第85話 幕間
主人公はしばらくクソネガティブ思考です。
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俺は揺れる荷台の中、無意味に外を眺めていた。
虚ろな目で、現実から目を逸らすように。
だが、いくら目を逸らそうとも、犯した罪は変わらない。
そう考えていると、ミアが口を開いた。
「———ライトは、どうしたい?」
どうしたい、と言うのはこれからの事だろうか。
これから、どうすべきなのだろうか。
何をすればいいのだろうか。
...あまり、良く分からない。
俺は、無言で首を横に振った。
「合衆王国に戻る?」
戻る。その言葉を聞いた瞬間、体が震え出した。
それは、それだけはダメだ。
どんな顔して、アイツらに、サラに会えばいいんだ。
考えるだけで、恐怖が身を襲う。
――その様子に見かねたのか、ミアが再び口を開いた。
「じゃあ、帝国に逃げよう」
何故、と聞きかけたが、その理由は直ぐに分かった。
...俺が、罪人だからだ。
俺は許されざる罪を犯して、国中から追われる身になったのだ。
合衆王国にも、王国にも。俺の居場所は、もうない。
後悔を滲ませながら、自分の手を強く握りしめる。
「大丈夫、私はライトの傍にいるから」
そう言ったミアの手が、握りしめられた俺の手の上に優しく重ねられた。
〇
〇
ミアに助けられてから、およそ4日が経っていた。
移動し、夜になったら休み、また移動する。その繰り返しだ。
その間、俺はずっと外を眺めていた。
夜明けか、或いは夕日か。
その判断すらもつかなかったが、空は紅く染まっていた。
「ライト、少しは寝ないと」
「......」
俺は、あの雨の中で意識を失って以来、一度も寝ていなかった。
情けない。ただミアに心配させ続けるだけの俺が、情けなくてたまらない。
俺だって寝たいんだ。
だけど、目を瞑ったら、視界は暗闇に包まれてしまう。
その暗闇が、あの拷問を思い出させてしまうんだ。
だから、自分はもうあの拷問部屋にはいないと言い聞かせるように、ずっと目を開けていたいんだ。
だが、それを言葉にすることも出来ない。
喉まで出かかっているのに、言葉を発するという事に拒否感を感じてしまう。
「ライト?」
「...ごめん。」
心配かけてごめん。
迷惑かけてごめん。
ちゃんと答えられなくてごめん。
意味もないのに、ただただ心の中で謝り続ける。
「ライト、寝ないともっと辛くなっちゃうよ」
...だが、これ以上ミアに心配を掛けたくない。
暗いのが嫌なら、明かりが有ればいいんだ。
荷台に置かれている聖剣に目を向ける。
聖剣は、光を灯していたハズだ。
剣の柄に手を掛け、そのまま剣を抜いた。
そして、微かではあるものの、光が灯っている事に安心した。
そうだ、もっと近くで見よう―――
「ライト!」
「...ッ!?」
思わずハッとして剣を取り落とす。俺は今、何をしようとしていた?
俺は、また死のうとしていたのか?
今、俺は間違いなく、自分の目に剣を突き立てようとしていた。
それも無意識の内に、だ。
「ご、ごめん...」
何に対し謝っているのかすら、俺には分からなかった。
それでも、つい謝ってしまった。
「自分を責めないで、ライトは悪くない。もう、そんな事しないで」
「...気を、つけるよ。」
分かった、と。
俺は約束すらできずに、そう言う事しか出来なかった。
「答えて、ライト...寝れない理由」
「...暗闇が、怖いんだ...あの時も、ずっと暗かったから。」
情けない。まるで幼児じゃないか。
そう自己嫌悪に陥ってしまう。
と、その時。肩を掴まれたと思った瞬間、後ろに引き倒されていた。
ただそれを呆然と受け入れていると、後頭部に柔らかい感触がする。
――膝枕だ。
「ライトが意識を失ってた時、こうすると表情が和らいだから」
そう、なのだろうか。
無意識の内だから、分からない。
「ライトに酷い事をする人はもういない、だから、安心して寝て」
...あぁ、情けない。
たったこれだけの事で、安心してしまう自分が居るのが。
〇
ミアは、ライトの寝顔をじっと見ている。
悪夢にでもうなされて居るのか、酷く汗ばんでいた。
これでも、大分マシになっている。
意識を失っていた時の彼の顔は酷かった。
恐怖や怯えを抱えているのが一目で分かる程顔を歪ませていて、うわ言の様に謝り続けていた。
何故かは分からないけど、そんなライトを見てられなかった。
ミアが慈しむ様にライトの頭を撫でていると、ライトのものではない声が聞こえた。
「聞いたところ、何やら複雑な事情を抱えてるみたいじゃないですか。帝国の何処にいくってんですかい?」
今も馬車を動かしている御者が、顔を動かさずにそう声を掛けたのだ。
だが、御者のその問いに対し、ミアもまた顔を動かさずに答える。
「帝都」
「そりゃまた...というか、国境を超えるのは簡単じゃないですぜ。」
「給料分の仕事はして」
「へいへい...」
御者は思う。
ずぶ濡れになりながら人を背負って歩いていた少女。
それを哀れに思って声を掛けたのが間違いだったのかもしれない。
声を掛けた瞬間魔術が飛んで来て、「お金は払うから遠くへ運んで」と頼まれたのだ...いや、どっちかと言うと脅された。
そして、先払いとばかりに金が入った袋を渡してきたのだ。
だが、その金の量は明らかに異常だった。護衛も付けられない貧乏商人にしてみれば、10年は遊んで暮らせるレベルの大金だった。
御者は、ミアの事を貴族の令嬢か何かかね、と当たりを付けていた。
乱雑に置かれているあの剣も、多分俺ごときでは一生働いても手に入らない。
まぁ、あれだけの金があれば国境越えも難しくない。
コネも多少ならあるし、賄賂でも送れば見逃してくれるだろう。
王国での戦争で商売が上手くいっていない商人が大勢帝国の方へ逃げ出しているし、帝国も軍資金を手に入れるためにそれを歓迎している。
帝都あたりに送るのが一番無難だろうと考えていた。
(にしても、厄介なモン抱えちまったなぁ...)
とは言え、乗り掛かった舟である。
少年の事を気にかけているのが一目でわかる健気な少女の事を、今更見捨てる気にはならなかった。
――というか、そうすれば無表情娘の魔術が飛んでくので、どちらにしろ商人に選択肢はなかったが。
「...ごめん、おじいちゃん」
「ん?何か言ったか?」
「なんでもない」
丁度その時、ここから遠い山中の家で魔術王は呟いた。
ワシの退職金、根こそぎ無くなってるんじゃけど――と。
〇
技術、人、物、金。その全てが集まる、世界最大の都市。
政治、経済の中心地であり、人口は数十万にも達すると言われているその都市の名は、帝都、アルベルン。
――そして、多くの人が集まる場所には、必ず、闇が生まれる。
帝都の中心に聳え立つ城の中で、一人の男が四人の少年少女と対面していた。
跪く彼らに対し、男は上機嫌に口を開いた。
「王国で大きな動きがあった。貴様らの内2人に調査を命じる。あぁ、あの裏切り者の事も調べておけ。確かテオと言ったか?」
王国と合衆王国が停戦したと聞いた時は肝が冷えたが、どうやら決裂したらしい。
これで、王国は更に追い込まれるだろう。
その背後を突けば、王国など簡単に崩せる。
そんな確信が、男にはあった。
「行け」
「「はっ」」
適当に諜報員達を散らせると、椅子から立ち上がった窓の外を眺めた。
ここからの眺めは最高だ。帝国の偉大さが一目で分かる。
その景色を眺めながら、男は思案する。
王国の帝国に対する備えが脆くなっているとは言え、準備は必要だろう。
帝国軍は以前の戦いでその数を大きく減らしてしまった。
食料、兵站、訓練、各貴族への調整などやる事は多い。
それらを計算すると、開戦まで――———
「あと半年、と言った所か...あの予言と時期が被るな。」
まぁ眉唾物だがな、と呟きながらも、男のの表情は優れなかった。
「魔王再来、か...」
ターニングポイントは、すぐそこまで迫っていた。
そしてそれは、個人にとっての物ではなく。歴史にとっての、
―――それも、悪い方向に転換する、ターニングポイントだ。
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先週末だけで2万文字近く書いてたんですね。
プロ作家の平均執筆速度より速い(なお質)
あと、なろうでも投稿始めました。
コピペで投稿するのもあれなんでちょくちょく修正しながら投稿してます。
それに伴って、カクヨムの方でも修正後のやつに更新する事にしました。
ではまた。
第三部もよろしくお願いします。
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