第92話

ちょっと補足をば。

幕間とかはこの話の様に「〇〇話」とかは書いてありませんが、それでも一話換算してます。


「88話→幕間→90話」となっているように、単に数字が入ってないだけですね。


分かり辛くてすいません。ではどうぞ、主人公の受難は始まったばかりですよ!


―――――――――――――――――――――――――










「...やめろ」



今、コイツは何て言った?

あの女に死んで欲しくなかったら?



全身の血が凍った気がした。


まさか、ミアを人質に取ったのか。


ダメだ、それだけはダメだ。


あんなに、あんなに俺の事を支えてくれた彼女が、死ぬなんてことは許されない。

それじゃあ清算が合わないじゃないか。


俺みたいないますぐ死ぬべき大罪人と、そんなクソ野郎にずっと掛かり切りで助けてくれた優しい彼女じゃ、清算が合わない。つり合いが取れないんだ。


「何で...何が望みなんだ」

「そうだな、ちょっと城まで付いて来て貰おうか。話はそっからだ」


何でも良い、何だって良い。

何をされようと、何をしようと構わない。


それで彼女が助かるなら。


そう完全に無抵抗な俺に、ソイツは目隠しをした。

同じように猿轡、そして手枷をつけられる。


まるであの時の様だ、とトラウマが思い出されるが、それ以上に、ミアの事が心配でならなかった。








「ちょっと時間良いですかね?」



――それは、カイが部屋に入った直後だった。


目の前に突然一人の男が現れた。

気配を消すとか、そういう次元じゃない。姿も、音も、何も聞こえなかった。


男は、その手でナイフをクルクルと回しながら、心底愉快そうに笑っている。


「...あなたは」

「質問はナシだよ、君。アンタの大好きな奴に死んで欲しくないでしょ?」

「...ッ」


まさか、カイが裏切ったのか。

...いや、裏切るというのは適切ではないかもしれない。


彼が最初からそっち側だった可能性もあるのだから。



ともかく、ライトが危ない。


目の前の男を倒して、今すぐライトの元へ向かわなければ。



「あぁ、抵抗は無駄だよ。俺の相方は、俺が死んだら直ぐに気付く...本当に彼を守りたいなら、今すぐ諦めるのが賢明だ」



...どうする。

私は、どうすればいい。


正直、彼が言っている事は信用出来ない。

ライトは強い。多分、私とは比べ物にならないくらいには。


でも、今のライトはそうじゃない。


あんなに精神が傷ついた状態では、まともに抵抗出来ないだろう。

それに、相手を疑うという事も出来ていない可能性が高い。


もし、私が既に捕まっているとか、そんな事を言われたら。

何も考えずに、鵜呑みにしてしまうのではないだろうか。


――という事は。


やはりライトは、既に彼らの手に渡っていると考えた方が良いのかもしれない。



「...貴方は、貴方達は。ライトに何をさせるつもりなの」


返事次第ではただでは済ませない。

そう強く睨みつけるが、彼は飄々とした態度を貫いていた。


「大した事じゃないよ。ちょっと“お手伝い”してもらうだけさ」



――その言葉を聞いた途端、嫌な予感がした。

帝国は、ライトを利用するつもりなのか。


それも、交渉材料としてとかじゃなくて、もっと直接的な――そう、例えば戦争などに利用するつもりなのか。


「...やめた方が良い。今のライトでは何も出来ない」


やっと、やっとライトが元気になりつつある兆しが見えたのに。

何故、こんなタイミングなのだろうか。


やはりダメだ。こんな人たちにライトを任せられない。任せられる訳がない。

本当はこんな風に思うのは嫌だけど、ライトにはスキルがあるから、怪我をしても大丈夫だ。


そう、決心がついた。


ならば今すぐ目の前の敵を倒さなければ、と魔術を放とうとした、その時。



「すまないミア。君にとってライトが大切なように、僕にとってビアンカは何よりも大切な人なんだ」



―――その声の方へ振り向くより早く、視界の端に何かが映った。


そして、それがナイフだと気付いたときには、既に手遅れで。


プツ、と。視界が暗転した。









「呆気ねぇなあ、マジで。」


ナイフをクルクルと弄びながら笑う少年が一人。

年齢はカイやビアンカと同じくらいだろうか。


口調こそ特徴的ではあるが、見た目はありふれたとしか言いようのない物だった。

そう、それこそどこに行っても疑われないような、一般人を体現した様な見た目だ。


「にしても何で今まで報告しなかったの?魔術陣が発動した様子はないけど」


そしてもう一人も、特徴と言った特徴はない物の、やや「裕福な平民の子供」のような雰囲気を纏っている。


その胸に秘められた暴力性を知らなければ、人の好さそうだ、と話し掛けたくなるような少年である。


「...まぁ、別に大した問題じゃないと思ってな」


カイは少し気まずげだった。

やはり、彼らを騙していた悪気もあるのだろう。


――とは言え、ミアに対して行ったそれより大分少ないだろうが。


彼の心情は酷くぐちゃぐちゃだった。


ミアに対して手を差し伸べたつもりだったが、結局はこうして上に引き渡すことになり、その上自分たちの立場も悪くなってしまった。


選択を、間違えたのかもしれない。


そう後悔しながら、こうなってしまって経緯を思い返す。



彼ら二人――レオンとイエルクは、この2カ月近くもの間、ずっと王国に潜入・調査をしていた。そうして事情をを粗方確認し終えた彼らは、王国から姿を消したライトの行方を調べる事にしたらしい。


ライトが姿を消した時間と場所から、彼が帝国へ逃げた場合に国境線を通過したであろう期間を特定。その期間に関所を通った人の記録を洗い出した。

そこにライトと身体的特徴が一致する人物がいないと分かると、次は荷馬車そしてそれを運ぶ人物――それも、信用のない中小規模の商会或いは個人で商人をしている人物を重点的に調査。


そして、遂にライトが帝都に来た事を確認した。


その後は簡単だ。


帝国内での任務が多かった俺達なら何かしら知っているかもと俺達の家を訪ね、そのままライト達の存在が露見。そのまま上まで報告されてしまった。


こんな事で死にたくはないだろうと脅され、結局ミア達を裏切る形になってしまったのだ。


「...だが、やはり彼を使う事には反対だ。」



上が下した結論は一つ。彼を戦争の為に使う事だ。

確かに、今の彼ならミアのために戦うかもしれない。


だが、どうしても嫌な予感がしてならなかった。


「それはアイツの友達としてか?」


揶揄うようにそう言葉を吐き出す少年。


「...いや、これは帝国の為を思っての言葉だ」


帝国の為に何かするのは癪だが、もはやそんな枠で収まるとも思えなかった。

或いは、この決断は。世界そのものに悪影響を与える可能性すらある。






カイのその思いは、単に現在の世界が不安定であり、それがライトという存在によって崩されてしまうかもしれないという物だった。


世界というのはそう簡単には揺らがない大岩の様なものであり、人という存在は精々が小石だ。だがしかし、不安定で、今にも転げ落ちそうな岩に小石をぶつけたら、或いは大岩はあらぬ方向へ転がり落ちてしまうかもしれない。


そう言う意味で、ライトは世界を壊してしまうと思ったのだ。





だがしかし、その思いは裏切られる。



―――それもやはり、悪い方へだった。



不安定な大岩を転がせるなんて規模ではない。



大岩ごと、更に巨大な岩をぶつけて、丸ごと破壊してしまうような。

そんな悪影響を、ライトは世界に与えてしまう事になるのだった―――















「さて、君はどんな力がある?」


返事は期待していないのだろう。

それは話し掛けている相手を見れば分かる。


目隠しに猿轡。しかも厳重な拘束まで施されている。


「無尽蔵の魔力、トップレベルの剣術、数人しか扱える者のいない遺物...」


どれか一つあるだけで、一生食うには困らず、名を上げる事も不可能ではない。

拘束されている人物は、そんなレベルの力を幾つも持っていた。


「だが、一番魅力的なのはそのスキルなんだ。負傷者が出てもいくらでも回復させられるスキル、夢のような力だ...まぁ、だからこそ聖女には苦戦し続けた...その力の使い方を知っている王国にも。」


そう忌々しそうに吐き捨てる男。


「だが、遂に運が回ってきたらしい。そう考えたんだがな...」


―――この世界には、10の遺物が存在する。

王国と帝国はそれぞれ二つずつ。

合衆王国には一つ。

異文明にも一つ。

極東に二つ、魔海を越えた先に大陸に一つと、海に囲まれた小さな島にもう一つ。


その内、効果の判明しているは、アスカロン、アイギス、フェイルノート、そして ジュワーズの4つのみ。


それらを二つずつ持つ事で、帝国と王国の均衡は辛うじて保たれていた。

しかし、それはライトが剣聖を倒した、その剣を譲り受けた事で崩されたのだ。


そして、国家間のパワーバランスを崩してしまう程、遺物の力というのは大きい。


だから、その片方を失った王国は大きく弱体化し、以前より力を着けた帝国は簡単に勝てるハズだった。


――だが、そうはならなかった。


「やっぱり君も関わっているのかな?彼らの停戦に」


合衆王国と王国の停戦。それは帝国に大きな衝撃を齎した。

単に停戦ならば良かったのだが、一度それが破綻したと思われた時に舞い込んだ情報だったからだろう。帝国の混乱はかなりのモノだった。


王国の策略で、実は停戦などしていないとか、合衆国と王国で協力して帝国を倒すつもりだとか、議会は意味もなく紛糾した。


そして、その結果出た結論は。



――合衆王国と王国の連携が高まる前に、早期決戦にて敵を撃滅するというものだ。



事実、それは不可能ではなかった。


例の海戦で10万の兵士を失い、海上からの攻撃には抵抗手段はなく。

陸上兵力に関しても、合衆王国との戦いで少なくない傷がついている。


それに対し、こちらは兵力、練度共に高水準。

遺物持ちの二人の戦力は申し分なく、情報収集能力に関してもこちらが上。


この戦力差を覆される前に、帝国は王国に戦争を仕掛ける事にしたのだ。




それを聞いたライトは、もともと悪かった顔色を更に悪くさせた。


時々呻きながら、意味もなく体を揺らしている。



「...話が逸れてしまった。ともかく、お前にはそのスキルを帝国の為に使えばいいんだ。大事なあの子に死んで欲しくないだろう?」



ライトの顔色はもはや死人のそれだった。


そして、彼には頷く以外の選択肢が取れるハズもなく。




ライトは、帝国の利用される事になった。







―――――――――――――――――――――――――


カクヨムコンテストが始まりましたね!

それに伴ってかはさておき、キャッチコピー、あらすじ、プロフィール等を変更致しました。ついでに自主企画も作りました。高校生の書いた作品の本棚ってヤツです。


さっき確認したら30作品以上入ってましたね。意外と多くてビビっちゃいました。

お時間があるようでしたら、この作品に☆を付けてから見に行ってみてください(強制)


今週末にもう一話出します。ではまた

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