四章「重ねる罪と人魔大戦」
3部プロローグ
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雨が降っている。
なのに、手についた血は、こびりついたままだ。
ふらふら、ふらふら、と。
亡霊か何かのように、道を歩く少年が一人。
「ちがう、ちがう。」
虚空を見つめるその目は、ただただ虚ろで。
絶望に、満ちていた。
「俺は、あんな事をしたかったんじゃない。」
――ばた、と。
遂に倒れこんだその少年には、もう立ち上がる気力は無かった。
死ねない、終われない。
この生に終止符を打てないのなら。
せめて、もう何もしないでいよう。
――ザーザー、と。
不安を掻き立てるような音を立てながら、強めの雨が降っている。
―――雨が、降っている。
なのに。
魂にまでもこびりついてしまった血は、流れ落ちる事はなかった。
〇
ふと、虚ろな目の端に何かが映った。
人影のように見えるそれは、1歩ずつこちらに近づいてきている。
――疲れた。
永い眠りにつく事は許されていないけど、少しくらいなら寝てもいいだろう。
俺は、意識を手放した。
〇
――ガタガタ、と。
この音は、馬車の音だろうか。
馬車の幌に雨が叩きつけられる音もする。
目を開けた。その目は、いまだに虚ろだ。
「...ミア?」
居るはずのない少女がそこに居た。
仰向けになって寝ている俺の目の前に、ミアの顔があった。
膝枕といヤツだ。
特徴的なその青い髪は、雨で濡れていた。
顔は相変わらず無表情だけど、その目は、少し悲し気だった。
「大丈夫」
何が、大丈夫なのだろうか。
もう、罪を犯してしまった。
この手は、血で穢れている。
「大丈夫だから」
頭が何かに触れられた感覚がした。
頭皮を削がれる痛みでもなく、酸で溶かされる気持ち悪さでもない。
優しく、労わる様に。
ただ、頭を撫でられる。
「...うぐッ、ふぅっ...」
情けない。
体がガタガタと震えて、涙がとめどなく溢れ続ける。
動悸が激しくなって、呼吸も荒くなる。
恐怖か、怯えか、絶望か、はたまた安堵か。
――たぶん、その全部を感じながら。
俺はただただ、頭を撫で続けられていた。
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