第79話 そして、剣は再び振られる

今日はもう一話出すから許して(大嘘)

ガチですみません。言い訳のしようがないですね、ハイ。


ごめんなさいっっ!!!(土下座)


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ヒロは、森の中に居た。聖女もラウラも近くにはおらず、ただ一人——いや、仮面を

付けた男を含めれば、二人だけで森の中に佇んでいた。

しばらく沈黙を貫いていた2人だったが、やがてその沈黙に堪えかねたのか、ヒロが背後の木に寄りかかりながら口を開いた。


「これでいいんですよね。」


そう言ったヒロの表情は、何故か苦痛に満ちていた。

絶望とも傍観とも取れないその表情を、しかし言葉に表すなら、変える事の出来ない運命に対する悲しみとでも言うのだろうか。


「あぁ、すまない。こんな事を頼む事になって。」


そんなヒロに対して返事をする男が一人。彼はいつもその顔に付けていた仮面を手に持ち、その顔には笑みを張り付けている。


その笑みは、諦めと自嘲に満ちたモノだった。


「分かってるんですか。もう、引き返せなくなりますよ。」


「引き返したくても、引き返せないんだ。運命なんだよ、これは。」


そう言った男だったが、その表情には隠し切れない悔しさが滲み出ていた。

ヒロからは男の表情を見ることが出来ないが、その事はありありと想像出来た。


「無駄かもしれないけど、僕は抗ってみます。」












翌朝、俺は再び魔術王の部屋に居た。

俺の腕(魔改造済み)について話があるらしい。


昨日の事を思い出して暗い気持ちになりながらも、俺の事を呼び出した癖にまだ姿を現さない魔術王クソジジイを待つ。


「待たせたの」


と、そう言って扉を開けた魔術王の腕には俺の腕が。

...文字にすると意味不明だ。


ともかく、魔術王は容器に入った俺の腕を抱えていた。


「なんの用だ?そんな物抱えて。」


自分の腕を「そんな物」と呼ぶのは大変不本意だが、もう気にしないことにした。


「うむ、これを持ち主に返そうと思っての。」

「はぁ?ミアの治療が終わってからじゃないのか?」


おかしな事を言う。それを返してもらう条件はミアの治療のハズだ。このタイミングで俺に腕を返す理由がない。


「遂にボケたか」

「...このガキ、最後まで話を聞かんか。」


あんまり怒ると血圧上がっちゃうんじゃない?と言うのは何とか踏みとどまった。


「そもそも、剣聖から持ち掛けられた依頼は腕が治った状態のお主と戦いたいという物じゃ。ミアの件はワシが付け足しただけに過ぎん。

 腕が治りさえすれば、ミアをほっぽり出す様なヤツなら話は別じゃがな。お主はそんなヤツではなかろうし、腕は早い内に治してやってもいいじゃろう。」


「...マジで!?」


「うむ。では聖女、頼んだぞ。」


心の中で狂喜乱舞していた俺だが、その一言で凍り付いた。


「...では、治しますね。」

「お、おう。」


そう言って俺の傍による聖女。



...めっっっちゃ気まずいんだが。


俺コイツになんて言ったっけ...確かクソビ〇チとか言ってなかったけ、俺。

というか、彼女も彼女で気まずそうだ。言ってしまえば、俺が片腕を失くす事になったのも、監獄島にブチ込まれる事になったのも、全部冤罪のせいだからな。

俺に対しては負い目しかないのだろう。


そう互いに気まずい思いを抱えながらも、聖女は治療を進めていく。

彼女は俺の腕が入った容器に手を突っ込んだ。

そこから出て来る俺の片腕。あんまりにあんまりな光景に思わず顔を顰めてしまう。


だが、聖女は怪我を治すのが仕事だ。戦場にも居たのだし、この程度のグロは見慣れているのだろう。


彼女は俺の腕にソレを近づけると、慎重に位置を揃えた。


それが終えると、彼女は深呼吸をして目を閉じる。


その顔には、真剣な表情のみが浮かんでいた。


「【スキル、治癒】」


そう呟くと共に、俺の腕がくっつき始める。

その光景を見て、俺は思わず鳥肌が立ってしまった。


自分の腕の切断面が生き物のようにうねうねと動き、互いに絡みつくように治っていく。ちょっとキモイ。




だが、それも数秒経った頃には終わっており。


そこには、かつての姿ではないものの、確かに俺の腕があった。


俺は手を握りしめる。思った通りに動くし、感覚だってある。

その事実にちょっと泣きそうになり


「...ありがとう。」


―――これで、俺は再び剣を振れる。










腕が治った後、俺は魔術王から受け取った剣を振り続けていた。

腕と一緒に剣聖からもらい受けた物だそうだ。数打ちではない事は、その剣を握った瞬間分かった。


ともかく、俺の腕は治り、剣もここに在る。


――ならば、やる事は一つだ。


「———ふッ!!」


筋肉も勘も衰えている。


だが、それがどうした。


積み重ね続けていた努力は確かに存在したのだ。今は失われているそれらは、直ぐに取り返して見せる。


剣聖に勝つ。今はそれだけを考えながら、必死に剣を振るう。







もう何時間も剣を振り続けている。


肺が痛い。腕が腫れあがっている。手の平の皮が破けている。


それでも、今までにないくらい最高な気分だ。


純粋に剣だけを想い、かつての俺を取り戻そうと――いや、超えようとする。


思えば、学園に居た頃は剣の鍛錬が好きではなかったのかもしれない。ただ見返したくて、意地になって強さだけを望んでいた。


父親と比べられて劣等感を抱いていた、俺はそう思っていたが。


「父親より弱い」「もっと出来るハズだ」「劣っている」そんな言葉を俺に掛けたのは、俺自身なのだ。


俺が、自分で父親と比べて劣等感を抱いていたのだ。


剣の鍛錬をする度に劣等感に襲われていた、そんな心境で剣を振り続けていた。

楽しいはずがないだろう。


でも今は違う。


ただ、こうして剣を振れる事が嬉しかった。

今なら、誰にでも勝てる気がした―――


と、その時。


「戻って来いライト!騎士団が来たぞッ!!」


少し焦りを含んだ声が聞こえる。おそらくガルの声だろう。

あまりのタイミングの悪さに、思わず舌打ちしてしまう。


「隊の指揮はレオに任せる!そっちで何とかしろ!」

「はぁ!?」


俺が居ない上に、魔術王との約束がある以上撤退も不可能だ。騎士団に関しては隊員と魔術王に期待するしかないだろう。


「——俺は剣聖の相手をする。決着をつけよう、父さん。」


「...そうだな。」


誰かに見られているという感覚は、剣を振り始めてから直ぐにあった。


多分、俺が再び剣を振れるまで待っていたのだろう。だが、俺が騎士団と戦う様な事になれば一対一は厳しくなってしまう。


そうなる前に、彼は姿を現すはずだ。




――そして、予想は違わず。

森の方から剣聖が姿を現した。


「...彼女も話しただろうが、こちらに戻ってくるつもりはないのだな、ライト。」


思い出すのは、初めて隊員に死者が出たあの戦い。


あの日剣聖は、ただ漫然と戦うだけだった俺に、信念もなく戦い続けていた俺に現実を叩きつけた。


だが、俺はもうあの日の俺ではない。



「あぁ、俺はサラを守ると決めたんだ。」


「そうか...」


彼はそう呟くと、目を瞑って大きく息を吐いた。


「父親らしい事は何も出来なかった。剣聖と言う肩書が、剣聖に希望を見出す人々の存在が、私を剣聖足らしめた...して、しまった。だから、剣聖としての役割を放棄する訳には行かなかった。」


もしかしたら、俺と同じなのかもしれない。

剣聖の息子という肩書だけを見られ、その肩書に相応しい人間になるために必死に努力してきた俺と。


「お前に覚悟だのなんだの言っておきながら、私にもそれが足りなかったのかもしれない。父親として剣聖の役割を放棄するのか、剣聖として父親の役割を放棄するのか。最後の最後まで、覚悟を決めきれなかった。」


俺は、何も言い返さずにただ聞き入る。


――きっと、これが最後の会話になるだろうから。


「最後に一つ聞かせてくれ。お前の望みは何だ、ライト。」


真剣さを滲ませた鋭い眼光が、俺を貫く。


望み、か。サラを守りたいというのは、恐らく彼が聞きたい言葉ではないだろう。


「...俺はあんたを超えたい。剣に努力を捧げた身として、俺は最強を超えたい。

それが、一番長く抱えていた夢だから。」


その言葉を聞いた彼は、満足そうに頷いた。


「だったら、今、私を超えて見せろ。ここで戦う事を剣聖としての職務とし、お前に再び剣の道を示す事を父親としての義務とする。」


彼は聖剣を鞘から抜き、それを顔の目の前に掲げた。


「剣聖、エイトール・スペンサー。」


それに倣い、俺も剣を顔の前に掲げる。古くから王国に伝わる決闘前の儀式だ。


なんと名乗るべきか、と一瞬迷ったものの、結論は直ぐに出た。


「懲罰部隊隊長、ライト・スペンサー。」


俺は、もうスペンサーの名は名乗らない。前にそう決意した事もある。

だが、今は彼の息子として、しかし同時に懲罰部隊の隊長として、剣聖に挑む。


そしてそれは、今まで名乗ってきた「剣聖の息子」という名より、遥かな誇りを持っての名乗りだった。




互いの名乗りが終わり、キッチリ5秒後。


互いに無言のまま、相手に向かって一直線に走り出した。


「——ハアアアアァっ!!!」


迷うことなく、剣を上段に。この一閃に全てを掛ける様に、ただ万感の思いを乗せて剣を振り上げる。


「——ウオォォッッ!!」


対する相手は、剣を下に構えていた。速さ、力、技量、その全てを剣に込め、その瞬間までそのエネルギーを溜め続ける。



そして、遂にその瞬間は訪れた。


「——ッ!」


鋭く息を吐き出し、全身の筋肉を振り絞る。


俺は上段に構えた剣を全力で振り下ろし、剣聖は下段からの振り上げ。


それらは丁度俺達の真ん中でぶつかり合い、大きな衝撃音と火花を撒き散らす。


俺はそのまま上から剣を押し付けるが、剣聖はそれを剣の向きを変えてそれを受け流した。


クソッ!姿勢を崩された!


前のめりになった俺を逃がさず、俺の首めがけて振り下ろされる剣。


「くッ!」


完全に振り下ろしてしまった剣を引き上げ、後先構わず聖剣を弾く。


しかし後先考えずに剣を弾いてしまったせいで俺の姿勢は再び崩れてしまう。




「そんな実力では私を超えることなど出来ないぞ、ライトッ!!」




そして、その隙に再び振るわれる聖剣。


「ぐッ、ハァ...ッ!?」


それはぶれる事無く振り下ろされ、俺の胸を大きく切り裂いた。


血飛沫が飛び散り、激痛によって意識が遠くなっていく。






―――今の俺の剣技は父親より、大きく劣っている。


筋力も戻ってないし、なにせ剣の感覚...いや、両手を使える感覚にすら、未だに思い出せていないのだ。


こんな状態で普通に戦ったところで、剣聖に勝てる訳がない。







...そう、普通に戦えば。


今の俺には、スキルがある。


スキルさえあれば、俺は何度でも挑み続けられる。


即死さえしなければいい。

心臓を貫かれようと、首が切り裂かれようと。


――1秒生きていれば、俺はいくらでも戦い続けられる!!!!



「【スキル】!!」



怪我が一瞬で治る。

遠くなっていた意識が明瞭になり、全身に力が戻ってきた。


そのまま、俺は全力で剣聖に向かって叫ぶ。


「今の実力じゃ勝てない。だから、今ここで強くなって超えんだよッ!!」











「戻れないだァ!?」

「あっちは剣聖の対処だってよ!クソが!」


やっぱりライトってちゃんと隊長してたんだなぁ...


と、テオはあまりに場違いな感想を抱いた。


周りを見る目もあるし、指示も適切。その上隊員の治療まで出来ると来た。

剣聖と戦っているらしいが、彼が殺されたらそれこそ懲罰部隊の存亡の危機だ。


「ジジィ!テメェが何とかしろ!」

「こちとら団長抑えとんじゃボケ!他の団員くらいなんとかせんかいっ!!!」


やっぱりまとめ約がいないとダメだなぁ。


と、テオはまたしても場違いな感想を抱くのだった。










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※魔法陣から魔術陣に名前を変更しました。本作で登場しているのは魔法ではなく魔術という事になってるので...

あと、今までスキルや魔術名は“ ”の形式で表していましたが、見やすさや区別のしやすさの観点から【 】に変更しました。

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