第81話 亀裂

急展開なのは重々承知ですが、流石に進みが遅すぎるなって思ったので強引に進ませることにしました。

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体から力が抜け、父の骸に覆いかぶさるように倒れてしまう。


血を出し過ぎたのだろう。肩の傷口からは、今もかなりの勢いで血が流れている。

魔力は...あと一回くらいなら持ちそうだ。


だが、それをしてしまったら魔力切れでぶっ倒れるだろうし、それをするのは本当に死にそうになってからで良いだろう。


その前に、隊がどうなっているのかを確認しなければ。サラもあちらに居るはずだ。


そう結論を出した俺は、何とか力を振り絞って立ち上がる。

が、その直後に再び倒れこんでしまった。


視界には黒い靄が掛かっているし、頭も痛い。


(...いや、死にかけてるな、これ。)


だが、サラの無事を確認しないと気が済まない。

ぼんやりとしつつある悩でそう思うも、体はもう限界だった。


「——ライト!」


と、その時。今最も聞きたかった声が耳に届いた。


(よかった...無事だったのか)


俺は最後の魔力を振り絞り、なんとかスキルを発動させる。

途端に思考が明瞭になるが、同時に頭痛が酷くなった。


魔力切れの症状だ。


だが傷は治った。これで一安心だろう――そう思った瞬間、ふと恐ろしい事に気づいてしまった。


俺達が魔力切れを起こしても生きていたのってあの腕輪があったかだ。

魔力の過剰吸収をあの腕輪で抑えていたから、自分たちは生きているのだ。


となれば、腕輪のない今の状態で魔力切れなど起こしてしまおうものなら。


(やっべ、普通に死ぬわこれ。)


自分が思いっきりやらかした事に冷や汗をかきながらも、俺の意識は途絶えてしまうのだった。






一時はどうなるかと思ったが、魔術王のおかげで何とか凌ぐことが出来た。

去っていく王立騎士団ロイヤルナイツの背を見ながら、そう一息ついた。


だが、安心は出来ない。


さっき隊員がライトは一人で剣聖と戦っていると言っていた。

物凄い心配になってきた。


かつては、剣聖一人に隊全体が翻弄された事もあるのだ。ライト一人だけで剣聖に勝てるのか、或いはもう――


そう考えるだけで心臓が竦みそうになる。


必死に彼の方へ足を進めているけど、もしかしたら負けてしまったかもしれないと考えると、それを確かめたくないような気もしてしまう。


どうか、無事でいてと、そう願いながら、引きずるように足を動かす。


――だが、その願いは叶わず。


「そ、そんな...!」


血だらけになって地面に倒れているライトを、この目に収めてしまった。


全身から力が抜けてしまう。今すぐにでも倒れそうだけど、多分それが一番やってはいけない事だ。


「ライトッ!!」


まだ生きている。なら大丈夫なはずだ。

彼はスキルで怪我を治せるのだから。


そう言い聞かせながら、私はライトの元へと走るのだった。








...............

............

.........

......

...









「...酒でも飲んだか?」


知らない天井、頭痛、倦怠感。

間違いねぇ、二日酔いだわこれ。


しかも今まででダントツなレベルだ。意識を失う前の記憶が全くないのだ。

なんとか記憶を手繰り寄せようとするが、思い出せる事は少ない。


その事に少し苛立ちを覚えるが、そうしていても問題は解決しない。


取り合えず起きようとベッドに手をついて起き上がる―――


「まて、なんでついてんだコレ。」


腕が両方ともあった。


その事に驚愕しかけるが――


(あ、思い出したわ。)


そうだ、確か聖女に治してもらって、その後...


そう記憶を手繰り寄せようと思案していると、ふと、ベッドの脇に立て掛けてある剣が目に入った。


「...クソ、忘れちゃダメだろ。」


思わず悪態をついてしまう。

まさか、父との最期の戦いまで忘れてしまうとは思ってなかった。


何となく、父からの最後の贈り物である聖剣を握りしめた。


「...聖剣アスカロン、か。」


この剣は、世界で数える程しかない古代文明の遺物だ。


敵と認めたすべてに対し鋭い切れ味を持ち、これを持つ限り魔術で殺されることは無く、また味方による裏切りによる死もまた無効化する。

考えれば考える程ぶっ飛んだ性能をしている。


まぁ遺物などどれもこれもぶっ飛んだ性能をしてるが。

文献ではこれと似たようなブツがあと9個もあるらしい。


この剣がその本領を発揮していたら、俺はきっと生きていないだろう。


まぁともかく。

そんな剣が、今や俺の手にあるのだ...


―――待てよ、となれば、現剣聖は俺という事になるのか...!?


聖剣を受け継いだ人間が剣聖と呼ばれるのなら、俺は間違いなく剣聖だ。

まさか、こんな形で剣聖になるとは思ってもいなかった。


あまりの衝撃に思考に混乱が生じてしまう。明らかに情報過多である。

大体、展開が急すぎるのだ。

腕が元に戻ったと思ったら剣聖と戦うことになって、勝ったと思ったら聖剣を譲られ、魔力切れになって気絶して――いや待て、そもそも俺は何故生きている?


あの時、俺の魔力は間違いなく底をついたハズだ。

あの腕輪がない以上、何の後遺症もなく俺が生き残っている不自然だ。


「いやホントに、なんで生きてんだ俺...?」


不思議だ。


と、頭を捻っていると部屋の外から足音が聞こえた。

どうやら誰か来たようだ。


誰だろうと扉を注視していると、それは遠慮がちに開かれた。


「あ、サラか。」


特に何の疑問も持たずそう呟いたのだが、彼女は何故か口を開けて愕然としていた。


「...あの?」


本当にどうかしたのだろうか。そう疑問に思いながら言葉を投げかけたのだが、彼女に反応は無かった。


「——何ともないの?大丈夫?おかしな所とかない?」


突然我に返ったようにハッとしたサラが、そう早口をまくし立てた。

そんなに心配をかけてしまったのだろうか。


「あぁ、別に何ともないけど...」


よほど張り詰めていたのだろうか。

俺がそう告げた途端、彼女は崩れ落ちてしまった。


「良かった.....」


そう呟きながら深呼吸しているサラを見て、更に困惑を深めてしまう。


とは言え、戸惑っているだけじゃ恰好つかないだろう。


そう気合を入れ、俺はサラに手を差し伸びるのだった。






「そんなに俺ってヤバい感じだったの?」


ようやく落ち着いたサラを近くにあった椅子に座らせた俺はそう声を掛けた。


「うん、死んでもおかしくなかったんだよ。生き残っても何らかの後遺症は残るとも言われてたし。」


マジか。魔力切れが危険なのは十分承知していたつもりだったが、いざそうなっていたかもしれないと考えると冷や汗をかいてしまう。


だがしかし、より疑問が深まってしまう。


俺は何で無事なのだろうか?

聖女のスキルも効かなかったらしいし、一般的な魔力切れの症状が出ていないのはおかしいだろう。


ショック死しかねないレベルの激痛なんて感じなかったし。


そう頭を捻っていたその時、部屋の扉が開いた。


「お主のおかげで中々興味深い事が分かっての。」


部屋に入るなりそう口を開いたのは魔術王だった。

何やら楽しそうな顔をしている。


「というと?」

「どうやら、成長させると、魔力回路も共に成長するようじゃ。お主が過剰吸収に耐えることが出来たのはそれが原因じゃろう。」


なるほど。魔力回路は変化しないという定説は間違いだったらしい。

まぁそもそも、「魔力量を増やすことは難しい」という定説があるくらいだ。

その辺の研究はあまり進んでいないのだろうか。


「まぁ、どっちしろ危ない状態ではあったがの。これからは控える事じゃな。」

「そうするよ。」


それだけ言うと魔術王は部屋から出てこうとドアノブに手を掛ける。


ふと窓の外に目をやると、空は赤みを帯び始めている。

それに気づいた俺は、今まさに部屋から出ようとしていた魔術王に声を掛けた。


「あ、ちょっと待ってくれ。」


昨日、剣聖との戦いに決着が付いたのは夕方だったハズ。

つまり、俺は丸一日も寝ていたのだ。


「今日がミアの治療の予定日だろ?良いのか?」

「う~む...一時はお主の状態が悪かったからの。延期にしようと思ったのだが...

まぁ、お主が大丈夫ならよいか...おーいミア~!!」


魔術王はそう言うと、扉を開け放って大声を出した。


しわがれた声でそう言った彼の姿は、孫を呼んでいるただのジジ――おじいちゃんに見えた。


「なに」


と、10秒もしない内にミアが部屋に入ってきた。

まぁ広い家ではないので直ぐに来るのは分かっていたのだが。


「うむ、今からお主の治療をしようと思ってな。よいか?」

「わかった」


...やはりと言うべきなのか、彼女は感情を表に出さない。

或いは、感情そのものが薄いのか。


何となく、後者である気がした。







結論から言うと、治療は特に何事もなく終わった。


魔術王が何やら高度な魔術を使っていたのは分かったのだが、あまり詳しい訳ではない。ミアも無反応に受け入れていただけだし、特筆すべき事が何もなかったのだ。


ただ、治療の後にミアが浮かべた、戸惑っていたような、不思議そうな表情には気になったが。


まぁともかく、治療は終わったのだ。もう俺達がここに残る理由はない。


もうここもお別れか、と少し感慨深くなりながら窓の外に目を向けた。


何だかんだ治療には時間が掛かったので、外はすっかり暗くなっていた。


だが同時に、視界の端に微かに映る光が目に入った。


どうやら、隊員達は飽きもせず火の元に集まって雑談している...いや、飽きもせずというのは間違いなのかもしれない。何もやる事がないからしょうがないと言った方が正しそうだ。


「...戻るか。」

「そうね、皆も待ってるよ。」


サラの肯定を受け取った俺は、立ち上がって部屋の外へと出た。


そして、すっかり古びて薄暗い廊下を歩きなが思案する。


腕を取り戻し、聖剣という武器を手に入れた今、俺は戦い方を見直す必要がある。


魔力量でゴリ押すだけでは、強者——そう、あの魔術王の様な人間が敵となった時、通用しない可能性が出て来る。


というか、十中八九通じないだろう。剣聖にも通じなかったし、王立騎士団ロイヤルナイツにも結局は人的損害を与える事は出来なかった。


これから戦う事になるかは分からないが、帝国にも遺物の所有者が何人か居る。


そうなった時の為に、これからは魔術はあくまでも補助にしよう。


エルに教えられた戦いも応用できるだろうしな―――





エル。


その名前が、頭に浮かんできた瞬間だった。


―――――待てよ、そういえば、エルって一体何者なんだ?

ふと、そんな疑問が浮かび上がった。


造船関係者、反戦派の大量死。


かつてエルが言った、「国から追われている」と言う言葉。


10万人の兵士を一方的に殺せる、圧倒的な力。


その全てが、一つに繋がった気がした。





...もしかして。


この戦いの裏で糸を引いているのは、エルなのかもしれない。











「なんだ、ぼーっとして。もしかして魔力切れの後遺症か?」

「...ん...あ、あぁ。いや、別にそういう訳じゃない。」


少し考え事に耽り過ぎていた様だ。

隊員が居る火の元へ戻った俺は、そう少し反省した。



だが、それでも考えずにはいられない。

この戦いの裏にエルが居るというのは、考えれば考える程納得出来てしまった。


しかし、その目的がどうしても分からない。

何のためにこんな事をしているのか、それが分からなかった。


帝国が裏で操っているという線もないだろう。裏で糸を引いている人物は、王都に戦力を集中させるよう仕向けている。

王都はどちらかと言うと帝国領に近い。帝国からしたら、まとまった敵を叩くより、合衆王国との戦いに手こずっている所を後ろから突く方が得策だろう。

俺なら戦力を分散させるよう仕向ける。


となれば、更に訳が分からない。

まるで多くの人が死ぬ事だけを考えている様な行動だ。


「...はぁ、まぁいい。それより、こっちから少し話がある。」


珍しくガルが改まってそう言って来た。

いつもの飄々とした態度からは考えられない言いようだ。


「なんだ?」


少し違和感を感じつつも、断る理由もないので話を聞く事にする。


「そもそも、俺はあんま納得してないんだぜ、この話。」


この話、というのは停戦の話だろうか。



それに納得していないというのはどういう事だろうか、と少し思案するが、結論は直ぐに出た。


王国への復讐を第一に考える隊員と、そうでない隊員との確執だ。

それは、この隊が発足して間もない時には、既に存在していたのだろう。


ガルはああ見えて、一番深い憎しみを王国に対して抱いている。だが、俺はまだ彼の過去を知らない。


レオは家族を惨殺され、王国に対する憎悪は確かにあるだろう。だが、今はサラに対して恩義を感じているようだし、復讐第一といった感じではないだろう。


隊全体としては、およそ半分ずつと言った感じだ。


ガルの言葉に、彼が率いる形になってる復讐派の面々もそれに頷いている。


その復讐派からしたら、今回の停戦の話は納得出来ないだろう。


「ちょっと特別とは言え、俺達は軍属だ。隊長であるライトの判断には従う。」


そう言うガルの顔は、しかし明確に憎悪が浮かんでいた。

だが、それが王国に対するモノなのか、停戦交渉に応じた俺に対するモノなのかは分からなかった。


「だが、もしこれで本当に戦争が終わるようなら、俺達は勝手に行動させて貰う。」

「...はぁッ!?」


あまりの事に絶句してしまう。


もし本当にそんな事をするのなら、大問題どころじゃない。


彼らが王国に対して独断で攻撃した場合、王国は俺達に停戦に応じる意図なしと判断するかもしれない。そうなれば、この戦争は更に泥沼化してしまうだろう。


きっと、ガルだってそれを分かっている筈だ。だからこそ、その上で言ったであろうガルの復讐心に絶句してしまう。


「馬鹿なッ!復讐などして何になると言うのだ!」


何も言い出せない俺に代わり、レオが声を上げた。彼だって復讐心はあるだろう、だが、彼がそれを表に出すことは無い。


「テメェだって悔しくねぇのかよッ!家族が殺された恨みはテメェも分かるだろ!」


ガルは、その胸の内に深い憎悪を抱えていようとも、いつも飄々とした態度を取っていた。そのガルが、声を荒げて自分の怒りをぶつける様に叫ぶ。


「大体、ライトも最近変だろ!!テメェはもっと冷酷な判断を下せる奴だった!アイツらに絆されたってか?あぁッ!?」


「冷酷な判断を下せる奴」というのは、きっと、戦う時の俺の事を言っているのだろう。心が凍てつく感覚は今でもありありと思い出せる。そして、一時期は常にそんな感覚だったのも覚えている。


その時の俺の方が、ガルにとっては良かったのだろう。


――彼の言葉に、俺は答える事が出来なかった。




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ミアはヱヴァのレイをモチーフにしてます。

俺は無口キャラ推しなんだよ!!

メインヒロインの癖にキャラが立ってないサラよりかわいい(投げやり)


特に好きなのが、そんな無口キャラが傷心の主人公に寄り添う感じのシーンですね。


あと拘りポイントとして、ミアのセリフだけ最後に「。」を付けていません。

その方ぶっきらぼうで感情が籠ってない感じがしてより無口キャラっぽくない?


まぁそれはともかく、次でやっとターニングポイントですね。

あと少しでやっとあらすじに追いつく...

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