第114話
いやー何気にコメント2週間貰ってなかったから嬉しかったでやんす。
だけど流石に早すぎると思った。伏線張りまくって匂わせまくったせいかな?
まぁいいや(よくない)
――――――――――――――――――
ライトその背中に背負いながら、サラは再び城の中を走っていた。
しかし先程のライトとのやり取りで少なからず消耗してしまった彼女の足取りは若干覚束ない。時折城を揺らぐような衝撃が走り、その度にふら付いていた。
しかし、それでも彼女は走り続ける。
その衝撃と戦闘音が途絶える前に、ライトと共に彼らと合流するために。
だがその時は、彼女が思っていたよりも早く訪れた。
―――――ドッッ...ッガアアァァンッ!!
「っ!?」
彼女が走っていた城内に大きな破壊音が鳴り響く。
しかしサラはその正体を確認するよりも早くライトを地面に下ろし、庇う様にライトに覆いかぶさった。
パラパラと降り注ぐ、破片と城の断片の雨。それが止んだのを見計らってサラが顔を上げると、そこには音の発生源であろう人物がいた。
「ヴァルターさん!?」
破片と石屑に沈む様に、ヴァルターが突っ伏していた。
何故、と問いかけるのは無駄な事だろう。状況から考えて、そんな事が出来るのはあの化け物しかいないのだから。
「...っ、しっかりしてください!」
サラは一度地面に下したライトを再び担ぐと、その破片と石屑を掻き分けながらヴァルターに近付いて行った。
今作戦のメンバーの中で、まともな近距離戦が出来るのは彼だけなのだ。そんな彼が戦線から離脱してしまった今、あちらは間違いなく危険な状況に陥っている。
そんな思考を元に足を動かすサラに、ヴァルターが痛みに顔を顰めながら口を開く。
「サラスティア嬢か...ライト少年を確保出来たのだな」
「っ、はい!」
そう言うと、ヴァルターは瓦礫の山から立ち上がった。
サラはその彼の体に付いた無数の、それでいて決して小さくない傷の多さに思わず息を呑んだ。一般兵ならば動けなくなり出血死を免れないであろう容態だった。
一歩間違えれば致命傷というレベルの傷を全身に負ったヴァルター、しかしそうとは思わせないようなしっかりとした足取りで城に開いた穴――彼自身がその身を以てブチ開けた――に向かって歩き出す。
「最早第一目標の達成は不可能だ...だが第二目標は達した。サラスティア王女は先に王国方面へ脱出、後で合流だ」
「...了解です」
自分だけ逃げろと言われたならば返答は変わっていただろうが、今のサラはライトを背負っているのだ。そもそもライトを背負った状態では足手纏いになるだけだろう、と自身を納得させた。
合流は出来ないだろう、と何処か心の中で分かっていながらも。
(ごめんさない...!)
そう心の中で謝罪しながら、サラは踵を返した。
ヴァルターはその後ろ姿を満足気に見てから、彼女の真反対の向きへと足を進める。
「我はここに居るぞ、化け物風情がッ!!」
〇
サラは走り続ける。
魔力による強化はあれど、もう疲労で倒れてしまいそうだった。
しかしその度に自らの背に居るかれの存在を思い出し、胸の奥底から湧き出る気力のみで足を動かし続ける。
そして数分もしない内にサラは赤い空の元に辿り着いた。
戦闘開始からかなりの時間が経過したのだろう、もう暗くなり始めた空を見上げ、何とか方角を把握し脱出点へのルートを脳内で描いた。そして先程よりも一層激しくなった戦闘音を背にして王国を目指し駆け続ける。
(この調子なら脱出できる...!)
しかし、彼女は知らない。
魔獣とは、非業な死を遂げた無辜なる魂をエネルギー源として、魔王の願いと絶望を以て産み落とされる厄災である。
つまり魔王であるライトと魔獣との間には魔術的な繋がりがあるのだ。現に魔獣はライトの事を認識しており、彼を守るために律儀に城への破壊を控えていた。
そんな魔獣が、自らの生みの親であるライトが何者かによって奪われたのを認識出来ない筈がなかった。
「...しまッ!?」
直感に従って後ろを振り向いたサラの目に入ったのは巨大な氷塊だった。
疲労や魔獣から距離を取れたという安堵によるものか、少しだけ注意力が散漫になっていたのかもしれない。
だが自省は後だと自分に言い聞かせ、サラは自分が持ちうる最高火力を以て氷塊を打ち砕こうとする。
「【
――その瞬間、サラは自らの失策を悟る。
氷ならば炎という単純な思考で放ったその魔術だが、しかし巨大な氷塊を蒸発させるほどの火力がない事は明確だった。
もう間に合わないと思わず目を瞑るサラだったが、しかしその氷塊がサラの元へ辿り着く事はなかった。
「ミュラーさん...!」
その姿を直接見た訳では無かったが、それが誰による者なのかは一目でわかった。遥か遠くより飛来せし光の矢が、氷塊を粉々に穿ち砕いたのだ。思わぬ援護に感謝しながら、サラは止まってはいけないと先程よりも早く走り出した。
とは言え、彼の援護が少しでも遅ければサラは無事では済まなかっただろう。今の様な事が再び起こらぬよう、数秒毎に振り向いて後ろを確認する。
――それが功を奏したのか、彼女はその視界の端に魔獣を捉えた。
魔王を取り戻そうと、表情筋を持たない蛇であるのにも関わらずその顔に憤怒をありありと浮かべながら尋常ではない速さでサラの元へと突き進んでいた。
後方から雨あられと降り注ぐ魔術――懲罰部隊による攻撃をその鱗で無効化しながらサラへ向かっているその魔獣の目は、完全にサラのみを捉えていた。
「【ウィンド!】」
サラが打てる手は逃亡のみである。
遺物持ち二人掛かりでも大したダメージを与えられない相手に、遺物どころか
そう判断して風魔術で自らを空に打ち上げたサラだったが、しかし相手は魔獣。判断自体は間違っていなくとも、その圧倒的な質量を以てすれば斃せぬ敵などなかった。
「【ウィン―――くぅッ!」
回避運動の為に風魔術で変則的に空を舞う人間という小さな的だろうと、弾幕で包み込む様にして追い詰めていく。ライトを背負っているせいで被弾面積が二倍になり、動きそのものが鈍重になっているせいもあるのだろう。
またもや窮地に追い込まれたサラだったが――
しかしこれも間一髪での援護が間に合った。視界を埋め尽くしていた魔術が一つ残らず消失したのである。これもまたサラには見覚えが――というより自分自身も使用経験があるので一瞬で判別がついた。
「みんな...!」
懲罰部隊による【
範囲内での魔術行使を禁止するそれは、しかし大量の魔力を消費する物だ。なのでここぞという時にしか使えないのだが、懲罰部隊の隊員らは今がその時だと判断したようだった。
とはいえこれで懲罰部隊の戦力としての価値は半減してしまった。
厳しい撤退戦になるだろう。
だが一つ思わぬ誤算があった。
魔獣の速度が大幅に落ちたのだ。
【
成る程その巨体からは考えられない程の速度の源は聖魔術によるバフだったのだ。それが失われた今、魔獣の身体能力が全て低下したのだろう。
異物持ちの二人はこの隙を見逃さまいと攻撃を仕掛け、有効打が出せない残りのメンバーはサラと合流を果たした。
「よし、理を破壊する
「任せてくれ!」
暗殺者部隊の一人――カイがそう勇ましく言った。
周辺の地理に詳しい人間が居るかどうかで撤退戦の成功率は大幅に変動するのだ。彼の言いようもあって随分と頼もし気に見えた。
後方では相変わらず爆音が鳴り響いている。
魔術を使えなくなったとは言え魔獣の鱗は懲罰部隊の最高火力を無効化する程堅固で、並みの攻撃ならば無視して突き進めるだろう。それを引き留めているという事は、魔獣がそれだけその二人を脅威と感じているのだろう。
二人の健闘に深く感謝しながら、彼らが作った隙を無駄にしてはならないとサラと合流した面々は振り返る事なく走り出した。
〇
「...流石にここまでは追って来ないか」
走り出してから数時間後、彼らは小休憩を取っていた。
時間帯の問題もあるだろう、何せもう真夜中なのだ。その上丸一日走り続けていたのだから、少しは休憩しなければ死者が出てもおかしくなかった。
戦闘時間だけ見るなら彼らが大量の魔物と戦った時の方が上だが、今回はメンバーが少ないうえに聖女が居ない。完全なる無補給だ。
「...アイツら、まだ戦ってるかな」
木にもたれかけながら、隊員の一人がそう溢す。とは言え、それは少し楽観的と言わざるを得なかった。
彼らに殿を任せて走り出してから数時間が経過しているのだ。懲罰部隊らは逃げるだけで疲労困憊なのに、強大な敵を前に戦い続けていた彼らが無事とは思えなかった。最も、そんな事はその場に居る全員が分かっていたが。
と、どこか湿ってしまった空気を払拭しようと別の隊員が口を開いた。
「国境線まであとどれくらいだ?」
「このペースで行けば5時間後。日の出と同じくらいだな」
撃てば響くようなその返答に、やはり訓練されているのだなと数人が感心した。おそらくあの様子では帝都全体の地理まで把握しているのかもしれない。
「じゃあもう出発するか」
「了解」
殆どの隊員が正直言ってまだ休みたい、みたいな顔をしていたが、あまりのんびりしていられないのも分かっているのだろう。誰も文句を言わずに立ち上がって準備を開始した。
「...クソ、またかよ」
魔獣はライトの位置を把握出来る。そして、任意の場所に魔物を出現させる事も。
であるからして、ライトを奪取するために魔物を使うのは必然の事だった。
再び現れた、複数の山の如き魔物。
その数は前回の時よ同じ程度だった。
それに対し、こちらは懲罰部隊と暗殺者部隊だけ。懲罰部隊に関しては魔力を殆ど消費しているし、後ろからは魔獣が迫っている。
まさに、絶体絶命であった。
――――――――――――――――――
キリ悪いけど許して
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