第74話 五歩目、魔術王

投稿遅れました。今回は書くのに時間がかかってしまった...

あ、前回のミスは修正しました。まさか同じ文章を2度も書いてしまうとは。

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上手くいった。やはり、敵は俺が証を持っている事を知らない様だ。

先程隊員が負傷した際、直ぐに治さなかったのはこの時の為の布石。上手くいって良かった。エイベルが相手だったらこうは行かなかっただろう。


後続の騎士団も俺を相手にするのは危険と判断したのか、俺の横に進路を変えた。


だが、そこにレオ達3人が襲い掛かる。騎士団は長槍や大剣で切り掛かるが、それをクルトとフランクが防ぎ、その隙にレオが剣を振る。



俺が付けたモノを含め、馬につけられた傷はそこまで深くない。足を切断出来た訳でもないし、骨を断った訳でもない。傷をつけられたのも全体の3分の一、精々4騎くらいだろう。だが、それでも今までのように全力で走ることは出来なくなる。


となれば、やる事は一つ。


「よし、撤退!!」



このまま泥仕合を繰り広げても良いのだが、こちらには敵を追撃して撃破できる程の瞬間火力は出せない。どうせ逃げられるだろうし、そうなれば魔力の無駄使いだ。そこを敵に突かれたら大損害だし、敵の機動力を奪うという目的を果たした今俺達にここに留まる理由はない。



「——“ウィンド”——」


全隊員が一か所に集まっているのを確認した俺は、すぐさま魔術を放った。










「...やられたな、ローエン。」


「あぁ、まさかライト君があんなスキルを持っていたとは...やられたよ」


騎士団の騎馬の内、訳がやられてしまった。

思わぬ損害に顔を歪めながら呟く。


「ライト君だけではなかった様だ。懲罰部隊には、彼以外にも優秀な人間が多く居る...王国は何故彼らを監獄島に入れたんだ。」


レオはかつての同僚だ。王立騎士団ロイヤル・ナイツ入団は家族を理由に断られたが、その家族を不慮の事故で無くしてからは音信不通だったハズだ。


(それが...まさかあんな所にいたとは。)


彼が自分の主を裏切ったなど考えられない。大方、策略か何かだろう。

他にも、見覚えのある人物が何人か居た。




「それより...一番の警戒対象を変えないとな。」



懲罰部隊の中で、ダントツで危険な人間。

それはきっと、ライトでもレオでもなく――――













「よし、全員無事か?」


無事地面に着地した俺は直ぐに声を上げる。

それと同時に周りを見渡すが、特に問題はない様だ。


――だが、周りを見渡したその時、あり得ないものが視界に入った。


「こんな辺鄙な所に住んでる奴が居たとは...」


ごく普通の家だ。2階建てで、煉瓦と木で出来てる。町の中で見かける分には何の違和感も覚えないだろうが、山中にあるとなると話は変わってくる。


「どうせ偏屈なジジイが住んでんだ。とっとと移動すんぞー。」


面倒くさそうに顔を顰めたガルがそう言い放った。

それもそうか、と変に納得した俺は隊員達に声を掛けようとするが――






「ほー、よく分かったの。どうじゃ、偏屈ジジイの茶でも飲んでくか?」


「まじかよ...」


森の方から出てきた老人の声によって、をれは遮られた。

ガルは予知能力でも持っているのではないか。そう思わせる程のタイミングだ。それに、偏屈ジジイという点でもドンピシャである。


――と、脱線しかけた思考を元に戻そう。お茶は是非とも遠慮したいが、それ以上にあの老人は俺達の事を勘違いしている可能性がある。


「いや、じゃなくて。俺達合衆王国側の人間だから。」

「そんなもん知っとるわ」


間髪入れずに返答した老人に思わず困惑する。

王国の人間が俺達の事を怖がらない理由が分からない。敵国の軍人、それも上陸されたという情報すらない中で急に現れた軍人だ。


それを「知ってる」だと?


コイツ、ボケてんのか...?


「コイツ、ボケてんのか...?」

「なんだとこのガキ」


しまった、口に出てた。いやしかし、本当にボケているのではないだろうか。この老人からは、俺達の事を脅威と認識している雰囲気が全く感じられない。


「埒が明かんな。貴様、剣聖から何か聞いていないのか?」

「...なんだと?」


そういえば、最初に会敵した時に何か言っていた気がする。

確か――「南の山に魔術王が居る」だったか?


――もしかして、この老人がそうなのか!?


「まさか、お前...っ!」

「やっと気づいたか...そう、わしが魔術王だ。」


魔術王。王国に生まれた人間なら、誰もが耳にした事のある人間だ。一斉斉唱も、省略詠唱も、魔法陣を用いた設計図も彼が開発したものだ。それに無詠唱魔術も扱えるという話もある。


彼は魔術に対する研究の為に前線に出ることは殆どないが、その戦闘能力も群を抜いている。実際、以前起こった帝国との戦争では多くの敵を葬ったと聞く程だ。


(勝てるか?今の俺達で...)


風魔術で撤退は無理だ。圧倒的な瞬間火力を持つ魔術王に対してそれは下策中の下策。どうすればこの状況を打開出来るだろうと必死に頭を回す。


「...誰?またお客さん?」


森戸は逆の方向。つまり魔術王の家と思わしき場所から声が上がった。今度はなんだよ、と心の中で文句を言いながらそちらを振り向くと、そこには少女が居た。

年は自分やサラと同じくらいだろう。髪は短く切り揃われており、顔も非常に整っている。だが、その顔には何の表情も浮かんでいない。


「今度は誰だよ...」

「?」


なんの表情も映さないまま首を傾げる少女。彼女が口を開く前に、魔術王がその少女の問いに対して答えた。


「ミア、こ奴は“あれ”の持ち主じゃよ。」

「わかった。じゃあ持ってくる?」

「いや、どうやらこの事について何も知らないらしい。まだ保留じゃ。」



...状況が掴めない。相手から敵対する意図が見えないし、敵対する意思がないとしてもその理由も分からない。


それに、剣聖が「魔術王と会え」と言った理由も気になる。


「...魔術王。先程、剣聖から話は聞いていないのか、と言ったな。どう言う事だ。」


「ふむ...やはりそうじゃったか...」


俺の問いを聞いた魔術王は何事か呟くと、顔にある皺を更に深くして笑った。



「——剣聖から、貴様の片腕を預かっている。」










「どうじゃ、偏屈ジジイの茶は旨いか?」

「これやったのそこの子だろ...なんでテメェが偉そうにしてんだよ。」


あれから数分後。俺達は魔術王の家でお茶を飲んでいた。

魔術王の言葉に驚愕している俺を傍に、魔術王に指名された数人が家に上がる事になった。警戒すべきという言葉もあったが、剣聖の言葉もあるので、取り合えずは信用しようということになったのだ。


まぁ、それは別にいいのだ。目の前にあるこれに比べたら大したことは無い。


「...なんでこんな事になってるんだ。」

「趣味」


俺の腕がまだあると聞いたときは驚愕したが、それと同じくらい喜んだのだ。再び剣を振れるようになるかもしれない、と。


証を得てから、この腕を治そうと何度も試みたのだ。それ故に、喜びは大きかった。


...大きかったのだが。


なんらかの液体に満ちたガラスケース。その中に、俺の腕は保管されていた。

そして、その腕は――――




「何故だ...何故俺の腕に魔法陣が刻まれている...っ!?」


大量の魔法陣が刻まれていた。しかも若干変色してるし。めちゃくちゃ禍々しい。完全に呪われてるとしか言いようがない見た目だ。


「だから趣味だと言っておろう。あれじゃよあれ、魔改造というヤツじゃ。」

「頼むから人の腕を勝手に魔改造しないでくれ...」


思わず背もたれに寄りかかり、深いため息をついてしまう。

いや、まぁこんだけ時間が経ってるんだし、無傷のまま保管されているとは思ってなかったけどさぁ...


「はあぁーーー...まぁいい。いや、良くないけど。全く良くないけど...で、どうすれば良いんだ、コレ。普通にくっつければ治るのか?」


「いいや。だが、治す手段はこちらで用意してある...だが、その前にやって欲しい事があるのじゃ。それを承諾してくれたら直ぐにでも元に戻してやろう。」


その言葉に思わず眉を顰める。俺達は先ほど騎士団と戦ったばかり。敵の足を奪ったとは言え、徒歩でも数十分程度で追いつかれてしまう距離だ。


だが、話を聞く位なら別にいいだろう。


「分かった、聞こう。」

「話が早くて助かるわい。だが、その話をするにはミアについて説明せんとな。」


そう言うと、魔術王は無表情の少女へと視線を向けた。彼女の名前はミアというらしい。


「その子はわしの弟子じゃ。昔、死にかけていた所を拾ってな。今は魔術を教えたりしているのじゃが...ちょっとばかし特異な病を持っていてな。」

「病?」

「うむ。魔力を過剰に吸収してしまう病じゃ。」


思わず絶句する。その症状は、俺が...いや、懲罰部隊の隊員ならだれもが経験した事のあるものだったからだ。


俺達があれを経験してなお無事なのは、過剰に吸収される魔力が腕輪に持ってかれたからだ。それでも、吐き気を催すあの感覚は今も覚えている。


ミアと呼ばれたこの少女は、今もそんな状況に立たされているのか。魔力の過剰吸収の辛さを知っているからこそ、どうしても不憫に思えて仕方がない。


「...何故生きてられる?」


だが、同時に疑問にも思う。過剰吸収を起こした人間が発狂したり死んだりするのは

常識だ。常にそんな状況にあるなら、いつ死んでもおかしくはない。ミアからはそんな雰囲気は感じられないし、無表情だから痛みや不快感を押さえているといった感じもしない。


「わしは魔術王じゃよ。症状を抑えることくらいなんともない。」


「なるほど...だが、それでは根本的な治療は出来ない、という事か。」


魔術王は結構なジジイだ。あと20年も生きれればいい方だろう。だが、ミアはそうではないのだ。


「分かった、引き受けよう。」

「...良いのか?話を最後まで聞かなくて。」


自己満足かもしれないが、何となくミアの事を放置出来なかった。まぁ、剣術が使えればこの後の戦いに有利になれるという打算もあったが。


「あぁ、再び剣が振れるなら、それくらい安いモノさ。で、何をすればいい?」

「知らん。」

「は?」


知らないってなんだよ。やっぱボケてんじゃねぇか?


「やっぱりボケてるよコイツ...」

「黙れ」


俺が思ったことを口に出すガル。だが、別に適当に言った言葉でもなさそうだ。どういう意図があるのだろうと身構える俺に、魔術王ジジイが口を開く。


「わしの証は“啓示”。自分の欲しい情報が得られるという効果だ。そのスキルによると、お主が何らかの鍵を握っているとの事だ。」

「...それだけ?」

「そうじゃ。」


なんて事だ。これでは俺が何をすればいいのかなんてこれっぽっちも分からないじゃないか。そんな事を呑気に考えていたら騎士団がここに押しかけて来るだろう。そうなったらこの魔術王とも戦わざるを得なくなる。


時間の猶予はあと3~40分程度といったところか。

今の俺に出来ることは、時間内にその鍵とやらにあたりをつけ、それを以てミアの病を治療する事だ。


「まぁ、スキルしかないよなぁ。」


病に効くのかなんて分からない――というか、俺はこのスキルについてあまりよく理解していないのだ。ユニークスキルとでも言うのだろうか。俺の証は他の証とは違うらしいし、効果について理解していないのも仕方がないのだが...


「何じゃと?どんなスキルだ?」

「うーん...怪我を治す効果がある事は確かなんだが...」


物は試し。取り合えずスキルを使ってみよう。


「ミア...というんだったな。今からスキルを使うけど、いいか?」

「うん」

「よし。」


彼女の返答を聞いた俺は直ぐにスキルを使った。


「...」

「...」

「...何も起きないようじゃな。」


やはりそう上手くはいかないか。せめて効果が分かれば良いんだが...しまったな。もっと検証するべきだったか。


そう後悔していると、外から大きな声が聞こえた。


「おい隊長!!誰か来たぞ!」


咄嗟に騎士団かと思ったが、それはおかしい。時間的にもそうだし、騎士団が来たなら騎士団が来たと伝えるはずだ。周りは森で囲まれているし、その人物の姿が見えた時にはかなり距離が狭まっている。そんな状況で騎士団かどうか分からないなんて事はないだろう。



そう考えた俺は、その人物の正体を確かめるために席を立った。

だが、ここを出る前に確認しておかなければいけない事がある。


「...その誰かが王国軍の人間で、俺達と戦闘になったら。お前はどうする?」


魔術王に後ろから撃たれるなど冗談では済まない。もし“おぬしらと戦う”とでも言われた結構ピンチだ。


「...わしにとって、ミアは一番大切な存在じゃ。お主らと敵対してその未来が

絶たれるなど冗談ではないわ。」

「分かった、ありがとう。」


そうして確認が済んだ俺は、外へと足を踏み出すのだった。


そして、そこに居たのは。



「...まさか、お前がこんな所に来るとはな。ヒロ。」



俺を片腕にした仇敵、ヒロであった。






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読まなくても大丈夫ですが、一応報告(?)を。

よく投稿が途絶えたりする作者ですが。あのクソブラックのせいで精神をやっちゃった可能性があります。多分躁鬱ですね。諸事情で診断書は貰えませんが...


出来るだけないようにしていきたいとは思いますが、もしかしたらこの先投稿が途絶えるかもしれません。そんな時は気長に待って頂けると幸いです。


その半年後には躁になった作者が頑張って投稿を再開するので。


ではまた。

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