第55話剣聖の力


聖剣。それは、世界に10個しかないと言われる“神器”の一つだ。


剣聖に選ばれた使い手、俗にいう剣聖はその剣によって、2種類の力を手にすることが出来る。

一つ目は、剣聖の特性や人格によってその効果を変える力。

二つ目は、魔術を切り裂く力。


俺達にとって一番厄介なのは二つ目の“魔術を切り裂く力”だ。


それでも、対策のしようはある。

全方位から魔術を放って殺したりも出来るし、なにより斬れるのは魔術であって、それ以外のモノに対してはただの切れ味のいい剣。


「第一班。敵周辺の地面を溶かせ。」


当たり前だが、魔術によって熱せられたものは、魔術ではない。つまり、聖剣でも斬れない。


「了解」


そう言って詠唱を開始する一班。

そしてその数秒後、地面が赤くなり始めた。


「よし、このまま―――ん?」


何故か、突然魔術が解除された。

どういうことだ?と一班に目を向けるが、コイツらも何が起こったのか分かってなさそうな顔をしている。


と、その時。


「――お前が相手しているのは剣聖だけじゃないぞ?」



聞こえてきたのは、何処かで聞いた事のある声。

そういえば、剣聖以外にも何人か居たなとそちらに目を向ける。


「お前は...エイベル!」


突如、声を荒げてそう叫ぶサラ。

彼女のその姿を見て、俺も思い出した。


「コイツ、監獄に居た奴か...!」


だが、分からない。何故魔術は解除された?


「貴様、何をした?」

「さぁね。ま、知る必要はないさ。」


そう言って肩をすくめる男。

だがその飄々とした態度は、直ぐに真剣なものへと変わった。




「作戦第3フェーズ開始。さぁ―――ここからが本番だ。」



そう言い終わるなり、男の周りに衝撃音と共に土煙が舞う。


―――その時、土煙の中で何かが動いたのが見えた。


「ッ!...ストーンウォール!!」


何故か嫌な予感がした俺は、全力で声を張り上げる。

その詠唱と共に現れる、強固な石の壁。


どんな魔術が飛んでこようと、これなら何とか―――


「グフッ」


その瞬間、少しの衝撃音と、喉から漏れ出たような声が聞こえた。

何があった、と声のした方へ目を向けると――――


「...は?」



――そこには、口から血を吐いてるガルと、ガルの胸に剣を突き刺している剣聖がいた。


「...ガルッ!?」



思考が、止まる。


意味が...意味が分からない。


今度はドサッと音がした。

止まった思考のまま、なんとなくそちらに目だけを向ける。


そこには、綺麗に真っ二つにされた石壁が横たわっていた。


(まさか...移動してきたのか?この距離をを、こんな短時間で?)


50メートルはあった。だが、敵の方向から土煙が上がったのは、つい3秒前。

その短時間でこの距離を走り抜け、石壁を切り裂いて、ガルに剣を突き刺したのか?


「クソッ!全員武器で身を守―――」


思考がフリーズしたままの俺に変わり、そう指示を出すレオ。

しかし、次の瞬間には、剣を振り上げた状態の剣聖が彼の目の前に居た。


「チィッ!!」


しかし、そこは元騎士。なんとか剣を構えて防ごうとする。



―――だが、剣聖は最強の剣士だ。


しっかりと構えているレオを見てもなお剣を振り下ろし、そのままレオの剣ごと叩き切った。


愕然としたレオの顔が、その表情のまま切り裂かれる。


「――――ッ、貴様ァ!!!!ファイアボール!」

「遅い」


今更のように剣聖の後ろから魔術を放つ隊員。

しかしそちらを見もせずに体を横に逸らして避ける剣聖。


.....それを見て、やっと思考が動き始めた。


クソッ。完全に舐めてた!


どうする?このままじゃ一人ずつ殺されるだけだ...!


レオに指示を仰ぎたいところだが、それはもう無理だ。


正直、まだ何があったのかを受け入れられない。だが、今はそんな事に頭を使う暇などない。


どうすればこのバケモノを殺せる?

このバケモノを相手に、どうすれば生き残れる?


...考える時間が必要だ。



――その時、ふと斬られた石壁が目に入った。


(これだ!)


これが打開策になるとは思わない、だが策を考える時間だけでも...!


「お前ら聞け!!真っ二つにされても魔術は魔術だ!炎魔術なら当たらなくても熱でダメージを与えられる!!固まって撃ちまくれ!!近付けさせるなァ!!」

「りょ、了解!!」


いきなり班長が二人もやられたからか、隊員たちはまだ動揺を隠せていない。

それでも、動かなければ殺される。そんな必死な思いが隊員を突き動かしているのだろう。


「クソッ!!早すぎる!!剣聖は何処だ!」

「...ッ!おい後ろ!!」

「なっ...グハっ!」


ダメだ、皆混乱してる。


俺の指示に従って動いてはいるが、敵は圧倒的。

この戦術が通用しているのかすら怪しい。


早く打開策を考えなければ全滅する...!


「聖女だ...」


そう必死に頭を回していると、後ろから声が聞こえた。

どういう意味だと問いかけようと振り向く。


「...レオ!生きてたのか!?」

「あぁ、だが片目をやられた。」


確かに、レオの顔は酷いことになっている。

血まみれで、ところどころ骨が剝き出しだ。


だが、剣聖の一撃から生き延びたという事だけで称賛に値する。


―――いや、今はそんな事どうでもいい。


「聖女、というのはどういう意味だ?」

「いくら剣聖とは言え、あの力は異常だ。アレは聖女の支援魔術で強化されている。」


そう言われ、今更のように気付いた。


さっき俺達の魔術を解除した敵、あれは監獄にも居たヤツだ。

しかし、あの時は俺の魔術を解除できずに吹き飛ばされたはず。


にもかかわらず、アイツは俺達の魔術を解除した。


となると、あそこに聖女がいて、そいつが剣聖含めた他の連中を支援していたとしか考えられない。


「―――なら、ソイツを潰せば勝てる。」


そう確信した俺は、早速隊員に指示を出そうとした。

しかし、レオがそれを手で制して口を開く。


「敵もそれを警戒してるはずだ。それに、一斉詠唱ではまた解除される。」

「じゃあどうするんだよ!?」

「知るか。俺は血を失い過ぎた。あとは自分で考えろ。」

「なっ...」


そう言うなり、レオは地面に倒れ込んだ。

...凄いなコイツ。こんな状況で話をしてたのかよ。



(クソっ。考えろ考えろ考えろ考えろ...!!!)


正直な話、もう勝てるなんて思っていない。


俺達に残された希望は、合衆王国軍だけ。


彼らが来るまでに耐えるには、出来るだけ被害を抑えられて、その上時間を稼げる方法を考えるしかない。


現時点で、死者は4人。

負傷で戦えない者は8人。


何かないのかと必死に魔術を放っている隊員達へと目を向ける。


隊員達は、固まって戦えという俺の指示に従ってそれぞれの班に分かれて戦っている。


俺達が生き残る為に必要なのは、聖女とエイベルを攻撃する事、そしてその間剣聖をを抑える事だ。


だだ、剣聖を抑えるにしても、普通の魔術では真っ二つにされて終わり。

だからと言って一斉詠唱でもすればエイベルによって解除されてしまう。


それを回避するには、エイベルも妨害する必要がある。

エイベルを相手にするなら、小規模な魔術を連射した方が良い。

だが、俺達は剣聖とエイベルに挟まれている。

それに、アイツはどんな魔術も解除出来る。なら前以上の圧倒的な火力で押し潰す必要がある。


下手に隙を見せれば殺されるという事だ。


だが剣聖を集中的に攻撃した所で倒せるわけではないし、少しのダメージなら聖女に回復される。


...となると、俺達がアイツらを相手するための策は自然と限られてくる。

この策が通じるかどうかは分からない。だが、これが通じなかったら終わりだ。


これ以上考えようにも、条件が厳しいのだ。


剣聖を相手に何個も策が思いつく訳ない。


もう腹を括るしかない...!


そう覚悟を決め、俺は全力で叫ぶ。


「これより作戦を伝える!総員、傾注ッ!!!」


こんな大声で叫んだら、間違いなく敵に聞こえる。

だが、味方にだけ策を伝える方法などないのだ。


リスクは重々承知している。

それでもやらなければいけないんだ。


「2班、全力で剣聖を足止めしろ!3班はエイベルの魔術解除を妨害!1班と4班は圧倒的な火力で聖女を殺せ!!以上!」


隊全体でも苦戦していた相手に、4分の1の戦力で足止めしろなんて無茶ぶりもいいところだ。


それでも、掛けるしかないんだ...!!


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