第96話

メリークリスマス!!!

今日で一周年ですね。初期から読んでくれている方、本当にありがとうございます。

これからも是非長い目で見てやってください。


間に合えばなんでもいいやってなったので滅茶苦茶短いです。これでもオールしてまで書いたんだぜ...


ではどーぞ。ヒロイン視点です。

――――――――――――――――――





「奇襲?このタイミングで?」


それはサラに取って理解しがたい作戦であった。

王国連合は数の上では圧倒的に勝っているのだ。奇襲作戦など、そんな数の利を消してしまうような作戦だ。


「あぁ、例の少年が敵の中に居ると見ていいだろう。重傷を負わせたはずの敵が復活していたと報告が出ている...アイツは聖女というアドバンテージを消しうるほどに厄介だ。何かしらの対処はしなければならない―――殺すか、捕虜にするか」


サァ...と、血の気が引いていくのが分かった。

この手で、彼を手に掛けなければいけないのだろうか。


捕虜にするのは現実的じゃない。殺さないように手加減して戦える程、彼は弱くないから。それに、もし仮に捕虜にしてしまったら...或いはまた、彼は酷い目にあってしまうのかもしれない。


手が震える。


――いや、本当は分かっていた事だ。

彼があの街を壊してしまった時点で、彼の人生はもう詰んでいた。あれだけの人を殺してしまった彼を、世間は絶対に許さない。


私は、どうすればいいのだろうか。


ライトは私の恩人だ。

兄を殺され、絶望の縁に立っていた私に手を差し伸べてくれた。


そんな彼を、この手に掛けるのか。

...恩を、仇で返すのか。


私は、決断出来なかった。



「チッ、やはり使い物にならんか...もういい。魔術王だけに任せ――」

「待って」

「...なんだ?」


「私は行きます...行かせてください」



それでも、絶対に目を逸らしてはいけない。

ライトがああなってしまったのは、私の罪でもあるのだから。







決意を新たにしたサラが天幕から出て行く。

その後ろ姿を眺めながら、オリヴィアは一人溜息を付いた。


「ハァ...いや、まぁいい。こうなると分かっていたしな。」


魔術王が付いているし、戦力的な不安はそこまでない。

ただ、彼女の精神面はどうしても気になった。不安定な戦力は、戦力としてカウント出来ない。


「俺が出よう」

「お前がか?」


...それは流石に過剰な気がした。

コイツは作戦の最終段階でのみ投入する予定。となれな、こんな前の段階で敵に手札がバレるのは避けておきたい。


「お前の考えている事は分かるが、俺の存在が露見した所で対処出来んだろう」

「...それもそうか」


確かに、コイツが出れば敵の遺物所持者は必ず殺せる。

異常な継戦能力を有するヴァルターをここで殺せるなら、コイツの存在がバレても良いだろう。それにコイツの言った通り、コイツの強さはバレたところでどうにか出来る範疇じゃない。


「じゃあ頼んだ」


了解、と一言残し、仮面の男も天幕から出て行った。









「付いて来い」


男はそう言うと天幕から出て行く。

その後ろ姿をフラフラと追っているライトの心情は、ぐちゃぐちゃだった。

“例の部隊”...そう言っていた。十中八九、皆の事だろう。

どんな顔をして、彼らに会えばいいのだろうか。もう、皆は俺の事を憎んでいるのだろうか。

――憎んでいない訳がない、俺はレオを殺したんだ。俺に殺意を抱いているヤツもいるかもしれない。となれば、俺は彼らに殺されるのかもしれない。

あぁ、それはきっと幸せなのだろう。

一度殺される程度で罪が償えるとは思えないけど、でも、死ぬなら彼らの手で殺される方がずっとマシだ。


いや、やっぱりダメだ。

俺が先に死んだら、ミアが何をされるか分からない。

どうしようもないくらい罪悪感で押しつぶされそうで、苦しくて、辛くて。

死にたくて堪らないのに、まだ死ぬ訳にはいかなくて。


ただただ、気持ちがぐちゃぐちゃになっていた。

だが運命がそんな事を気にするはずもなく、その時はやって来る。


ドコン、と。何処かで爆発音が鳴り響いた。


「敵襲ーー!」


ライトは既に目隠しをされており、状況を全く把握出来ない。

それでも、何が起こっているのかは分かっていた。


――いや、分かっていたつもりだった。



「貴様、何者――」


肉が切り裂かれた聞き慣れた音。

それと同時に、飛び散った血が顔にかかる。

何が起こってるんだ、と思う間もなく、目を塞いでいた布が取り払われる。


目の前に広がる光景は、やはり惨状だった。

燃える広がる炎、切り裂かれた死体。


だがそんな事はどうでも良く、ライトは目の前に居るその存在に驚愕する。

もし、ライトが自由に喋れたら、彼は間違いなくこう言うだろう。


――「なんで、お前エルがここに居るんだ」と。


だがライトは喋れない。手に拘束具もされている。

無詠唱魔術を使えないライトは、エルに抵抗する手段を持ち合わせていなかった。

...いや、仮に。ライトが万全の状態であっても、エルには敵わないだろうが。

ともかく、ライトはゆっくりとこちらに近づいてくるエルをただ見ている事しか出来なかった。


「久しぶりだな、大罪人」


そう口にするエルは、何故か楽しそうだった。

ライトに苦痛を与えるのが、楽しくて楽しくてしょうがない。そう言いそうなほどの笑みを、彼は仮面の下だ浮かべていた。


「俺は、お前の事を殺したい」


笑みを浮かべながら――最も、ライトにエルの表情は分からないが――そう言うエルは、間違いなく狂気を孕んでいた。

だがその殺意は本物で、ライトは訳も分からず困惑する。


「だけどそれが出来ない。だから出来る限りお前に苦痛を与えてきた」


その言葉は、ライトに小さくない衝撃を与えた。

それも無理はないだろう。エルのその言いようは、ライトがこうなってしまった原因が、全て自分にあると明言したような物である。


「勿論、これからもそうだ」


その言葉に、ライトは笑った。

これ以上、どうやって俺を苦しめるというのだ。俺はもうとうの昔に絶望している。

だが、直ぐにそれが勘違いであると思い知らされる。


「君のその絶望、ミアにも味わせてやろうか?」

「...ッ!?」


心臓を鷲掴みにされた気がした。

今までに無いほどの脂汗が流れて、早鐘の様に動悸が激しくなる。


やめろ、それだけは止めろ。

自分が感じたあの苦痛を、地獄の責め苦を、ミアに。

そう考えただけで、ライトは目の前が真っ暗になった。


「今、懲罰部隊が向かってる―――全員殺すつもりで戦え」




















―――――――――――――――――――

圧倒的噛ませ犬...!!

弱くはないんですけどね。単体で王立騎士団ロイヤル・ナイツと同じくらい強いんで。単にエルが強過ぎるだけです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る