第60話強くなれ


修正始めるぞゴラアアァァア!!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「―――サラ...?」


先程までの痛々しい姿から打って変わり、彼女の体は見慣れた姿へとなっていた。

焼け爛れ、しかし生気を失ったように真っ白だった顔は、傷一つないくらい綺麗で、まるでそこに血が通っている事を証明するかのように健康的な顔色。


どういう原理かはこれっぽっちも分からない。


だけど、俺のあの願いが叶ったことだけは分かった。


―――そう安心した俺の耳に、悲鳴じみた声が聞こえた。


「サラッ!!!」


そう言ってサラに飛びついたその人物。

俺は彼女に見覚えがあった。


「クリスティア...?」


必死にサラを抱きかかえ、何故か目を点にして驚いてるその人物は間違いなくサラの姉であるクリスティア王女だった。


「...あれ?火傷は?」

「あぁ、そういう事か。」


どうやらさっきのサラを見て焦った様だ。


「サラならもう大丈夫だ」

「本当かッ!?」


「...多分。」


ついついそう溢してしまった。

だってしょうがないじゃん。そもそもこれが証なのかも分かんねえし、証だとしてもどんな効果があるのかも分かんないんよ。


まぁでもサラの容態を見る限りこの力は人を治す効果があると考えてよさそうだ。


――となると、今からやるべきことは一つ。


その辺でくたばりかけてる野郎共を治療することだ。







死。それは戦いの場に身を置いている者にとって、とても身近なモノ。

だが、戦場に居た筈の俺達には、身近でなかったモノ。


思えば、そんな事になるのも当たり前のことだったかもしれない。


自分も、自分の仲間にも命の危機が迫る事はなくて。だから自分が敵を殺す時、それはとても一方的なモノになっていた。相手の最期の顔も、恨みの言葉も、死にたくないという言葉すらも聞く事をなく、ただ作業の様に敵を殺す。


そんな事に慣れかけていた時、それはつまり、命と言うものを軽く見始めた時。

仲間が死んで、大事な人も死にかけた。


その時、今更のように命というのが簡単に失われるモノだと思い知った。自分は作業の様に奪っていたのにも関わらず、だ。


人の命を奪うという事は、自分もまた奪われる可能性があるという事。

自分はそんな簡単な事も分からないで、何の覚悟もしないで、人の命を奪っていた。


そういえば、剣聖アイツもそんな事を言っていた気がする。

「お前の目は、人殺しの目だ。」と。そして、「お前には、信念がない」とも言っていた。


きっとそうだったのだろう。騎士として戦場に居たレオや、王女として国を守るために戦って来たサラ。


アイツらにはきっと、“信念”があるのだろう。


そして、自分にはそれがないのだろう。


剣聖と言い合っていたあの時は意味が分からなかった言葉が、どんどん府に落ちていく。


それと同時に、自分がやって来た事の罪深さを自覚し始める。


そして、自分に押しかかる、久しく感じていなかった“あの感覚”が。

周りにはあって、自分にはない。そんな事を自覚した時に突然俺を不安の底に突き落とす、あの感覚が。


―――劣等感が、俺を襲って来る。








「ハァ...クソが。」



最悪の気分だ。もう秋だってのに、体から嫌な汗が流れている。


舌打ちしながらベッドから体を起こし、窓を勢いに任せて開け放つ。


ベッド体を寝かせても、嫌な事ばかり考えてしまう。もう眠るのは諦めよう。


今は真夜中。とはいっても警備の為かある程度の明かりは確保されていた。


無数の光が散らばる空を眺め、少し冷たい夜風を浴びながら心を無にする。


それでも、俺の心は少しも落ち着かなかった。







隊員に、死者が出た。


そのせいだろう。俺があんな事を考える様になったのは。


俺の証は、間違いなく機能したし、そのおかげで助かった隊員も大勢いた。それでも、もう死んでいたヤツは、助けることが出来なかった。


戦場じゃよくある事だ。


にもかかわらず、こんなに心が揺れ動くのは。


きっと、俺に信念とやらがないせいなのだろう。

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