第53話危機、到来



おかしい。

どう考えてもおかしい。


報告じゃ、王国軍の総数は10万。

そして何故か、俺達を囲んでいるあの軍も10万は居る。


「俺達を殺す為だけに全軍集めたのか!?」


殺意高すぎだろ!

こんな数、今まで相手したことない。


それに今までは要塞を守ってたり戦闘に途中参加したりと、正面から多数を相手したこと自体があまりないのだ。


だというのに、10万。


あまりの数に焦っていると、レオもまた焦ったように声を掛けて来る。


「ライト、指示を。」


...そうだ、俺は懲罰部隊の隊長。それに火の手も迫ってきている、もう時間がない。何か指示を出さないと...!


必死に頭を回すが、良い案が一つも浮かんでこない。


付け入る隙はないのかと山の下に目を向けると、そこには少しも乱れなく配置につく王国軍。隙など、これっぽっちもない。


「前やったみたいに、風魔術で吹っ飛ぶのは?」

「ダメだ。この数だと間違いなく撃ち落される...もう、正面突破しかない。」

「クソッ、結局そうなるのかよ!」


声を荒げるガル。


申し訳ないが、これ以外に策など...正直、正面突破コレを策と呼んでいいのかすら分からない。


だが、これ以外方法はないのだ。

正面には敵の指揮官がいる。そいつを討ち取ればまだ打開出来るかもしれない。


俺は覚悟を決め、隊員の顔を見渡す。

緊張を孕んだそれらを見て、こんな顔も出来るんだなと場違いな感想が出てきた。


一番緊張してるのは、間違いなく俺だろうに。


「―――今から作戦を伝達する。総員、傾注せよ。」


手汗が滲む手を握りしめ、大きく息を吸って指示を出す。







「作戦開始ッ!ぜってぇに生き残るてやるぞボケェ!!」

「「了解ッ!!」」


その言葉を叫ぶなり、全員が詠唱を開始。

魔術系統は水。まずは火を消化しなければ。


「――その御身をもって迫り来る脅威から守り給え!“ウォーター・イージス!”」


詠唱と共に放たれる水魔術。

1ヶ月の訓練の賜物か、その水魔術は大規模かつ洗練されていた。


しかし、その成果を確認するより早く俺達は全速力走り出した。


「.....駄目だ、迎撃された!!」

「チッ!やはり対策されてるか...!!」


俺達が最大の脅威であると一早く気付いた察知能力。

俺達の行動を予測し、山に誘導した知力。

そして、俺らを殺す為だけに全戦力を動かす胆力。


それらを持つ敵に、こんな手が通じる筈もなく。


俺らの水魔術は敵によって迎撃された。

火の壁は、依然として俺達を包囲している。


「分かっていた事だろ!作戦に変更はない!」


こうなってしまった以上、やる事は一つ。


「10秒後、正面に一斉射!!一点突破だッ!」

「了解!」


隊員のその声が聞こえた瞬間、視界が何かに遮られた。


「ゴホッ...!!」


チッ!煙か!


「止まるなァ!!そのまま前進しろ!」


煙如きで止まっていたら生き残れない。

全身が熱くなり、喉と目に痛みが走る。


10秒後なんかにするんじゃなかったと思いながらも、この状況で命令の変更は出来ない。混乱するだけだ。


「残り5秒ーーッ!!」


どこにいるかも分からない隊員達に向け、全力で叫ぶ。

たかが数秒。だが、痛みは酷くなって意識も朦朧としている。


(...3...2......今だッ!!)


正直、タイミングが合うかどうかは分からない。

けど、掛けるしかない。信じるしかない。奇跡を!


10万の軍勢を30人で正面突破する。

そのためには、奇跡が何度も起こるくらいでないと不可能だ!!


「――その御身をもって迫り来る脅威から守り給え!“ウォーター・イージス!”」


(―――成功だッ!!)


そう確信した。今のは、一斉詠唱が成功した時の感覚!


そう一つ目の奇跡を感じながらも、止まらずに走る。


先程から感じる熱と痛みはまだ収まらない。

だが、信じて走る。


(まだか...ッ!?)


もう耐えられなくなり、意識が飛びそうになったその時。

苦痛を伴う煙が、湿っただけのモノに変わったのを感じた。


これは...消化の時に生じた水蒸気か!


「ライト!」

「ここだ!最初の問題は解決した!!このまま走り抜けるぞ!!」


視界が晴れ、隊に一人も欠員が無いことを確認する。

その事を喜びながら前に目を向ける。


「...クソッ。これを相手にするのか。」


思わずそう呟いてしまう程の、巨大な軍勢。

心が一瞬で冷めていくのを感じながら、それでも意志を強く保つ。


「各班は指定の配置につけ!!」

「「了解!!」」


―――訓練期間。俺達はそれぞれ役割を持たせた班を作ることにした。


炎魔術の使い手であり、高い火力を有するサラ率いる攻撃役の第一班。

強固な魔術、若しくは防衛に適した土魔術が得意な者を集めた守備役の第二班。

広い視野と判断力を持ったレオ率いる、全体の支援を担う第三班。

風魔術などが得意な者が多く、高い機動力を以て偵察などを担う第四班。


このように4つの班に分けたのだ。


そして、早くもそれの成果を試すときが来てしまった。――――



―――思考を中断する。今は、目の前の敵に集中しなければ。


そう思い直し、俺は味方を鼓舞するよう叫ぶ。


「さぁ...ここからが正念場だッ!!」








――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


まず謝罪。

投稿遅れてすいません。

閲覧数が急低下しちゃって、それに伴ってモチベも急低下しました。


でも応援数が一定な事に気付いて何とか持ち直しました。

一定数の人は応援し続けてくれているって、めちゃくちゃ嬉しいです!


で、豆知識?

書いてませんでしたが、ライト君が率いる懲罰部隊の正式名称は

“異大陸征伐軍懲罰大隊第8懲罰小隊”です。


小隊とは25人から50人で構成される軍の最小単位です。

あと、小隊は4つの班に分かれている事が多いそうです。なのでライト君たちの隊も4班に別れて貰いました。(ウィキと睨めっこして書いたので、滅茶苦茶適当です。)


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