第73話 四歩目、激闘
今どれくらい進んでるのかなって気になったので、一回確認してみたんですよ。想定してるイベント数から計算して、全体を通してどれくらいの長さになるのか、今はそのどのあたりまで書いてるのかを考えたんです。
そしたら、まだ5パーセントくらいしか進んで無かった...長すぎだろ。
このままのペースだと本当に10年以上かかってしまう......
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「——“ウィンド”——!!」
空を飛びながら、必死に軌道を制御する。
隊員がバラバラにならない様に、かつ確実に減速しなければならない。とは言え、一度成功した事だ。この浮遊感というか落下する感覚には相変わらず肝が冷えるが、難易度はそれほど難しくはない。
そして、地上まであと少しという所で前回と同じように水魔術をを展開する。
その水魔術に突っ込んだ瞬間、大きな衝撃を受ける。思わず息を吐きだすが、大したダメージではないハズだ。
そして、水魔術で減速された俺達は地上に叩きつけられるた。
「...全員無事か?」
「多分な...」
流石に疲れを感じる。魔力量は大して減っていないが、結構精神がすり減るのだ。
他の隊員達を見渡すが、大きな怪我を負っている者はいない。一時撤退は成功した、と見て言いだろう。
と、その時。隊員の一人が焦り気味の声を上げた。
「...っ!アイツら、追って来てるぞ!」
クソ、やはりそう簡単には逃がしてくれないか!
相手は騎士団だ。馬に乗らない騎士は騎士ではない。その例に漏れず、
そう心の中で悪態をつきながらも、俺はこの場を凌ぐ為に指示を出す。
「今までの訓練を忘れずに戦え!頭を守るんだ!」
「「了解!」」
最初の一撃は防がれた。だが、問題はない。アイギスがある限り俺らの攻撃は通らないが、アイギスもずっと展開出来る訳ではない。時間経過でも効果が切れるし、タメージを食らえばその分効果時間も短くなる。
アイギスの効果時間は10時間、連続で魔術を打ちまくれば、その10分の一までは短縮出来そうだ。
そうなれば、リアムの攻撃も通る。
「1時間は持ちこたえるぞ!」
そう威勢の良い掛け声をかけると共に、全力で魔術を放つ。
「——“ヘルファイア”——」
それに続くように隊員も魔術を放った。この時点での火力はもう、数千人の軍を吹き飛ばすことが出来る程に至っている。だがそれでも、敵に一人として欠けた様子はない。アイギスの強化を身に纏い、その鎧はかすり傷一つ付いてない事を示すかのように輝いている。
「後退しながら戦え!絶対に間合いに入れるな!」
そう言うや否や、敵の進路上に魔術で障害物を作る。以前剣聖と戦った時の教訓だ。
敵は魔術を切り裂き、魔術で破壊しながら直進してくる。その隙に再び魔術を叩き込むが、相変わらず効いてる気がしない。
それならばと、魔術で地面を泥にする。これには流石に手間取った様子を見せ、敵の速度が若干下がった。
「——“
そこに、サラが魔術を叩き込んだ。一発の火力では俺の魔術を完全に上回ってるそれに、流石の騎士団も堪らず――いや、そんな事なかったわ。
「マジで堅すぎだろ!!——ヘルファイア、ヘルファイア、ヘルファイア、ヘルファイアッ!!」
狂ったように同じ魔術を連発する。一番高い火力を、何発も叩き込む。他の隊員も同じように魔術を叩き込んでいるせいか、その弾幕は10万の兵士と戦った時と全く遜色ない程だ。
「人外が...!」
それだけ食らっても敵に何かが変わった様子はない。
(...いや、馬が興奮してる。)
アイギスによる強化には馬も含まれるから、俺達の魔術でダメージを負った様子はない。だが、どれだけ訓練されていようと所詮は動物。連続で爆音が鳴り響き、魔術による光が目を刺激する環境では恐怖を覚えない筈がない。
「...出来るだけ馬を刺激しろ!!音でも火でもなんでも良い!」
「「了解!」」
先ずは敵の足を奪おう、成功すれば大分有利になれるはずだ。
動物を興奮させるには、やはり自然に対する恐怖を刺激するのが一番効率がいい。
「——“神雷”——!!」
その瞬間、耳をつんざく轟音が鳴り響く。
俺が放ったのは風魔術の派生、雷魔術の上級魔術だ。炎や水、石と違って与えられるエネルギーが少ないため、魔術障壁を展開している敵には効果が薄いという残念な属性だが、そのスピードは一番。ほぼ不可避の攻撃だ。
何より、一番インパクトのある魔術だ。思わず目を閉じてしまいそうなほどの強い光と轟音。
動物の恐怖心を刺激する上で、これ以上の適役はいない。普通の馬であれば、これだけで暴れてしまうだろう。
――—だが、残念な事に敵が乗っているのは普通の馬ではない。彼らが乗せているのは、魔術の弾幕を乗り越えて敵陣を突破する事が役目の騎士達だ。当然、その乗騎も幾多もの戦いを乗り越えた歴戦の馬であり――
「——っ!ぐぅッ!!」
敵に最も近い位置にいた隊員が剣にで切り裂かれた。突撃してきた騎士の一人に、肩から脇にかけた深い傷をつけられている。だが、訓練の成果もあって即死は免れているようだ。だから、注意を払うべきなのは隊員の怪我ではなく、敵に間合いに入られたという事実——
「固まれ!」
(クソ、まだ20分も経ってないじゃないか!)
その隊員はふらつきながらも立ち上がるが、あまり悠長にはしてられない。
「さっさと戻れ!!」
「...人使い荒いなぁもう!」
文句を言いながらも隊と合流する隊員を横目に、俺は再び魔術を放った。あの隊員の負傷はすぐにでも直したいが、今は理由があってそれが出来ない。焦りつつも、彼が隊の中心に辿り着いたのを確認し、その後証を使って回復させる。
(大丈夫だ、まだ突き崩されてはいない。この陣形だと外側の隊員は削られていくだろうが、俺の
――これも、剣聖と戦った時の教訓を活かしている。
威力が高い魔術を放とうとしても、周囲に味方が居たら巻き込んでしまう。剣聖と戦った時はその弱点を上手く突かれてしまったのだ。
対処法は簡単。今俺達がしてるように固まればいいだけだ。
まぁ先ほども言った通り、それでは外側の隊員が削られていくのだが。それも交代するなりして分散すればいい。このまま一時間耐えれば勝ちだ。
(耐えれるか...)
正直、微妙としか言いようがない。一度突破されてしまえば詰みだし、まだ全員一か所に固まっている今のうちに離脱した方が良いかもしれない。
ふと、周りを見渡す。隊員の表情からは、絶望や疲労は見て取れない。この分ならまだ行けるだろう。このまま戦い続けても、魔力量的にあと2時間は持つ。ある程度の余裕はあるのだ。
となれば、詰んでしまう前にこちらから何かアクションを起こした方が良いだろう。
何を狙うべきか。
(——何とかしてアイツらの足を奪えたら...)
ここで離脱したとしても、相手に馬という足がある限り直ぐに追いつかれてしまう。逆に言えば、馬さえいなければこちらが機動力で上回れる。
だが、その方法が中々思いつかない。先ほど試した方法は効いてない訳ではなかったが、恐慌状態に陥るほどではなかった。魔術は弾かれるし、直接攻撃するのは無理か?
“アイギス”がある限りこちらの魔術は決して通用しないし、かといってこちらに物理攻撃の手段などない。というか、あったとしてもあの鎧には通用しないし......
ふと、腰にある短剣に目をやる。
「——レオ、馬の脚を狙おう。」
「了解!この中で剣が得意なヤツは来い!」
俺の言葉にいち早く反応したレオが別の隊員に声を掛ける。その声に反応したのは3人。
「なんだ」
「おう!」
「...一応、はい。」
最初に声を上げたのはクルト。その表情からは全く感情が読み取れない。茶色の髪をした、物静かな少年だ。
フランクはその真逆。容姿自体はクルトと酷似しているが、懲罰部隊の中では一番明るい性格をしている。
彼らは双子だ。そして、貴族の出でもある。なんでも、双子であるが故に発生する継承権の問題を“面倒くさがった”親によって監獄島にブチ込まれたらしい。
彼らは懲罰部隊の中では珍しく、接近戦が大の得意だ。二人とも盾と片手剣というスタイルをしている。彼らの連携攻撃は非常に巧妙で、俺がまだ隻腕でなかった時でも勝てたが怪しいと思う。
だから、この二人が名乗り出たのは納得である。
「...テオ。お前、剣術なんて出来たか...?」
だが、最後に名乗り出た人物に関してはその通りではなかった。
「...だから、一応...?」
「...」
頭痛がしてきた。俺は、彼が剣を振るっているのを見たことがない。しかも、彼に対する評判は“普通”の一言なのだ。まぁ、どっかしらブッっ飛んでる懲罰部隊では逆に異質な存在だが。
ともかく、彼に剣が振るえるとは思えない。武器も、支給された短剣以外に持ち合わせていない様だし、あまり期待出来ないだろう。
「そんなに疑うならいいよ。後ろからちょっかい掛けるだけにしとく。そっちの方が性に合ってるし。」
「...お、おう、頑張れよ。」
正直、テオの事については知らない事が多い。彼が監獄島に来た経緯も、それ以前に何をしていたのかも、全く分からない。
「———
ふと、誰かの声が耳に届いた気がした。だが、そちらに振り向いても誰も居ない。
...俺は今何をしていたのだろうか。記憶が、靄が掛かったようにハッキリしない。
「ライト?」
「...いや、なんでもない。それで、声を掛けてきたのはその2人だけか?」
槍や大楯を使う者も居るが、彼らは脚を狙うのには適していない。それならば、双子とレオ、そして俺らだけで攻撃した方が良いだろう。
「よし、じゃあ行こう。」
こうしてる間にも、他の隊員たちは攻撃に晒されてる。
敵もそろそろ焦って来てもおかしくないし、それそれ何かしらの行動を起こしてくるハズだ。その前にこちらから仕掛ける。
「二人が両端を守れ、敵を分散させるんだ。レオ、お前が先頭だ。何とかして馬の脚を切れ。俺は中央で回復と魔術の支援、出来たら剣で攻撃する。」
「了解。」
「分かった」
「任せろ!」
文字通り三者三様の反応を見せた彼らは、そのまま敵の方向へ目を向ける。
「行くぞ。」
その言葉を言い放つなり、俺は隊員の間を縫って最前線に身を踊り出した。
その場所で立ち止まると、数秒も経たない内に3人が指示通りの場所に身を置く。
わざわざ突出して来た俺達は、周りと比べて攻撃しやすい。この場所に居座られたら敵からしても厄介だろうし、直ぐに敵が襲い掛かってくる筈だ。
「それは隙というのだぞ、ライト!!」
――ほら、引っかかった。
ローエンが剣を振り上げた状態で突撃してくるのを目に収めた俺は心の中でほくそ笑むと、そのまま前に飛び出す。
敵に疑わせない為に、顔に怒りの表情を浮かべる。お前たちの事が、殺したくて殺したくてしょうがない。そういう表情を浮かべる。
――幸いにも。演技を心掛けなくても、俺は自然とその表情が出来た。
そして、俺も片方しかない腕に剣を持ち、そのまま振り上げる。剣術を習っていた者とは思えない、隙だらけの構えだ。
もう、アーロンは目と鼻の先。
――達人に切られると、あまり痛みを感じないというのは本当らしい。
その鋭い剣先は正確に俺の上半身を切り裂き、肺や心臓にまで届く。
完全に致命傷。
しかし、俺は遅れて来るだろう痛みより先に証を使用し瞬時に治療。
そのまま、通り過ぎようとする馬の後ろ足を切り裂いた。
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こんなバレバレの罠にかかるなんて...と思うかもしれませんが、アーロン率いる騎士団は罠に突っ込んで、罠ごとブチ破るタイプです。つまり脳筋です。
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