第66話 監獄島再び

この時代の海戦わかんねぇぇ!

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「敵艦隊との相対距離近づいています!!」

「クソッ!もっと速度でねぇのかポンコツ!」


ぶつくさと、と言うには少しデカすぎる文句を叫びながらも甲板を駆け回る船員達。

昨日の嵐の時と似たような感じだな。なんて場違いな感想を抱きながら、今回ばかりは俺達の仕事は少なかった。まぁ、今はまだというだけではあるが。


俺達が今回しているのは、魔術で追い風を生み出して船を加速させるという仕事だ。本来なら重要かつ大変な仕事ではあるのだが、魔力量がこんだけあるとそう大変ではない。


「なぁ、もっと加速出来ないのか?」

「だめだ!これ以上やるとマストが折れちまう!!」


つまるところ、問題なのは主機でなく船体なのだ。いくら強力な主機があろうと、それに耐えうる船体でなければ全力は出せないのだ。その船体の差が、そのまま彼我の船速の差に繋がっている。


とは言え、この船には俺達が居る。少人数で強力な魔術が放てる懲罰部隊は、海戦でもその力を遺憾なく発揮するはずだ。むしろ、陸とは違って対抗手段が限られる以上海戦の方がより強力かもしれない。


(そう考えると、エイベルのこの作戦は悪手だったのか...?)


巡洋艦隊とも言える敵艦隊は、総数で言えば大したことはない。精々全体の1、2割といったところだろう。これならば或いは俺達だけで打ち勝てるかもしれない。

だが、戦力の分散はリスクがあるというのは兵法の常識。エイベルほどの将がそれを理解していないとは考え難いのもまた事実だ。


とは言え、敵が魔術の射程範囲内に入り次第攻撃すればいいだけだ。射程も攻撃力も魔力量もこちらが上だ。まともに撃ち合えば勝つのはこちらだろう。


そう思案していると、オーティスとは別見張り係が声を張り上げた。


「敵艦隊減速!」


その報告に、バークが驚愕したように目を見開いた。俺はその行動の意味が分からず、その真意を尋ねようと口を開く。


「敵は何故あそこで減速したんだ?」


だが、バークには俺の問いが聞こえなかった様だ。考え込むように手で目頭を押さえ、深刻そうな表情をしながら呟く。


「こちらの戦力の分散があの艦隊の目的...これでは設計図の奪取だけでなく船の護衛に戦力を割けなければ...」

「バーク!」

「...っ!あ、あぁ。すまない。」


心ここに在らずといった雰囲気で独り言を呟き続けていたバークだが、それを見かねた俺の言葉に反応してこちらに目を向けて来る。そして、俺が敵艦隊の行動の理由が分からないのを察してか、深刻そうな表情のまま説明を始めた。


「敵はおそらく、つかず離れずの距離を保ったまま追跡して来るつもりです。そうなってしまえば、監獄島に上陸する際に船の護衛と設計図の奪取、その両方に戦力を割けなければいけなくなります。」

「...そうか、かといって目の前の敵を倒そうとすれば主艦隊が合流してしまう。八方塞がりじゃないかクソ!」


どこまでも先を見通した様な作戦だ。アイツの頭はどうなってんだ?


「上陸時、懲罰部隊には2手に分かれて貰います。ライト殿はその人員の選定をしてください。」

「了解。」


一筋縄ではいかないとは思っていたが、まさかここまで苦戦させられるとは。まだ戦闘も始まっていないのにこれだ。全く、先が思いやられる。







敵艦隊を発見してから一日が経とうとしていた。敵は相変わらずギリギリ魔術の射程範囲外を進んでいる。敵艦隊にずっと追跡されているという緊張感のせいか、船員達も心なしかストレスが溜まっている様に見えた。

とは言え、船は監獄島まであと少しの所まで進んでいる。これっぽっちも順調とは言い難いが、もう直ぐ折り返し地点だ。まぁ、設計図を奪取した所で敵中突破しなければ国に帰れないという状況は全く変わっていないが。


「監獄島が見えてきたぞー!!」


そうこう考えている内に見えてきたようだ。遠くから見ると点のような大きさに見える監獄島。その全容をこの目に収めるのも、そう遠くない。


今思えば、監獄島は人生で最も自分に変化を齎した地だ。


碌な友人もいなかった俺にとって、初めて気を許せる存在だったアベル。彼を死なせてしまって、全てに絶望した。だが皮肉なことに、俺は絶望した事によって大きな力を手にした。そうして手に入れた力でサラに会い、後に懲罰部隊の隊員となる面々にも会った。


何の因縁か、俺は再びその地を踏むことになった。


だが、最初に監獄島に行った時とはもう違うのだ。強大な力を手に入れ、頼りになる味方も居て、守るべき存在も出来た。もう、あの時のようなヘマはしない。


「船の護衛を務める別動隊は2班と3班が。残りの1班と4班が突入部隊だ。上陸次第すぐに突っ込むぞ!」

「「了解!!」」


作戦を成功させてみせる。エイベルの策を、正面からブチ壊してやる。





「敵艦隊増速!監獄島の魔術部隊も仕掛けてきます!」

「前進一杯、マストの強度は魔術でごまかせ!ライト殿!」

「分かってる!別動隊は船尾に移動、船を守れ!別動隊の指揮はレオに任せる!突入部隊は船首に!制圧射撃!」

「了解!!」


設計図の奪取をするにあたって、問題となっとながその場所だ。要塞の中で厳重に保管されている可能性もあるが、バークは設計図さえあればすぐに作業に取り掛かれるという点から、監獄島に併設されている港に保管されていると推測した。


俺達は今、そこに向かって全速力で航行している。前からも後ろからも魔術が飛んでくるし、魔術部隊への牽制もしなければいけない。いざ戦闘となったら、俺たちは大忙しなのである。


そうして船を守りながら進み続け、決して短くない時間が経ったその時、見張りの船員が再び声を張り上げる。


「埠頭まで距離200を切りました!」

「とぉぉりかぁじ、一杯!」

「とぉぉりかぁじ、一杯ッ!!」


船長の声が聞こえた直後、舵を任された船員が復唱とともに全身で舵輪を回し始めた。数秒後には船が傾き始め、それと同時に船体が軋む音が各所から聞こえてくる。魔術で最大まで加速された状況からの取り舵だ。その急転舵により、船体には想像を絶する負荷が掛かっているだろう。


海の上を滑るように曲がり始めた船は、港の各所にある埠頭の内の一つ、最も出やすい埠頭の先頭に向け進んでいく。埠頭とは長方形の形をした港湾施設であり、本来なら長方形の側面にあたる部分に船舶を係留させるものだ。

しかし、それでは再び港を出る際に時間がかかってしまう。のんびり後ろ向きに停泊している暇はないのだ。そのような理由から、本来とは違うやり方で停泊することになったウィンソン号。


しかし、初めての試みにも関わらずバーク船長はやり遂げて見せた。


「突入部隊は上陸しろ!!後は頼んだぞ!!」


なら、今度は俺達の番だ。


「了解!!」


掛け声とともに船から飛び降りる。着地した後、俺に続いて次々と隊員が飛び降りているのを確認した俺はすぐに駆け出す。ここからは時間との勝負だ。全員待っている暇はない。


「目標は10時方向の倉庫だ!なんか大事な書類が保管されてそうな所を探せ!」

「「了解!」」


指示が杜撰すぎる気はするが、俺達は設計図がどこにあるのか分からない以上、手当たり次第探すしかないのだ。


「9時方向に敵!」

「いちいち報告しないで殺せ!偉そうなヤツが居た時だけ報告しろ!」

「了解!」


そこら辺から出て来る敵をぶちのめしながら、俺たちは目的地の倉庫まで走る。


倉庫まであと少し、という所で今までより規模の大きい部隊と遭遇した。柵が張られているのを見るに、ここで待ち伏せしていたのだろう。そして、その部隊の指揮官らしき男が声を張り上げた。


「止まれ!ここから先は通さ――」

「偉そうなヤツ発見!アイツは殺すな!!」

「了解!」


何か言いかけていた指揮官らしき男だったが、その声は出会い頭に叩きこまれたファイアボールの爆風に遮られた。その隙を見逃さず、隊員達は次々と敵部隊に魔術を叩き込んでいる。そのおかげか、敵は数秒後には壊滅していた。残るは指揮官周辺に呆然と突っ立っている数名の兵士のみ。


「“ストーン・ランス”!」


土で構成された槍が兵士に向かって飛翔し、その頭に突き刺さった。俺たちは生き残りが居ないのを確認すると、迷わずに指揮官らしき男のもとへと進む。


「なっ...なんだ、なんなんだ貴様ら...!!」


あまりの出来事に呆然としていた男だったが、自分のもとへ進んでくる俺達を見て焦りの声を上げる。この尊大な態度、貴族出身か何かだろう。

そいつの胸倉を掴み上げる。


「設計図の場所、知ってたりする?」



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魔術なのに制圧射撃...射撃...?

ガバガバ過ぎる...(白目)

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