第86話 

パソコンがぶっ壊れたせいでしばらく投稿できませんでした。

それで新しいパソコンを買ったのですが、それもそれでなんか調子が悪いんですよ。Wi-Fiと繋がらないっていうね...


それはともかく、今週一杯は予定がないので投稿頑張っていきます。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
















――何でお父さんを殺したの


しょうがないじゃないか。俺たちは戦争をしていたんだ。戦場じゃ、人殺しは当たり前なんだ。


―――――じゃあ、なんで私を殺したの。


それは...


――お母さんも、おばあちゃんも、お友達も、町の皆も、なんで殺したの。


やめてくれ、正気じゃなかったんだ...!


――この人殺し。


やめてくれ、やめてくれよ...


――人殺し、人殺し、人殺し。


――お前が情報を吐いたせいで、合衆王国の仲間たちがたくさん死んだぞ。


――罪から逃れられると思うな。


――無事そうだな、ライト...ッ!!


――せめて、せめて家族だけは助けてください...


――コイツだ、コイツがデイビットを殺したんだ!!


――あぁ、君のその手は、今はもう仲間の血でも汚れている。何て罪深いんだ


やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ!!


何でそんなに俺を責めるんだ、俺は...俺は...


「ライト」


あぁクソ、何でこんな事になんたんだ...

俺は、サラ達を守りたかっただけなのに。


「ライト?」


何で、何で、何で...


「落ち着いてライト、夢だから」


――――――ふと、頭を触れられた感覚がした。

この感覚は、知っている。


意識がゆっくりと覚醒する。


...また、悪夢を見ていたようだ。とはいえ、いつものそれと比べれば大分マシな部類だったが。


全身が軋む様に痛む。


まだハッキリしていない意識のまま目を開けると、そこにはやはりミアの顔があった。ずっと無表情だと思っていたが、今は心配そうな雰囲気が滲み出ているのが分かった。


彼女から目を逸らすように周りを見渡すと、そこは見覚えのない町だった。

今まで見たどの町よりも大きいし、建築様式も王国のそれとは大きく異なっている。


――どうやら、帝都に到着したようだ。


「着いたよ、ライト」


「...ごめん。」


――これは何に対しての謝罪なのだろうか。

帝都に着いてるのに起きなかった事に対しての謝罪だろうか。


最近、謝ってばかりだ。


多分、この謝罪は今目の前にいるミアに対してじゃなくて。遠くにいる、サラ達に対する物なのだろう。


それは、今目の前にいて俺を助けてくれているミアに対して、酷く失礼な気がした。


「宿でも取って休も。疲れも溜まってるでしょ?」


「...あぁ。」


疲れているか、という問いに対して一瞬否定しかけたが、すぐに思い直した。

馬車で移動していただけだし、肉体的な疲労は全くない。


だが、今のはそういう話ではないだろう。きっとミアがしていたのは、体の話じゃなくて心の話だ。俺の精神状態がまともではない事くらい分かってる。


「取り合えず馬車から降りよ...ありがとう、ここまで運んでくれて。」

「いえいえ、給料分の仕事をしただけですよ。」


ミアと御者が何か話しているのを聞きながら、馬車から降りようと立ち上がる。


「...?」


バタ、と音がした。

立ち上がったつもりだったのに、いつの間にか倒れこんでいた。

何やら平衡感覚がおかしいようだ。


もう一度立ち上がろうとするが、結果は同じだった。


「...っ、ライト。肩を貸すから、ゆっくりでいいから」


あぁ、またミアを困らせてしまった。

これくらいの事も一人で出来ない自分が情けない。




「...ごめん。」










「...じゃ、俺はこのへんで。そっちの少年も元気になってくださいよ、そのお嬢さんの為にね。」


そう言い残して去っていった御者の背を見届けた俺は、ミアの肩を借りながらゆっくりと歩いていた。


出来るだけミアに負担を掛けないよう踏ん張って歩く。


だが、そのせいで人とぶつかってしまう。


「ってぇな、どこ見て歩いてんだよ」

「ッ...すみません」


ここは帝都。人通りは尋常ではなく、今のようなことが何度もあった。

どこか泊まれそうな場所を探しつつも、人混みを避けるように歩いていたせいだろう、少し込み入った――悪く言えば、薄汚い場所に踏み入っていた。


――まるで、全てが変わってしまった元凶であるエルと出会った、あのスラム街のような場所に近かった。


「...あれ、宿かな」


そう言ったミアの視線を辿ると、確かに宿屋らしき看板の掛かった建物があった。

一瞬考え込む素振りを見せたミアだったが、俺の顔色を見た後決心したように口を開いた。


「行こう、ライト」







宿屋の内装は、外装から想像できるように貧相だった。

カウンターには中年の女性が何かパイプの様なものを咥えながら座っている。


彼女はこちらを探るような視線をし、何処か見下した目をしながら口を開いた。


「一泊銀貨3枚。」

「...王国の通貨で良ければ。」


ミアが緊張するのが分かった。それも無理はないだろう。


こんな荷物を抱えた少女、しかも王国の通貨しか持ってないと来た。

誰がどう見ても訳ありだろう。


しかし、ミアの言葉を聞いたその女性は笑みを深めるのみだった。


「じゃあ6枚だ。」


「...高すぎる。通貨の価値は共通のはず」


「あっそ、じゃあ他を当たりな。」



...完全に足元を見られている。というかそもそも、3枚というのもぼったくりだ。

ミアはあの山の中で育ったのだからそういう常識に疎いのだろう。

銀貨1枚が王都の平均的な給料だ。それが、こんな薄汚い宿で一泊3枚というのはこちらを舐めているとしか思えない。


他を当たろう、と声を掛けようとするが、少し不味いことに気が付いた。


俺は王国に追われている身だ。帝都に情報が伝わるのもそう遅くはないだろう。

もし俺たちが出て行った後に、俺の事を怪しんだコイツが衛兵にでも行ったら、俺達は一巻の終わりだ。


俺の事どうでも良いが、これ以上ミアに迷惑を掛けたくない。


腰に掛けてある聖剣に目を向ける。


――殺すか、ここで。


こんな治安の悪そうな場所だ。人の一人や二人死んだところで大して捜査も行われないだろう。なら問題ないはずだ。


...だが、いざ殺そうと剣に手を掛けても、それを抜くことができない。


俺を責めるあの声が、耳にこびりついて離れない。

冷や汗と震えが止まらない。


――突然、ミアの声が聞こえた。


「――分かった、払う」

「はいよ、部屋は13番だ。さっさと行きな」


迷いを断ち切るように強い口調でミアの口から放たれたその言葉に、思わず困惑してしまう。さっきまで悩んでいたのに、何の理由でそんな決断をしたのだろうか。


「ダメだミア、明らかにぼったくり――」


「ライトがそんな風になるくらいなら、お金を払った方がマシ」


「...ごめん。」


考えを見抜かれていたのだろうか、いや、そうでなくとも、俺の様子は尋常ではなかった...また、ミアに心配を掛けてしまった。


俯いて手を握りしめる。今、俺は何を考えていた?


また罪を犯そうとしていたのか、俺は...ッ!!



「落ち着いてライト。少し部屋で休もう」


「...あ、あぁ」


...自分を責めるのは部屋でいくらでも出来る。ここでこんな事をしていてもミアに迷惑が掛かるだけだ。


さっさと部屋に行こう。










部屋に辿り着いた俺達は、部屋に一つしかないベッドに腰を掛けていた。


「ライトはこれから先どうしたいの」


虚ろな目でぼんやりと天井を眺めていた俺に、ミアがそう声を掛ける。


...分かってる。このまま逃げ続けても、いつかはバレるなんてことは。

帝国と王国の戦争も近いんだ、ずっとこうしていたらダメだ。


そんなことは分かってるんだ。


でも、未来の事を考えるとどうしても怖くなってしまうんだ。


――なぜなら、それはサラや懲罰部隊の隊員達と、向き合わなければいけないということだから。


「...休みたい。何もしたくないんだ」


「――分かった。ライトが元気になるまで、ずっと傍に居るから。」


何で、何でミアはこんなに俺に尽くしてくれるのだろうか。

彼女に対して何も報いることも出来ないし、こんなに尽くして貰う程の事をした覚えなど何もないのに。


何で、彼女は俺を助けてくれるのだろうか。


――だが、それを聞くのが、何故か怖くて。


結局、俺は口を開くことが出来なかった。








―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ん」って筆記体のhに見えません?


...見えないか。


ではまた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る