないときつそうだったので...時系列的には 

あと後書きに大事な事書きました。読んでね。

―――――――――――――――――



「...あぁ、やっぱ運命ってのは皮肉だ」


そこは、テオにとっては思い出の場所だった。自分が帝国に連れ去られる前の、青臭く眩しい思い出の詰まった場所だ。

でも、きっとそれだけではないのだろう。


帝国に連れ去られ暗殺者に育てられた時も、監獄島に連れていかれる時も、人生の転換点は必ずこの場所だったのだから。

そして今、この場所は自分にとっての死地になりつつあった。


腹から止めどなく血が溢れている。

きっと、隊長が居ればこんな傷直ぐに治せるだろう。でももう彼は居ない。唐突に姿を消してしまったのだ。

リアムとかガルはそのせいで隊長に不信感を覚えていた。


「...隊長達、上手くやれるといいな」


それが唯一の心残りだ。

他人の過去を詮索することなく、そでもフレンドリーでいつも楽しそうな皆に、僕はいつも救われていた。冤罪とか濡れ衣で監獄島に来た皆とは違って、僕は本来の意味で犯罪者なのだ。それでも気にせずに背中を任せてくれた彼らには、やはり幸せになって欲しい。


それだけが、心残りだ―――


「...そんな、事はなかったな」


嘘だ。

心残りなんていくらでもある。


帝国でまだ苦しんでいるだろう仲間達にちゃんと謝りたかった。

もっと真っ当で普通な人生を送りたかった。

自分もごくありふれた幸せを享受したかった。


死にたくない。こんな所で一人寂しく死ぬというのが、どうしようもなく怖くてたまらない。

もう行ってしまった懲罰部隊の彼らに恰好を付けた手前、情けない死に方はしたくなかった。でも、涙は止めどなく溢れて来てしまう。


敵国に連れ去られて、虐待の如き教育で暗殺者に仕立て上げられ、殺したくもない殺しを何度も積み重ね、死ぬ気で逃げた先に待っていたのは滅んだ故郷。やっと仲間を見つける事が出来たと思ったら、こんな所で死ぬ。

あぁ、なんて人生だ。

神を呪わずにはいられない。神とは、なんと非道でなんて残酷なんだと思わずにはいられない。


もう、意識が朦朧としてきた。

やっぱり、僕はここで死ぬ運命みたいだ。


最後に、彼女と...この木の下で別れた彼女と、会いたかった。

それさえ叶う事が出来たなら、僕はきっと幸せに死ねるのに。


奇跡でも幻覚でも良い。だからせめて、彼女を一目見たいんだ。



「...テオ?」


――あぁ、なんだ。

やっぱり神ってのはそんなに酷い存在じゃないみたいだ。


都合のいい幻かもしれないけど、あれほど渇望した彼女の姿を、この目に映す事が出来たのだから。


「僕はきっと、君が大好きだった」


こうやって、告げる事が出来なかった思いを口にする事が出来たのだから。


心残りはまだある。まだ死にたくなんてない。

それでも、悪くない終わり方だと思った。








この場所には私の思いが詰まっている。

もう居なくなってしまった彼との純粋で輝かしく、しかし既に失われてしまった思い出。そして、私の後悔が詰まった場所だ。


あの日からずっと、私は一日も欠かさずこの木の下に来ていた。

何時の日か、再びここの木の下で会う事が出来るのかもしれないと心の何処かで思っていたのだろう。

僅かばかりの期待と共にこの木の下を訪れて、その度に落胆と後悔に駆られる。


そんな日々も、やはり戦争によって壊された。

帝国の侵攻によって国境線が変動したのだ。この地を離れるならばもういっその事死んでもいいと本気で思ったが、テオの両親に「テオはそんな事望んでいない」と言われれば言い返す事なんて出来なくて、結局私は村のみんなと共に別の町へと避難した。


だけど、戦火の手は私達を逃してはくれなかった。


何度も何度も、数える事すら馬鹿らしくなる程の戦争によって、村から逃げて来たみんなはどんどんその数を減らしていく。

避難民の地位は何処に行っても低くて、まともな職に就く事すら出来ない人達は何も出来ずに飢えて死んだ。


私のお母さんは私の為に体を売ってお金を稼いだ。感謝すべきなのに、日に日にやつれていくお母さんは見てられなくて、お母さんから銀貨を受け取るはいつもその目を見る事が出来なかった。

お父さんはお酒に溺れるようになった。かつては村一番の力持ちで、木こりとして一家を支えていたお父さんは、しかし妻に体を売らせてその金で生きているという事実に耐えられなかった。それでも家族を愛する気持ちに曇りはなくて、お父さんは兵士に志願し、そのお金を私達に託すとそのまま戦いに出た。


お父さんは帰って来なかった。

お母さんは仕事で病気に掛かって、でもお医者さんにかかる事は出来ずにあの世に行ってしまった。


間違いなく、この時期が人生で一番辛かった思う。

もう生きる気力も理由もなくて、自殺しようとするくらいに思い詰めていた。


そんな私に救いの手を差し伸べてくれたのは、テオの両親だった。彼らは町に知り合いが居たらしくて、その繋がりでちゃんとした仕事を斡旋してもらったらしい。

それでも苦しい生活に変わりはないはずなのに、心が壊れかけた私を本当の家族のように扱ってくれた。


そこから少しずつ心の傷も癒えて、私も働く事にした。

どうやら教会の方では人でが足りていないようで、私はかくして教会の見習いシスターとして働く事になったのだ。


それからも色々な大変な事があったけど、やっぱり宗教というのは心の支えになるらしい。心が傷つく事はあれど壊れる事は無く、孤児院のお手伝いや炊き出しなどの慈善事業に精を出した。そこではという名前の友達も出来た。


そんなこんなしている内に、とある情報を耳にした。合衆王国という海の向こうにある国との戦争の影響で、国境線に変化があったらしい。

そこではまだ懲罰部隊と言う名の人達と王国の騎士団で戦いが行われているようだけど、数自体はあまり大した事がないとも聞いた。


私は居ても立っても居られず、シスターに一言告げるとそのままの勢いでかつて故郷だった場所へと向かった。

そして、そこにあったのは荒廃した土地だった。


見習いとはいえ聖職者。今まで何度も慰霊の為戦場へ行った事がある。だから分かった。きっとついさっきまで戦いが行われていたのだろう、至る所に爆破された痕跡や人や馬が踏み荒らした形跡があったのだ。

だが、そのような大規模な戦闘痕があるのにもかかわらず死体が一つもないのがあまりにも異常だった。


だけどそんな事はどうでも良くて、ただここがあの思い出の場所に近い事だけが不安要素だった。あの木は無事か、あの丘は戦場になっていないかと不安に襲われながら、それでもあの木の元を目指して歩き出す。


「...テオ?」


そして、そこには腹部から血を流しているテオが居た。


最後に会ったのはもう何年も昔なのに、当時の面影は間違いなく残っている。どこまでも地味で、何処か優しさが滲み出ているような外見だ。

でもそんな優しそうな見た目をした彼が纏っていたのは、間違いなく修羅の道を歩んだ人間のそれだった。


なんでここに居るのか、どうしてそんな怪我をしているのか。

普通なら抱くであろう疑問は頭から吹っ飛んで、ただ混乱してしまう。

そんな私の内心を露知らず、思い出に居るそれよりも成長した姿のテオは柔らかい笑みを浮かべながら口を開いた。


「僕はきっと、君が大好きだった」

「...っ!」


それは遺言のようだった。

最後の言葉を残す、瀕死の兵士のようだった。


頭は未だ混乱したまま。もう何がどうなっているのか分からなくて、半ばパニックになり始める始末。


それでもきっと、この混乱を言い訳に何もせずにいたら私は一生後悔する。

そんな確信と共に、私は自分が持つ聖魔術の知識を総動員して彼の治療に取り掛かったのだった。






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本作の宣伝目的に新作を書くことにしました。

今はストック書いてます。本作みたいに見切り発車はしたくないので...

まぁ何が言いたいかと言うとこっから投稿頻度下がります。ご容赦くだせぇ。

良い感じにストックが溜まったらこっちの方でも告知するのでその時はぜひ見てやってください。ではまた

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