第57話 超えろ
「......正気か?」
俺の無謀とも思える策に、懐疑の目を向ける隊員達。
隊員の問いを一旦無視し、味方の方へと走っているエイベルへ目を向ける。
エイベルが敵軍と合流するまで、大体20秒。
それまでになんならかの行動をしなければ全滅は避けられない。
「あと少しで10万人分の魔術が飛んでくる。もう手はない。」
「は?」
「時間がない。15秒後に
隊員達の反応は薄い。
何言ってんだコイツ?みたいな反応だ。
まぁ急にそんなこと言われたら俺もそんな反応するだろう。
「この命令は絶対だ。というかこの命令に背いたら絶対に死ぬ。」
決死の想いを伴った俺の目線に、隊員達はやっとこの状況を理解する。
「...了解。」
その時、隊員達の目が、今までにない程真剣なモノとなった。
彼らの顔を見渡し、俺は隊員達にこう伝える。
「絶対に生き残るぞ...!!」
〇
「さて、これで終わりだな。」
何事か話し合っているようだが、それは無駄な事だ。
いくら魔力量を保持していようと、聖女によって強化された10万人の魔術を防げる魔術などないだろう。
ちらっと隣に居る剣聖に目を向ける。
(ま、そりゃ納得しないだろうなぁ...)
いつもは無表情な剣聖だが、この時ばかりは険しい顔をしていた。
いまから死にゆく息子を何もせずに見る、その苦痛は計り知れないだろう。
見てたらこっちまで気が滅入りそうだ。
そう思って別の事に思考を切り替える。
ふと脳裏を過るのは、俺達に懲罰部隊の討伐を提案してきたあの男。
(...ここまで、アイツの思惑通りなのか?)
正直、アイツが何を考えているのか全く分からない。
仮面で顔を隠していたあの男。最初は敵だと思って攻撃したが、その全てが無駄だった。
呆然としている俺に、アイツはこう話しかけてきた。
“僕と手を組もう、良い提案があるんだ!”と。
何が目的なのか。
俺達の敵なのか、味方なのか。
その全てが謎だ。
(...まぁいい。)
取り合えず、今はアイツらの死を見届けよう。考えるのはそれからでいい。
「一斉斉唱魔術発動まで残り5秒ッ!!魔術障壁要員は出力を上げろ!!」
〇
どうやら、その時までのタイムリミットが始まったみたいだ。
絶望感は、もう何処かへ吹き飛んだ。
今から考える事はない。
ただ全力で魔術を放つのみ!!
高揚感を隠さず、全力で声を張り上げる。
「一斉魔術詠唱、詠唱開始まで5秒!!後の事は考えるな!!!」
〇
「4」
軍が一体となって魔術を放って事は何度かある。
それでも、こんな規模で行うのは初めてだ。
どんな光景が見れるか楽しみだな。
〇
「3」
これで、良いのだろうか。
今すぐにでもライトの方へ駆け寄り、エクスカリバーでこの一斉斉唱魔術を切って息子を助けるべきだろうか。
だが、ライトの復讐心は強い。今殺さなかったら、いずれ王国に被害が出るかもしれない。
守るべき領民、唯一の息子、今は亡き妻との約束。
その間で揺れ動く、自分の心。
どうしても決断できず、ただ目をつむる。
〇
「2」
私は、ただ見守ることしかできない。
途中から入って来た私は、みんなと比べて魔力量が少ない。
私だけが、一斉斉唱に参加できない。自分の不甲斐なさに思わず手を握りしめるが、もう遅いのだ。
―――それでも、隊のみんなが諦めていないなら。
私は、最後まで見届けよう。
〇
「1」
〇
――――喰らえ、これが10万人が一致団結して放つの魔術だ!
「一斉斉唱、
〇
――――さぁ、人生大一番のギャンブルだ!!今度こそ見せて貰おう、神話の魔術とやらを!!
「「一斉斉唱、
〇
その瞬間、巨大な炎が出現した。
ライト達が今までに放ってきた魔術よりも巨大で、脅威的な魔術だ。
10万人もの意志によって発動されたそれは、戦場で扱われた魔術としては史上最大規模。
太陽がそのまま地上に墜ちてきた、と言われても信じてしまいそうな程巨大で、遠くからでも熱を感じるそれは、最早神々しさすら纏っていた。
そして、その上では。
ライト達が合衆王国の王都で見せたのと同じ巨大な魔法陣が。
だが魔力が不足している為か、少し歪であった。
しかしそれは前の時より強く輝き、すぐに直視出来ないレベルに到達する。
王国軍の兵士も、エイベルも、剣聖も、ライトも。
誰もがその
眩しさに目を瞑る。
輝きは数秒続いたが、それはやがて弱くなって、最後には消失した。
そして彼らが目を開けた時、そこに広がっていた光景とは。
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........
....
..
〇
「...は?」
それでも、半ば成果を確信していた。
どんな魔術でも、あれを防げるはずがない。そんな思いがあったからだ。
「...は?」
だから、目を開けた時。
目の前に広がる光景が、信じられなかった。
俺達の魔術も、魔術障壁も、全部消え去っていたその光景が。
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