第107話


物語にある程度の区切りがついたので、やっと修正作業を始めました。

殆ど最初から書き直すくらいの勢いで改稿してます。


別視点は使い過ぎると物語が薄くなるからもう止めようって決めたんだけどなぁ...

今回は告知の為の話だから。許して。


ではどーぞ

――――――――――――――――――――




最初の変化は全ての人間が気付いた。


...いや、人でなくとも理解出来た。


空が赤く染まったのだ。

王国で、帝国で、合衆王国で、巨大な山脈の向こう側で、極東の島国で、魔海の向こう側で。

ともかく、この世に住む生命は、世界が変貌した事に気付いた。


次に、魔獣が生れ落ちた。


帝都に発生したその魔獣は、この世の闇を全て凝縮して、一つの体躯に押し込めたような禍々しさを纏っていた。

この世の生物とは思えないその姿は、蛇のそれに少しだけ似ていた。

腕も足もなく、赤と黒に彩られた鱗で身を固めている。人間で言う白目に当たる部分は黄色く、黒目に当たる部分は赤く、細長い形状をしたいた。


だが、蛇とは決定的な違いがある。



それは、その大きさが尋常ではない事と―――首が8本もある事だった。


今は無き古代文明に於いて、極東の地で語り継がれていた伝承、「八岐大蛇ヤマタノオロチ」という化け物に酷似していた。とは言え八岐大蛇は八頭八尾だが、こちの化け物は八頭一尾であったが。


ともかく、その化け物はこの世に生れ落ちた。世界を憎悪し、絶望して死んでいった莫大な人間の魂が、呪いが、怨念が。

魔力資格を持った人間であるライトの絶望をトリガーとして、この世に生れ落ちてしまった。


であるならば、その化け物の行動原理は唯一つ。



―――この世を破壊する事、である。



魔獣はまず、魔物を生み出した。

空間が歪み、地獄から這い出た化け物共が地上に出現した。


猪、狗、狼、果ては蜘蛛や鳥までもが、化け物の様な大きさと見た目になって地上を突き進む。魔物は見た目はバラバラだが、全て目が赤いという共通点を持っていた。そしてその魔物どもは、自分を生み出した魔獣の行動原理を共に果たす為、最も近い人間の集団へ走り出した。



そしてその行動原理であり目的であるそれを達成するため、化け物は動き始める。

手始めに、帝都を破壊し始めた。


それぞれの頭が、別々の動きをする。



4つは、それぞれの口から火を、冷気を、雷を吐き出す。

 火が直撃した場所は焦土と化し、煉瓦すらも溶かして全てを無に帰した。破壊力ならば最も高いだろう。帝都の大半はこの頭によって壊滅させられた。

 冷気が当たった物体は、無機有機を問わず万物が氷像と化した。3次元的な攻撃範囲なら最も高いだろう。空を飛ぶ鳥すらも凍り付かせてしまう程。

 雷に当たった物体は、その電圧を以て内部の組織を全て破壊する。破壊力も攻撃範囲も低いが、その速さは生物が反応出来るそれを優に超えている。


そして残り5つの頭の内3つは、魔術陣を自らの周りに生み出し、そこからそれぞれ岩を、水を、風を生み出していた。

それぞれの攻撃能力は火や氷のそれよりは劣っているが、分発射口となる魔術陣を自在に出現させることが出来るからだろう、大量の射線を確保するそれらの頭は対人能力が極めて高い様に思えた。


そして、残りの二つの頭。

それらは、他の頭とは違い攻撃行動を取っていなかった。

白と黒のモノクロを創り出すその双頭は、司令塔の働きでもしているのだろうか。ただ他の頭達の破壊行動を見ているだけだった。



―――数分も経たない内に、帝都は灰燼と化した。


化け物――八岐大蛇の頭達に氷像にされ、灰にされ、溶かされ、押しつぶされ、吹き飛ばされた街は、もはや街の形を保っていなかった。

100年近い歴史を持つ世界最大の都市が、事実上消滅したのだ。


唯一残っているのは帝城のみ。


自分を生み出した存在魔王に危害を加えない為だろうか。果たしてあの化け物にそのような理性があるとは思えなかったが、或いは本能なのかもしれない。


ただ幸いな事に、人的被害は皆無と言って良いだろう。


自分のおかげ――いや、そもそもこの惨状は自分のせいなのだが――で、帝都に住民は残っていないからだ。帝城に残っていた人間は先に殺してあるし、つまり帝都に人間は一人も居ない。


――ここに居る大罪人共以外は。


目の前で繰り広げられる破壊行動を、エルはただ見つめていた。


ここは拷問部屋であるからして、窓などある筈もないのだが、何処かから降ってきた何かに壁が吹き飛ばされ、今は随分と見晴らしが良くなっていた。



何となく、顔に張り付いている仮面に手を掛ける。

誰にも顔を見せる訳にはいかなかったから、仮面を外すのは久ぶりだ。

文字通り顔の皮膚に張り付いてしまっているので、強引に引き千切る。


――今鏡でもあれば、気持ち悪い顔が見れたことだろう。

だが、引き千切られた顔は直ぐに元通りになった。

久しぶりに風が顔に当たる。


それと同時に、これまた久しぶりな感覚がした。

頭痛と気持ち悪さを感じる...



...あぁ、思い出した、これはした時の感覚だ。


八岐大蛇の吐き出した毒は、もはや生物が作り出していい有害さなど超えていたのだ。まさか核兵器モドキを使っていたとは思いもしなかった。



「...さて、化け物退治と行きますか」



なれば、あの化け物はここから動かしてはいけない。

自分一人では倒せないだろう。あの時は最大戦力でやっとだったのだ。


だが、時間稼ぎなら幾らでも出来る。

スキル、二つの遺物、莫大な魔力量、。呪いは解け、力を抑える枷は外してある。


――手札は全て揃った。


後ろで寝ている大罪人ライトは放置で構わない。



久しぶりに、全力を出してみよう。



「【我は大罪人――――】」











「...何だ、何なんだ、これは!?」



オリヴィアの悲鳴のようなその声は、そこに居る全員の気持ちを表していた。無理もない。何の前振れもなく、世界の色が変わったのだ。


だが、ただ一人魔術王のみが、何か心当たりがあるような表情を浮かべる。

苦悩と悲しみが入り混じった、寧ろそうであって欲しくないという願いすら籠った表情を。


何人もの人物が何か心当たりがあるのか、と尋ねようとしたが、その表情を見て言葉を引っ込めた。


――だが、そこには空気を読めない人物が一人居た。


「何だ、何か知っているのか?」


敗戦の将の癖して偉そうなこの男の名はヴァルター。

ヒロの言葉に乗って帝都脱出部隊と合流したのである。


魔術王は、その言葉にどう返事した物かと迷う。


―――内心から溢れ出る悲しみを押し込めながら。

人魔大戦の予言については知っているし、魔力の語源も知っている。

そして、それらの条件を満たす人物にも心当たりがあった。


ライト・スペンサーだろう。


魔術王は、ミアが人質となってしまったのではないかと考えていた。どういう経緯でミアがライトと行動を共にしたのかは分からないが、それでも浅い関係ではなかったのだろう。でなければ、ライトがわざわざ帝国の為に戦うとは思えなかった。


...そんなライトが絶望した理由。


それは、ミアの死か、それに近い何かなのではないか。



魔術王は、そんな心当たりがあったのだ。



「おい、何か知っているのか?」


魔術王は、この脳筋に自分の考えを言っても理解出来ないだろうと諦めた。


「おそらくそう時間が経たない内に化け物共が押し寄せて来るぞい」


投げやりながらも的確な言葉を言えるのは、やはり魔術王の知性故だろう。

そこに居る全員――ヴァルターは含まない――が、その言葉に表情を険しくする。


「ここで迎撃というのは?」


そう口にしたのはクリスティア。前線からサラを迎えるために移動してきたのだ。


「我々の任務は皇族の保護。敵の戦力が分からん以上それは合理的ではない」


険しい顔でそう断定したのは、王立騎士団団長。

彼もライトの事を考えているのだろうか、険しい表情の中には悲壮さが見え隠れしていた。


「...ここに居る戦力で勝てないのなら、それはもうこの世の終わりでは?」


呆れたようにそう呟いたのはミュラーだった。



確かに、彼の言っている事は間違っていない。




―――ここには、最高戦力が揃い踏みしていた。


魔術王、懲罰部隊、そして合流してきたヴァルターとミュラー、合衆王国第一王女クリスティア、果ては王立騎士団ロイヤル・ナイツに帝国の暗殺部隊まで居る。


帝都陥落の報を受け、脱出してきた皇族を保護するために全員駆り出されたのだ。


帝国、王国、合衆王国。三陣営すべての最高戦力がここに結集しており、成る程、或いはこの戦力ならばと考えるのも不思議ではない話だ。

常識的に考えれば、どんな敵だろうとも過剰戦力と言えるだろう。


だが、今回の敵は常識で計れない相手だった。


「貴様ら、気配を遮断出来るのだろう?偵察だ、行って来い」


困惑から立ち直ったオリヴィアがそう命令を出した。

命令された方であるカイらは迷うような素振りを見せ、互いに「お前が行けよ」と目線で訴える。カイとしては自分は行ってもいいのだが、ビアンカが心配なので離れたくない。ビアンカも同じ理由であり、残りの二人は単純に犬死にしたくなかっただけだった。


「...全員で行け。なに、敵を見つければ戻ってくればいいさ」


そんな様子を見かねたのか、オリヴィアがそう強く指示を出す。

帝国が負けた以上自分らに対する指揮権は王国軍に預けられており、その上位に属するオリヴィアの命令である。背ける訳もなく、彼らは渋々と言った表情でその姿を消した。


「...我々はこんな子供に苦戦していたのか」


そう溢すのは騎士団長。

成る程、確かにそう言ってしまうのも無理はないだろう。

大量の人員と自分達が出たにも関わらずその姿すら捉える事が出来なかった最強の暗殺者集団。それが先ほどの様な子供たちとは思ってもみなかったのだ。


「...やる事が多いな」


溜息を付きながらそう言ったのはミュラー。

彼はヴァルターとは違い上層部から信用――知性的な意味で――されているから、自然と持ちうる情報は多い。そして軍人としての地位も高い。戦後処理に忙殺される事間違いなしだろう――もっとも、生きて王国に辿り着くかは分からないが。


ミュラーはその勘で、割と今の状況が不味い事に気付いている。


そして、ここにいる人間は護衛対象である皇族を除きみな強者。程度に差はあれど、全員がミュラーのように危機感を抱いていた。




そして、数分後。




「ハァ...ハァッ...クソッ!!死にかけたぞッ!!」



気配遮断のスキルを持つ少年達が戻って来た。

尋常ではない疲れ具合に、そこに居た全員が警戒する。

確かに彼らは特別な移動手段を持ち合わせていないが、それでもこのように成る程追い込まれる事はあるのだろうか。仮に接敵したとしても場所を変えれば良いだけだろう。敵は彼らに気付けないのだから――――



「囲まれてるぞ...全方位からだ!」



成る程、だから逃げるのに苦戦したのか。


オリヴィアはそう納得すると同時に、その場で最高位の指揮権を持つ者として大きく声を張り上げた。


「円陣を組め!!最外周から王立騎士団ロイヤル・ナイツとヴァルター、懲罰部隊とクリスティア、そして魔術王とミュラー!!暗殺者どもは遊撃でもしておけ!!何としても皇族を守り切れ!!」



「「了解!!」」



―――そうして、戦いの緒は切って落とされた。





――――――――――――――――――――

前書きでも言いましたがしばらく修正作業で忙しくなるので、次の投稿は遅れるかもしれません。ではまた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る