第69話 平和な準備期間

第2部を追加するにあたって、第1部がない事に気づいたので更新しときました。これまでが1章1部「冤罪と懲罰部隊」で、これからが「戦争と本当の罪」でやんす。

意味深だぜぇ...


あと、最近モンスターからコーヒーに鞍替えしました。あの深みがいいんですよ...

それに最近高いですしね、モンスター。クソ苦い飲み物じゃなくて甘ったるいモンスターが飲みたいけど高いからコーヒーで我慢してる訳じゃないです。決して。

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設計図奪還作戦からの1か月は、今までで最も忙しい1か月だったと言っても過言ではない。


まず、船員の育成。本来ならもっと時間を掛けるべきなのだろうが、戦争中での時間は黄金よりも貴重なのである。なので贅沢を言わずに、海兵たちは新しい船に慣れさせ、外洋を航海出来るレベルまでしごかれていた。


勿論、俺達は俺達で訓練をしていた。即死でなければ治せる俺の証の特性上、懲罰部隊の面々にはとにかく頭を守る訓練をして貰った。あと、兜も全員分支給された。その理由は、心臓をやられても10秒前後は生きているが、頭をやられたら俺でも助けられないからだ。


王国の最終兵器であるあの騎士団にへの対策も忘れてはいけない。なんせ、懲罰部隊と騎士団の相性は最悪と言っても過言ではない。俺達は圧倒的な数の暴力であるとすれば、騎士団は究極の個の集団だ。剣聖とまではいかないものの、騎士団長はそれに次ぐ実力を持っているし、魔術に関しても魔術王に次いで優秀であるとされている。

彼が率いる団員も皆精強だ。

それに対し、俺達の取柄は魔力量による圧倒的な数の暴力。生半可な魔術では当たった所で弾かれるだけだし、突撃されたら一巻の終わりである。俺達はその対策に追われていた。


そして、その対策は意外な所から転がってきた。

なんと、隊員であるリアムが証持ちだったのだ。以下がその時の会話である。







「そういえば、俺もスキル持ちなんだよね。」



「はぁ!?お前ガチで言ってんの!?」

「先言えよ!」

「今更過ぎる...」


今更過ぎる。ガチで。

もっと早く言ってくれれば、あの時の犠牲者もなかったかもしれないのに。


「で、どんな効果なの?」


少しの間リアム呆れていた隊員達であったが、やはり気になるのはその効果だろう。

隊員の一人がそう尋ねた。


「聞いて驚くなよ...?」


ゴク...と音が聞こえてくる程、その場は静かになった。

まぁ、懲罰部隊は俺以外証を持っているヤツがいないのだ。気になるのも仕方がないだろう。


と心の中で言いながらも、勿体ぶるリアムに少し焦らされる。




「俺のスキルは...金属を浮かせられる、だ。」





「...は?」


「見せてやろう、ほら。」


先程より混乱している隊員達を横目に、リアムは自分の短剣を腰から外した。

そして何か呟くと、リアムはその短剣から手を離す。


―――するとその短剣は地面に落ちた。


「...いや、は?」


普通に落ちてんじゃねぇか、と声を出しそうになったが、その落ち方に少し違和感を覚えた。

普通の短剣を落とした時よりゆっくりと言うか、落下した時の音が少ないとか。


(...にしたって、効果クソ過ぎだろ。)


「...浮かせられるんじゃないのか?」


レオのその問いに、俺含めた全隊員が同意した。

すると、リアムは自虐的な笑みを浮かべながら口を開く。


「あぁ、金属だけなら浮くよ?でも柄の部分とか金属じゃない部分は普通に落ちるからそれに引っ張られるんだぜ。」

「つ、使えねぇ...」

「その上、魔力量が普通だった時に使えば1分しかもたないし、早く動く物体にはこの証は使えない。つまり剣を軽くして剣速を上げるとかも出来ない。」


あまりの効果に思わず絶句する。

それは他の隊員達も同じだったようで、皆口を開いて黙り込んでいた。



「...俺はこのスキルのせいで酷い目にあってな。笑いものにされた後に故郷から追い出された。で、気付いたら監獄島に居た。」


更に絶句。急にシリアスぶち込んでくんなよ...






といった感じだ。


だがしかし、なんと使い方次第では意外と実用性があるどころか例の騎士団を吹き飛ばせるほど強力だったのだ。以前は魔力量が少ないせいで大した事は出来なかったらしいが、魔力量が増えるたおかげで範囲や浮かせられる金属の上限なども大幅に増加したらしい。


そうなれば、大量の鉄塊を浮かせて上空からドーーン!!が出来るのだ。馬鹿らしいっちゃ馬鹿らしいが、対魔術では無類の強さを誇る騎士団でもこれは防げないだろうという判断が下された。


ドーーンしたら撤退、ドーーンしたら撤退。それがこれからの俺達の戦い方だ。



「—――どう考えても、騎士がキレそうな戦い方なんだよなぁ...」


今日は上陸作戦前最後の集まりだ。いつもよりは幾分かマシな酒が配られ、皆顔を赤らめながら火を囲んでいる。

と、俺の独り言に出来上がったガルが答えた。


「ハハッ!!いいじゃねぇか、その方が俺達らしいぜ!」


まぁその通りと言えばその通りなのだが。

それに今更戦い方を変える訳にもいかないし、文句を言っても仕方がないのだ。


「...にしても、よく来れたな。クラウ。」

「少し話すことがあってな。」



そう、今夜は元隊員現王子であるクラウディアが来ていたのだ。隊員は忙しい中よく来れたなと感心していた。何だかんだ久しぶりなのだ。


「で、話すことって?」

「あぁ、証について分かったことがあるんだ。」

「何が?」


すると、俺のその問いを待ってましたとばかりにクラウが、目を輝かせながら口を開いた。



「それがな...証には、種類があるらしい。」



...そんなん知ってるわ。


剣聖には剣聖の、クラウにはクラウの、俺には俺の証がある。

効果がある程度被る事はあるだろうが、証とはそれぞれの特性を持つ、多種多様なモノだ。

それを世紀の大発見のように言うクラウに呆れ、目頭を抑えながら言葉を発した。


「...そんな当たり前の事―――」

「あぁ、言い方が悪かったな。分かったのは、証には先天的なモノと後天的なモノ。2種類あるらしい」


思わず目を見開いて驚愕する。


証と言うのは、使える時期は前後するものの、その全ては先天的であり、生まれた時点で使えるかどうか分かってしまうというのが通説だ。親が証持ちなら子も証持ち。だから貴族は血統を重視し、受け継いだ証によってその優位性を保ってきた。


ただ、親が証持ちの場合でも、親と全く同じ効果の証を得る訳ではない。

俺が剣とは全く関係ないあの力を得ても、おかしいとは思わなかったのがその証拠だ。


それでも、親が証持ちなら子も証持ちというのは変わらない。


―――にも関わらずに証の効果が出ない自分に焦り、周りも俺を見下すようになった。



...それもこれも、証が先天的なモノだと思っていたからだ。



「それは、証を使える様になる時期の話でなく、完全に後天的なのか?」


「そうだ。それで、その後天的な証の事なんだがな...ただ強く願い続ける事、あと魔力を消費し続ける事で手に入れる事が出来るんだ。」





その後クラウはこう続けた。


証とは、本来結構な数の人間が持っているものらしい。にも関わらず使える人間が少ないのは、本来持っている証を使えるようにするには“証の効果を欲する”という条件があるからだそうだ。クラウの証も、アベルととあるものを探していた時に発現したと言っていた。


だが、後天的な証は完全な別物。具体的には、既存の証が一定の魔力量を注げば全く同じ効果を出せるのに対し、後天的な証は注ぐ魔力量によって効果が変わるらしい。





それらを早口で説明し終えたクラウは呼吸を整えると再び口を開く。


「それで、その後天的な証の呼び方...名前の事なんだけどさ。」


しかし、その顔は先程までの、自分しか知らないことを説明する時特有の、何処か自慢げで楽しそうなものではなく、少し困ったような顔だった。




「研究者がどうしても自分で名付けたいっていうから勝手にさせたんだけど...そいつが言ってたことそのまま伝えるぞ。」


クラウはそう言うと、その研究者の口調を真似するかのように声を低くさせて話を続けた。





「ん゛ん!!――――


“ただ強く願い続けるという事は。その願いを叶えるために行動するでもなく、その行動の末に諦めるでもなく、ただ強く願い続けるという事は...とても愚かな事だ。その先にこの力が得られたのは偶々なのだから、愚かにも願い続けた者だけが得られるスキル...。いや、そのスキルを持っているという事自体が、既にその者が愚者であると証明しているという意味を込めて




―――――この力を、愚者の証と名付けよう。”―――――だそうだ。」






クラウの話を一通り聞き終わった隊員達が声を上げた。


「へー。すげぇな、大発見じゃないか。」


確かに、彼の話が本当なら大発見だ。魔力を注ぎながら願い続ける。それだけで証が得られるなら、これから先証を得る者は増えるだろう。


だが、クラウがここに来た理由はそれだけではないらしい。寂しげな笑みを浮かべた彼は、こう言葉を続ける。


「...それに、これが最後かもしれないんだ。せめて顔は出しておこう、って思ってな。」




騒いでいた連中も、クラウの言葉を聞いて真剣な表情を取り戻していた。

クラウは唯一生き残っている王子だ。国を離れる訳にもいかない。俺達も、この前の戦いで思い知ったのだ。いつ死んでも可笑しくない、と。


ふと、地面に突き刺さった短剣に目をやる。

まだ全員生きている時に配られた、懲罰部隊専用の短剣。無骨で飾り気はないが、一人一人の名前が刃に刻まれている。


こうやって集まる時は、彼らの定位置だった場所にそれぞれの短剣を突き刺している。それを眺めながら、ガルがかつて放った言葉を思い出す。


――先にこの世からトンズラしやがった連中には、楽しく飲んでるのを見せて後悔させてやるよ。先に死んだ罰だよ、罰。


いかにも懲罰部隊らしい、罰当たりな事だ。死者を悼むのでなく、罰ゲームにでも参加させるかのようなノリだった。


――ハッ、こんなんされるくらいなら生きてた方がマシだね。


悲しむでも怒るでもなく、馬鹿みたいに笑い飛ばす懲罰部隊のノリは、俺は結構気に入っているのだ。


...願わくは、突き刺さっている短剣の数が、これ以上増えませんように。










――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

最初から追って読んでくれている人は“は?”ってなると思います。

それは途中から修正せざるを得なかった僕のせいですね。はい。


リアム君の証と、タイトル回収の分のお話がここにずれ込みました。


ってか、ヒロの性格変わりすぎでは?序盤は復讐心マシマシな少年だったハズですが...


流石に矛盾点が増えてきたので、大規模な修正を入れたいと思います。次の話の前書き当たりに修正した箇所を書きます。

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