第100話 魔術の王
100話記念!!いいぃやっふううぅ!!
想定してたペースじゃないから全然喜べない!!
そして唐突に始まる回想パート!!
ではどーぞ
―――――――――――――――――――――
時の進みが、酷く遅く思えた。
何層もの魔術障壁を突き破りながら進んでくる矢。
掛け声とともに、こちらが放った魔術を切り裂きながら突貫してくるヴァルター。
呆然と立ち尽くすライト。
時の進みが、酷く遅く思えた。
「――――こちらも、そろそろ本気を出すとするかの」
〇
―――魔術とは、何だ?
火も、水も、雷も、土も。
万物を創り出す事が出来る、神の如き力。
だが不思議ではないか。
何故物質と魔力の変換が出来る。
何故魔力量には個人差がある。
何故魔術で作り出したものは直ぐに消えてしまう。
そもそも魔力とは何だ。
どこから来て、どうして人が扱える。
疑問が尽きなかった。
ただその疑問を解消したくて、神秘を追い求めたくて、真実を追求したかった。
魔術の研鑽と言い訳しながら、ただ人殺しの魔術のみを子に教え続ける様な家族は最初に捨てた。こんなのが魔術の名家なのか、と落胆した。
そこからは一人で研究を続けた。
魔術陣も戦う力も、その産物に過ぎない。
ただ、魔術の究明のみを使命として只管走り続けた。
...ただ、流石にそれだけでは生きていけなかった。
魔術を精霊に依る恩恵と定める教会の教えのせいだろう。私の努力と研究の成果は、異端として誰からも認められなかった。
そんな研究成果を誰かが買ってくれるハズもなく、雑草で飢えを凌ぎ、腐った水で喉を潤した。
何とか手に入れた金を持ち、町に食べ物を買いに出かけても、投げかけられるのは“異端者”の言葉のみ。
教会の異端審問官が押しかけて来るまでそう時間は掛からなかった。
――やってられっか。
私はキレた。盛大にキレた。
まだ何もしてねぇだろ、と。
その結果、精霊信仰の土台をぶち壊し、教会の神威を揺るがしかねない研究成果をネタにして教会を脅迫して保身。そして金の為に帝国との戦争に乱入。
訳も分からず困惑している帝国兵に無詠唱をブチ込んでいたら、いつの間にか魔術王という大層な渾名が付いていた。
今度はその戦果を元に王国上層部に掛け合い、多額の報酬金をぶん取った。
だが、私が手に入れたのはそれだけではなかった。
コネと人脈を手に入れた事で、研究が大きく進んだのだ。
これは良い、と味を占めた私は、賞金稼ぎの如き浅はかさで戦場を駆け回った。
そんな中、とある少女に出会った。
第一印象は最悪だった。
とある戦場で出会った、如何にも高貴そうな法衣を纏った聖職者らしき少女。
バカから吸い取った金で買った服の着心地はどうだ?と煽りながら何時もの様にガンを飛ばした。
今になって考えれば良く分かる事だが、そもそも高位かつ女性の、それも戦場に居る聖職者となると一人しかいないではないか。
そう、聖女だ。
しかもタイミングも最悪だった様で、つい先ほど自らの力で救えなかった兵士を看取ったらしい。そこに調子に乗った若者が先ほどの様な文言と共に突っかかって来たのだ。彼女はキレた。
始めて死の恐怖を感じた。
なりふり構わず喧嘩を売るのは止めよう、と思った。
そして、もうあの女には関わらないでいよう――とも。
とは言え、最前線で戦うとなれば、やはり戦場を共にする事は避けられない訳で。結局、数えきれないほどの死線を共に潜り抜けた。
彼女の、色んな姿を見た。
――聖女の癖に変に抜けていて、加護があるからと魔力でゴリ押しするその戦い方に頭を抱えて、魔力の使い方を教えてやって。
えへへ、とやはりどこか抜けた笑顔でありがとうと言ってくる彼女に、何故かどうしようもないくらい心を揺さぶられて。
――私が罠に嵌って死にかけた時、必死に治療する聖女の焦り具合があまりにも酷くて。なんとか生き残った私が、そんな彼女の姿を揶揄ってやろうと口を開けば。
『貴方に死んで欲しくなかったから』と真剣な顔で告げられ、何故かこちらが赤面する羽目になって。
――力及ばず、救う事が出来ない兵士。悔しくて堪らないハズで、現に彼女の手は強く握り締められていて。なのに、死に向かおうとする兵士に向ける顔は、酷く穏やかで。
神の御加護がありますように、そんな優しい言葉を投げかけられた兵士は、穏やかな笑みを浮かべながら死んだ。
『教会もそう悪い物ではないのだな』
思わず、そう口にしていた。
私は教会を――いや、宗教と言うモノを嫌っていたのだ。非倫理的。実験も検証もせず、大昔の言葉を未だに信じ続ける馬鹿どもの集まり。そんな風に、思っていた。
『うん。理由はなんでもいいの...ただ、人が最期の時を怯えなくて済むのなら、それは素晴らしい事だと思う』
彼女の言う通りだ。
信じる根拠もない。理由もない。
ただ、信じたいから信じる。
それだけで、救われる人は確かに居るのだろう。
今、聖女の腕の中で死んだ兵士の様に。
その兵士に向ける顔は、慈しみに満ちていて。
やはりその横顔に、どうしても心が揺さぶられた。
あぁ、認めようとも。
――私は、彼女に恋をしていた。
理屈ばかり追い求める私とは違って、非合理で非論理的で、それでいて輝いているかのように見える彼女。自分とは正反対だったが、だからこそ惹かれた。
おそらく、多分、勘違いじゃなければ...いや、もしかしたら彼女も私の事が好きだったのかもしれない。
それでも、互いに言い出せなくて。
そんな風に戦場を駆け回っている内に、その時はやって来た。
酷い戦場だった。
確か、何処かの城塞都市の攻略戦だった気がする。
死守命令が出ていたのだろう。どんなに攻撃しようとも敵は諦めず、町に火を掛けてまで抵抗してきた。
焼け落ちる街。
悲鳴を上げる人々。
断末魔と怒号を響かせる兵士達。
そんな中、必死に救助活動を続ける聖女の護衛が私の役目だった。
だが、敵にとって聖女は厄介な戦力。何としてでも排除せんとばかりに襲い掛かってきた。決死の覚悟で挑んでくる彼らに、まだ若かった私は苦戦した。
だが、それでも人は一人も通さなかった。
――人以外の物は、通してしまったが。
やっとの思いで敵を退けた私が振り向くと、そこには変わらず救助活動をしている聖女が居て。何とか守りきれた、と。そう安心した瞬間だった。
はるか遠くから狙い澄まされた一本の矢が、彼女の胸を穿った。
ガラガラと、何かが崩れ落ちた気がして。彼女の胸から零れ落ちる血が、失われていく彼女の命そのものの様に思えて。必死に助けようとした。
それでも、長く救命活動をしていた彼女だから分かってしまったのだろう。
自分は、助からないと。
『認めない...認めてなるものか!私は、まだ君に何もしていないというのに!』
酷い憔悴気味だったのだろう、かつて負傷した私を治していた彼女のような表情を、私はしていた。
あの時の事は、今も覚えている。
鮮明に、一言一句違わず。
あの時の彼女の表情も、情景も、濃密な死の香りも。
『ねぇ...聞いて?』
『あぁ、聞くとも!何度でも、何回でも、何時間でも話を聞いてやるとも!!だから死ぬな!話はそれから―――』
『おねがい』
『...くッ...あ、あぁ...良いとも。』
救えない事が悔しくて。
何もできない事が歯痒くて。
多分、彼女はこんな気持ちを何度も抱えてきたのだろう、とも思った。
『君はさ...私が居なくなったら、研究ばっかりするんでしょ?』
『...あぁ、それこそ私の本懐だからな』
『うん。でもさ、人の心を、温かみを、愛を。知って欲しいんだ、君に』
『知っているとも、既に!』
...それは、君が、君こそが教えてくれたんじゃないか!!
『ううん。君はまだ知らない...だからさ、研究は、愛を本当に知るまでダメだよ』
彼女は分かっていたのだろう。
自分の中で、いつの間にか大きな、大切な存在になっていた彼女が失われた時。唯一残った魔術の究明のみに明け暮れ、人としての生き方を捨ててしまう事を。
事実、彼女の言葉がなければそうなっていたのは明白だった。
『...じゃあね』
『待ってくれ、どういう意味なんだ!私は何をすればいいんだ!何も分からないじゃないか...!!』
『――――私は、貴方を愛してるよ』
そう言って、彼女は死んだ。
そこからは、ただただ失意の年月が過ぎるのみだった。
研究に没頭して彼女の事を忘れようとした。
でも、魔術陣を見るたびに、ペンを手に持つ度に。
彼女の言葉がフラッシュバックして、何もできなかった。
その現実から逃げるように、戦場をフラフラとしていた。
敵を襲うでもなく、ただ、フラフラ、フラフラと。
亡霊か幽鬼の様に、ただ彷徨っていた。
―――そんな時、あの娘に出会った。
戦場で命を落としかけていた少女。
それだけなら何処にでも居るだろう。
きっと、自分が敵を殺すたびに、帝国を追い詰めるたびに。
この様な少女が、出てきたのだろう。
そんな私が、今更の様に人助けをするのか。
非合理的だ。非倫理的だ。
だが、そういえば愛と言うのもそうであった気がする。
そんな意味不明な思いを元に、彼女を育てる事にした。
名前はミア。あまりにも安直過ぎると思ったが、それ以外ないような気もした。
かつて失ってしまった、聖女の名だ。
そこからは、激動の日々だった。
まず子育ての仕方など知らない。
方々に駆け回って助けを求め、研究に必要な物以外何もない家から引っ越した。
ミアの病について知った。
死なせて堪るかと、彼女の病気と対処法について死ぬ気で研究した。
――そして、彼女の容態がマシになり、10歳を超えた頃。
荒んだ心はいつの間にか癒えていて、研究もいつの間にか出来るようになっていた。
ミアと一緒に居ると、我が子の様に思えてきて。
胸から、涙と一緒にこみあげて来るものがあった。
――あぁ、これが愛なんだな、と。魔術王は、遂に人の心を知った。
そんなこんなで過ごしている内に、口調も私からワシになって、魔術師らしい古風な話し方をするようになって。
満たされた暮らしをしながら、それでいて研究も順調に進んでいた。
目指していたのは、魔術の最奥。
真理を、真実を、頂点を、最奥を、真髄を。
ただただ、追い求めた。
―――――――そして、それは成った。
〇
「【我は魔術王】」
その一言で、ヴァルター達は動けなくなった。
威圧感、とでも言うのだろうか。
アリが像を見上げるように、人が広大な自然に畏怖する様に。
はっと、動きを止めさせられた。
「【過ぎ去りし日々の中に魔術の精髄を刻み、歳月を魔術の研鑽に捧げし者】」
この時、世界は知る。
「【魔法陣の輪を織り成せ。魔法陣の輪舞が始まる】」
「【変容せよ、範囲よ、新たな現実へと舞い踊れ】」
「【空よりも高く、太陽よりも輝く力をこの手に】」
――魔術の、最奥を。
「【
―――――――――――――――――――――
筆が乗りまくった。
ほんとはこんなに掘り下げる予定はなかったんだがなぁ...
というより、僕って登場人物の回想とか多いですかね?レオ、テオ、魔術王とか。
物語の本筋と関係ない話はあんまりしない方が良いのかなぁ...
コメントくれ。俺の精神安定の為にも(一カ月☆が増えていない末期作者)
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