第101話

あぁ^~、SAN値が回復するんじゃぁ^~


言ってみるもんだな(傲慢)

応援コメントにレビューの数々、本当にありがとうございます。おかげでまだまだ頑張れそうです。


ではどうぞ。今回は短めだぜ

――――――――――――――――――








「...はッ、何だよこれ」



魔術王がそれを発動した瞬間、自分中の魔力が無くなったのを感じた。完全に無の状態だ。とは言え、理由は分からないが魔力切れの症状はないが。

今発動された魔術の効果は対象の魔力を奪うモノだろうか。


...間違いなく、【理を破壊する者システム・クラッシャー】よりも強力だ。

あれは魔術の使用を制限するモノだが、対するこれは魔力そのものを奪い取ってしまう。まさか、こんな大魔術を一人で発動出来るとは思わなかった。


流石は魔術王、と言ったところだろうか。



「私は何も変わっていないぞフハハ!!」



――だが、流石に相性が悪いと言わざるを得ない。

ここに居るのは全員が遺物持ち。魔力が使えなくなったところでその最大の武器は変わらず使用可能なのだ。魔術やスキルとは違い、古代遺物はただ使うだけでは魔力を消費しない。


現に、あの脳筋は先程と変わらず魔術障壁を斬りまくってる。


これではただの現状維持...






――ゾワッ、と。鳥肌が立った。


その原因を考える前に、全力でその場から飛び退く。



それが功を奏したらしい。

突然目の前に現れた檻を視界に入れながら、そう一安心した。

全身から流れ出て来る冷や汗を意図して無視しながら、今起きた事を理解しようと頭を働かせる。

今の魔術、発動までのタイムラグが全くなかった。殆どとかほぼとかではなく、無かった...そう、ゼロだったのだ。


しかも見た限りかなり高度な魔術だった。


それをタイムラグゼロで発動させるなどいくら魔術王とて不可能なハズ。それが出来たのならさっきまで俺を無力化出来なかった事が説明出来ないからだ。

となれば、やはりこの謎は先程の【創造魔術】とやらが関わっているのだろう。

魔力の消滅と、魔術発動時間をゼロにする事。少なくともこの2つはその魔術の効果と見た方が良いだろう。


複数の効果を持ち合わせる魔術。

ならば、今の二つ以外にも何かある可能性が高いか。


「フハハハハハ手も足も出ないかフハハ!!」



...あれが、三つ目の効果か?


あまりにも出来の悪い脳みそのせいで気付いていないようだが、アイツはさっきから同じ魔術障壁を斬り続けている。

――つまり、一枚も突破出来ていない。明らかに創造魔術が発動される前と後で魔術障壁の硬度が跳ね上がっている。


魔術そのものの効果を上げる事も可能なのか。


未知数としか言いようがない。


と、そんなライトの思いをよそに、ヴァルターはやはり馬鹿の一つ覚えの様に魔術障壁に対して斬撃を繰り出していた。


「どうした、それでも魔術王か!!」

「...あんまり騒ぐでない。まだ耳が遠くなるほど衰えてはおらんぞ」


「何を――――カハッ!?」



そんな断末魔みたいな声を上げたヴァルターの胸から、何本もの槍が突き出ていた。

魔術発動に掛かるタイムラグが無くなる。それはつまり、こういう事も出来るという事なのだ。


俺の様になんらかの回復手段がないヤツが相手なら、この創造魔術は圧倒的な強さを誇るのだろう。ヴァルターが無警戒だったせいかもしれないが、警戒した所で防げるものではない。


分かっていた事だが...この魔術、滅茶苦茶厄介だ。



...逃げよう。やってられっか、勝負にすらならないぞこれ。


そもそも俺の目的は最初から撤退だったハズだ。ならば魔術王に付き合ってやる義理はない。ヴァルターに気を取られている内にこの場から身を引こう。


そう結論付けた俺は、血を吐きながら膝をつくヴァルターを横目に走り出す。

魔術で加速出来ないからだろう、その進みが酷く遅く感じた。

無意味かもしれないが、少しでも魔術の発動を予測するために魔術王からは目を離さないように―――だが、そこには魔術王は居なかった。


瞬き一つ。


そんな短時間とも言えないような一瞬の間に。


魔術王は、姿を消していた。




「逃がさんぞ」





そんな言葉が、前から聞こえて来た。


今度は何なんだ、と心の中で毒づきながらも、今するべき行動を模索する。


足を止めたらダメだ。速度を捨てたら集中砲火で消し飛ばされる。

このまま走るのは論外。どうせ罠が張り巡らされている。

スキルは使えない。正面突破も無理。


ならば、と死ぬ気で方向転換をする。


剣を地面に突き刺しながら、足の肉が千切れる音を無視して体の向きを変える。

やはり、と言うべきなのか、つい先ほどまで俺が居た場所とその前は、魔術によって一瞬で消し飛ばされていた。


一安心、と言う訳では無いが、これで言葉を吐く余裕は出来た。

先程の理解不能な現象――一瞬で魔術王が移動した事に対する、呆れと驚愕が混ざった様な言葉を。




「転移魔術...だと?」



学園だっただろうか、何処かで聞いた名前だ。曰く、どんな距離も一瞬で移動出来てしまう、文字通り空間転移を可能とする魔術。高度過ぎるし、そもそも莫大な魔力量が必要だったハズだ。

だが、今の魔術王の行動をそれ以外の言葉で表しようがない。



「良く知ってるではないか」


「...なぁ、創造魔術ってのは何なんだ」


「そうじゃな、ワシが開発した最強の魔術じゃ」


そんな事を聞いているのではない。

この埒外の魔術は、一体どういう原理で、どういう作用を齎すんだ。


そんな思いと共に強く睨みつけるが、やはり魔術王は飄々とした態度を崩さなかった。この会話自体が時間稼ぎだと分かっているのだろう。それでも付き合っているのは、強者としての余裕か。



「難易度、発動時間タイムラグ、消費魔力...己が魔術を行使する時、全ての障害は排除される。そういうモノじゃよ、これは」


絶句する。


なんだそれは。

魔力をも際限なく使えるという事は、文字通り無敵じゃないか。


継戦能力、瞬間火力、投射量、射程、防御力、機動力。戦闘という分野に於いて重要な要素を全て有しているのだ。誰であっても――あのエルでも、勝てるビジョンが思い浮かばない。


直接戦闘は無謀、逃げる事もまた無謀。



(クソ、詰んでやがる)


――と、思ったが。


ふと気づいた事があった。


魔術王は先程、【創造魔術】と言った。

その魔術自体は、大規模かつ超級のバフのような物だ。魔術の行使に於いて障害と成り得るモノは排除される。成る程、確かに無敵の様な魔術だ。

だが、それはつまり、創造魔術というバフそのものを実行するに当たって必要な魔力量は“魔術の行使に於ける障害”とはならないハズだ。


簡単に言えば、魔術を強化するバフを使ってもそのバフ自体にバフの効果は表れない、という事だ。


ならば或いは、継戦能力という一点にのみ創造魔術は弱点を抱えているのかもしれない。突くならそこしか――


「何やら考え込んでいるところ悪いがの」

「チッ」


あんまり長々思案するような時間はない、か。

そもそも時間稼ぎに徹すると言っても、俺に出来るのは必死に逃げ回る事だけだ。


覚悟を決めよう。


この剣はまだ使える。こと魔術処理能力に於いては最強の遺物は、まだその力を失っては居ない。ならば、俺にはまだ光明がある。

...最も、この場をやり過ごしたところで、その先にまともな未来が待っているとはこれっぽっちも思えないが。


それでも、俺に抗う力がある限り。


全力で、抗うしかないだろう。









「良く逃げおるわ!!いい加減諦めんかい!!」



ライトの体は、既にボロボロだった。


それでも、魔術の余波だけでボロボロになってしまう程、彼我の戦力はかけ離れていた。避けて、避けて、たまに聖剣で叩き切って、また避けて。

そんな事を繰り返している内に、ライトの体には着実にダメージを蓄積していた。

直撃弾はない。だが、魔術の余波だけでライトは吹き飛ばされ、火達磨になり、氷漬けにされる。

無理な回避運動のせいでもあるだろう。痛みという信号が伝わって来ないにも関わらず、ライトは自分の足はズタズタになっていると分かっていた。

靱帯損傷、断裂、それに捻挫。少なくとも、まともに歩けるような状態ではなかった。


それでもライトは動き続ける。止まったら、碌な事にならないと確信しているから。


そんなライトの耳が、遠くから何かが飛来する音を捉える。



―――ヒュゥゥゥウウ―――ッッガアアアァァンッ!!


鼓膜が破れる程の巨大な空気の振動。

比喩ではなく、ライトの鼓膜は破れた。瞬間、ライトの世界から音が消え失せる。


考えるまでもなく、もう一人の遺物持ちによるものだ。


先程から何本もの矢を飛ばしていたのだが、創造魔術によって強化された魔術障壁を破る事は終ぞ敵わなかった。だから方向性を変えたのだろう。


敢えて、爆音を響かせるように矢を放ったのだ。


――見上げると、同じように耳から血を流す魔術王が。


どうやら効果はあったらしい。



「この創造魔術にはもう一つ効果があっての...ワシが見てきた魔術は、ここではその全てが再現可能なんじゃよ」



――かつての聖女が使っていた魔術も含めて。


そんな言葉と共に、魔術王の耳から滴っていた血は止まった。



...前言撤回、やっぱり効果無かったわ。




















――――――――――――――――――

フォロワー999人...誰かあと一人くらいフォローしてくんねぇかな

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る