第68話 幕間

幕間、読み方が分からないので「まくあいだ」ってタイプしてる(バカ)

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ウィンソン号は、静寂に包まれていた。波を切る音と、マストがはためく音聞こえるのみ。ウィンソン号を動かしている時には必ず聞こえる威勢のいい掛け声も、今や聞こえる気配がない。



「...」



静寂の中、俺は首を動かす。上空にある巨大な魔法陣—―いや、その魔法陣が何個もあるので正確には魔法陣陣かもしれない—―から目を逸らし、先程こちらに向かって進んでいた一隻の船に目を向ける。


いや、正確には向けようとした。


しかし、それは出来なかった。なぜなら、ある筈の船が無かったからだ。


...混乱していて良い事などないのだ。理解を拒もうとする頭を無視し、思考する。


あの魔法陣の意図は理解出来ない。あれは術者以外の魔術の妨害をするモノだったハズだ。となれば、敵艦隊は魔術が使えないはず...発動した理由が分からない。というか、どうやって発動したのかも分からない。


「...ボケっとするな。配置に戻れ。」


と、そこで。混乱状態から脱したらしいバークが船員達に声を掛ける。

それが終わると、今度は俺たちに向かって話しかける。


「あれがライト殿の言う古代の魔術か?」

「...モノ自体は同じだが、数がおかしい。俺達全員の魔力量でも1つで限界だ。」


となると、本格的に発動者が分からなくなって来た。というか旗艦らしきあの船はどこに行ったのだ?あそこにはエイベルが乗っていたハズだが。


だが、次の報告を聞いた瞬間、そんな事を考える時間もない事を悟った。




「...敵艦、何者かによって攻撃されています」



たっぷり数秒の沈黙を経た後、半ば自棄じみた声が響く。



「—――全艦突撃。この隙を見逃す手はない...!」








結果は、大成功だった。俺達が突入してきたのを見ると、敵艦隊は俺達を避けるように撤退していったのだ。最初は監獄島に戻ろうとしていた様だが、そこに近づくにつれ攻撃が激しくなるのに気づき、慌てて王国の方へ引き返していった。


正直に言うと、全く納得出来ていない。


おかしいとしか言いようがないのだ。合衆王国にあんな事を出来る人間はいないし、いたとしても俺達が知らないのはおかしい。

それ以外にに考えられるには王国からの裏切りだ。考えうる中では一番納得のいく仮説だが。それでも違和感は覚える。複数の理を破壊する者システム・クラッシャーを同時展開出来る力を持っていながら、わざわざ王国に追い返さなくても全滅させればいいのだ。バラバラに散らばって逃げれば流石に手出し出来ないだろうししそうなるとその裏切り者は10万人の将兵を殺す機会を逃したという事になる。

他に考えられるのは第3勢力だが、このタイミングで介入してくる意味が思いつかない。


「まぁ、上手くいったんだし良いじゃねぇか。」


と、オーティスは言っていたが。俺達にとっては大問題である。その裏切り者(仮称)が王国陣営でないのは確かだが、俺達の見方でないのも確かだ。敵対する可能性がある以上、考えるのをやめるわけには行かない。





―――とは言え、戦況は大きく動いた。王国は橋頭保も前線基地も何もかも失った。

こちらも設計図を手に入れたし、王国本土上陸なども出来るかもしれない。

しかし、そうなると王国も本腰を据えて行動する必要が出て来るし、そうなればこちらの犠牲も馬鹿にならない。

だが、再度言うが戦況は大きく動いたのだ。これから先、どうなるかは全く分からない。


王国に攻め入るのか、戦力を整えた王国に再び侵略されるのか。

時間との勝負だ。


そして、この勝負を制した者がこの戦争の勝者となるかもしれない。









その情報は、王国に大きな衝撃を齎した。


その情報とは、“10万人の将兵が、敵へと裏切ったによってほぼさせられた”というモノだった。


1隻の船を除き、生きたまま王国へ辿り着いた者はゼロ。


もともと厭戦感が漂っていたのも相まって、戦争は終結へと―――


とは、ならなかった。懲罰部隊をゴーストケープとした巧みなプロパカンダによって、国民感情は“懲罰部隊憎し”や“合衆王国憎し”と言ったものになった。


反戦を訴えていた貴族はかに殺され、王国は血を血で洗う戦争へと突き進む。


だが、いざ戦力増強を行おうと戦船の造船を命じた者もまた殺され、港や設計図、設計者、技術者もまた同じ末路を辿った。


それを知った国は敵の上陸に備えた本土決戦へと戦略を変更し、帝国との国境線から主力を引き抜き、断れる事を承知で魔術王にも声を掛けた。


敵の上陸を1か月後と予測し、決戦に備えて戦力を増強するのだった。










「なんでこうなった」



覚えていない。何も覚えていない。でも、ここで死んでいいハズがなかった。


隣では、まだ幼さを捨てきれていない少女が震えていた。彼女に対して、自分は特別な感情を抱いている訳ではなかった。ただ助けが必要そうだから助けただけ。しかし、そこから巻き込まれるように戦争に参加することになってしまった。


やはり、覚悟もないのに人助けをするべきでなかったのだ。


自分がここに居る理由が分からない。


戦う理由もない。


戦争など、これ以上したくない。何も持っていないけど、これ以上失いたくないと思った。だから、この戦争を止めなければ。


なのに、戦争は俺から全てを奪おうとして来る。


その証拠がだ。あんな馬鹿げた規模の魔術を行使できる人間は、少なくとも記憶にある限りではいない。あの少年が居る懲罰部隊とやらでも、この数の同時展開は不可能な筈だ。


隣の船から爆発音と断末魔の声が聞こえた。さっきから無差別に攻撃してくる何者かの魔術に当たってしまっただろう。あの魔術がこの船に当たっていたら自分は死んでいただろうと、考えるだけでゾッとする。魔術が使えない状況ではただの一人の少年だ。隣にいる聖女も、奇跡を行使する事は出来ないだろう。


しかし、幸運な事に魔術がこの船に当たることは無かった。1隻、2隻と数を減らしていく艦隊だったが、各船の船長は判断出来ないでいた。艦隊司令官も副司令官も、旗艦とともに消えてしまったからだ。


そこに、追い打ちをかけるように敵船が突撃してきた。この状況で迎撃など出来ないと判断した船長達は、沈んでいく僚艦を横目に王国へ向けて撤退を始める。



しかし、正体不明の攻撃は止まらなかった。撤退中もどんどん数を減らし、300隻以上の大艦隊は、王国にたどり着く頃には、たったの1隻まで数を減らした。


なんの奇跡か、俺は生き延びたのだ。


聖女は神の軌跡だとか何とか言っていたが、俺は信じる事が出来なかった。まるで、誰かに“お前が死ぬのはここではない”と言われているかのようだった。何者かの...十中八九、艦隊を壊滅させた者の作為によって、俺は生き延びたのだろう。


今は、港町の宿でぼーっとしている。


「決戦か...」


だが、生き延びたからなんだと言うのだ。どうやら、敵は上陸をして来るらしい。本土決戦など考えるだけで恐ろしい。今は無い記憶が、本土決戦という言葉を拒んでいるようにも思える。


そもそも王国は小さい国ではないのだ。敵の上陸地点が予測出来たら話は別だろうが、そうでもなければ敵の上陸を阻むのはまず無理だ。そうなれば、最悪帝国と2正面作戦を展開せざるを得なくなる。


「なんでこんな戦争に加わらなきゃいけないんだ...」


剣聖とあの少年の会話は聞いていたが、こちらからすれば“そんな事言われてもしょうがないじゃないか”って感じだ。

まぁ、俺に大して言っていた話ではないのだが。


俺は深いため息をついて立ち上がると、ふらふらと町に繰り出す。


「そういえば、は酒に対する考えが緩かったような。未成年飲酒にもならないか。」


大事なところで全く役に立たない記憶だが、意味もない事は覚えているらしい。

折角なので酒でも飲んでみよう。


――こっちも何も、この時代に未成年飲酒なんて言葉などないのだが。


そんな事に気づくはずもなく、ヒロは適当に目に入った酒場らしき店の扉を開く。





「—―比呂ヒロじゃないか。どうした、こんな所で。」






彼が本当にそう言ったかどうかはさておき、ベートーヴェンの“このように運命は扉叩く”という言葉は有名だ。しかし、扉を叩いたのが運命でなく自分で、扉を開いた先に待っているのが自分でなく運命であった場合はどうなるのだろうか。

このように自分は運命の扉を開く、とでも言うのだろうか。


(何考えてんだ...俺。)


ヒロ――いや、比呂は全く役に立たない事を考える自分の脳味噌に悪態をつきながら、彼の隣の席へ歩み始めるのだった。



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魔法陣陣(名言)

自分でも何を書いているのか分かりません。次当たりから流れを変えていこうかなって思ってます。

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