第95話

キイィエェェェエエ!!!!!!!!!


一日20PVってどういう事だってばよ...

全盛期の50分の一だ...一年たってこれかよ...


では...どうぞ...カハッ(吐血)

――――――――――――――――――――



取り合えず治そう。ざっと見ただけで、大体50人近く居る。

一人を治すのに掛かる時間は大した事なくとも、これだけの人数...いや、これからも増え続けるだろう事を考えたら、さっさと作業に取り掛かるに越したことはない。

最も、その行動はかつての仲間に害する行動ではあるが、ライトはそんな仲間の一人を殺し、彼らが犠牲を以て手にした休戦という成果をぶち壊しかけた罪人だ。


無意識ではあったが、もうライトは、懲罰部隊よりもミアの身の安全を優先するようになっていた。


ライトは目の前に居る兵士に目を向ける。


大量の包帯に巻かれた体、そのところどころから虫が湧いていた。目は諦念に満ちているが、少しだけ、疑念と希望がある様に見えた。


それもおかしな話じゃないだろう。死を待つのみの体になってしまって、全てを諦めた兵士達の元に表れた、厳重な拘束が施された謎の人物。そんな人物が、これから自分の体を治療するというのだ。疑念の一つや二つ抱くのもしょうがない。

だが同時に、もしかしたら治るのかもしれないという微かな希望も抱いているのだ。


そんな兵士の心情を露知らず、ライトは証を発動。その瞬間、その兵士の体から傷が消え去る。正に一瞬の出来事だった。


ライトが自身の左腕を取り戻す時に受けた聖女のそれとは大きく異なり、彼の証は一瞬で元通りになる。瞬きしたら相手が元の姿になっていた、といった感じだ。


現に、スキルを使われた本人であるその兵士は何が起こったのか分かっていないかのような表情をしていた。


その兵士は、呆然とした表情――その顔の大半は包帯で隠されているので、あくまでも推測だが――を浮かべたまま、確かめるように手を握ったり開いたりし、そうして、自分の体が死にかけのそれではない事に気が付く。


怪我をした体は元に戻り、全てを諦めた茫洋とした目には光が戻った。

死を待つのみだったその兵士は、完全に治ったのだ。


「あ、ありがとう...!!」


だから、自分を治してくれた相手に感謝するのは当たり前であった。

そもそもその兵士は目の前の少年が何者なのか知らないが、少年の行動を縛る多数の拘束具と、傍で少年を監視している男の存在もあって、罪人か敵国の捕虜だろうかと考えていた。

皮肉なことにライトはそのどちらでもあるのだが、ともかく、その少年が何者であろうと自分を救ってくれた存在には違いないのだ。


だから、兵士は少年に感謝した。


――最も、感謝された当人は複雑な心境であったが。

仲間懲罰部隊には責められて殺して、敵には治療して感謝される。

逆であるべきだ。とライトを苦悩させていた。

その上、罪悪感で押しつぶされそうな今のライトにとって、感謝は一番の毒だ。

だが、そんなライトの心情を知ってか知らずか、横で傲慢さを隠しもせず立っている男が口を開いた。


「治ったのならさっさと行け」


帝国軍でも悪名高い男に逆らえるハズもなく、その兵士は取り合えず退散する事にした。どこに行けばいいのか分からないし、取り合えず原隊復帰しよう、とボンヤリと考えながら兵士は天幕から出て行く。


「次だ」


男がそう言うと、その男の部下らしき人物が次の兵士を運んできた。相変わらず死にかけである。


「治せ」


ライトは何も考えずに治療を開始した。






とは言え、全員が全員感謝をする訳ではない。

こんな兵士も居た。


「やっと戦わずに済むと思ったのに...ッ!!」


ライトはその言葉に何とも思わなかった――いや、感謝されるよりは圧倒的にマシなので憎んでくれてありがとうくらいは考えていたが、それだけであった。

ちなみに、結局その兵士は隣でライトを監視している男にブチ殺されていた。皮肉なことに、彼は自らの失言によってこれから一生戦わずに済んだのである。


そんな事はどうでも良かったライトだが、不思議に思ったことが一つあった。

猿轡を付けている相手に「何か言ったらどうなんだ」と暴力を振るい続ける位には頭が残念な監視役の男だが、その剣の腕はその頭とは比べ物にならないくらいの出来であった。また、彼が持つ剣も聖剣アスカロンのような独特の雰囲気を纏っていた。


――とは言え、今のライトには心理的余裕などこれっぽっちもないので、それすらも殆ど気にしていなかったが。


そして、ライトの治療は一瞬であり、また魔力量も莫大なためその場に居た兵士全員の治療は案外すぐに終わった。手持無沙汰...とは少し違うが、何かしら仕事をさせようという事で、ライトは別の野戦病院に入りきらなかった、先ほどの兵士より比較的軽傷な負傷兵を治療する事になった。


突然だが、帝国軍...いや、帝国は人材不足である。


王国に比べ農耕地が少ないし、人口も然り。であるからして、既存の人材は比較的大切に――非道な人体実験などもしているが――する。その思想は野戦病院にも表れており、帝国の後方部隊は王国のそれとは比べるまでもなく充実されている。

そんな充実された野戦病院に入りきらないというのは異常事態であり――


――つまり、前線で何らかの動きがあったことを示している。無論、ライトはそんな事に気づく素振りすら見せなかったが。


ちなみに、王国には聖女というズルがあるので、そんな野戦病院がなくともその場で治して終わりである。だがしかしライトも同じような存在であり、一日に数百、下手したら千を超えるような負傷者を完全に元通りに出来るライトは王国連合(王国と合衆王国の同盟に対する呼称)にとって大きな脅威足りうるのだ――


閑話休題。

ともかく、ライトの仕事相手は変わったのだ。


比較的軽傷となれば、自分を治している目の前の少年の素性を気にする余裕も出て来る訳で。当然の如く、ライトは何度も同じような質問をされた。


感謝されたくないという気持ちによって、最初は律儀に答えていたライトだったが、「治療するときに詠唱使ってないのでは?」と今更ながらに気付いた男が再び猿轡をつけさせたため、それからは無言を貫いていた。


そんな事を続ける事数日。帝国軍ではとある噂が流れた。

曰く、「王国でいろいろやらかした大罪人が捕まって帝国軍俺達を治療している」らしい。


そう、ドンピシャである。


というのも、最初に律儀に答えたと述べた通りライトは自らの身分は明かしていた。当然、ライトに治療された兵士たちの中には大罪人ライト・スペンサーの事を知っている者もおり、結果噂が広まったのだ。


そんな噂を聞いた兵士達の反応は一つ。



軽蔑である。



まぁそれもおかしな話ではないだろう。何せ、兵士達の知るライト・スペンサーの経歴は以下の通りである。

聖女への強姦、祖国へ裏切り、大量虐殺。大罪人の名に恥じない経歴。兵士達からの嫌われ様は尋常ではなかった。そんなヤツに治療されるくりなら死んだ方がマシ、何て意見もあるくらいだ。


しかし、ライトの証は効果抜群であり、彼の治療を受けて死んだ人間はいないという噂もまた同時に出回っている。となれば、どうしても死にたくない兵士などはやはりライトの元へ訪れる。


「どんな負傷も治せるんじゃないのかよッ!!」


しかし、だからこそ、大罪人に治療されるという一種の恥を忍んでまでライトの元へ訪れたのに、「無理だ」とでも言われたら相当なショックだ。

今叫んでいる兵士もそうであった。


「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな...!!」


そう憤慨する兵士の肩には、とうに事切れた死体があった。

きっと大事な戦友なのだろう。何せ、死なせて溜まるかと、前線から必死に担いできたのだ。


原理は不明だが、ライトは死者蘇生までは出来なかったのである。


「このクソ野郎がァ!!」


怒りに身を任せたその兵士が、肩に担いでいた死体が落ちるのにも構わず殴りかかってきた。そして、その拳は狙い違わずライトの頬に直撃。


――しかし、痛みは感じなかった。

ここまで来ると流石のライトでも気づく。



ライトは、痛みを感じない体になっていた。








新たな事実が発覚した頃。


「敵襲です、ヴァルター閣下」


ライトの監視役の男は、部下からそんな言葉を掛けられた。



「閣下が未だ前線に出ていない事、そしてこちらの工作員が流した情報に引っかかったのでしょう。前線での大規模攻勢を陽動にした奇襲です。










――例の部隊がこちらに向かっています」









――――――――――――――――――――


・ヴァルター・ハイドリヒ

ライトを監視している男。兵士からとっても恐れられている。

頭が残念だが、実は遺物・魔剣ジュワーズの所持者。その遺物による恩恵のおかげで睡眠、休息、食事をしなくても半年くらいぶっ通しで戦える。

...だが、頭が残念なため、自分が出来るなら他人も出来ると勘違いしており、数多くの帝国軍人を訓練で死なせている。

王国には聖女、剣聖、王立騎士団、魔術王が居たが、帝国には遺物所持者の2人しかいないにも拘らず帝国が決定的な敗北をしなかったのはコイツのおかげでもある。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る