第72話 三歩目、運命の始まりと会敵

またサブタイトルを間違えてしまった...

会敵は今話のサブタイトルで、前話のは「戦いの前」みたいな感じです。修正します

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翌朝、起床した俺達は再び王都に向かって歩き出していた。


「...眠い」


途中川があったので軽く顔を洗ったので多少はマシになったのだが、それでも眠気は収まらない。やはり寝た場所が悪かったのだ。俺は一生木の幹の下で寝ないぞ。


「馬鹿だなぁお前」


そう意味不明は決心をしてると、ガルが馬鹿にしたような声を掛けて来た。

振り返れば、他の隊員もニヤニヤしてる。


「...うるさい」


謎に勘の鋭い隊員のせいで、昨日の会話はバッチリ聞かれてしまったのだ。

ソイツが周りに言い触らしたせいで、俺は今揶揄れ中である。


「良いと思うよ?俺は。」

「だまれ」


何が良いのかは分からないが、碌な事ではないという事だけはわかる。

俺とサラの関係はそういうのじゃないから。


というか、さっきからしつこ過ぎるぞ。このノリ、敵が現れるまで終わらないんじゃないか?


(早く敵に会いたい...)


なんとも奇妙な願いを抱くライトであった。


しかし、なんの偶然か、その願いは直ぐに叶う事になる。


「おっと、あれ王国軍か?」

「——やっとか、半分くらい殺したら後は逃がすぞ」


心が冷えていくのが分かる。俺は、戦いになる自分でもびっくりするくらい気持ちが切り替わるのだ。それがレオのいう2重人格の様なものでも、今はありがたかった。


「...了解」


一瞬で魔術障壁を破られ、どんどんその数を下手している敵部隊。勝ち目がないと悟ったのか、数分もしないうちに散り散りになって逃げだした。これで敵は俺達の存在を知るだろう。


「攻撃止め。」


逃げていく敵のの後ろ姿を見ながら、俺は思案する。


もし敵が俺達が王都に向かってると知れば、王国は騎士団を迎撃に向かわせる以外に手はないはずだ。突破力が売りであるあの騎士団は、迎撃には全く向いていない。俺達が王都に到着してしまえば、その時点で王都に大きな被害が出ることは確定してしまうだろう。仮に俺達を倒せたとしても、王都に大きな被害が出てしまっては意味がない。だからきっと、直ぐにでも来るはずだ。


「...王立騎士団ロイヤル・ナイツ、か。」


俺は、もう直ぐ戦うことになるであろう敵の名前を呟いた。


――騎士団。正式名称は王立騎士団ロイヤル・ナイツ。彼らの実力は、他の騎士たちとは違い一線を画している。名実ともに王国の切り札だ。そして、その数は異常なほど少ない。

魔術が発展した現在では乗馬した騎士など格好の的であるため、廃れつつあるのが騎士団だ。しかし、最盛期は一つの騎士団で数百から数千の規模を持っていた。それに比べ、王立騎士団ロイヤル・ナイツに所属している人数はたったの13。それだけ入団条件が厳しいのだ。

証を持っている事、全属性の上級魔術が扱える事、一人で魔術中隊の弾幕を突破出来る事。そして、聖剣“アスカロン”と同じく古代の遺物“アイギス”に認められる事だ。高い忠誠心を持ち、民を守る為に剣を捧げた、最強の力を持つ真の騎士たち。それが王立騎士団ロイヤル・ナイツなのだ。


前も言ったかもしれないが、彼らが最強たる所以はその異常なほどの頑丈さと、それと最高の剣術が合わさったことによって生まれる突破力。対する俺らは圧倒的な魔力量による火力投射量とその持続力が強みだ。



王立騎士団と懲罰部隊。

攻撃力と防御力。

誇り高き騎士達と、元囚人達。

洗練された剣術と、最強の魔力量とそれによるゴリ押し。

英雄として肯定され続けた人間達、罪人として全てを否定された人間達。


皮肉なくらい、何もかも反転させたかのような組み合わせだ。


だが、だからこそ負けられない。負けるわけにはいかないのだ。


――きっと、この戦いは戦争の行方を決める物になるのだろうから。



「懲罰部隊、このまま王都に向け進軍。絶対に勝つぞ。」






―――時を同じくして。

王から命を受けた騎士団長が声を静かな、それでいて力強い声を上げる。


王立騎士団ロイヤル・ナイツ、出撃。これより敵小規模部隊を撃滅する。」




―――王都の外れにある墓の前で目を瞑っていた男が、ゆっくりと目を開ける。


「...決着を、つけてくる。剣聖でとしてではなく、あの子の父として。」




―――王都から離れた山中の小屋で、少女が老人に声をかける。


「...行かなくていいの?凄いしつこかったけど、あの人たち...」


――—同じ小屋で話しかけられた老人が口を開く。


「ほっほっほ。なに、魔術王の称号はそんなに安くないのじゃよ。なに、どうせ奴とは会う事になる。コレを渡すのはその時でいいじゃろう。」


―――懲罰部隊、王立騎士団ロイヤル・ナイツ、剣聖、魔術王、ヒロ、ラウラ、聖女。その全員が、同じ場所に集まろうとしている。




「——さて、運命の時間だ。地獄に落ちろ。」


そしてそれは、仮面の男も例外ではなかった―――









「...本命の到着だな。どうする?」


街道の遥か先で土煙が舞っている。小人数であるという点と、眩しいくらいに太陽を反射してる鎧。あれが王立騎士団ロイヤル・ナイツで間違いなさそうだ。


「ギリギリまで引き付けるか...一度ここで止まろう。」


俺達の上空には、何本もの巨大な鉄槍が浮かんでいる筈だ。ハズだ、というのは、距離がありすぎて肉眼では見えないからである。合衆王国で行った実験では、リアムの証の射程は5キロ程度という馬鹿げた数値であることが分かった。

だが、実際にそれを落下させた時の攻撃力はもっと馬鹿げてる。


俺達が全力で魔術障壁を展開しても余裕で貫通される――そもそも魔術障壁は魔術以外のモノを防ぐには向いていない――だろうし、早すぎて迎撃も不可能。

それが複数降ってくるのだ。敵にそれを防ぐ手立てはない。


ただ、難点として攻撃精度の低さがあげられる。証を使っている間はある程度コントロール出来るらしいが、風が強かったらあらぬところに飛んで行ってしまう。

あとは、弾数に限りがある、という点か。


...だから、出来るだけ引き付けてからパナすのが一番良いのだ。それでは俺達も巻き添えを食らう可能性もあったが、それについては対処法を考えてある。


だから、今は出来るだけ距離を縮めたい俺達にとって、こちらを視認しても構わず突っ込んでくる敵がありがたかった。


「...リアム、名前を呼んだら直ぐに放て。」

「了解」


そして、長いようで短い時間が経った後。騎士団は、もう目の前に居た。


(さて、後はどう時間を稼ぐかだな...)


こちらが何か仕掛けたと思わせないよう、確実に時間を稼ぐ。最初からぶっ放してもよかったのだが、出来れば会話で意識を逸らしたかった。


「貴殿が、懲罰部隊の隊長か。」


どうやら会話をするつもりはあるらしい。その事を確認した俺は、なるべく慎重に言葉を選ぶ。


「...あぁ、ライトだ。そっちも名乗ったらどうだ?」

「これは失礼。我の名はローラン・キャンベルン。王立騎士団ロイヤル・ナイツの団長を拝命している者だ...久しいな、ライト。」


キャンベルン家、それはスペンサー家に並ぶ武闘派一家だ。そして、あの気持ち悪い話し方のウィリアムの父でもある。


当たり前だが、俺は彼と面識がある...俺がこの腕になる前から。


「私は信じていた。君はあんな事をする人間ではないと...何度も上奏したのだ、あれは冤罪だったと、ライト君は無罪だと...ッ!」


そう言う彼の表情は、とても悔し気に見えた。


「...君の剣の腕は素晴らしかった。いずれ、私やエイトールをも超えるだろうと信じていた...残念でならないよ。」


―――もしかしたら、俺は、俺が思っているより、周りから期待を掛けられていたのかもしれない。劣等感のせいで気づかなかったが、今思えば恵まれた環境だった。


「俺も残念でなりません...ローランさんと、正々堂々と戦う事が出来ない事が。」


出来るなら、剣で戦いたかった。今までの努力を、全力をぶつけたかった。


「リアム、手を出すなよ。俺達の話し合いが終わるまで。」


だが、それはもう不可能なのだ。俺は片腕を無くし、代わりに魔力を、仲間を、守るべき存在を得た。だから後悔しないし、してはいけない気がする。


と、その時。聞き覚えのある声が耳に届いた。


「———どうやら、覚悟を決めたようだな。ライト。」

「...剣聖」


きっと来るだろうとは思っていた。父は、ローランさんと同じくらい...いや、それ以上に「超えたい」と思っていた存在なのだ。

――そして、上手くいけば30秒後にはこの世から消える存在だ。

先程リアムの名前を呼んだ。もう、引き返せない。


「やはり、父さんとは呼んでくれないのだな。」

「...今更意地を張っても仕方ないか。俺はあんたに憧れてたよ、父さん」


あと25秒。


「俺は、剣聖としてではなくお前の父として決着をつけたい。」

「...」


あと20秒。


「ここから南の山に、魔術王が居る。そこに行け。決着はその後につけよう。」

「...なんだと?」


ちょっと待て、どういう事だ。父さんは何を言っている。

父さんの言っている事も、何故そんなことを言うのかも分からない。


「それまでは手を出さないと約束しよう。」

「...舐めてるのか、俺の事を!」


ふざけるな。剣の力がなくても、俺は新たに得た力がある。「待ってやろう」だなんて、完全に上から目線の言葉だ。


「...後悔するなよ。俺はどんな手も使う。正々堂々戦いたい気持ちは嘘じゃないが、この戦いは何としてでも負けられない..!」


胸から熱い何かがこみ上げ、それとは反対に頭がどんどん冷えていく。

...どうやら、切り替わった様だ。


あと10秒。あと一押しだ。


「...君は、そんな目をする子ではなかったよ。ライト君」

「もう後戻りは出来ない。俺達に出来るのは、殺し合う事だけだ。」


...時間だ。


「——“ウィンド”——」


かつて、第一王女アレクシアのいる天幕に突っ込んだ時と同じやり方だ。

体が吹き飛ばされ、地面が遠くなっていく。


その先に、驚いた表情を浮かべたローランが居た。


「残念だよ、本当に。———“目覚めろ、アイギス”———」



その瞬間、爆音と共に土煙が生じる。


どんどん遠くなっていくソレを見ながら、俺は舌打ちする。


古代遺物が展開が間に合ってしまった以上、アレは確実に防がれただろう。





やはり、一筋縄ではいかないようだ。




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勢力図?みたいなやつ

懲罰部隊vs王立騎士団ロイヤル・ナイツ、剣聖、聖女、ヒロ、ラウラ。

エルと魔術王は不明。

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