第77話 テオ

今日はもう一話投稿出来るかもしれない(大嘘)

こっから先の展開...というか内容をどうするか悩みました。大筋は決まってるんですけど、そこに追加したい内容が出来てしまい...取り合えず後回しにしました。

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「...はぁ!?」


こんな如何にも凡庸そうなテオが暗殺者?


「前の戦争で王国の将校を殺して回ったせいで有名になったんだと思う。」

「いやいやいやいや、ちょっと待て。」


懲罰部隊の中ではまだまともだと思っていたが、一番ヤバい経歴だった。

その事に困惑しながらも、何とか言葉を捻りだす。


「...頼む、もう少し詳しく。」


「うん、ちょっと長くなるけど...まぁ暇つぶしくらいにはなるか。」


テオは自嘲気味にそう言うと、彼が歩んできた人生について語り始めた。








生まれは普通の農村だった。

長男だった僕は、畑仕事の手伝いをしながら普通に暮らしていた。村の皆とも仲が良くて、特に幼馴染の彼女とは毎日のように遊んでいた。


幼いながらも、このまま畑を継いで、幼馴染と結婚して、普通の生活を続けていくんだろうな、と思っていた。


そんな思いが裏切られたのは、12歳の誕生日を迎える前だった。




――彼女と遊ぶ場所は、いつもあの丘だった。

頂上に一本だけ気が生えていて、その木の下には小さな空洞があって、大人から隠れたりして遊んでいた。

その周りは色とりどりの花で満ちていて、花で作った輪っかの数は、きっと十や二十ではすまないと思う。

そこから見る夕日は美しくて、それを目に入れるだけで心が満ちた。



あの日、僕はいつもより少し早く畑仕事を終えた。

彼女に会うために、あの夕日を目に収めるために、僕は丘に走った。


村を背にひた走り、目の前には丘があった。

目の前に広がる丘はどんどん小さくなって、その先に見えるオレンジ色の空は、どんどんその色を深めていた。


木の近くに小さな人影があって、それが彼女だと気づいた。


だけど、いつも元気で満ち溢れていた彼女は、何故か怯えていた。木の陰に隠れて何かに怯えていた。どうしたの、そう尋ねる俺の声に、彼女は振り返ってこう言った。


来ちゃダメ、と。


その言葉の意味は直ぐに分かった。

花々を踏み荒らしながら、盗賊風の男たちがこちらに向かって走って来ていたのだ。


何かを考える前に、僕は木の下にある空洞に彼女を押し込んだ。


だけど、僕も彼女も成長していた。彼女を押し込んだその時、僕は隠れられない事を直ぐに悟った。


ごめんねと一言告げると、僕は叫びながら村に向かって走った。


後ろから影が差して、それが何かを察した時には、僕の意識は無くなっていた。







僕が目を覚ましたのは、窓一つない牢屋みたいな部屋の中だった。周りには僕と同じくらいの年の子供たちが居て、不安そうに周りを見渡している。数は40人くらいだろうか。


そこに一人に男が入ってきた。その男は子供たちに目をやりもせずに、一方的に目的を告げた。


――どうやら、僕たちは帝国の諜報員として育てられるらしい。



その日から、地獄の日々が始まった。


変な薬を飲まされたり、魔力を酷使するよう強制されたり、遺物と適合するかどうか試されたり。


周りの子供たちはどんどんその数を減らしていった。


2年目には、今度は実際に人を殺すようになった。戦争に参加して、植え付けられたスキルで人を沢山殺した。


3年目には、生きていたのは僕を含めて5人だけだった。


4年目、僕は逃げることを決意した。

生き残っていた彼らとは仲が良かったし、裏切りたくなかったけど、それ以上に彼女の事が気になって仕方がなかった。


帝国からの追手を死ぬ気で退け、なんとかあの村の元に辿り着いた。


...だけど、村はもう無くなっていた。


もう何もかもどうでも良くなった僕は、あの丘の上へ歩いた。

木の幹に寄りかかって座り、ただ夕日を眺めていた。


馬が走る音が聞こえる。帝国からの追手か、はたまた王国の兵士か。

どちらにしろ、僕の命はここまでらしい。


...だが、全く不可解な事に、僕が殺されることは無かった。

王国兵に捕らえられた僕は、そのまま監獄島に移送されたのだ。



「それが、僕が監獄島に来るまでの経緯だ。」


僕はそう言って話を閉じた。







「「「......」」」


誰も口を開かない...いや、開けなかった。


テオが語った、彼が歩んだ人生があまりにも過酷だったからだろう。


悲惨さは他の隊員も負けていないが、それでも幼い内からずっと暗殺者として使われていたというのはあんまりだ。テオにはそう言う悲壮な雰囲気を持ち合わせていなかったのも俺達に大きな衝撃を与えた一因かもしれない。


誰かが溜息をついた。きっと、それは全隊員の心情を表しているのだろう。


「うん、事情は分かった...お前の証ってどんなのか聞いていい?」


そう言いはしたが、俺は殆ど察しがついていた。王立騎士団ロイヤルナイツとの戦いの中、彼は突然その気配を消していた。暗殺者をやっていたと言っていたし、おそらくそういう類のスキルだろう。


「うん、発動と共に自分の気配——具体的には、自分が発する音と自分自身の姿を消すものだよ。」


...これ以上ないくらいに暗殺向きのスキルだ。

まるで――いや、実際に暗殺の為だけに植え付けられたスキルなのだろう。


スキルを植え付けた方法に関しては全く見当もつかないが、碌でもないという事だけは分かる。


「懲罰部隊の中で、僕は異質な存在だという事は知っていた。僕は王国に対する恨みはないし、王国に対する感情はそこまで悪いモノじゃないんだ。」


彼はそこで一度言葉を切ると、深いため息をついた。


「皆も経験した様に、確かに王国は恨まれて然るべき面は多々ある。けど、帝国に比べたらまだマシだよ...」


そう告げられた懲罰部隊の隊員達の反応は二つに分かれた。

家族を殺され、未だ王国に深い恨みを持つ者はその言葉に対し怒りを顕わにし、単なる冤罪や貴族の戯れで監獄島に入れられた人間はテオの境遇に同情する様に眉を顰めた。


それらの反応をその目に収めながらも、テオが口を閉じる事は無かった。



「僕は、ここに相応しい人間じゃないんだ。皆は冤罪や濡れ衣で監獄島に来たのかもしれないけど、僕は違う。王国の人間を沢山殺した、本当の罪人だ。」


その言葉に、テオに対して苛立ちを抱えていたであろう隊員達の表情は沈痛な面持ちになる。


しかし俺は、懲罰部隊に確かに存在する確執に対して暗い気持ちになってしまう。


先程、隊員達の反応は二つに割れたと言った。


その二つは、そのまま隊の中での対立を表している。


復讐を第一に考えている隊員とそうでない隊員の間にある対立だ。今までは打倒王国の為に一つにまとまっていたが、そうでなくなった時、懲罰部隊には果たして何人残っているのだろうか。





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短いのは承知です...今日は後もう一話出すから許して


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