第109話

投稿遅れました。この先の展開と追加設定とで忙しかったんだ...

ライト君の出番はもう少し先でやんす...しばしお待ち下され。



ではどーぞ。ライト君の出番はもう少し先でやんす

―――――――――――――――





フェイルノートによって、最大の障壁である甲羅は排除された。甲羅に開いた穴はその巨体と比べるとどうも小さく見えてしょうがないが、それは巨体故の錯覚の様なものだろう。実際には10メートルはありそうだった。

しかし、そのような被害を被って尚化け物は止まらない。それは獣の足音というより、何かが爆発したかのような音を響かせながら、自分に怪我を負わせたその小さな生き物を圧し潰そうと先程よりも速度を上げて突き進んでいた。


怒りに顔を歪まながら――いや、亀の表情など分かる訳がないので、あくまでも雰囲気から判断するしかないのだが、時折鼓膜を震わせる咆哮はそれが怒りを覚えている様に思えた。


巨大な化け物がその様な形相で吶喊してくる様は、常人ならばそれだけで気絶してしまうような本能由来の恐怖心を感じてしまうであろう。


――しかし、そこには誰一人として常人は居なかった。

王皇族から騎士、果ては暗殺者に犯罪者まで。その在り方は大きく違えど、居るのは強者のみである。


「次は私が行こう...最も、諸君らの後では少々見劣りするがな」


王女が名乗り出た。クリスティアという名のその女性は、女だてらに軍人を、それも最高指揮官に値する地位につく女傑である。とは言え、彼女が女傑である最たる理由はそれを血統によってではなく本人の能力で手に入れた事であろう。

そんな彼女の得意とするのは火魔術であり、それは攻撃範囲と殺傷能力、つまり殲滅能力に優れる魔術である。

しかし現状況を鑑みるに、彼女がその魔物に対する攻撃に名乗り出たのは明白であった。甲羅に開いた穴に魔術をブチ込むという、貫通力と精度が必須な攻撃に、それらとは正反対に位置する火魔術を得意とする人物が名乗り出たのだ。


幾人かはその胸の内で疑問符を浮かべた。


「【―――スキル・炎の加護】」


しかし、彼らは知らない。

彼女は、世界の頂点に近い程の魔力量を保持するライトのそれを、たった数秒で底に着かせる程の攻撃能力を持っているのだ。最も、それを知るのはそこでは懲罰部隊の面々のみであったが。

それを知らないのも無理はないだろう。合衆王国と王国の戦争に於いて、彼女はその戦力を温存されていたのだから。王国は魔術王を投入すれば戦争に勝てると言われており、つまり彼女は其れに対する対抗戦力だったのだ。

火、水、氷、雷、風、聖と闇。それらの8系統と呼ばれる魔術には、それぞれの頂点が存在する。それはスキルの頂点でもあり、攻撃魔術の頂点。


火の加護とは、その内の一つである。




「【火よ我が元に灯れ。灯火ともしびは人々に道を照らすであろう】」


彼女の頭上に、小さく火が灯った。

それは只の火種か、或いは空を舞う火花か何かに見間違えてしまうような大きさであった。だが、その場に留まり続け、なおその光を失わないそれは、何処か人々を優しく見守るような温かさを宿していた。


「【炎よ猛り狂え。猛火もうかは咎人の罪すら浄化するであろう】」


言葉とともに、その火は巨大化する。

暖かさというよりも鋭さを伴う熱を持ち、やはりそれは火刑の炎のようであった。


「【焔よ顕現せよ。御身を以て燃えぬ物はなく、万物は灰と化すであろう】」


それは、最早炎ではなくなっていた。

太陽が地上に現れたような巨大さと熱を持つそれは、あるべき場所から人の手によって引き摺り下ろされた事に怒り狂うように、全方位に猛々しく炎を飛散させていた。


「【燈火より出でて炬火。炬火変じて猛火。猛火転じて劫火】」


それは、最早炎ではなくなっていた。

地獄の炎のように、この世のモノではないかのように。

ただ只管に、燃えていた。


「【それは軈て火坑の如く】」


形が変貌する。

球体から、棒状のナニカへと。


「【聖なる拝火の聖典アヴェスター。純粋たる火による救済】」


それは神聖さを纏い始めた。

荒ぶる太陽ではなく、救いを遍く照らす神、その具現化のようであった。


「【邪なる火の蛇オグネニズウィ。混沌たる火による破壊】」


しかし、その詠唱と共に神聖さは消え失せた。いや、正確に言うのならば、聖の部分が消え失せたのだ。それはいまだ神々しく、しかしそれは決して善の神ではないように思えた。



――――そして、長き詠唱は終わりを告げる。



「【火紋証・極獄炎焔インフェルノ】」



それは、言葉で表すのならば、火山の噴火が一か所に収束したようであった。赤より深い赤が、巨大な光線の如く魔物へと押し寄せる。空気を焦がし、震わせながら、敵たる化け物目掛けてへと直線を描いた。

火の化身は、一秒と経たずに着弾した。それを防ぐ手立てなどなく、唯一身を守る術である甲羅は破壊されている。

その魔術は、吸い込まれるようにフェイルノートがこじ開けた穴に侵入した。


―――ガア゛ア゛アァァァァ...ッッ!!!―――


今更のように自らの危機を悟った魔物。かつてない程の大きさの咆哮が響き渡る。

空気の振動は、遠くでその光景を眺めていた全員の鼓膜を破った。

皇族や幾人かの護衛、帝国の騎士などは激痛に耳を覆って蹲るが、その他大勢は目を顰めるのみであった。

そんな事情など露知らず、魔物は咆哮を続ける。


しかし、それは断末魔とも言えた。


赤色の光線が、着弾点の反対側から突き抜けた。

それから一泊を置くと、その咆哮は途切れる。何の事はない、声帯を震わせる肺も、声帯そのものも焼き尽くされたのである。

そして、魔物が文字通り爆散した。数千トンは優にあるであろうその巨体が、肉片と血飛沫となって辺り一面に飛び散る。赤き空と、それ以上に悍ましい赤に染め上げられた地面は、正に地獄のような光景であった。


間違いなく、即死であった。


「【...聖癒】」


聖女がぽつりと言葉を溢し、破られた鼓膜は修復された。

だが、人々に癒しを齎すその聖なる言葉には、何処か驚きと呆れが混ざった様な声色が含まれていた。


それは、そこに居る全員の心情でもある。


「...フェイルノートは無駄なしの弓なんだが...無駄だったね」

「最初からそれを撃ってくれよ...」

「まだ耳鳴りするんだが」


散々な言いようである。とは言え、彼らの言葉は決して間違っている訳では無いのだろう。実際、先程の彼女の紋証魔術はガッツリ甲羅を貫通していた。であれば、態々フェイルノートの開けた穴を狙う意味もなかったのだ。

あの魔物が出現した時点で紋証魔術を使っていれば瞬殺であっただろうに、とほぼ全員が思った。

だが、そんな気の抜けたような雰囲気は一瞬で霧散する。


「...どうやらこれで終わりではないようだぞ」


全員が視線を上げる。

先程までは「山が動いている」と言った様な光景を齎した魔物であったが。


「...聖女、特大のバフを寄越せ」

「...分かりました」


成る程、では今の状況は、「山脈が動いている」とでも表現しようか。

あの巨大が魔物数百匹は居るであろうその光景は、正に大地を踏み鳴らし、全て平にしてしまいそうな絶望感があった。


「言わずとも分かるだろうが敢えて言おう...死守命令だ」


――ここを抜けられたら、人類はもう終わりだから。


意志と覚悟を新たに、各々は武器を構えた。

心の何処かでは、この戦いがまだ序章であると知っていながら。









「...ハァ...ハァ...」

「おヴォエぇぇえええ...」

「おえっ...ワシの近くで吐くでない馬鹿者」


正に死屍累々、という有り様であった。

平気な顔で立っているのは魔術王とヴァルターくらいなもので、その他全員は倒れ伏すか膝に手を付いている。

とは言え、それを責めるのは余りにも酷であろう。彼らは、ぶっ通しで何十時間も戦い続けたのだから。

そして、そんな彼らの周りには、文字通り屍の山――と言うより山脈――があった。


――そう、彼らは勝利したのだ。その大量の魔物達に。


勝利の証トロフィーと言うには余りにも悍ましかったが、彼らの勝利の証として、周りには大量の肉片と巨大な屍が転がり、鼻が曲がるような悪臭が漂っている。鴉や蠅、狗などが死体漁りをしており、その大量の餌を啄んでいる。しばらくは餌に困る事はないだろうと喜んでいる様子であった。とは言え伝染病などの危険性もあるので、魔術王かクリスティアあたりが焼き払うであろうが。


ともかく、彼らは勝利したのだ。


ただ、彼らに歓喜の表情はない。ただ疲労と安堵が広がるのみであった。

太陽が沈み、再び昇っても尚、水分も食事も睡眠も取らずにただ魔物を相手に戦い続けたのである。寧ろ気絶している人間が居ないだけマシと言った状況である。

魔力も底を着き、幾人かは魔力切れで嘔吐している。体力もまた然りで、騎士団長は何とか立っていたが、その他の肉体戦闘員は皆倒れ伏している。

ヴァルターを除いて。


「...一度補給をしなければ。いつ次が来るか分からないぞ」


彼の真価はその継戦能力である。途切れる事のない敵に対しては、やはり彼は絶大な能力を発揮していた。

その顔には殆ど疲労の色は見えず、しかしこの先の事を考えてか表情は険しかった。


「やっと第一波を凌いだだけじゃからの...魔獣を討伐するまでは終わらんぞ」

「...良く分からんな、魔物と魔獣の違いは何なのだ?」

「女王蟻の様なものじゃ。こやつさえ殺せばワシらの勝ちという事じゃの」


そう言ってから、しまった、コイツが女王蟻など知る訳がなかったと思いヴァルターの顔へ視線を向けた魔術王だったが、しかしヴァルターは彼の言ったことを理解しているようであった。


「であれば尚更迅速な補給が必要だな。時間を掛ければ掛ける程彼我の戦力差は広がるのみ。補給の後直ぐにその魔獣を叩きに行くべきであろう」


魔術王は訝しんだ。「なんじゃコイツ。本当にあのヴァルター脳筋か?」と。

もっとこう、コイツは馬鹿だった筈だ。少なくともヴァルターはこんなに理性的な人物ではなかった。

頭を悩ませた魔術王だったが、戦いで頭がやられたのかもしれないと結論を出した。本人とてそれが理を伴っていない論なのは自覚しているが、どちらにしろヴァルターが理性的になったのはどうでも良い事なのだ。まぁいいか、と思考を放棄した。


「そうじゃな、こ奴らも放置したら死にかねん。さっさと王国に戻るとするかの」


とは言えヴァルターの言葉には概ね同意である。ライトやミアの事は気になってしょうがないが、それも帝都に行かねば何も分からぬ事。であるからして、帝都に巣食うであろう魔獣の討伐は魔術王にとっても最優先事項なのだ。


「さて、では戻るとするかの」



――――こうして、人魔大戦の初戦は人類側の勝利に終わった。





―――――――――――――――

火でゲシュタルト崩壊した。しかも詠唱書くだけで2時間掛かった。

なんかここ最近詠唱のオンパレードなんだが...しかもクッソ長いし。


紛らわしいと思うので解説をば。

スキル 割と何でもある。系統に属さない。

・愚者のユニークスキル 強い意志によって発現する。系統に属さない。

・加護 8系統+αのみ。その系統に対する大幅なバフと固有技が使える。

・紋証魔術 加護を持つ人間のみが使用可能。その系統の頂点に位置する魔術。 

・創造魔術 魔術としての頂点。証は無関係。


ちなみにこの話書いてる時に思いついた。設定弄ったからプロットも変えないと...

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