第94話

投稿遅れました(n回目)

今回も短いです...なんか久しぶりな気がして何を書けばいいのか分からなかった。


ではどうぞ

―――――――――――――――――――――――――





馬車に揺られながら、ライトは戦場へと移送されていた。


彼の遠い記憶――と言っても、実際は2年も経っていないが――にある、冤罪で監獄島に送られる時と、状況は殆ど同じだ。

違いがあるとすれば、その時の彼とは違い両腕が揃っている事と、拘束が更に厳重になっているという点だろうか。


目隠しに猿轡、手錠など、まるで人間が持ちうる拘束具を全て使ったかのような厳重さだ。

最も、彼を実際に縛りうるのは唯一つ、ミアという少女が敵に人質になっているという事実だけであり、つまりそれらの拘束は全く持って無意味だった。


――しかし、拘束と目隠しという状況は彼にとってのトラウマを思い出させるには十分であり、数日以上前からずっと怯えさせているので、囚人に恐怖を与えるという面においては効果を発揮していたが。


ともかく、彼にとってそれらの拘束具それ本来の用途を考えると無意味であり、ミアが自分のせいで帝国に捕まってしまったという事実のみが重くのしかかっている。


様々な要因が重なり、ライトの思考は負のどん底に陥っていた。


(これも、罰なのか)


ならせめて、ミアだけは巻き込まないで欲しかった。

罰ならいくらでも受けるから、自分だけにしてほしかった。


いや、そもそもこれは罰なんかじゃなくて、俺を苦しめる為だけなのかもしれない。


視界は塞がっている筈なのに、何故か目の前に一人の男の姿が浮かび上がった。


『あぁ、これは運命なんだよ』


脳裏に浮かぶのは、不気味な仮面を着けた男。


お前なのか。全部、お前が仕組んだのか。

何故、なんで、どういう理由があって、俺をこんなに苦しめるんだ。


俺は、お前が憎くてしょうがない。


そもそも、お前があんな事をしなければ、俺は罪を犯すこともなかったんだ。



なんで、なんで、なんで――――



「出ろ、ライト・スペンサー」



――黒一色だったライトの視界に、微かな光が差した。

馬車の扉が開いたのだろう。


彼は震える足を何とか引きづりながら光の刺す方へと進む。

そんな彼の様子に苛立ちを覚えたのか、馬車の傍で彼を待っていた男が声を荒げた。


「チッ、ノロノロするんじゃない!!」


そう言うと、その男はガシッととライトの髪を鷲掴みにしてそのまま馬車の外に引き摺り下ろした。


「...ぅ」


猿轡を嚙まされているせいだろう。くぐもったうめき声がライトの口から聞こえたが、彼を地面に引き摺り下ろした男に気にした様子はなかった。

むしろ更に腹を立て、地面に蹲っているライトに蹴りを入れながら怒号を飛ばす。


「もう戦争は始まっているんだぞ、さっさと動かんか!!!」


そう吐き捨てるその男は、帝国の騎士だった。

そして、騎士ならば当然鎧を纏っており、ライトを蹴り続けるその足は金属で出来た防具だ。つまり、ライトは鈍器で殴られ続ける様な物だった。


――だが、不思議な事に彼は痛みを感じていなかったが。


「誰が寝て良いと言った!?おい!?」

「...オぅえッ...」


蹴りの一つが鳩尾に入ったのか、ライトの口からくぐもった声が漏れた。

猿轡を噛まされたその口の縁からは、吐瀉物と思わしき何かが垂れている。


「きったねぇな...だから早く立てよ!」


視界を塞がれたまま、ライトはフラフラと何とか立ち上がる。そして、男はそんなライトの背を突きながら歩かせた。

よろつき、時に転んでは男に蹴られながら進む事数分。


ライトの鼻を悪臭が突いた。

生焼けの肉の匂い、血の匂い、死臭。


視界がなくとも、ライトが居る場所が禄でもない場所だという事は簡単に分かった。


「お前はここで負傷者を治せ。」


有無を言わさぬその口調に、ライトはただ頷く事しか出来なかった。











考えちゃダメだ。

考えても、良い事なんて一つもない。


...でも、ずっと頭にこびりつくように、考えてしまうんだ。


今、俺は帝国の負傷兵を治し続けている。

彼らは、きっとこのまま敵と戦いに行くのだろう。


だとしたら、俺はまた、懲罰部隊の敵になってしまう。



俺は、何でこんな事をしているんだ――――


「治せ」


と、男の声が聞こえたのを切っ掛けに、ライトは思考の海から浮上。

どうしても考えてしまうなら、せめて他の事を考えて気を紛らす事にした。


「治せと言ったぞ!」


男の簡潔過ぎるその一言で、ライトはふと気が付いた。


どうやって治すんだ、と。


今まで、俺はスキルを当たり前の様に使えていた。

だが、視界も何もない今使おうとしても発動する気配はない。


魔術王は、このスキルを限定的な時間遡行と言っていたが、にしても何らかの条件があるはずだ。

その条件が対象を視界に収める事なのだろうか。だとしたら今俺がスキルを使えない事にも説明がつく。


...だが、自分に対して使用した時は視界など関係なかった。


「貴様、何をしている?」


いや、対象を認識すれいいのか?


俺の証は対象の範囲を認識しなければならないとなれば自分以外の対象にスキルを使う時には何らかの手段でその範囲を認識ここで言う視覚による認識が必要なのではないかとなれば自分に証を使う時に視覚が必要ない事も納得出来る...自分の体などわざわざ視界に収めなくとも認識は出来るのだからとなれば対象を視覚以外の感覚で認識出来れば証を使う事も出来るのかだが視覚以外の感覚とはなんだ確か嗅覚触覚視覚味覚聴覚かこの中で嗅覚は論外だ聴覚も厳しいだろう味覚も全く出来る気がしないとなれば触覚つまり対象を触る事で認識し範囲を決定する事が出来れば視覚がなくとも証を使用出来るのか―――



「貴様、聞いているのかッ!?早く治せと言っているのだ!」



そんな言葉が耳に届くと同時に、頭がぐわんとした。

殴られたのだろうか。


からよく分からない。

だが、治せと言われてもスキルが使えないからどうしようもないじゃないか。



「貴様...ここまで来て反抗するつもりか?」


何度か体に衝撃が走った。

相変わらず痛みは感じないが、鳩尾に入ったら普通に気持ち悪いのでやめてほしい。


何て考えながら蹴られ続ける――とは言ってもライトの目は塞がれているので殴られているのか蹴られているのかは判断が付かなかったが――事数分。


「何か言ったらどうなん―――――あぁ、そういえば貴様は猿轡を噛まされていたのだったな」


今更かよ、と心の中で呟いた。


「おかしな真似はするなよ」


数日ぶりに猿轡が外される。

なんだか口の中が気持ち悪かったが、今さらそんな事を気にしてもしょうがないので取り合えず自分の考えを言う事にする。


「対象を視界に入れなければスキルが使えないんだ」

「チッ、なら早く言え」


...なんだか可哀そうになって来た。俺は正気じゃない自覚くらいあるが、多分この男は自分の頭が悪い自覚はない。


まぁそんな事を言ってもブチのめされるだけなので何も言わないが。


――何て無意味な事を考えていると、視界が不意に明るくなる。こちらも数日ぶりのせいだろう、眩しすぎて何も見えなかった。だが数秒経った頃には目がなれ始め、直ぐに目の前の光景を認識出来るようになった。


なるほど、先ほどから鼻を突いていた悪臭はこれが原因か。


野戦病院だろうか。生きる事を含め、全てを諦めた人間特有の、何処か茫洋とした――そう、まるでライトのような――目をした人間達。

彼らはほぼ全員が五体満足ではなく、血のにじむ包帯をその身に覆いながら、ただ死を待っていた。


...いや、やはり野戦病院とは違う。

野戦病院は負傷兵を治療する場所だが、ここはただの死に場所だった。


そしてどうやら、俺はここにいる人間の治療が仕事のようだ。







―――――――――――――――――――――――――

もう一周年クリスマスに第百話を投稿するのは諦めました。そもそもこの小説は無駄に長い(このままのペースでは完結が2030年になってもおかしくないレベル)ので、一々気に病んでもしょうがないなって(言い訳)

気長に見てやってください。

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