第97話
3日ぶりですね、投稿遅れてすんません。
理由は特にないです()
ではどうぞ
―――――――――――――――――――――
――あぁ、俺はまた罪を重ねるのか。
絶望の表情を浮かべるサラと目を見ながら、ライトはそんな事を考えた。
ライトにとって、ミアは大切な存在だ。自分の命なんかとは比べるまでもない程に。
...だが、懲罰部隊の全員――勿論、サラも含めて――と比べる事は出来なかった。
何もしなければミアは殺されてしまう。だが、だからと言って皆を手に掛けることだって出来ない。これ以上、罪を重ねたくない。
でも無理だ。
こんな状況になってしまった以上、ライトにはどうする事も出来なかった。
「ライト...なんで、何でなの?」
サラが縋るようにそう言った。その様子を見て、思わず歯噛みしてしまう。
答えて、何になるというのだ。
「――何でだろうなぁ...」
自分を縛っていた拘束具はもう全て外されている。
ずっと拘束されていたせいだろうか、手首に違和感がある。これではまともに剣も振れないなと考えながら、ライトは近くに落ちていた剣を拾う。
もう、どうでもいい。判断出来る訳がない。
ミアもサラも、どちらも大切な存在だ。かけがえのない存在なんだ。
だから、決めた。
「【ヘルファイア】」
「――ライト!?答えてよ!」
「もう良い!!堕ちる所まで堕ちたな、隊長!!」
放った魔術を搔い潜って、何人かの隊員が斬りかかって来る。
迫りくる白刃。
それを、ただぼんやりと眺める。
――そうだ、これでいい。
これ以上罪を重ねてしまう前に、彼らの手で、死のう―――
『死ぬな』
その瞬間、レオの幻影が目に映った。
自分の手で、間違いなく殺したレオが、俺にそう語り掛けてくる。
あぁ、これもダメなのか。
これすらも、許されないのか。
そう思う間もなく、体が勝手に動いた。
「ッ!?」
目の前まで迫っていた剣を、間一髪で弾き飛ばした。
手に持った剣を投げ捨てながら、知るはずもない言葉を口にする。
「【思い邪なる者に災いあれ】」
次の瞬間、手には聖剣が握られていた。
だが、それは光っていない。あの昏い、不気味な光すらも、発していなかった。
――当たり前だ。彼らを、敵として認める事など出来ないのだから。
聖剣アスカロンは、自分が敵と認識した相手にのみ、その本領を発揮する。
それでも、少しだけ力が湧いてくる。
自分から死にに行けないのは分かった。
だが、全力の殺し合いの末に死んでしまうなら、しょうがないだろう。
だから――
「全力で来い」
全力で戦って、全力で殺しあって。
願わくば、その戦いの末に死があらん事を。
〇
「せめて説明くらいしたらどうなんだ!!」
隊員の一人であるフランクが、そう叫びながら斬りかかって来た。
それを簡単に弾きながら、全力で首を下げる。
その瞬間――――ヒュゥンッッ、と。空気を切り裂く音がした。
ハハ、と。思わず笑みがこぼれてしまう。
「そうだ、それで良いんだ」
今の、間違いなく俺を殺そうとしてきた。
その事実が、どうしようもなく嬉しい。
「俺を殺して見せろ、テオ!!」
隊員の魔術や武器に気を向けなければならない状態での不可視の攻撃。
テオの
だが、だからこそ俺を殺す事が出来るかもしれない。
「――フッ!!」
「...は、ハハハ!!」
と、考える暇すらも与えずに、例の双子が斬りかかって来る。
クルトとフランク。クルトはともかく、フランクの剣には迷いがある。
だが、それでも十分強い。
互いの弱点と隙を庇いながら堅実に剣を振る彼らは、やはり両腕になった状態の俺でも手強い相手だ。
それでも、聖剣の力すら持つ今の俺よりは、間違いなく弱かったが。
「クソが...!」
「チッ、接近戦じゃ敵わないか」
違いに考えている事すら分かるのか、言葉を交わす事もなく距離を取る二人。
それを追おうと一歩踏み出した瞬間、再び嫌な予感がした。
その予感のままアスカロンを背中にやると、その瞬間響き渡る金属音。
やはりテオが狙って来たようだ、とライトはヒヤリと――いや、テオの隙を見逃さないその手口に、やはり彼なら俺を殺せると期待を抱く。
「離れろ!!」
と、その時。今まで無言を貫いていたリアムが口を開いた。となると、間違いなくアレが飛んでくるという事だ。
アレを喰らったら、俺は跡形もなく消し飛ぶだろう。
...やはり認識が呪い――レオの遺した
勿論、彼の意志とは関係なく。
そして、響き渡る爆音。
心臓すらも揺らすようなその衝撃は、天から降ってきた金属片によって齎された。
巨大なクレーターと土煙を作り出したその攻撃に、やはり懲罰部隊は強いな、と何処か自虐的に笑った。全力でやらなければ、俺は死ぬだろう――
――いや、ダメだ、ダメだダメだダメだ。
認識が...俺を殺しうる、それによって俺は死ねるという認識が呪いの発動条件なんだ。なら、全力で戦わないと死ぬ、と。そう認識してしまったら―――
全力で、戦う事になってしまう。
〇
「――あぁ、やはりダメなのか」
ボロボロになった仲間たちを眺めながら、ライトはそんな言葉を溢す。
全力を出して始めた彼を、懲罰部隊は止める事が出来なかった。
そうなってしまった原因は幾つかある。
レオもライトも、指揮出来るような人間が一人もいなかった事。
サラを含め、何人かの隊員がライトに対して全力を出せなかった事。
そして、当初よりその数を減らしてしまったこと――具体的には、たったの20人しかいなかった事だろう。
魔術は防がれ、接近戦に持ち込んでもライトの剣術に阻まれ、それらを掻い潜ってやっとつけた傷も、
それでも、懲罰部隊に死者は出ていなかった。
もし、「殺さなければ俺がやられる」と認識していればそうはならなかっただろう。
つまり、殺すまでもなかった、という事だ。
「何で...何で...!!」
サラは、もう泣きそうな顔をしていた。
「何で...そんな悲しそうに泣いているのに戦うの!?」
自分の顔に手をやる。あぁ、確かに泣いているみたいだ。何で泣いているんだろうな、俺も良く分からない。
「お願い、そんな顔をしてまで戦う理由を教えて?私はライトの味方だから、何があってもライトの味方だから...!」
言ったところで、どうにもならないんだ。
そう、諦めきっていた心に。一筋の光が差し込んだ気がした。
もしかしたら、皆なら。
ミアを助ける事が出来るかもしれない。
そうすれば、俺は戦わずに――――
「だから話して、ライ―――」
プツッ、と。
全ての音が途絶えた。
何かを言いかけていたサラは、その表情のまま銅像か何かのように固まり。
まるで世界が止まったようで、ライトの頭は混乱の渦に叩き込まれた。
何だ、何が起きている。
これはどういう――
「殺す気で戦えって、言ったよね?」
まさか、コイツ。
――止められるのか、時間を。
「困るんだよ。君に希望を持たれちゃ」
目の前にたたずむ
呆然としているライトを横目にも入れず、散歩でもするようにゆっくりと。
それはやがて、微動だにしないサラの元に辿り着き。
「別に良いんだよ?両方殺しても」
サラの首に、手を掛けた。
愛しむ様に、悲しそうに...それでいて、殺意を迸らせながら。
「...なぁ、何がしたいんだよ。何が、何を...何でなんだッ!?」
ライトのその叫びは、悲痛に満ちていた。
そう、端から、ライトに選択肢などなかったのだ。
判断をしなければ二人とも死ぬことになり、決断した所でそれが一人になるだけ。
――だから、ライトは叫んだ。
止めてくれ、と。何でこんなことをするんだ、と。
心臓を握りつぶされるかのような痛みを込めて、エルにそう問うた。
「内緒」
「ふざけるな...!」
あぁ、コイツは今、どんな表情を浮かべているのだろうか。
仮面から覗くその目は、醜く歪んでいる。
「あぁ、そうだ、こうすればいい」
やはり無理だ。自分には判断出来ない。ミアも、サラも。両方とも見捨てること何て出来る訳がない。
だから、一つだけ。
二人とも救う事が出来る、一つだけの方法を。
いま、ここでやるしかない。
――コイツは、敵だ。
「【聖剣よ】」
だから―――力を寄越せ。
「【思い邪なる者に災いあれ】」
〇
分かってる。
今の俺じゃコイツには敵わない。
全力で戦っても、勝てるビジョンが一つも思い浮かばない。
それでも。
やるしかないんだ。
――たった一つの、残された道なのだから。
魔術は無駄。
相手は無詠唱も使えるし、魔術量も負けている。というか単独で【
ならば勝機は一つ、接近戦のみ。
単純な剣の腕では負けているが、こちらは
だが、これしかない。
生まれてからずっと振り続けてきた、唯一信頼出来る剣。
それのみが、俺の勝機だ。
「ああぁッ!!」
聖剣から溢れて来る力をそのままに、全力で剣を振る。
上段からの振り下ろし。
何の変哲もないそれだったが、周りからの期待に応えるために研鑽を続けたその剣は、聖剣の加護もあって、尋常ではない速さを生み出す。
それは、ライトの人生で今までに振った、どんな一振りよりも速く、鋭く、洗練されていた。
「...何故無駄だと分からないッ!!」
だが、それは簡単に防がれる。
その目に、ありありと怒りを浮かべながら。
そして、ライトの剣を防ぐために上に構えたそれを逸らし、そのままライトの体へと一閃。
内臓まで容易く切り裂いたそれは明らかに致命傷であったが、ライトにとって即死以外の攻撃は全てないも同然だった。
ライトは眉を顰める事もなく――実際、彼に痛覚は感じなかっただけなのだが――その傷を
だが、対するエルはそれを事前に知っていたかの様に体を逸らすだけで回避。
ライトは次に来る攻撃に備えて防御の姿勢に入るが――
その瞬間、目の前が赤くなった。
炎よりも血の色に近い深紅。万物を溶かしてしまうようなその魔術は、ライトがよく使う【ヘルファイア】であった。
こんな近距離で使っていい魔術じゃないだろ。と心の中で愚痴る間にもそれはライトの体へと殺到し、やがて皮膚を溶かし始める。
しかし、このままでは死ぬと認識した事により
だが、そんな隙を目の前の敵が見逃すはずもなく。
「...カハッ!?」
背中に衝撃が走る。
一瞬で体の感覚が無くなった。
確認するまでもなく、自分の脊椎がやられたことに気が付いた。
肺も肋骨も――というか、胸から下と上で両断されてる。
普通ならほぼ即死。1秒と経たず意識が消え失せ、そのまま地に倒れ伏すほどの致命傷。しかし、コンマ数秒たりとも意識があるならば、ライトに決して死は訪れない。
最も、今のライトは考える時間を与えず脳みそを損壊させれば即死するのだが。
それを知っていながらあえて体の両断程度で済ませたエルはやはり、ライトを死なせないように戦っている。
そう、先ほどのライトと懲罰部隊との戦いのように――手加減されている。
「面倒くさいなぁマジで...!!」
そう愚痴りながらも、エルは手を止めなかった。
頭以外のあらゆる器官を切り裂き、燃やし、潰す。
その度に治して襲い掛かって来るライトに、エル更に苛立ちを抱えた。
分かっててもウザいのはウザいんだよ、と意味不明な愚痴を呟く。
もう何度目か分からない
殆ど自棄になりながら、ライトはエルに斬りかかる。
「ああああああああああッ!!」
―――しかし、最初から勝ち目のない戦いであった。
エルはライトがどのように行動するのか既に知っているし、そもそもライトには何のアドバンテージも存在しない。
経験、知識、剣術、魔術、魔力量、
戦闘に関するあらゆる項目に於いて、ライトはエルに劣っているのだ。
仮に奇跡が起きてエルに一太刀浴びせたところで、結局それも無かった事にされる。
だから、ライトが敗北するのは既に決まっていた事だった。
〇
「クソ、クソ、クソクソクソッ!何で、何故、何でだ!?」
ライトは地に倒れ込みながら、強く地面を殴りつける。
どう足掻いても、やはり自分の選択肢などない事が、どうしようもなくライトを絶望の淵に叩き落す。
「だから言ったろ?無駄だってさ」
――だから、さっさと決めろ。
両方か、片方か。
〇
ふと、違和感を感じた。
まるで、瞬きした間に、目の前の景色が変わってしまったような。
サラは知る由もないが、それは的を射た表現だった。
止められた時間の中で壮絶な――一方的とも言えるが――戦いが行われていたなど露知らず、サラはその違和感の正体を探そうとするが。
「ライト...?」
そうするまでもなく、目の前に居たライトと目が合う。
何故一瞬で目の前に現れたのか。そんな当たり前の疑問すら、浮かばなかった。
「話す事すら、出来ないの...?」
怒りか、悲しみか...いや、多分その両方を、彼はその目にありありと浮かべている。
振るえる手で剣を持ち、ゆっくりとこちらに近付いているその姿を見れば。
彼が何をしようとしているのかは、分かった。
しかし、サラは逃げるでも戦うでもなく、ただ悲しそうな顔をする。
何も話してくれないライトに対してか、それともライトがこれから犯そうとしている罪の大きさ故か。
そうして目の前に来たライトの手は、やはり震えていた。
絶望、悲嘆、憤怒。
そんな言葉じゃ表せないような、痛々しい感情。
それがありありと見て取れた。
「...分からない、何も分からないよ。ライト...!」
「...すまない」
もうライトの心はぐちゃぐちゃだった。
エルに脅されて、死ぬ気で戦って、なのに手も足も出なくて。
結局、俺は罪を犯す事になるのか。
涙を浮かばせたサラの目を見てられなくて、視線を外した。
でもその外した視線の先には、こちらを睨みつける隊員と、絶望しきった顔を浮かべる隊員達がいて。
もうどうしようもないくらい、皆と俺の間に壁がある事を思い知って。
諦めるように、呪うように。
ライトは、剣を振りかぶった。
「...自分を責めないでね、ライト」
そんなサラの言葉も、耳に蓋をするように無視して。
ライトは、剣を振り下ろした。
―――――――――――――――――
以下エルさんの情報
・剣聖以上の剣の使い手だよ!
・懲罰部隊全員以上の魔力量を持ってるよ!
・無詠唱魔術が使えるよ!
・ダメージ無効だよ!
・相手の動きは全部知ってるよ!
・時間停止出来るよ!
たまげたなぁ...
まぁ当然カラクリはあるんですけどね、ハイ。
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