第123話
シュタゲ見てて思ったんだけど、絶対制作陣にランエボ乗りいるでしょ。まぁそんな事はともかく神作品ですよやっぱ...
ではどーぞ。謎に冗長な文章になってしまった。
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「...エル、聖女と来て次はお前か。こうも嫌いな人間ばかり来るとはな」
「そんな事僕に言わないで下さいよ」
久しぶりに見たヒロの様子は何処かおかしかった。
数多くの死線をくぐった兵士のような、大きな苦悩を乗り越えた強かさを持っているかのような。
前は――具体的には初めに会った時はこんなではなかった。俺が腕を取り戻した時もそうだが、コイツは合う度に変わっている気がする。
「選べ」
だがそんな事はどうでも良い。
今大事なのはサラをどう救うかという一点だけだ。
「今ここで俺に切り殺されるか、尻尾巻いて王都に逃げ帰るか」
剣を引き抜く。
冤罪の件はもうどうでも良い。あれは既に済んだことだし、俺はヒロの謝罪を受け入れた。それ以降の事で俺がコイツに対して恨みを抱くような事はない。
「お前もだ聖女。俺を正気に戻してくれた事は感謝しているが、これ以降はもう俺に関わらないでくれ」
あぁ、俺は確かに感謝している。してもしきれないくらいだ。もし俺があんな状態のままだったら、更に罪を重ねてしまっていただろう。
だがどうせ全部エルの手のひらなんだ。聖女が俺を治した場にエルが居たという事は、それすらもエルの指示なのだろう。
だからこの話はこれで終わりだ。
「いやー、せめて用件だけでも...」
「10秒やる。それ以降はもう俺の視界に映るな」
「...」
あぁ、分かっている。これは八つ当たりだ。
自分への不甲斐なさ、罪悪感、エルへの怒り、それをぶつけられぬ事への苛立ち。
そういうのを、関係ないヒロにぶつけているだけだ。
「用件ってのはサラ救出に欠かせない事んだけど」
「...何だと?」
ヒロが放った言葉は、間違いなくライトが今最も求めていたものであった。
しかし、それ故に余りの都合よさに警戒心を抱かずにはいられない。詭弁を弄して自分を騙したエルの事を考えればそれは尚更である。
「気が変わった。じゃあその用件を言え」
「あと五日後に皇帝の公開処刑が行われるんですよ。それまでにヴァルターと会って下さい」
今一要領を得なかった。
何故サラを救う為に帝国までいかなければならないのか、果たしてそれがサラを救う事に繋がるのか。
ヴァルター含む帝国の戦力を当てにする事が今のヒロの言葉の意味ならば、それは愚かと言うしかないであろう。外交的に無理であろうし、そもそも属国の様な立場になるであろう帝国が王国に歯向かうのは考えられない。王国は二正面作戦を遂行できるだけの国力と戦力を保持しているのだから。
だが考えても仕方のない事だ。分からないのならば聞けばいいとばかりにライトは口を開いた。
「それが意味する事は?」
「今は教えられないです」
その言葉を切っ掛けに、ライトの警戒心は鰻登りに跳ね上がった。
はぐらかし、大事な質問には決して答えないそのスタンス。それがまるでエルのようで、ライトはどうしようもなく嫌悪感と一抹の恐怖を抱いた。
「...話にならない。まずはその言い方を止めろ」
「じゃあ良いんですか?このままサラを見殺しにしても」
その瞬間、ライトは自分の怒りが頂点に達したのが分かった。
あぁ、まるでエルそのものだ。自分にとって大切な存在を人質に取り、さもなくばこうしろああしろと上から指示を出すその姿勢。
それが一番気に喰わないんだ。
「本当に殺すぞ?」
「っ、言い方については謝りますよ」
言い方だけか。ならばこの交渉は決裂だ。
理由も目的も分からないまま誰かの言う事を聞いてはいけない。今更になって分かったことだが、しかしこれは絶対に守るべきだ。
そんなライトの――奪われる事に対する怯えの様な物を感じ取ったのだろうか。ヒロは意を決したような表情をした。
「約束しますよ。僕がライトに危害を加える事はないと、貶める気はないと」
「口だけなら何とでも言える」
「とは言えこのままでは何も思いつかないんでしょう?」
またその言い方か、と一瞬苛立ちを覚えるも、ふと気づいた事があった。
別にコイツが直接サラを人質に取っている訳では無いし、確かにこのまま頭を抱えていても解決策など出る筈もない。つまるところヒロは俺にサラの救助に関する情報を与える事は出来るが、俺から何か奪う事は出来ないのだ。つまるところ、ヒロの提案にはメリットはあれどデメリットはない。
なのに脅しと判断するのは少しばかり間違っているのかもしれない。
「...分かった。だが俺が無意味だと判断したら王国に戻らせて貰おう」
「了解しました、じゃあ早速行きましょう」
ヒロはそう言葉を残して寂れた廃墟から足を踏み出した。ライトはその後ろ姿に溜息を一つ付きながらもそれを追う様に歩き出す。
聖女はしばらく困惑したようにおろおろしていたが、やがて彼らが進む方へと走り出した。
〇
歩きながらライトは自責の念に駆られていた。
赤い空、枯れ果てた木々、澱んだ空気、荒廃した土地。これらは全て自分のせいで起きてしまった事なのか、と。
死を渇望するような強烈な罪悪感はやはり湧き起らないが、しかしじっくりと蝕むような痛みが広がるのが分かった。
聖女もまた似たような思いの元悲痛な表情を浮かべている。何せライトが監獄島に送られた原因は彼女にもあるのだから。そうでなくとも、民を慰撫しその平穏を願う聖女として、人々に苦しみを齎すこの光景は見るだけで心が痛むのだろう。
それに比べれば、ヒロが浮かべる表情は割とマシな方である。とは言え彼らの間に流れる雰囲気は地獄のようであったが。
冤罪を掛けその尊厳を奪い、努力の結晶である腕を切り飛ばした加害者とその被害者。仲良くする事など出来はしないだろう。
そんなこんなで、奇妙な組み合わせのパーティーは一言も話さずに歩き続ける。
加害者と被害者。聖女と大罪人と別の時代の人間。本来なら関わる事はないであろう――というかヒロに関しては最もそう言える――三人は、何の経緯か共に旅する仲となったのだ。
だがそんな旅の舞台は荒廃した一種の世紀末。逃亡兵やら亡国の兵士やら盗人と化した農民やらが羽虫の如く湧き出て、ともかく治安というのがマイナス方向に振り切っているのである。
そんな中を剣を持った少年二人と一人の少女という、田舎から出て来たただの少年少女にしか見えない組み合わせは厄介事の種でしかなかった。
「動くなァッ!!」
「死にたくなかったら金置いてけやガキ共!!」
石畳が剥がれた道を進む彼らの行く先を遮ったのは、小汚い恰好をした数人の男たち。それぞれがこれまた小汚い武器を手にそう叫んだ。
しかし、にしても賊らのなんと不運な事か。
男達の前に居るのは元魔王にして最強の若き剣士ことライト、そして無詠唱魔術を使える別の時代の戦士であるヒロ、そして聖魔術の頂点に位置する聖女である。
たかが賊程度に対して過剰戦力に過ぎるだろう。オンボロの掃海艇一隻に空母打撃群をぶつける様な物だ。
「殺すか」
それに対するライトの反応は極めて淡泊であった。確かに人魔大戦によって治安は大きく乱れたとは言え、元から賊などいくらでもいた。そしてそんな連中にへの対応は冷たい。
「何もそこまでしなくてもいいのでは...?」
ここで時代による価値観の違いが露呈する。ヒロの時代では命は尊い物だと言うのが一般常識であったし、それを奪う殺しという行為には強い忌避感があった。
だがそれに対するライト――というかこの時代では、命の価値は軽いのだ。元から死亡率が高く平均年齢も低いので死が間近だというのもあるが、役に立たない人間を生かしておく余裕がないのだ。子供でも役に立たないなら捨てるし、自分の親であろうとも老いて働けなくなったら山に捨てる。
まぁ中世ヨーロッパでも日本の戦国時代でもそうだが、戦乱が続く世というのは何時だって非情なのだ。ならば尚更犯罪者など生かしておく理由はないだろう。分かりやすい例として、ライトは聖女を襲っていた強姦野郎を殺したが、その事に関してはライトは何の罪悪感も抱いていなかった。
だがヒロとてそれは理解している。単に相手は金になる物を要求してきただけなのだから、何も命まで取る事はないだろうと考えただけだ。
「彼らにもやむを得ない理由があるのでしょう。私もヒロの意見に賛成します」
人を救う事がその命題である聖女からすれば、犯罪者とて殺していい相手ではないのだ。それに罪の大きさ言えば、目の前の山賊とライトには天と地ほどの差がある。勿論ライトが天の方だ。
その事に気付いたのかどうかはさておき、ライトも剣の鞘に掛けた手を一度下した。
「へっ、お子サマは家に帰ってママに慰めて貰うんだな!」
自分らよりも格上の存在に陳腐な台詞を吐き続ける彼らの滑稽な姿を見て、ライトは冷静になって考え直した。
もし本当に自分らが持っている金が欲しいのなら、わざわざ姿を現さずに通りかかった所を後ろから殴り殺せばいい――まぁ最もそんな事が通じる彼らではないが――のにも拘らず、わざわざ姿を現して警告と共に金を要求した。
「有り金置いてとっととけ帰れやァ!」
...それにしても陳腐に過ぎるだろう。最早演技染みている――というか演技なのではないか?ライトはそう思った。
まず有り金置いて帰れというのが不自然だ。聖女は絶世のとはいかなくとも、包容力と慈愛の心を持ってていそうな優し気な雰囲気に、清廉かつ清楚な彼女は賊からすれば垂涎の獲物――つまり性的な目で見るのが当たり前だ。そこは金目のモンと女置いて帰れと言うのが本当の賊というものだろう。
それに有り金だけど言う事は、ライトが持つ如何にも値の張りそうな剣やヒロの持つ変わった曲刀、聖女の杖やキャソックなどの金目の物を求めていない事だ。
前述した通り治安が世紀末なのだから、武器を奪っては直ぐに死んでしまうかもしれない。そんな気配りによる行動なのではないか。
気配り出来るならなんで賊なんてやってんだよという疑問もあったが、しかしそれは直ぐに解消される。よくよく観察すれば、賊の様に振舞っている彼らには共通点があったのだ。
それは全員どこかしら怪我している事と、手にある剣が統一されている事だった。
「お前ら、王国の負傷兵か」
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普通に書いてたら7000文字超えてしまったので分割しました。なので次話は直ぐに投稿出来ると思います
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