第122話 目は開かれ

投稿遅れました。

作者がトチ狂って最近の話全部非公開にしましたが、PVが減り過ぎて錯乱しただけなので気にしないでください。

またいつものかとでも思っといて...



――――――――――――――



意識がゆっくりと浮上する。


ここは何処だ、俺は何をしていた。

頭に靄が掛かっているように思考が上手くいかない。


酷い悪夢を見ていた気がするのに、何故か心に突き刺さっていた何かが取れた様な、そんな気持ちがあった。心を苛み続けていた誰かが消え去ってしまった様な、そんな少しだけ晴れやかな気持ちがあった。


ずっと目を閉じたままだったのだろうか、瞼の隙間から差し込む光が随分と眩しく感じる。

その光が照らしているのは自分の目か、或いは心か。

その両方だろう、とやはり未だに霞がかかったような思考で結論を出した。


だが彼は知らない。彼の心を苛み続けていた幻覚は消え、狂いたくなる程の罪悪感と破滅願望は光によって打ち払われた。

しかし、罪そのものが消える事はないのである。罰を受けても、苦しんでも、死んでも、時を戻しても。ライトが罪を犯したというのは不変の事実なのである。


そしてそれは、直ぐに気付かされることになる。

彼が目を開けた時、そこに映ったのは不気味な仮面であった。


「―――あ、あぁ...」


俺は何をしていた。

違う、俺は何故何もしなかった。



ミアを殺したのは、エルだ。


「【思い邪なる者に災いあれ】」


ライトの心に湧き上がって来たのは、紛れもなく憎悪と憤怒であった。


先程聖女が使用した紋証魔術は、精神異常に対する究極の対抗手段。それは確かに効果を発し、彼の壊れた精神は修復された。魔王化による人格の変容と、全て自分のせいだという異常な罪悪感による思い込みは消え去ったのだ。

だが、ミアという大切な存在を殺され尚エルに対して殺意を向けなかったのは、それらは自分のせいだという思い込みのせいだ。


「【如何なる魔術も我を脅かす事はない】」


ならば、そんな思い込みの原因である異常な罪悪感が消え去ればどうなるのか。

そこに残るのは、ミアがエルに殺されたという事実だけである。



「【第3節・反魔の光アンチ・ソーサリー】」



彼が選択したのは対魔術の頂点。愚者の証ユニークスキルすら封じ、紋証魔術すら切り裂くそれならば、確かにエルであろうともダメージは免れないであろう。

とは言え、それは当たればの話だが。


「無駄と知ってて挑む――やはり君は愚者だ」


反魔の刃は魔術では防げない。エルとてそれは承知しているのだから。


「【第3節・反魔の光アンチ・ソーサリー】」


エルの口から放たれた言葉は、一言一句ライトと変わらぬ物であった。

彼もまた遺物の所持者なのだ。であるならば、遺物本来の力を振るう事も容易なのだろう。


剣術、遺物、証、魔術、魔力量。それら全てにおいてエルより劣っているライトが彼に勝てる道理一つとてはない。

それは天地がひっくり返っても覆す事の出来ないなのだ。


だがそれでもライトが手を止める事は出来ない、諦める事は出来ない。

聖女によって再び齎された理性が止めろと訴えようとも、剣を振るう手を止める事など出来はしない。


勝てないからなんだ、勝機がないからなんだ。

それが、ミアの仇を諦める理由になるものか。


そう怒りでその胸を焼きながら、ライトは剣を振り続ける。



―――そんなライトの脳裏に、ふと情景が浮かんだ。

知る由もないはずの景色、知りようがない光景。

だが、ライトの脳裏にははっきりと思い浮かんだ。


ライトは知っている。その光景が意味する事を、その光景の出どころを。

手に握られた聖剣アスカロンに目を向けた。


瞼に焼き付いたように離れないその光景の意味する事を知らぬまま、しかし何故か知っている言葉を口にしようとライトは口を開く。



「【彼の者の名は―――】」


「双方、剣を収めてください!!」


だがライトの言葉はその途中で遮られる事となった。

彼をあのようにしてしまった原因であるのにも関わらず蚊帳の外に扱われ困惑していた聖女だったが、このままではライトが彼によって殺されるかもしれないと考えこの状況に干渉したのだ。


だがライトの怒りは他人に何か言われた程度で収まる物ではない。聖女の言葉によって一瞬硬直したものの、それを無視して再び切り掛かろうと剣を振り上げる。

しかし、その一瞬で十分であった。


「選べライト。死んだミアの為に戦うか、生きているサラの為に戦うか」

「...くッ...!ああアああ!!クソがああァぁァッ!!!」


ライトに突き付けられたのは究極の選択。いや、選べることなど端から出来ないのかもしれない。ライトの行動は全てエルの予測通りであり、それから逃れようとも、その行動すらもエルの予測の範疇なのだから。


だが、いや、だからこそライトは選ばなければならない。

エルの言葉は詭弁だ。仮にライトがサラの為にここで剣を収めたところで、エルがサラを利用しようとする事は目に見えている。


なれば、ここで剣を収めてはいけない。サラの為にも、ミアの為にも。

そう覚悟を新たにしたライトだが、しかしその覚悟は無駄であった。


「まぁ僕の用はこれだけだから。あとは自分で結論を出してね」

「なッ!?待て―――」


そう言うと、エルは幻か何かの様に一瞬で姿を消した。

拍子抜け、というのも変な話だが、何処か抜けた空気を残してエルは去ってしまったのだ。倒すべき敵を失ってしまったライトは何をすればいいのか分からず、無力感故にアスカロンを握る手を強く握り締める。


「少し、話をさせて下さい」

「...なんだ」


振り上げた剣の行先を失ったライトは、その苛立ちをぶつける様にぶっきらぼうにそう吐き捨てた。


「これまでの事、そしてこれからの事です」





そしてライトは状況を把握した。

いや、正確に言うのならば、自らが犯してしまった罪の重さを理解した。そしてそれは余りにも惨い物であった。


絶望感によって魔王に堕ち、この世に地獄を作り出した張本人は自分だという事。

人魔大戦による死者は数万を下らず、魔獣は未だ何処かで生きているという事。

ライト・スペンサーの死刑が決定した事。


そして、その人質としてサラスティア第二王女が囚われている事。


常人なら精神が崩壊してもおかしくない程の最悪だらけのそれらの情報達を、ライトはただ情報として受け取るのが精いっぱいであった。

聖女もライトに罪悪感を極力抱かせない為の配慮をを欠かせなかったが、しかしそれでも限界という物がある。聖女の謝罪やすべての元凶は私であるという言葉はライトの右耳から入り左耳に抜け、ただ頭に残ったのは最悪の現状である。


特にサラが人質というのが最悪だ。

国家が少女――それも他国の王女を無許可で――人質にするという恥も外見もない事をしてまで、ライトを殺そうと躍起になっているのだ。

サラという人質が居まいが逃れる事は出来ないであろう。あくまでもサラは保険の様な物なのだ。だからこそ簡単に殺せる。もしライトが二週間後の処刑予定日に現れなければ、ライトを殺すための処刑台にはサラが登る事となるであろう。

サラがそのように殺されれば合衆王国の国王は激怒するだろうし、国としてのメンツ的にも再び戦争になるだろう。だが帝国すら自らのものとした王国は、最早敵なしである。


つまるところ詰んでいるのだ。


レオが残した呪いによって死ぬ事は叶わず、つまり処刑は受け入れる事が出来ない。だがそうなればサラが死ぬ。商船の一隻も通らない海の先にある合衆王国へサラを逃す事もまた不可能。


だが、それでもライトは諦めない。

絶望に暮れてはいけない、それではサラを救う事など出来はしないのだから。


しかし、いくら考えようとも答えは出なかった。


ライトの目は開かれた。

しかし扉は閉ざされ、道は示されず、それが何処へ繋がる道なのかも知る事は出来ていない。ならば、彼が未だ歩き出せないのは当たり前の事であった。


ともかく、ライトは考えても仕方のない事を考え続けていた。

結論は出る事はなく、ただ焦りと共に無意味に脳を働かせていた。


そんなライトが居る廃墟の中に、ライトの物でも聖女の物でもない声が響く。



「―――久しぶりですね」




ライトは振り返る。


あぁ、今日はツイてない。

何でこう嫌な奴ばっかり合わなければいけないんだ――


と、入り口に立つヒロを見ながらそう現実逃避染みた事を考えるのだった。


――――――――――――――

120話修正しました

※修正前 皇帝の公開処刑は2週間後、ライト・スペンサーの公開処刑は1週間後に

※修正後 皇帝の公開処刑は1週間後、ライト・スペンサーの公開処刑は2週間後に


何やってんだよほんと...

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