第111話 

先週末銃を撃ってみました。ショットガンの反動って凄いんだね。まだ腕が上がらない...正直ワクチンの副反応よりキツイです。楽しかったけども。


ではどーぞ。ライト君の出番ですよー

――――――――――――――――





―――俺は、何をしているんだろうか。

頭に靄が掛かった様で、何も思い出せなかった。ここは何処だ、何故ここにいる、ここで何をしている。意味もなく、そんな問いが頭の中を廻り続けていた。


世界が赤い。

目を開けているのに、でも視界は赤一面だった。

だけど、そんな視界に、赤色ではない何かが映り込んだ気がした。


「...ぇ、えぁ...」



―――それは、青色の髪の束だった。


それを見た途端、脳裏にミアの顔が浮かんでくる。


ただ茫洋と馬車に揺られる俺の頭を、慈しむ様に撫でてくれて。

もう何も考えたくなくて、それでも罪の意識に苛まされて。そんな俺を一生懸命支えてくれて。


そんなミアを、俺は死なせてしまったのか。

あんなにも支えてくれて、あんなにも助けてくれたミアを。


俺は、死なせてしまったのか。

それも、感謝すらせずに。あんなにも、惨く。


「...死ね」


自分が憎くて堪らない。

罪の意識だとかなんだとか言い訳をしてミアに甘えて。結局そのせいで大切な人を無くしてしまって。あぁ、それこそ本当の罪なんだと、今になってようやく悟った。

そんな自分を殺したくて、殺したくて、ただ死んで欲しくて。


「死ね、死ね、死ね、死ね死ね死ね」


何もかもが憎い。

ミアを殺したエルも、そうさせた帝国も、何もかもが憎い。


でもきっとそれは見当違いなんだろう。憎むべきは俺一人で十分で、そして憎まれるのも俺一人で十分なんだろう。そう分かっていながらも、しかし心から溢れる呪詛は決して止まる事はなかった。


なんと愚かで、なんと罪深いんだろう。



しかし、それでいい気がする。


こうやって世界に呪いを吐き続ければ、いつかきっと俺は殺されるから。愚かでも罪深くもない誰かが、俺の罪を裁くためにやってくるだろうから。


だから、俺は罪人であり続ける。

死ぬ事が出来ないこの呪いすら、打ち破ってくれる何かを期待しながら。









魔獣討伐作戦のメンバーは、かなり早い段階で決定した。

圧倒的な破壊力を持つクリスティアと魔術王は戦線の維持に不可欠だとして参加は見送られ、護国の要である王立騎士団ロイヤル・ナイツ、そして聖女もまた王国に留まる事となった。


よって、それ以外の戦力を候補にメンバーは選抜された。

まずはミュラーだ。対多数に於いては力不足感を否めないが、基本的な能力は高く、また少数行動時の有力さから選ばれた。

意外な事に、その次に選ばれたのはヴァルターだった。帝国の戦力に頼り過ぎない方がいいのではという意見もあったが、彼らの行動原理から考えるにこちらを裏切る事はないだろうとして参加する事になったのだ。

そして帝国の暗殺者部隊。これは単純に使い道が無さ過ぎたのと、帝国の地理に詳しいからである。とは言え魔獣討伐という激戦に投入するには単純な力が足りてないように思えるが、王国上層部としては本作戦で死んで欲しいのだろう。それだけ厄介な存在なのだから。

そして、取って付けたかのように参加が決定された懲罰部隊。


ともかく、本作戦は帝国の戦力を主軸とする事となった。王国の作戦にも関わらず、王国からは誰一人として参加していないという中々信じ難い事態でもある。


とは言え、それは王国上層部の思惑があるのだろう。

懲罰部隊も帝国の戦力も、王国からしてみれば邪魔な存在なのだ。人魔大戦という理外の戦争がなければ速やかに排除しようとしていただろうが、しかし実際にそれが起こってしまった以上王国防衛には少しでも戦力が必要であり、そのような事情から放置されていた陣営だったが、しかしそれらは本作戦で纏めて処理される事になったのだ。大方、本作戦のメンバーは「あわよくば全員共倒れになんねえかな」みたいな考えを元に選抜されたのだろう。


ともかく、魔獣討伐作戦のメンバーは、ミュラー、ヴァルター、暗殺者部隊、懲罰部隊によって構成される事となったのだ。


―――そして、そんな彼らは今、帝都に向かって進んでいた。


「帝都までの距離、残り25を切りました」


何処からともなく姿を現した少年が、疲れを感じさせるような声色でそう報告する。とは言え、それは魔獣討伐隊――便宜上そう呼称――の全員にも共通する事であった。道中何度も魔物の襲撃に会い、その度に撃退しながら進んでいたからだろう。彼らの面々からは疲労の色が伺えた。

ヴァルターを除いて。


「であれば今日はここで一度休息を取ろう。明日に向け万全を期さなければ」


そう溌剌とした声で言ったヴァルターに、そこに居た全員が「ヴァルターであれば無理な強行軍を主張しそうな物なのだが」と違和感を覚えた。脳筋かつ阿呆というイメージがある彼が、そのような発言をするとは思えなかったからだろう。


「やけに冷静だね。いつもの君じゃないみたいだよ」


その場に居る中でも最もヴァルターとの付き合いが長いミュラーもまたそのことに気付いたのだろう。何処か訝しむようにそう言った。


「...最早、間抜けのなどしても無意味であろう」

「何だって?」

「気にするな」


険しい表情をしながら何事かをぼそりと呟いたヴァルターだったが、しかしその言葉は誰の耳にも届かなかった。







「俺達、こっからどうなんのかねぇ」


太陽は既に沈み、赤い空から星屑の光が届いてから幾ばくかの時間が流れたその時、そんな空を眺めながら一人の男が口を開いた。


「この隊も随分酷い有り様だからな...お前はまだ復讐に拘っているのか?」

「どうかな。一番ぶち殺したかった奴はアイツらに殺されちまった」


そう言うと、ガルは諦めを感じさせる視線を暗殺者部隊の面々へと向けた。


「お前の話、聞いてもいいか?」

「...俺の女は中々の美人でよ、日雇いでひーこら言いながら働いてた俺には似合わないには綺麗だった。で、お貴族様に目をつけられてって訳だ。良くある話さ」


あぁ成る程、確かに良くある話なのだろう。しかし、飄々とそう言ったガルの目の底には、隠しきれぬ憎悪があった。だがそれ以上に、困惑と疲れが見て取れた。憎悪の宛先が既に死し、復讐を糧に生きて来た目的が失われ、何を目標に生きればいいのか分からないのだろう。


「止そう、俺の話は今は良いんだ。俺は懲罰部隊の行く末が心配だね」

「やっぱ隊長がいないとダメだな」

「そうだな。とはいえライトを隊長として迎え入れるのは難しいぞ?」

「確かに...じゃあアイツとも話ししておくか――おーいリアムー!!」


ガルが大きな声で別の隊員の名を叫ぶ。

そしてやって来たのは、不満げな顔をした少年であった。

彼の名はリアム。魔海の向こうから来たという謎多き人物であり、懲罰部隊の中でも異彩を放つ経歴だ。


「なんだ?」

「いやよ、今回の作戦、ライトの確保も含まれてるだろ?それが出来た後どうするかって話だよ」


そう言われたリアムは、苦虫を嚙み潰したような表情をした。言わずもかな、彼が呼び出されたのは、彼が最もライトに対して確執の様な物を抱いているからである。


「王国が処遇を決めるんだろ。俺達が関われる話じゃない。それじゃ」


目を逸らしながらリアムがそう言った。考えるまでもなく会話から逃げようとしたのだ。この話に関してリアムはかなりの気まずさを抱えているようであった。


「待て待て、そう言う事じゃねえだろ。明日にもライトと対面するかもしれねえんだ。その時になんかねえのか?」

「うぐ...」


やはり、リアムは悉くこの事について考えたくないようであった。確かに、言ってしまえばリアムの一言がなければライトがあのようになってしまう事もなかったし、つまり人魔大戦もなかったかもしれないのだ。

とは言え、それは有り得ない事なのだが。これは運命なのだから。


「...謝ればいいんだろ、謝れば」

「ハァ...そんなんだからだライトにキレられたんだよ、お前は!!」


リアムは、自分の何が間違っていたのかすら知らないのだ。いや、確かにリアムの言っていた事自体は間違っていた訳ではないし、その気持ちも理解できる。あの時の激戦では何人もの隊員が死んだのだから。

だが、言った自体事が間違ってなかろうと、それを言う事は間違っているのだ。正論は時として人を傷つけるように、理論としての正しさと人としての正しさは同じではないのだ。だから、そういう意味で、リアムのあの言葉は間違っていたのだ。


それを理解せずに、ただ親に叱られたから謝る子供の様な態度では、その謝罪には一欠けらも意味など存在しない。


どうしたものかと頭を抱えるガルの後ろから、一つの人影が近付いてきた。


「明日に向けて休息を、と言ったのだがな」

「げっ」

「...貴様、流石に失礼だぞ」


それはヴァルターだった。


「まぁ確かに、明日は大事な日か。もう寝るとしますよ」

「あぁいや、そう言う事ではない。確執を抱えたままでは本来の実力も出せんだろう、話す事で解決出来るならいくらでも話し合えばいいさ」

「はぁ、では何用で?」


相も変わらず不遜かつ飄々とした態度を貫くガルだったが、ヴァルターにそれを気にした様子はなかった。


「何、アドバイスの一つでもと思ってな」

「出来るんですか?あなたに?」

「貴様が懲罰部隊に居るのは不敬罪が原因ではあるまいな??」


流石に礼を失したようだ。ガルはさーせん、とこれっぽっちも謝意の籠ってない謝罪を口にした。先ほどの思考と矛盾している。

ともかく、そのアドバイスとやらを言おうと口を開いたが、寸前、何かに気付いたかのようにそれを閉じ、そして再び開いた。


「いや、そういえばサラスティア嬢も居た方が良いか。何やら随分と気に病んでいるようであったからな」


ヴァルターはそう言ってガル達の前から去っていった。






空を見ていた。

かつてライトと共に眺めた空は、今や赤に染まっていた。彼との少ない思い出までもが、赤に染まった気がして。それでも、空は彼との思い出で、その赤さすらの彼によるものだと思えて、目を逸らせなくて。


ただ、空を見ていた。


「ライト」


最後に彼と会った時の、絶望に染まった顔が脳裏を過った。

今も彼は、そんな表情をしているのだろうか。


そう考えると居た堪れなくなって、そんな彼へと手を差し伸べたいと思ってしまう。でも、果たして私にその資格はあるのだろうか。


酷い暴力に晒されていたあの部屋から、彼の肩を背負いながらともに出た後。何故か、その肩を離してしまって。

ミアが彼の背を追った時、何故か私は付いていかなくて。ライトを救えなかったと絶望して地に手を着いてしまって。


そんな私に、果たしてライトを救う資格はあるのだろうか。

何もかも投げ打って、他の全てを顧みずにライトを助けに行ったミアと私は違った。そもそも、救うというのが傲慢である気がした。


私は、どうすれば良いのだろうか。


「これはまた、随分気な落ち込みようだな」

「...ヴァルター、さん」


帝国の人間である彼が、私に何の用だろうか。もしかして、あまりにもネガティブだから心配でもしたのかもしれない。


「少し場所を変える。付いて来てくれ」


何のために。そう思わないでもなかったが、サラは黙ってついていく事にした。



目的地は案外直ぐ近くだった。

そこにはガルとリアムが居て、こんな近くにいたなら普通に呼べばよかったのに、と思える程の距離だった。


「で、アドバイスってのは何なんすかね?」


軽口でも叩くように、ガルがそう口を開いた。その言葉から察するに、ヴァルターさんがガル達...というよりリアムにアドバイスでも言うのだろうか。

だが、ならばなぜ私もここに居るのだろうか。サラはそう内心で首を傾げた。


「うむ...サラスティア嬢も聞いておけ」



今のヴァルターは、明確な知性を感じさせる目をしていた。



「いう事はただ一つ―――――――――」














――――――――――――――――

ライト君の出番...マジのガチで次は本格的に出るから。許して

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