第99話
投稿遅れました...いや、遅れてるのか?なんか自分で決めたペースよりは遅いけど週一投稿は守れてるから良いのか(良くない)?
あと、直ぐ修正したけど前話に間違えてサブタイトルつけてしまった。
ではどーぞ
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「ふむ、お主の父に比べればまだまだ拙いが...」
やはり才能はあるようじゃの、と嘆息したように呟く魔術王。
未だこちらを侮っているとしか思えないその姿。
だが実際、この力だけで魔術王を打倒する事は出来ないのもまた事実。
――いや、正確には。
実はライトの理性は、この力があれば魔術王に打ち勝つ事が出来ると訴えていた。
圧倒的な対魔術能力を誇るアスカロン。ある程度とは言えその本領を引き出している今、魔術以外の攻撃手段がない目の前の相手は容易い。
そう、理論的かつ納得出来る考えを元に、理性は仕掛けるべきだと訴えかけている。
では、何故そうしないのか。
それは、理性ではない――本能、或いは直感と言った部分が、ライトを警戒させていた。
であるからして、ライトにとって自分から勝負を仕掛けるというのは論外。
となれば、撤退のみがライトにとって唯一残された道であった。
先程も述べたように、この聖剣アスカロンは対魔術に優れた遺物。背中を見せでもしない限り、殆どの魔術に対応可能だろう。よってライトが取る具体的な作戦は、相手の魔術の対応をしながらゆっくりと後退というモノだ。
だが、そんなライトの作戦など一瞬で見破られたらしく――
「...成る程。ではこちらから仕掛けるとするかの」
やはりそうなるか、と舌打ちしながら飛び退くライト。
そしてその数瞬後、聞くだけで鳥肌が立つような音を立てながら飛んできた魔術が着弾。轟音と共に土煙が舞う。
しかし安心する暇もなく飛んでくる魔術。
濃密な――それでいて精密な――弾幕がライトの身を包み込む。
1秒でもその場に留まればやられるし、かと言って闇雲に避ければそこには既に魔術が放たれている。
最も弾幕の薄い場所へ避けつつ、それでも自分の体へと殺到する魔術を切り裂く。
とは言え、あの魔術王の弾幕に隙があるのはそもそも不自然な話だ。
自分は間違いなく誘導されている。
その誘導に従い続けるのは危険と判断し、時に弾幕に突っ込む様にしてその誘導から外れる。一瞬で体がズタズタにされるが、それは証で対処。
――今の様に、証で治せるなら弾幕を避ける必要はあるのかと思った事もある。
だがいかにタイムラグ無しで体を元通りに出来るこの証でも、魔術王相手では流石に分が悪いらしい。発動した瞬間に魔術が飛んでくる様ではキリがないし。そうしていたちごっこをしている間に魔術で拘束されたらこちらの敗北だ。
ちなみに、これは相手の誘導通りに行動しない理由でもある。
魔術で自分を拘束出来るとは思えなかったが、魔術王が相手となれば話は別だ。
――と、思案している間にも戦いは続いている。
およそ100歩。魔術で吹き飛ばされたり吹き飛んだりしているからだろう。思ったよりも後退出来ている。
順調だ。このまま行けばいずれ魔術王も諦めるだろう――
だが、人はそれを油断と言う。
「さて、話は後で聞かせて貰おう」
「チッ―――ッ!?」
飛来する巨大な火の塊。
それを避けようと魔術で自らの体を吹き飛ばしたライト。
風魔術で自分を吹き飛ばした際に生じる衝撃。それは良い。予想出来たことだ。
だが、その直後に襲い掛かる強い衝撃が、ライトを困惑させた。
全身の骨が粉々になるのを自覚しながら、何とか振り向くと――そこには、壁があった。簡単な事だ。ライトが避ける先を予測して魔術で壁を作ったまでの事。
そんな簡単な罠に、ライトは嵌ってしまったのだ。
「ク...ソッ!?」
あまりにも大きすぎる隙。
それを魔術王が見逃すハズもなく、魔術の弾幕がライトを破壊し続ける。
再生、破壊、再生、破壊。
果てしなく続けられるそのスパイラルによって、ライトはいずれ視界を失った。
耳元――と言うか体を直撃する魔術の爆音によって聴力すらも一時的に失われ、ライトは自分の周りを知覚する事が出来なくなる。
痛覚すら感じないライトに残っている五感は、嗅覚と味覚。そんな物で外界を認識出来る訳などなく、ライトは自分が暗闇に飲まれたような錯覚に陥る。
途端、襲い掛かって来る
その恐怖と混乱によって、ライトは前後不覚になる。
自分が自分である、自分の存在を証明する一切が失われた今、ライトは自分が生きているのか死んでいるのかすら分からなくなった。
恐い。
と、ただそう思った。
死ぬのが恐いわけじゃない。
何もかも分からなくなって、何が分からなくなったのかも分からなくて。
――ライトは、そこで一度気を失った。
〇
と、ライトがそんな事になっているとは露知らず、魔術王はライトの体を破壊しながらも彼を捕縛する準備を進めていた。
その魔術の基本となるのは、土魔術。
檻の形をした檻を生成する事で対象を封じ込める魔術だ。
戦場などで発生する捕虜を閉じ込めておくのによく使われる程度の魔術だが、それも魔術王の手にかかればライトを拘束する事も可能なレベルの魔術に昇華する。
檻そのものの頑強性の向上、対象者の魔術を分解、魔力として吸収し対象者への攻撃として放出。
内側からの攻撃に鉄壁の防御を誇る、魔術王が開発した捕縛用の魔術だった。
それが、ライトを包み込む様に展開する。
―――そして、それは閉じられた。
「手間をかかせおって...とはいえ、これで一安心じゃの」
後は王国軍の方へ戻るだけ。
そう安堵しながら移動を開始する魔術王。ライトを閉じ込めているその檻も、当たり前の様に浮遊しながら魔術王に追随する。
こうして、ライトは捕らえられた。
―――極、短時間ではあったが。
〇
魔術王、王立騎士団、剣聖、聖女。
これらの戦力がありながら、帝国が決定的な敗北を喫しなかったのは何故か。
それを説明するには、二人の人物について言及する必要がある。
ヴァルター・ハイドリヒ、魔剣ジュワーズの所持者。
そしてもう一人の遺物所持者である、ミュラー・ヴァン・アルテンブルク。遺物、フェイルノートの所持者だ。
絶対耐久のヴァルターと遠距離では敵なしのミュラー。
この二人が居る事で、王国の最高戦力達は帝国に勝てなかった。
では、そんなミュラーが戦場に居なかったのは何故かと言うと。
実は、ライトと懲罰部隊が戦っている時に魔術王が居なかったのは魔術王がエアリスと戦っていたからだ。
しかし、懲罰部隊の不利を悟った魔術王が魔術により一瞬で彼らの元に辿り着いたのに対し、特別な移動手段を持ち合わせていないミュラーが戦場に到着するのには時間が必要だった。
そして、その時間が過ぎたというだけである。
そこまで考えた魔術王は、にしても、という言葉と共に再び溜息をつく。
「...タイミングというモンがあるじゃろ」
そんな彼の視線の先には、見るも無残な姿に破壊された檻があった。
考えるまでもない。あの遺物でやられたのだ。
魔術王にとって、ミュラーは最も厄介な敵であった。
彼の持つフェイルノートは唯一遠距離攻撃が可能な遺物。魔術障壁をも突き破り、魔術王ですら全力でなければ防ぐ事すら出来ない必殺の矢。
回避は無意味。矢は意志を持っているかの如く追尾してくる。
迎撃も不可能。魔術の干渉を拒絶するという遺物の特性がある。
となれば、やはり魔術王に出来るのは防御のみ。
何重にも張り巡らせた強固な障壁のみが、魔術王はその脅威の矢から身を守る事の出来る手段だった。
そんな魔術王には人間より明らかに大きい被弾面積を持つ檻を守れるハズもなく、この状況へと繋がったのだ。
「我を忘れて貰ったら困るぞ!!」
――と、そこに更に面倒くさいヤツが転がり込んできた。
姿が見えないから別の戦線に行ってるかと思えば、コイツまでここに居るとは。
「【魔剣よ我が手に!!】」
その詠唱から間髪入れずに斬りかかって来る、もう一人の遺物所持者。
それを何とか防ぐ――が、ふと違和感に気付いた。
「...なんじゃ、随分と重症ではないか」
今も脳筋の様に――というか実際脳筋なのだが――魔術障壁を斬りまくってるヴァルター。だが、その体には大きな傷があった。
肩口から脇腹にかけて、大きく切り裂かれている。常人なら数分と持たず死ぬような大怪我であったが、そんな傷で死ぬ様なら魔術王もここまで苦労していない。
だが、にしても不自然だ。
誰がそれをやったのかという点に於いて、魔術王は全く見当がつかなかった。
傷口から見て、下手人が優れた剣の使い手というのは分かった。だが、奇襲ではなく、真正面からヴァルターを切り裂けるほどの使い手となると流石に分からない。
剣聖は既に死し、ライトは囚われの身。王立騎士団も別の戦場に居る筈。
その疑問を解消しようと、自らの証で答えを求める魔術王。
ただ単に、【ヴァルターを斬ったのは誰か】と問えば、いつもの様に答えが返ってくるだろう。
――だがおかしな事に
ワシもついにボケたか?
「うむ!なんか良く分からんヤツに押し負けてなッ!」
...と、怪我を負った本人はあまり気にした様子ではなかったが。
となれば、それは今自分が気にすべき事ではないのだろう。
「そんな事より起きろ罪人!いつまでも寝てるなッ!」
苛立ちを露わにしながら叫ぶヴァルター。
しばらくは何の反応もしなかったライトだが、壊れた檻の破片が自身の体に当たった衝撃で目を覚ました。
しばらく複雑な表情を浮かべるライトだったが、やがて諦めたように立ち上がり再び剣を握る。
事ここに至って、魔術王はその状況の不味さに気付いた。
(これ、割と詰んでるんじゃが...?)
古代遺物持ちが3人。味方はゼロ。
大分、結構、いやかなり不味い状況だった。
―――――――――――――――――――――――
言い忘れてたけど、明けましておめでとうございます!!
紅白見てなかったから年末感がなかった。
中々濃い1年でしたが、2024も頑張っていく所存であります。
今年もよろしこ!!
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