第59話死なせてたまるか



「.....クソッ。まさかあんなモン隠して持ちやがって。」


あまりの事の一瞬呆然としたが、アレを放った後一切攻撃してこないのを見るに魔力切れでも起こしたのだろう。


試しに適当に魔術を放ってみたが、迎撃されることなく敵が一人燃え上がったの事が何よりの証拠だ。



「アレには驚かされたが、アイツはもう終わりだな。」


魔力が切れたら、アイツらはただの小隊に成り下がる。


完全に10万対30だ。

アイツらの勝機は、今完全に消え失せた。


「...軍を使うまでもないか。“ファイアボール”」


たかが30人殺すくらいなんてことない。

そう思い、先ほどと同じ魔術を敵に放つ。


「――――チッ、もう来やがったのか。」


俺のファイアボールを完全に上回る巨大な炎の壁がアイツらを囲むのが目に入る。


あんな炎魔術使える奴は、俺の知る中で2人しかいない。

もう片方はここに居る訳ないから、あの魔術の使い手は間違いなくあの女だ。



「...潮時だな。全軍撤退ッ!!」


ここでライトを殺せなかったのは悔しいが、敵の戦力は削った。

ほとんど作戦通りだ。


後はこのままとんずらさせても貰おう。








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...







空に浮かぶ、巨大な魔法陣。

ソレが目に入った時、何故か物凄く不安になった。


その後、ナニカに急かされるようにその魔法陣の方へと軍を進めた。


駆け付けた時、ボロボロになった懲罰部隊が見えた。

何事かと困惑したが、今まさに彼らを襲う炎魔術が迎撃されないのを見て事の重大さに気付いた。


「――ッ!“ファイアウォール”!!」


一瞬焦ったが、私の魔術によって敵の魔術が防がれたのを見て安堵した。


あぁ、なんとか間に合った、と。



―――だが、それは間違いだった。


早々に撤退を始める王国軍を追撃するよう指示し、私はボロボロになった懲罰部隊へと歩いて近付いていった。


(...あれ?サラは?)


おかしい。

私の妹は、何処?


そう違和感を感じながらも、私は歩く。

そして、理解する。


懲罰部隊は、ボロボロの一言で済ませられるような状態などでは、なかった。


地面に倒れ伏せている者。

口から血を吐き出している者。

胸が赤く染まっている者。


―――そして、全身に痛々しい火傷を負った者。


“ソレ”が、私の妹だと気付くのに、そう時間は掛からなかった。






王国軍は、合衆王国軍の追撃を許さずに撤退したらしい。

全てわかっていたのだろう。


最高戦力である懲罰部隊は、その強さゆえに自分達のみで行動すること。

そして、俺達の弱点と攻略法。

...合衆王国軍が、追撃してくることも。


王国軍の退路には様々な罠が張り巡らされており、合衆王国軍はそれに苦戦。

最後には橋を落とされ追撃を諦めたらしい。


――そんな事を、俺は半ば呆然としながら聞き流していた。


そんなの、どうでもいい。


早く、隊員を、サラを助けないと。





目の前で横たわる、痛々しい姿になってしまったサラの手を握りしめて思案する。




あぁ、またなのか。


また、奪われるのか。


剣、尊厳、友。これだけ、奪われてきたのに、また、奪われなきゃいけないのか。



こんなの、理不尽だ。


だが、それ以上に。


――何も出来なかった自分に、腹が立った。



あの時、魔力が少しでも残っていれば。


時を戻して、やり直したかった。


そして強く、強く願った。


“証さえ、あればと。これ以上にない程、強く願った。”


ライトは強く願い続ける。







―――そして、ライトの願いは叶うのだった。














その時、自分の体に起きた変化に気付いた。


形状にし難いその感覚は、しかし決して不快な物ではなかった。


神という存在は嫌いだが、それでもこの状況を言葉に表すなら。


神から、何か力を授かった様な気がした。



「――――もしかして...スキル...?」


...バカバカしい。そんな訳ない。


何故かそう否定したくなったが、自身の中で何か変化が起こったの確実。

そして、体を自分の思い通りに動かせるように、体の奥底から魔力引っ張り出して魔術を発動するのと同じように。自然に、出来る気がした。


ふと隣へ目を向ける。


そこには、全身の至る所に火傷を負っているサラが居た。

もう息も絶え絶えで、顔を苦しそうに歪めている。


そして、視線を自分の膝に落として思案する。




―――もう、何がなんだか分からない。


よくわからない内に囲まれて袋叩きにされて、突破できたと思ったら剣聖に何人も殺されて、一か八かの魔術が成功したと思ったら魔力切れで戦えなくなって、最後にはサラに魔術が当たって。


...でも、これだけは確かだ。


今、“この力”を使わなければ、一生後悔する。

もともと、あの状況から何人も生還できたのだ。それだけで何百何千分の一という奇跡。



だが、その生還できた人数にサラが数えられていなければ、俺にとって無意味。




そう、思ったから。


「神だろうと、悪魔だろうと。誰でもいい。」


俺は、最後まで足掻く。





「サラを助けてくれるなら、どんな罪だろうと背負って見せる。―――だから、俺に彼女を助ける事が出来るだけの、力を...!」






震えた声で、しかしこれまでにない程強い想いを込めて言った。


その時、体の中で魔力が減った気がした。

何か起こったのかと、瞑った目をゆっくり開く。



そして、目を開けた先に居たのは。




―――――いつもと変わらぬ姿の、サラだった。

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