第70話 一歩目
王国への上陸作戦の概要はこうだ。
まず、俺達懲罰部隊が単独で王国に上陸する。俺達だけなら割とどこでも上陸出来るので、この時点で俺達の場所がバレることはないだろう。
そして、上陸した俺達が向かうのは王都だ。だが、それはあくまでも陽動。俺達の真の目的は、“騎士団”を引き付ける事だ。
何故こんな事をするのかというと、それは以前話した戦術のせいだ。ドーーンして撤退を繰り返すのには、敵が追いかけて来るという前提条件が揃っていなければいけない。俺達が合衆王国軍と同じタイミングで上陸してしまえば、騎士団は俺達を無視してそちらに突撃する可能性が高い。
よって、俺達は合衆王国軍と別行動をせざるを得なかった。
とは言え、食料の問題もあるため、別行動出来るのはおよそ1週間。そのタイミングで、合衆王国軍は指定の場所に上陸する事になっている。俺達が合流するのはそこになるだろう。
王国に上陸し、王都を目指して進む。途中で騎士団と会敵次第例の戦術で戦い、1週間以内にケリをつける。
割と単純だ。ある程度予測も出来ていた。
だが、全く予想だにしない事もあった。
...サラが、ついて来てしまったのだ。
勿論、何度も説得を試みた。だが、彼女は今まで以上の頑固さを見せ、ついには王を納得させたのだ。事実上俺達のトップである王が許可を出した以上、俺に「無理」という権利はない。
結局、彼女はついてくることになってしまったのだ。
俺のが戦争に参加するのは、彼女を守るためなのだ。その彼女が自分から戦争に参加して来てしまってはどうすればいいのか分からない。
「はぁ...」
思わずため息がこぼれる。もうすぐ上陸だというのに、これでは示しがつかない。
「心配事か?ライト。」
「...レオか。」
こうしてレオが話しかけて来るのは珍しいな、と思いながら返答する。
「あぁ、心配だね。」
「彼女自身が決めたことだ。ライトが心配すべきことじゃないさ。」
「まぁ、そうなんだけどさ...」
どうしても。気のない返事になってしまう。彼の言っている事は正しいという事は分かっているからだ。俺が彼女の覚悟に口を出すのは間違っている。
「それより、ライト。私から話したい事がある。」
「?」
いつにも真面目なレオが、さらに真面目な表情で口を開く。
「ライト、自分が2重人格だという自覚はあるか?」
〇
私の第一印象は、心の壊れた少年だった。
母を幼い頃に無くし、劣等感を抱えながら生きて。挙句の果てには冤罪を掛けられ、今までの努力を全て奪われた。
身の上話を軽く聞いただけでも、その人生の過酷さが見て取れる。
ライトはまだ15歳だ。そんな少年が、その過酷さを乗り越えられるとは思えない。
懲罰部隊が結成されてからも、“壊れてる”という印象は拭えなかった。
特に、戦場では。戦争になると人格が変わったかのように人を殺す兵士は多い。私は、ライトもそういうタイプなのではと疑問に思っていたのだ。
そして、監獄島での行動でその疑問は確信に変わった。
特に、敵の指揮官に対するあの行動は常軌を逸していた。普段は人を殺すことに対して迷いを抱いていそうだったのに、戦場に出た途端アレだ。
そう淡々と告げると、ライトはバツが悪そうに顔を背けた。
「...確かに、戦う時はいつも冷静じゃない気がする。だが、ここで止まる訳には行かない。」
「あぁ、分かってる。だから、この作戦が終わったらで良い。どこかの田舎でのんびりするなりして、心を休めてくれ。」
「...確かに、王国に居た時も焦ってばかりだったし、ここ数年まともに落ち着いてないかもしれないしな...」
「あぁ、分かった。俺、この戦いが終わったら戦いから身を引くよ。」
〇
今回の航海は順調だった。嵐に見舞われる事も、敵艦隊と遭遇する事もなく、ただ帆を膨らませて波を切る。
相変わらずメシは不味かったが、慣れれば食えないことも...いや、食えねぇな。あれは食いもんじゃない。出来れば一生食べたくない。
ともかく、俺達は順調に王国へと進んで行き。
「陸が見えてきたぞーー!」
俺は遂に、再び祖国の土を踏む事になるのだった。
その先で待っているのが、監獄島など目じゃないくらいの地獄だと知らずに。
この世で一番の、大罪人になるとも知らずに。
決して償う事の出来ない罪と、
決して逃れる事の出来ない呪いを背負う事になるとも知らずに。
俺は、王国へと足を踏み入れるのだった――――
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