第一章三部「重ねる罪と人魔大戦」

3部プロローグ

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――














雨が降っている。


なのに、手についた血は、こびりついたままだ。






ふらふら、ふらふら、と。



亡霊か何かのように、道を歩く少年が一人。




「ちがう、ちがう。」




虚空を見つめるその目は、ただただ虚ろで。


絶望に、満ちていた。


「俺は、あんな事をしたかったんじゃない。」



――ばた、と。


遂に倒れこんだその少年には、もう立ち上がる気力は無かった。


死ねない、終われない。


この生に終止符を打てないのなら。


せめて、もう何もしないでいよう。




――ザーザー、と。


不安を掻き立てるような音を立てながら、強めの雨が降っている。



―――雨が、降っている。


なのに。


魂にまでもこびりついてしまった血は、流れ落ちる事はなかった。









ふと、虚ろな目の端に何かが映った。


人影のように見えるそれは、1歩ずつこちらに近づいてきている。




――疲れた。


永い眠りにつく事は許されていないけど、少しくらいなら寝てもいいだろう。


俺は、意識を手放した。











――ガタガタ、と。


この音は、馬車の音だろうか。


馬車の幌に雨が叩きつけられる音もする。


目を開けた。その目は、いまだに虚ろだ。



「...ミア?」


居るはずのない少女がそこに居た。


仰向けになって寝ている俺の目の前に、ミアの顔があった。

膝枕といヤツだ。


特徴的なその青い髪は、雨で濡れていた。

顔は相変わらず無表情だけど、その目は、少し悲し気だった。


「大丈夫」


何が、大丈夫なのだろうか。

もう、罪を犯してしまった。


この手は、血で穢れている。


「大丈夫だから」


頭が何かに触れられた感覚がした。

頭皮を削がれる痛みでもなく、酸で溶かされる気持ち悪さでもない。


優しく、労わる様に。


ただ、頭を撫でられる。


「...うぐッ、ふぅっ...」


情けない。

体がガタガタと震えて、涙がとめどなく溢れ続ける。

動悸が激しくなって、呼吸も荒くなる。


恐怖か、怯えか、絶望か、はたまた安堵か。


――たぶん、その全部を感じながら。


俺はただただ、頭を撫で続けられていた。









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