第127話

断言するようなヴァルターの口調に、ライトは動揺しながらも思った事をそのまま口にする。


「何故言い切れる」

「簡単だ。彼女に流れる血は国家元首にして権力の象徴である王の血だ。それが処刑によって流されたとなれば、面子と威信の為に合衆王国は戦争を避けられなくなる。それこそ王国の望んでいる事だろう」

「...まさか、なら俺が来ようが来まいが彼女は殺されるのか」

「そうだ」


思わず絶句した。

確かに彼の言う事には何の不合理も見当たらないし、そう言われれな納得は出来る。だが、ならば王国とはどれ程業深い国なのだろうか。


「だから大人しく処刑されに行くというのは論外として、お前がサラスティア王女救出を行うに当たって立ちはだかる障害は三つある。一つ目は彼女を捕らえている王国、二つ目はエル、そして三つ目はお前に対する怨嗟の声だ」

「怨嗟の声?」

「まぁ待て、順を追って説明しなければ分かりにくい」


これは長い話になりそうだ、とライトは態勢を変えた。


「まず一つめである王国についてだが、これは国家権力と戦力という二つの意味でお前の障害となるだろう」

「騎士団と魔術王か」

「そうだ。公開処刑はかなり大掛かりになるだろうし、そうなればこの両者は必ず王都に配置される。サラスティア嬢を救出したいのならこれを打倒しなければならん」


思わず顔を顰める。王立騎士団も魔術王も、片手間で倒せるような相手ではないのだ。対魔術能力があるアスカロンなら魔術王に優位に立てる可能性があるが、絶対的な防御力を誇る王立騎士団と組まれたら勝ち目は薄い。


「そして前述した国家権力としての障害だが、まともな状態ではなかったとはいえ、お前が犯した罪は重い。そしてそれに対する恨みもまた計り知れない。王国が貴様を決して許さず、貴様が生きている限り必ず捕らえようとする筈だ」

「...つまり、サラを救ったところでその場凌ぎにしかならないという事か」

「あぁ、王国の暗部は無能じゃない。決してその手から逃れる事は出来ないだろう」


つまり、魔術王も騎士団も外堀にしか過ぎないという事だ。本丸は王国という国そのもの。仮に彼らを打倒しようとも、サラを一時的に救う事が出来たとしても、そこから先には更なる壁が聳え立っているのだ。

サラ奪還の現実的な案としては、出来るだけ交戦を避けサラを攫い、そのまま合衆王国軍の居る場所へと一直線と言ったところか。


「しかもエルの存在は更に厄介だ。貴様が騎士団と魔術王を破りサラスティア嬢を救出しようとも、ヤツが必ず貴様を妨害するであろう」

「...あぁクソ、アイツの相手もしなきゃいけねぇのかよ」


相手が多すぎて思わず忘れかけていたが、そもそもこの状況を作り出した張本人であるエルもどうにかしなければいけない相手であった。

自分一人の力ではアイツに勝つことは出来ないだろう、なら誰かの力を借りるのが最も現実的な方法だ。


だが―――


「誰かの助力は...まぁ、無理か」


人魔大戦は取り合えずは終わったのだ。ならば驚異的な破壊力を持つクリスティア王女という戦力を国内に留めておく理由はない。かつて行われた合衆王国による王国上陸作戦時に確保した橋頭保周辺を除き、当戦争において奪取した領土は軒並み奪還されている。

つまり、王国は既に次の敵を合衆王国と定めているのだ。そして海軍力で劣っている合衆王国が再上陸を成功させるのは至難の業であるから、一度確保した上陸地点を奪われる事だけは絶対に避けなければならない。

その様な理由で、合衆王国最大の戦力にしてサラの家族という一番役に立ってくれそうなクリスティアの助力は期待できないだろう。


ヴァルターとミュラーは論外、暗殺者部隊もまた期待できそうにない。その他に期待できそうな戦力として挙げられるのは懲罰部隊だけだ。


――助けを求めるのか、アイツらに。


サラを救う為には何でもする覚悟はあると思っていたが、しかし彼らと再会するのを考えるとどうしても気が引きてしまう。

そうこう考えるライトだったが、ヴァルターはまだあるぞとばかりに話を再開した。


「そして最後に、お前に対する怨嗟の声。恨みと言うのは厄介でな、支配者は植え付ける事は出来ても消す事は出来ない。だから仮に貴様が王国の貴族を全員殺してもお前は追われ続けるし、消す事が出来ないその特徴がある限り貴様は一生人里に降りる事は出来ない」

「それは国家権力としての王国と同義なんじゃ?」

「いいや、損得勘定を無視するという点で最も厄介だ。貴様が合衆王国へ逃げればその恨みはその国へ向き、戦争の終わりは更に遠くなる。逆に聞くが、戦力が半減した懲罰部隊と貴様、そして第一王女だけで合衆王国を守れると思うか?」

「...無理だ」


戦いというのは単純な軍の強さのみでは決しない。国力、インフラ、兵站、政治、国民の協力度、生産能力、ともかくありとあらゆる要素が絡まっているのだ。総力戦でなくともそれは変わらない。そしてそれらの要素に於いて王国に劣っている合衆王国が王国と戦って来れたのは、王国の隣には帝国という脅威があったからだ。

それが排除された今、王国のエネルギーの指針は合衆王国へと向けられる。そうなれば勝機は限りなく低い。


最悪だ。いや、分かっていたことではあるのだが、にしてもこれはあまりにも酷い状況だろう。

まずサラを助け出すのも難しい。助け出した後合衆王国へ逃がすのも難しい。しかも逃がした先には厳しい戦争が待ってると来た。


あまりにも絶望的な状況に思わず深いため息をつく。

しかしヴァルターはそんなライトを鼻で笑いながら口を開いた。


「最も、戦争に関しては気にする必要はないがな」

「何?」

「それは明日になれば分かる。我からの話はこれで終わりだ。もう時間もないしな、明日は忙しくなるのだから」


未だ疑問は尽きないライトだったが、これ以上の会話で得られるものはないだろうと判断したライトは頭を下げながら口を開く。


「あぁ、少なくとも現状は正確に理解出来た。感謝する」


そう言って頭を上げ、ライトは踵を返して部屋から出ようとする。しかし今の今まですっかり忘れていた事が頭を過った。

ライトは振り返りもせず、ドアノブに手を掛けながら声だけをヴァルターに向ける。


「そういえば、ヒロという奴もお前に話があるようだったぞ」

「なんだと?何と言っていたのだ」

「確か―――――」






「なんと...一体何者なんだ、そのヒロというのは」

「得体の知れない奴さ。まぁ敵ではないだろうが...余計だったか?」

「いや、感謝しよう。ならこちらからも一つ助言をしてやろう」









雑多な下町にあった寂れた飯屋にて、三人は再び集まっていた。魔力以外のエネルギーを必要としないトンデモ生物になってしまったライト以外の二人は、各々が注文したメシを美味そうに食っていた。

まぁここ3日はまともな物を食べてなかったからだろう。聖女が口に運んでる色々ブチ込んだ麦粥なんかは今まで食べて来た食べ物と比べるとゲロみたいなもんであろうが、それでも随分と早いペースでスプーンを動かしていた。

コイツこんなキャラだったっけ?

ちなみに金は途中で絡んできたガラ悪い連中からぶんどった。


「...で、お前はどんな話をして来たんだ?」


と視線は聖女に向けながらがも、ライトはヒロに向けてそう言葉を発した。

ヒロはライトと入れ違いになるようにヴァルターの元へ話をしに行ったのだ。自分が部屋から出るときのヴァルターのヒロへの興味の抱きようは異常であった。


「世界の未来に関わる話さ」

「なんだそりゃ...」


真面目に話す気が無いようなヒロの態度を見て、まぁそこまで気になる事でもないかと会話を切った。今はそれよる考えるべき事があるのだ。


「明日、公開処刑が終わると同時に出発する」

「分かった」


ヴァルターに会うのが目的だったのだから、わざわざ見る必要はないと思っていた。しかしヴァルターに言われたのだ、絶対に見に来いと。

自分は彼に恩があるのだから、それくらいは良いだろう。


「...お前は何時まで食ってるんだ」

「ふぁい?」


やっぱそんなキャラじゃないだろお前。




―――――――――――――

名前にNIT所属って書いてますが、まぁ中高生のweb小説家の集まりとでも思って貰えれば。

同年代であんなに凄い人が居るとは思ってなかった...なんだよ250万PVって...

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